平家物語・義経伝説の史跡を巡る
清盛や義経、義仲が歩いた道を辿っています
 




須磨寺は平安時代初期に創建されたと伝えられている真言宗の寺で、
正式な寺名は、上野山(じょうやさん)福祥寺(ふくしょうじ)ですが、
古くから須磨寺とよばれて親しまれてきました。

寺伝によれば、平安時代の初めに和田岬の沖で漁師が聖観音像を引き上げ、
会下山(えげやま)の北峰の一寺に安置していたのを
聞鏡上人が現在地に移したのが始まりとされています。
「須磨のお大師さん」としても知られ、境内には弘法大師を祀る大師堂や
奥の院があり、毎月の縁日には、参道に屋台が並び賑わいます。

平敦盛遺愛の青葉の笛や弁慶の鐘、さらに敦盛首塚や義経腰掛の松など
多数の寺宝や史跡があり、「源平ゆかりの寺」として全国的に知られています。

南北朝期から江戸時代にかけて歴代の住職が書き残した
『当山歴代』によると、敦盛の笛は、応永34年(1427)細川軍に盗まれましたが、
奇跡的に戻り法要を営んだことや、本尊の聖観音は摂津源氏相伝の念持仏で、
平安末期、源頼政が安置、寺領三ヵ所を寄進したと記されています。
数度の天災や人災で寺は荒廃し、かつての七堂十二坊も失われ、
幕末には本堂、大師堂、仁王門を残すだけとなりましたが、
明治中期以後、堂塔があいついで再建され現在に至っています。

戦国時代には講堂供養を行い、本尊とともに敦盛御影や笛を公開したところ
多くの人々が集まり、敦盛ゆかりの寺として広く知られるようになり、
いつの頃からか、寺では笛を公開して笛見料を徴収するようになり、
見物に群衆が押し寄せ寺の大きな収入源となりました。
文明18年(1486)から五年がかりで建立された三重塔の柱には、
わざわざ源平合戦にゆかりの深い生田の森の木材が使われ、
平家伝承との関係を深めていきます。


須磨寺前商店街を通って須磨寺へ




中門から放生池にかかる橋を渡ると、源三位頼政再建の仁王門が現れます。

仁王門から参道を進むと弘法岩五鈷水、右手には、熊谷直実の法名にちなんだ
蓮生院、左手には、一の谷合戦の一場面を再現した「源平の庭」がつくられ、
浜辺から扇で招く直実と振り返る敦盛の像がたっています。


五鈷水 大きな弘法岩に五鈷を置いた手水処


出家した熊谷直実(蓮生坊)が敦盛の菩提を弔ったのが始まりという蓮生院。
 塔頭三院の一つで本尊は不動明王です。


波寄せる浜辺から扇で招く熊谷直実と振り返る敦盛の像。
今まさに一騎打ちが始まろうとする瞬間を再現した源平の庭

源平の庭の傍には与謝蕪村が♪笛の音に波もよりくる 須磨の秋 と
敦盛の青葉の笛を偲んで詠んだ句碑の他
広い境内には、数多くの句碑や歌碑が点在しています。
また歌舞伎「一谷嫩(ふたば)軍記・熊谷陣屋」の若木の桜もあります。

宝物館には、敦盛の首が当寺に埋葬されたということから、青葉の笛や敦盛像、
絵画などの敦盛関係の遺品が多く展示されています。


弁慶の鐘
一の谷合戦の時、弁慶が安養寺からこの鐘を
長刀の先に掛けて担いできて、陣鐘の代用にしたという




須磨寺に伝わる青葉の笛

敦盛愛用の笛は、「小枝(さえだ)」といい、鳥羽院から祖父の忠盛が賜り、
祖父から父経盛を経て敦盛に伝わったものです。
『平家物語』には、青葉の笛という名称は登場せず、
須磨寺でも「小枝」とよんでいましたが、この笛が「青葉の笛」に変わるのは、
世阿弥の能『敦盛』の影響といわれています。
ここでその一節をご紹介します。
「敦盛の菩提を弔うため出家した熊谷直実が、蓮生と名乗り一の谷を訪れると、
笛を吹く草刈男たちが現れて『小枝・蝉折さまざまに笛の名は多けれども、
草刈の吹く笛ならば青葉の笛とおぼしめせ。』と語ります。
一人残った男は自分が敦盛のゆかりの者であるといい、南無阿弥陀仏と
十回唱えて欲しいと言うので蓮生が経をあげると、
男は敦盛の化身であることを明かして姿を消します。」

江戸時代に入り名所記が出版物として普及し、現地を訪れる人が
多くなりますが、『兵庫名所記』には、この笛は弘法大師が
中国に留学していた時に作ったと記され、『播磨巡覧記』や
『摂津名所図会』などにも、弘法大師作の説が受けつがれていき、
伝承は新たな伝承を生んでいきました。

須磨寺(敦盛首塚・首洗い池・義経腰掛の松)  
 敦盛最期(敦盛塚)  
 『アクセス』
「須磨寺」神戸市須磨区須磨寺町4-6-8
山陽電鉄 「須磨寺駅前」 徒歩約5分 JR 「須磨駅」 徒歩約12分
宝物館開館時間. 9:00~16:00 料金100円 休館日 無休
『参考資料』
「兵庫県の地名」(1)平凡社 歴史資料ネットワーク「神戸と平家」神戸新聞総合出版センター
 「兵庫県の歴史散歩」(上)山川出版社 「新兵庫史を歩く」神戸新聞総合出版センター
白洲正子「謡曲 平家物語」講談社文芸文庫



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