風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

敬愛する元帥様は今どこに

2019-03-04 00:51:47 | 時事放談
 米朝間で非核化に合意できなかったのは残念だったが、中途半端な妥協に至らなくてやれやれという気持ちもあって、前回のようなへそ曲がりなブログになったが(半分は本気 笑)、金正恩委員長の気持ちは(分かりっこないが)如何ばかりかと気遣ってみる。交渉決裂の後、ホテルに戻るときは仏頂面だったと報じられた。しかしその日の朝には次の様な発言が報じられていた。

(引用)昨日に続き、この瞬間もおそらくほとんど全世界が見守っていると思う。歓迎する人々も、我々の会談を懐疑的に見ていた人々も、おそらく我々が向き合って座り素晴らしい時間を送っていることに、まるでファンタジー映画の一場面のように見る人々もいるでしょう。この間我々は多くの努力をしてきたが、ついにそれを示す時が来た。ここハノイで二日間にわたり素晴らしい対話を続けている。予断は持たない。しかし、私の直感では良い結果が出るだろうと信じている。(引用おわり)

 初日のトランプ大統領との歓談を受けて、強がりではなく、俄かに高揚している様子がうかがわれる。実務レベルで合意に至らなかったようなので、トップ同士の交渉に対して必ずしも楽観的ではなかったと思うが、勝算がなかったわけではなく、突破できるとの甘い期待もあっただろう。
 実のところ、以前であればハノイに到着して初めて報じられるはずの金委員長の動静が、平壌を発った瞬間から報じられ、ハノイの宿泊先で開いた作戦会議の場面も報道を許したという(朝鮮日報による)。その間、北朝鮮の国営メディアは、学校で地球儀を見ながら「敬愛する元帥様は今どこにいらっしゃるのですか」と質問する子どもたちの写真を掲載したという(ロイターによる)。それだけに、手ブラで帰国せざるを得ない元帥様の気はさぞ重いことだろう。手土産は、言わずと知れた経済制裁解除(とバラ色の経済成長の青写真)のはずだった。
 ハノイに到着したときには、実に70時間弱もの列車の長旅の疲れもあって、神経質になっている様子が報じられていた。それは自国の古い飛行機では安全が担保されず、さりとてまた中国に恩を着せられるのも癪に障り、しかし結局、中国から与えられた“おさがり”の旧式の列車(ディーゼル機関車)を使わざるを得なかった、つまり自国の力だけでは二度の首脳会談の外遊さえままならない不甲斐なさから来る苛立ちだったのかも知れない。その中国は日本の技術を拝借したとはいえ高速鉄道(という名の新幹線)を誇るに至っている。元帥様が経済制裁解除にこだわった気持ちはよく分かる。
 その元帥様が1月初めに中国を訪問した際、「我々は非核化のために多くの努力をしてきた。しかし、米国はむしろ制裁を強化している」と、米国に対する不満を噴出し、「制裁解除が難しいのなら、米国が我々に何をしてくれるのか疑問だ。米国がもっと進展した姿勢を見せなければならない」とも述べて、「中国が率先して役割を果たしてほしい」と米国への働きかけを要請したのに対し、習近平国家主席は「非核化からしなければならない」と答えたと、北京特派員が朝中首脳会談録の抜粋を入手したという韓国日報(ウェブ版)が報じたらしい。一方で習近平国家主席は、「国際社会の対北朝鮮制裁が緩和される必要がある。中国は非核化措置に伴う役割をしながら、平和協定の議論の過程にも必ず参加する」とも述べたというから、朝鮮半島情勢への関与の並々ならぬ意欲を示しつつ、「非核化から」というのは、米中貿易戦争で押されっ放しの米国に一定の配慮を見せたのかも知れない。
 元帥様は、後ろ盾として利用しようとしていた中国から突き放され、内政で追い込まれて功名心にはやるはずのトランプ大統領からも譲歩を引き出すことが出来ず、苦り切っていることだろう。韓国は諸外国から評判を落としてしまったが、それでもメッセンジャーとして使うほかない。安倍首相は、次は自分の出番・・・などとサインを送ったようだが、以前のように困ったときに日本に近づいてくるのかどうか。核がなければ、国際社会で吹けば飛ぶようなちっぽけな存在でしかないことくらいは、スイス留学して西洋事情に通じた元帥様には痛いほど分かっている。時間が彼に味方するわけではない以上、後戻りも難しい。まさに北朝鮮の子供たちのように問う。「敬愛する元帥様は今どこに」
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