風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ババを引いた菅総理

2021-09-04 16:09:08 | 時事放談
 スガさんが自民党総裁選に出馬しない意向を表明された。内閣支持率が低迷し、政権運営にかなり行き詰っていたとは言え、パンデミックという緊急事態下で叩かれながらも、淡々と、益々表情に乏しく、若干殻を閉ざしたかのように鉄の意思を示して来た方の突然の戦線離脱には、衝撃が走った。
 そんなスガさんも、平時であれば、前評判通りの仕事師として評価されていたことだろう(あるいは後の世には正当に評価されるだろうか)。欧米先進国に後れを取ったワクチン接種の加速などは面目躍如たるものがあるし、決断が先送りされて来た福島第一原発の処理水問題にしても、いろいろまだまだ問題がありそうなカーボン・ニュートラルにしても、これまで何度も挫折してきた行政のDXにしても、重要課題に対して一つひとつ確実に覚悟を以て方向性を示して来られた。携帯電話料金値下げに至っては、スガさんが辞めることになって業界はホッとしている有様である(苦笑)。しかし、有事の、しかも国民一人ひとりに関わる未曾有の国家的な危機に対処するリーダーとしては、力不足だったとは言わない。やや場違いだったと言うべきではないだろうか。
 いや、いつ終わるとも知れないパンデミックについては、世界広しと言えども成功しているリーダーは殆どいない。その中でも日本はとりわけ高齢者が多く、成熟して開かれた経済・社会で隣国の中国をはじめ国際社会との交流や相互依存が進んで、感染リスクが高い割りには、当初はファクターXなどと言われながら、パンデミックの影響を相対的に低く抑え込めて来た。この7~8月に感染爆発したのは、東京オリパラの強硬開催が、国民に要請している行動自粛と矛盾するメッセージとなり、社会心理的・行動経済的に国民の緊張を緩めてしまったからだと、甚だ評判がよろしくないが、それよりもデルタ変異株の感染力が予想以上に強かったことの方が影響が大きかったように思う。問題は、クライシス・コミュニケーションを中心とする危機管理における人心掌握の拙さであろうか。
 そのせいか、選挙戦では負けが続いて、気の毒なほどだった。選挙に強かった安倍さんとはえらい違いである。8月の、スガさんの地元・横浜市長選の敗北は致命的とも言えた。こうなると勢い(momentum)が失われて、10月に予定される衆院選に「スガさんの下では戦えない」、スガさんでは「選挙の顔にならない」という不満が党内に充満し、求心力を失う流れが出来るのは止むを得ないのかも知れない。なにしろ政治家のセンセイ方の頭の中は、8割方は選挙に勝つことだからだ(苦笑・・・いや真面目な話、だから選挙に不人気な外交・安全保障などの政策に弱い政治家が多いのだ)。今朝の日経によると、スガさんは信頼する二階派の武田良太総務相に「もう戦う気がなくなった」と呟いたそうだ。結局、こうした政治家(しかも同じ党の仲間である!)の、選挙に負ければただの人になってしまう恐怖心に根差すドス黒い情念に搦めとられ足を引っ張られたと言うほかない。
 舞台裏ではいろいろあったことだろう。自民党幹事長在任5年で主(ヌシ)の如く振舞う二階氏(2F)と、幹事長が握る総選挙の公認権とカネの奪還を狙う安倍晋三前首相と麻生太郎副総理(2A)という、「2F」と「2A」の確執があったと説くのは、週刊ポストである。2Aが仕掛ける「二階降ろし」に乗った岸田さんが、自民党役員の任期制度(最長3年)導入を公約としてぶち上げると、スガさんは党役員人事というカードを切って対抗した。2Aにとってどちらに転んでもよい展開である。ところが、火中の栗を拾う幹事長を受けて立つ人がおらず、結局、スガさんを盛り立てようとする人は周りにおらず、党内から見放されつつあることを悟ったスガさんが、総裁選には勝ち目がないとして出馬を断念したと解説するのはAERAである。さらに、スガさんが総裁選を先送りするために解散を考えているかのように解散・総選挙を打つとの報道があって、今のままでは勝てないと自民党内が混乱したのは、2Fサイドの意趣返しの謀略情報のせいだと、週刊ポストは解説する。なかなか面白い見立てだが、真偽のほどは?定かではない・・・
 いずれにしても、この発表の後、金融市場で円安・株高が進んだのは、自民党が大敗するリスクが下がって、政治・経済を巡る環境が安定すると見られたからだという。立憲民主党の枝野幸男代表が、「甚だ怒りを持って受け止めている。首相も無責任だし、こうした状況をつくり上げた自民党にもはや政権を運営する資格はないと言わざるを得ない」と手厳しく批判したのは、折角、スガさんの自民党を相手に衆院選を有利に進めようとしていたのにアテが外れて憤懣やるかたないせいではないだろうか。数日前には、衆院選での政権交代に向けて「意気込みが不足しているとの指摘がある」と報道陣に問われて、「首相になる意欲がなければ、野党第一党の党首というしんどい仕事はやらない」「こんなにしんどい仕事をがんばって、歯を食いしばってやっているのは、首相になってこの国を変えたいから。それがなければ、この仕事はやりません」と息巻いたらしいが、些か驚かされた。政治家としての意気込みは素晴らしい。しかし、国民の支持は極めて低調だ。しかもスガ政権への支持率が下がっても、自民党への支持率は下がらず、立憲民主党への支持に繋がらない現実をどう理解しているのだろう。いつまでも政権の揚げ足取りに終始しないで、ちょっとは世論の支持を得られるような打開策を講じてもよさそうなものだ。もっとも、負け癖がついているのは、かつての社会党時代から変わらないが、この野党にしてこの与党という状況は国民としても不幸である(この国民にしてこの政治と言われそうだが 笑)。
 ウォールストリート・ジャーナル紙は、「アメリカの同盟国に再び政治的不安定さがもたらされる」「毎年総理大臣が代わり、国際舞台で日本の存在感が低下した時期に戻るリスクが高まった」などと伝えたが、こればかりは望まない展開で、勘弁して欲しい。安倍前首相は高市早苗前総務相を推すとの報道もあるが、さて、どうなることやら。このパンデミック下で不謹慎ながら愉しみではある。
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