風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ボルトン砲

2020-07-13 23:01:35 | 時事放談
 文春砲にちなんで・・・ボルトン砲(ボルトンさんの回顧録)が波紋を呼んだ。専門家の中には、超大国・アメリカの政府高官を務めた人物からほぼリアルタイムで政権の内幕が明かされたものだから、目を皿のようにして読み込む人もいるようだが、所詮は高みの見物の庶民には相変わらずの景色と映っているのではないだろうか。ボルトンさんという超タカ派の偏った見方に過ぎないし、それはそれで興味深いと言えなくはないが、トランプさんの不見識と気紛れは今に始まったことではないし、政策決定が行き当たりばったりで衝動的なのも分かっている。さらに、ボルトンさんによれば、トランプさんは次の選挙のことしか頭になくて、中国の人権侵害や香港の民主化運動には関心がなく、軽率にも習近平国家主席に支援を乞うとは、いやしくも合衆国大統領の器じゃないと言われればその通りで、心ある人は嫌というほど分かっている。私なんぞは、自由奔放で、如何にも悪ガキのまま大きくなったような無邪気なところが憎めないとまで思ってしまう(笑)。
 横道に逸れるが、かつて安倍さんは「トランプにはハートがある」と語ったそうだ。最近、トランプさんが横田早紀江さん宛にお悔やみの書簡を送ったと聞くと、並みの不動産セールスマンじゃないなあと私も感心する。トランプさんと言えば、もう何十年と本は読まないでテレビを見るばかりであり、毎朝、受ける大統領補佐官(国家安全保障担当)からのブリーフィングでも資料には目を通さないで話を聞くばかりの人が(最近は退屈するため回数を減らして毎朝ではなくなったそうだが(笑))、どこで小耳に挟んだか、横田滋さんのご不幸に対してメッセージを送る指示を出した(あるいは周りが気配りした)というのは、偏執的に凄いことだと思うのだ。しかも、めぐみさん、滋さん、早紀江さん、その息子さんの拓也さんの名前まで、日本人の名前はスペル・ミスし易いだろうに正確に書かれているのだから、並大抵の努力ではないと言うべきだ。そう考えると、「やってる感」を出すために安倍さん⇒在米日本大使館⇒トランプさん側近⇒・・・という流れがあった可能性が高いが(笑)、そうだとしても、それを聞き入れるトランプさんの浪花節的感覚と、それを頼める安倍さんとトランプさんの親密な関係は、やはり凄いことだと思うのだ。これが、もしオバマ大統領だったら、まさか安倍さん⇒・・・という流れでお願いしようとは、そもそも思いもつかなかったのではないだろうか。トランプさんの型破りなところは、こういうところにも表れているなあと(笑)。もとより下手な芝居には違いないのだが・・・
 閑話休題。それで、話題の本を買って読むほど酔狂ではないが(まだ翻訳されていないことだし)、報道される解説記事には注目してきた。歴代大統領のものに比べると、今回は、日本が登場する回数が格段に多くて、日米関係が緊密になった証拠、安倍外交の成果などとおだてる人がいて、それも間違いではないが、朝鮮半島情勢や中国がフォーカスされた時期だったことと、トランプさんとまともに付き合える主要国首脳が少ないことの表れに過ぎないと思う。専門家の目からすれば細かいところで驚くべき発見があるのかも知れないが、私のようなド素人には大きな絵としてサプライズはない。象徴的なのは、日本や中国当局が静観の構えである(その実、困惑しているであろうことは想像される)のに対して、アメリカや韓国当局が、ウソや歪曲が多いと反発していることだろう。アメリカはともかくとして(勿論、ホワイトハウスが事前にチェックしているので、安全保障上の秘密事項はないことになっている)、韓国は、米・朝の間で、自らの国益と言うよりも文在寅氏個人の政治目標を追求して虚偽を含んだ演出が甚だしいと、かねて苦情が漏れ伝えられていたが、とうとう白日の下に晒されたのだ。その結果、韓国は、あろうことか、ボルトン氏や日本が南北融和の邪魔をすると逆恨みしている(笑)。実際、北朝鮮は二度目のハノイでの米朝会談で、終戦宣言は韓国が希望しているだけだと切り捨てて、制裁解除だけを要求したと言う。北朝鮮も苦々しく思っていたのだろう。・・・というわけで、北朝鮮嫌いで、北朝鮮寄りの不審な振舞いをする(金正恩氏の非核化の意思を吹聴する)韓国・文在寅大統領を警戒するボルトンさんは、北朝鮮との過去の苦い経験から猜疑心が強い日本(の安倍さんや谷内さん)と波長が合っていたのだ。
 朝鮮半島情勢の専門家である木村幹さんは、私のような素人とは違ってしっかり読み込んでおられ、ジャーナリストが書くコラムと比べて、その視点が一味違っているところに感銘を受けた。氏の見立てによれば、北朝鮮問題におけるアメリカの国益は非核化の実現であるが、韓国はこの問題をさほど重要視していない、異なる国家である以上、韓国或いは文在寅政権の目的が、アメリカのそれとは異なるのは当然の事であり、だからこそアメリカ政府は彼の言う事を警戒し、これに踊らされてはいけないという、そこには異なる国家が異なる国益を追い求めることを当然視し、それ故に他国の動きを警戒するボルトンさんの冷徹な視点が存在する、というわけである。国家における国益の重要性は言うまでもないが、それをボルトンさんの回顧録に見出し、評価される、という読み方をされているところがちょっとした驚きだった。
 ボルトンさんは、ネオコン唯一の生き残りとして、かねてメディアから厳しい目を向けられ、弾劾裁判での証言を拒みながらスキャンダラスな暴露本でカネ儲けを目当てにしている(印税は300万ドルと言われる)と批判されるが、木村幹さんの見立てを聞くと、暴露本と言うよりはまっとうな意図で書かれたものという気がして来て、ネガティヴなイメージがちょっと払拭された。大統領選挙前に出版し、トランプ・リスクを認識させるのが狙いとされ、実際にボルトンさん自身はトランプさんに投票しないと明言されているが、仮にトランプさんが再選されるようなことになっても、朝鮮半島情勢を巡る交渉の内幕を明かし、それぞれのプレイヤーの立ち位置を明らかにすることによって、アメリカが進む道が国家として間違えることがないように、トランプさん流の国益を気にしない軽挙を抑えようとしているのではないかと思えて来た。
 そして、回顧録が日本に投げかけるもの、という木村幹さんの問いかけが重い。朝鮮半島情勢に関して、批判すべき対象として繰り返し登場する韓国に対して、日本政府の存在感は、その登場回数に比して極めて薄いと指摘される。その理由は、この回顧録において、日本政府の存在が、常にボルトンさんやトランプさんに近い意見を唱えるものとして描写されているものの、日本独自の国益を実現しようとするダイナミックな動きを見る事ができないからではないか、と解説される。
 確かに、拉致問題や歴史問題など「日本固有」の問題を抱える日本が、朝鮮半島の非核化あるいは南北統一といった「国際的」あるいは「地域的」(朝鮮民族的)問題にどう関わって行くべきか、真正面から捉えた議論はなかなか聞こえて来ない。本来はこうした「国際的」「地域的」問題こそ、日本が自らに望ましい秩序をつくるという意味での安全保障の根幹をなすはずだが、安全保障をアメリカに依存する日本には、日本の国益をもとにして「国際問題」や「地域問題」を語ることには、今なおトラウマがあるようで、ただただ「日本固有」の問題解決に踏み出す機が熟すのをじっと待っているだけのように見えるところが、何とももどかしく感じてしまう。
 こうして、ボルトン砲はさほどスキャンダラスとも言えず、ボルトンさんが狙ったほどに大統領選に影響を与えるかどうかとなると疑問で、むしろ、大統領選は「とにもかくにも経済次第」(7月8日付ロイター)、すなわち1人当たりGDPと物価動向という経済要因がポイントだとする、イエール大学のレイ・フェア教授による選挙モデルを動かすほどではなさそうに思う。それほどアメリカで新型コロナウイルス禍と経済の落ち込みが酷い(さらに人種差別デモが吹き荒れている)ということかも知れない。トランプさんにとっては、いずれにしても踏んだり蹴ったりだが・・・

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