風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

お茶目な女王

2016-04-29 14:04:33 | 日々の生活
 イギリスのエリザベス女王が、先週21日、90歳の誕生日を迎えられた。公式アカウントで女王は、「同じように90歳の誕生日を祝っている人たちにお祝いを申し上げます。同じ日に祝っている皆さんに、温かい気持ちでおめでとうございますとお伝えします」とツイートしたらしい(BBC News)。第二次大戦中、ナチスが欧州のロイヤルファミリーを捕えようとしたため、カナダへの疎開計画もあったというし、1940年9月に200機の編隊がロンドンを絨緞爆撃したときには、宮殿中庭にも爆弾6個が落とされたが、それでもバッキンガム宮殿にとどまり、エリザベス王女(当時)はウィンザー城から「帝国の子供たち」と題したラジオ放送を行って国民を勇気づけたという。爾来、エリザベス女王(1952年に即位)は電話、テレビ放送、電子メール、ソーシャルメディアなど、その時々の最先端の通信手段を使って王室のメッセージや価値観を送り続け、先の90歳の誕生日ツイートに至るわけだ。
 在位は64年に及び、昨年、ビクトリア女王の在任最長記録を超えたのは記憶に新しい。さらに昨年、サウジアラビアのアブドラ国王が逝去したため、世界最高齢の君主となった(因みに日本の今上天皇は82歳)。現在53ヶ国からなるコモンウェルスの首長であり、その内、イギリスやカナダをはじめとする16ヶ国の女王でもある。このお歳になっても、毎日午前9時に朝食を済ませると、国民などから寄せられる200~300通もの手紙を読み(返事を書くこともあるという)、政府文書にも目を通し、週1度の首相との会談をこなされる(女王は毎週火曜日に首相から内外情勢の進講を受けるのが習わし)。英メディアによると、女王は昨年、国内外で300を超える公務をこなし、孫のウィリアム王子らを上回る忙しさだったという。在位期間に就任した総理大臣はチャーチルに始まり現在のキャメロンまで12人(13代)、イギリス国教会のカンタベリー大主教7人、ローマ法王7人、女王としてこれまで117ヶ国を訪問し、延べ2億キロを移動されているという。かつて7つの海を支配し、ハプスブルク家のスペインと並び称される「太陽の沈まない国」の女王の使命感と精力は並大抵ではない。
 そんな女王に対し、ちょっと古いが2005年の調査によると、国民の82%が満足していると答え、年を重ねるごとに女王への尊敬の念は深まりつつあるらしい(今なお精力的に国のために尽くすお姿を見れば当然であろう)が、かつて何度か試練に直面している。イギリス経済の衰退とともに、緊縮財政は王室にも例外なく押し寄せ、1993年4月からは女王とエジンバラ公も所得税を支払い始めたし、同時期、バッキンガム宮殿の維持費捻出のため一般公開を開始するなどし、米ウォールストリート・ジャーナル紙はイギリス王室を「85歳の女性CEOによって経営される非上場の株式会社」と評したほどだった。1997年、ダイアナ元妃がパリで交通事故死した際には、女王はなかなか哀悼の意を示さず、「どうして英王室はバッキンガム宮殿に半旗を掲げないのか」と、轟々たる国民の非難を浴びた。女王として国家の威信を守ろうとしたとされる(が、さすがにその後、女王の頑なな姿勢は軟化した)。在位60年のメモリアルイヤー2012年に開催されたロンドン・オリンピック開会式では、女王が飛行機からスカイ・ダイビングして会場に現れるというパフォーマンスを演じ(もちろんダイブしたのはダミーだったが)、世界の度肝を抜いた。
 前置きが長くなってしまった。ニューズウィーク日本版(5・3&10合併号)には、女王90歳の珍言集が載っていて、思わずニンマリしてしまった。2005年、バッキンガム宮殿でイギリス音楽界の大スターを招いたレセプションで、エリック・クランプトンに「ギターは長いことされているの?」と尋ね、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジには「あなたもギタリストなの?」と声をかけられたとか。湾岸戦争の最中にバグダッドを電撃訪問しフセイン大統領と会談したヒース元首相が「他国の首脳もフセインと話し合うべきだ」と発言したのに対し、「あなたに何かあっても困らないけど、他の首脳はそうはいかないのよ」と呟いたとか。画家ルシアン・フロイドの作品を見にギャラリーを訪れた際、裸の女性の絵ばかりが並ぶコーナーで、キュレーターに「フロイドは女王陛下の肖像画も描いたんですよね」と話を振られて、「そうよ、でもこういうのじゃないわ」と声をひそめたとか。公の場ではどんな時も節度ある姿勢を崩さない女王だが、実際はユーモア溢れる人柄だと、身近な人々は口を揃えるという。生まれとお育ちの良さを感じさせるぶっとび振りはまことに微笑ましい。女王に末永く幸あれと思わずにはいられない。
 さて日本では、今日は「昭和の日」で、かつては「(昭和)天皇誕生日」と呼ばれた祝日だ。皇位継承問題を抱える日本に対し、イギリス王室は、国王に続き直系の王位継承者が三人もいるイギリス王室史でも稀な恵まれた状況にある。私の知人の一人は、皇室なんて無駄だと言って憚らないが、そんなぎすぎすした世相観より、無駄は無駄でも、長い歴史と伝統に裏打ちされ、日本の国のありように深みと彩を添える文化的な無駄には、反対する気が興らないし、この程度のゆとりはあってもよいように思う。終戦後の1947年10月14日、11宮家51名は、GHQ指令により皇室財産が国庫に帰属させられ経済的に従来の規模の皇室を維持できなくなったとして、皇籍離脱した。女系天皇の議論の前に、旧皇族の皇籍復帰を検討すべきだろう。日本国憲法だけでなく、こうした戦後GHQ政策の名残り(レガシー)は、いい加減、見直してはどうかと思うのだが(こうしたことは、サンフランシスコ講和条約で独立を回復したときにやるべきだったが、日本人ったら体制順応で素直なものだから・・・)。
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