風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

オバマ大統領のレガシー

2016-06-10 21:29:09 | 時事放談
 オバマ大統領の来年1月退任に向けた「レガシー」(政治的遺産または後世の歴史家による評価を意識した業績)づくりが進んでいる。大統領二期目に入ってレガシーを意識するのは、なにもオバマ氏に限ったことではないようだ。レーガン元大統領は旧ソ連のゴルバチョフ書記長との軍縮交渉に熱心に取組んだし、クリントン(旦那)元大統領は、景気拡大により財政均衡を達成するとともに、外交面では中東和平に熱心に取組んだ。ブッシュ(息子)前大統領だけは、残念ながら政権1期目に開戦に踏み切ったアフガニスタンとイラクでの対テロ戦争の泥沼から抜けられず、経済面でも退任4ヶ月前に発生したリーマンショックにより汚点がついてしまった。
 そのブッシュ(息子)前大統領から負の遺産を引き継いだオバマ大統領は、公約通りイラクとアフガニスタンでの対テロ戦争から(遅れてはいるものの)撤退しつつあるが、実のところ功罪相半ばする。駐留米軍の撤退によって生まれた力の空白にISなどの過激派が入り込んで勢力拡大する一因となり、イラクだけでなくシリアも混乱したままだからである。また1979年の革命以来、断交してきたイランとの核包括合意も成果の一つと数えることが出来る一方で、アメリカはイランに対し核開発を15年間凍結させたという功績よりも、イランは15年後には核兵器を持てるようになると皮肉る人がいるし、同盟国イスラエルやサウジアラビアとの関係は却って冷え込み、サウジに至っては地域大国イランの復活に対抗して、核への誘惑によろめきつつあって、中東情勢はすっかり流動化してしまった。唯一、明確に、1961年以来断交して来たキューバと54年振りに国交回復したのは数少ない成果と言えよう(しかしここでも具体的な関係改善、とりわけ経済効果はまだない)。
 もう一つ(正確には二つ)の成果と言えるのが、広島訪問と、それに先立つベトナム訪問である。現職の米大統領がベトナムを訪問したのは初めてではなく、クリントン(旦那)元大統領(2000年)とブッシュ(息子)元大統領(2007年)に次ぐものだが、何と言っても1975年4月のベトナム戦争終結以降、米大統領がベトナムの地で直接、戦争に言及したのは初めてだったようだ。演説では「300万人のベトナムの兵士と市民、5万8315人の米国民が命を失った」と語り、「両国は痛みと尊い犠牲をいつまでも忘れてはならない」と続けた。また対ベトナム武器輸出を41年振りに全面解禁することも表明し、中国を牽制した。また、数日前の日経新聞・朝刊には、キャロライン・ケネディ駐日大使が、自身の広島訪問経験を踏まえて綿密に計画し、平和記念資料館(原爆資料館)を訪れずに記帳だけ残すと主張したライス米大統領補佐官の反対を抑えて、館内で回るべき場所を進言し、実現させた、とある。現職の米大統領が広島を訪問したのは勿論初めてだし、広島の地で直接、戦争にも言及した(明確な責任への言及や謝罪はなかったが)。このベトナムと広島という因縁の場所を訪問したのを、日経新聞は「慰霊の旅」と呼び、産経新聞は「歴史の旅」と書いた。
 そして先ほどの日経新聞は、どちらかと言うとアメリカ人のトラウマになっているこれらの戦争の記憶を連想させる訪問を、オバマ氏のレガシー(遺産)と言うよりも、ケネディ元大統領(JFK)の政治的なレガシーだと書いた。
 オバマ氏が生まれたのは1961年8月で、JFKが暗殺された1963年11月には僅か2歳だったが、オバマ氏を含めJFKの影響を受けていないアメリカの現代の政治家は保守とリベラルとを問わずいないだろう(軍産複合体を敵に回すとどうなるかという教訓を含めて)。中でもリベラル色が強く弱者に配慮する点で、オバマ氏はJFKに近く、かなり意識しているものと思われる。JFKは白人ながらアイルランド系カトリックであって、所謂WASPという主流とは言えないところ、更に言うとそういう役回りで変化を期待されたところも、オバマ氏と共通する。JFKは、1960年の米国大統領選挙で初めて行われたテレビ討論会で見映えや若々しさで相手候補を圧倒したことで有名だが、そのスピーチの上手さに定評があるところも、オバマ氏と共通する。JFKはソ連や英国との間で部分的核実験禁止条約を締結するなど、核軍縮の機運を盛り上げたところも、オバマ氏と共通する。しかし、JFKは南ベトナム駐留米軍を増派し、ベトナム戦争にのめり込むキッカケになったこと、またキューバ危機を乗り切りながら、外交関係を閉ざすことになったことは、オバマ氏によって克服された。他方、JFKの理想主義は世界を熱狂させたが、オバマ氏の理想主義は世界を失望させた。
 後世の歴史家は、果たしてオバマ氏のレガシーをどう評価するだろうか。
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