風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

組織の論理

2020-10-05 01:04:41 | 時事放談
 10月1日に「赤旗」が報じた、スガ政権による日本学術会議への「人事介入」が話題になっている。同会議が推薦した新会員候補105人の内、6人の任命がスガ総理によって見送られたそうだ。早速、改革派を標榜するスガさんの面目であろうか(笑)。同会議・総会は翌2日、任命されない理由の説明を求めるとともに、任命されていない方の速やかな任命を求めた(前者については当然であろうが、後者の意味するところがよく分からない)。共産党の志位和夫委員長は、「安倍前政権の継承」を掲げる菅首相について「今度は(官僚だけでなく)科学者まで監督下に置こうとする。恐怖支配だ。根本から今の政治は改めないといけない」と主張し、立憲の福山哲郎幹事長は、「学問の自由に対する国家権力の介入で、到底看過できない」と批判して、衆参両院の内閣委員会閉会中審査で、首相だけでなく安倍晋三前首相の関与も視野に追及する構えだという(共同通信による)。ご苦労なことだ。朝日・毎日・東京の左派メディアご三家は2日の朝刊一面で報じ、産経と読売は2日の朝刊の政治面や社会面で伝えたように、左右で(という言い方は古めかしいが)温度差があって、今回も建設的な議論になりそうもない(今回はインテリジェンスが絡むと噂され、もしそうだとすればそのワケは言えないから、なおさらである)。中でも、スガさんの天敵(!)・望月衣塑子さん(東京新聞)らは署名入りで、「意に沿わない者を排除しようとの意図も透ける」と伝えたらしい。まあ、そういうことなのだろうけれども、同会議の性格を考えれば、ためにする批判としか思えない。
 私にとって、日本学術会議と言えば、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は、絶対にこれを行わない」旨の声明を発出し、1967年に同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を追加したというのは後で知ったことで、要は2017年に「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表し、防衛施設庁の「安全保障技術研究推進制度」に沿った研究を拒否した存在だというイメージが強い。私だって、戦争は嫌だし、戦争協力などしたくないが、現代にあっては、もはや技術はdual-use(すなわち軍事用と民生用と両用)であって(というのはサイバー技術やAIやロボティクスを想えば理解できるであろう)、軍事力は戦争をするためではなく戦争を抑止するためであることくらいは分かっている。ところが、同会議は、50年以上、その間、中国が日本の経済力を超え、軍事費で比較すると日本の5倍もの規模で(もっとも彼らは、GDPに対して一定比率で・・・すなわち経済力に見合って増額して来たに過ぎないと言い訳するだろう。しかし研究費の扱いなど定義は一様ではないので、実際はそれ以上の差があると言われる)、海洋進出を通して力による現状変更を繰り返し、地域秩序に対する明白な脅威となっている事実があるように、地域の戦略環境は様変わりしているにも関わらず、マインドセットは変らないようなのだ。橋下徹さんが、「むしろ学術会議は軍事研究の禁止と全国の学者に圧力をかけているがこちらの方が学問の自由侵害。学術会議よ、目を覚ませ!」とツイートされたのは道理で、科学者コミュニティを代表する機関でありながら選挙で選ばれたわけではない、政府に属する機関であるに過ぎないにも拘わらず、学問の自由を笠に自由奔放に振舞って来たのだ。因みに朝日新聞は、「『学者の国会』ともいわれる日本学術会議」などと言われることを持ち出して、スガさんへの糾弾を正当化しようとしている(苦笑)
 冒頭の話に戻ると、「人事介入」とは穏やかではない(苦笑)。志位さんにしても福山さんにしても、学術研究そのものと日本学術会議の運営とを勘違いされているのか、敢えて素知らぬフリで、科学者を監督下に置くとか学問の自由を脅かすと言われることには違和感がある。そんな大袈裟な話ではないだろう。基本的には同会議の「組織の論理」に従うもの、従いスガさんの「介入」は不当でもなんでもないと、私のように組織人として長くやって来た者は、素直にそう思う。根拠の詳細は長くなるので、最後にオマケとして記す。
 その意味で、今回の事案は、新型コロナ禍のさなか、検察庁法改正案が500万人ツイッター・デモと呼ばれるもので取り下げられた騒動に似ている。あのとき、内閣や法務大臣が検察官の人事に強く介入することが可能になり、検察官の独立が脅かされることが懸念された。しかし、そもそも現行制度上、検事長以上の人事は内閣に任命権がある(というのが組織の論理)。三権分立を脅かすといった批判まであったが、検察は行政機関の一つであって、三権分立の問題にはなりようがない。本来の検察の独立性が担保される一方、内閣が人事権を持つことで均衡を図るのが憲法秩序だと、ある検察幹部がまっとうな説明をされていたが、メディアには殆ど取り上げられなかったように思う。
 先の自民党総裁選でスガさんが選出されたときに、党員を含めない選挙は制度上は認められているにも関わらず、透明性に欠けるなどとして批判されたのも、一種のデジャヴであろう。確かに、自民党総裁は実質的に内閣総理大臣となる人であるから、閉鎖的な派閥の論理(自民党議員による選挙)よりも党員にも開かれた民主的な選出が望ましいという理屈は一見、分からなくはない。しかし党員は、党費(年額4千円)を支払って、(自民党HPによれば)「入党すると、あなたも自民党総裁選で投票することができます。総裁選挙の前2年継続して党費を納めた党員の方は、総裁選挙の有権者になります」という性格のものであって、国民の代表であるわけがない(むしろAKBのファン投票に近い 苦笑)。総裁(あるいは代表)選出は基本的にはそれぞれの「組織の論理」に従うもので(因みに同時期の立憲代表選は無投票だったはず)、その選び方や政策が気に入らないなら、その政党に投票しなければいいだけの話だ。
 以下はオマケである。
 日本学術会議のHPには、組織のミッションとして以下の記述がある:

(引用はじめ)
 日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。職務は、以下の2つです。
 ・科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
 ・科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。
 日本学術会議は、我が国の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の全分野の約87万人の科学者を内外に代表する機関であり、210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。
 日本学術会議の役割は、主に以下の4つです。
 ・政府に対する政策提言
 ・国際的な活動
 ・科学者間ネットワークの構築
 ・科学の役割についての世論啓発
(引用おわり)

 これを見る限り、政府から独立しているものの、内閣総理大臣の所轄の下、科学が文化国家の基礎であると確信する政府に対して、政策提言や世論啓発などを行うものであって、その制度趣旨から、任命権が内閣総理大臣にあることは当然であろう。総理大臣が勝手に任命するとすれば問題だが、任命権があるのに拒否権がないとするのは、如何にそれが慣例であろうと、原理的にはオカシイ。科学者の学術研究活動そのものとは分けて考えるべきことは、同会議「憲章」で、「日本の科学者コミュニティを代表する機関として、科学に関する重要事項を審議して実現を図ること、科学に関する研究の拡充と連携を推進して一層の発展を図ることを基本的な任務とする組織」(第一項)と定義しつつ、「科学に基礎づけられた情報と見識ある勧告および見解を、慎重な審議過程を経て対外的に発信して、公共政策と社会制度の在り方に関する社会の選択に寄与する」(第三項)とあることからも明らかである。
 否認された当該6人の内の一人、立命館大学の松宮孝明教授は、京都新聞のインタビューで、任命されなかったことについて聞かれて、「率直にはほっとした。仕事が一つ減ったな、と。個人的にはそういうところで、別になりたいと思ってたわけでない」と強がりつつ、「個人的な話をすれば、共謀罪の時に『あんなものをつくっては駄目だよ』と、参議院の法務委員会に参考人で呼ばれたので言ったことがある」ことを挙げ、続けて、「私個人の問題ではなくて、むしろ学術会議や大学を言うがままに支配したいということの表れだと思っている」として、先ほどの2017年の「軍事的安全保障研究に関する声明」を挙げ、「政府にとってみたら、軍事研究をしろと言っているのに言うことを聞かないのが学者だと思っているはず。ここが多分、本当の問題だと思う」と憤慨して答えておられた。まあ、そういうことなのだろうが、科学者自身も同会議を「言うがままに支配したい」と思っているのではないのか。「一番大きな問題は、これは学問の自由に対する挑戦で、それを大胆にやってしまったな、という話だ」と言われるのは、組織の成り立ちからすれば、やっぱり勘違いだろうと思う。さらに、「どのような基準で推薦しているかというと、結局その分野の学問的な業績、そして学者として力があるということを見て決める。これも日本学術会議法17条に書いてある。推薦に対して『不適格だ』というなら、それは研究者としての業績がおかしいと言わなければ駄目だ。ところが、その専門家ではない内閣総理大臣に、そのようなことを判断できる能力はない」とまで言われるのだが、任命権者に別の判断基準があってもよいだろう。
 こうした組織のために毎年、10億円もの血税が投入されている。元東京都知事の舛添要一さんは、「東大助教授のとき、この組織が自分の研究に役立ったことはない」「首相が所轄する長老支配の苔むした組織など、新進気鋭の若い学者には無用の長物。首相は優秀な学者に個別に意見を聞けばよいし、政治的発言は各学者が個別に行えばよい」として、「私はこの組織は不要という立場だ。首相が所管するような組織は学問には相応しくないからだ」と主張されるのは、一考に値する。
 いずれにしても、こうして、安倍政権を継承するスガ政権は、野党やメディアとの不幸な(不毛な)関係まで継承されるのであろうか。先が思い遣られる。

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