風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ヨーロッパの憂鬱

2024-06-13 05:12:21 | 時事放談

 6〜9日に実施された欧州議会選挙で、極右や右派など、EUに懐疑的な勢力が票を伸ばし、右傾化が強まっている。日経は「伸長」と書き、朝日は「躍進」と書いた。全体では依然、中道の主流派政党が過半数を維持するが、フランスやオーストリアでは極右が国内第一党になった模様だ。環境や人権などの遠いテーマよりも、インフレ対策や治安、移民政策など目先のテーマに、人々の関心が移っているということだろう。そこには長期化するウクライナ戦争の暗い影があり、アメリカのトランプ前大統領とその支持者のMAGA運動とも共鳴する。岩間陽子さんは、「戦間期」的状況が到来しそうだと警戒される。

 以下はある本からの抜粋である。

 「民主主義は二正面作戦を強いられている。一方は、いよいよ拡大し、いよいよ広範な労働者層を把握しつつある極左の闘争であり、他方は極右の闘争である。(略)この二つの反民主主義運動の目的は何か。その一方の目標は、プロレタリア独裁とそれに伴う経済的・文化政策的帰結という明確なものであるが、もう一方について知り得るのは、ナショナリズムと社会主義を混淆し、奇妙で矛盾に満ちたイデオロギーのみである。(略)この闘争において勝利を収めるのは誰か、その勝利は一時的なものか、永続的なものか、我々は知らない。ただ一つ分かることは、左翼が勝とうと右翼が勝とうと、その旗は民主主義の墓の上に立てられるであろうということである。」

 一部、言葉を略したが、それでもやや違和感を覚える表現が見られることから分かるように、現代の政治情勢を写したものではない。最近、読んだハンス・ケルゼン著『民主主義の本質と価値』(岩波文庫)所収の論文『民主主義の擁護』(1932年)からの抜粋である。まさに「戦間期」の政治情勢で、省略した言葉はボルシェヴィズムとファシズムだ。現代に当て嵌めれば、それぞれアイデンティティ政治とポピュリズムになろうか。歴史は繰り返さないが韻を踏む、ということが、なんとなく分かる。

 外交と防衛は一義的には欧州議会ではなく、各国の主権に属するから、例えばウクライナ情勢がすぐに影響を受けるとは思わないが、環境政策や人権などの優先順位には間違いなく影響し、それはとりもなおさず、ルールメーカーとしての欧州のプレゼンス低下を意味する。また大西洋を挟んだヨーロッパとアメリカでは(特に安全保障面で)作用と反作用といった反応あるいは共鳴があり、2016年当時のブレグジットとトランプ旋風のように、今年もまた米大統領選挙を控え、その動きが増幅されるのだろうか。

 自由を護るための制度である民主主義を擁護するケルゼンは、論文を以下の文章で締める。

 「船が沈没しても、なおその旗への忠誠を保つべきである。『自由の理念は破壊不可能なものであり、それは深く沈むほど、やがていっそうの強い情熱をもって再生するであろう』という希望のみを胸に抱きつつ、海底に沈みゆくのである。」

 これほどまでの悲壮な決意と信念を、今の私たちは共有しない。しかし西側・民主主義陣営の混乱と混沌は、権威主義陣営を利することは間違いない。現代にあっては、それが憂鬱なだけである。

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