風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

香港の気概

2020-05-19 01:25:50 | 時事放談
 産経新聞電子版が一昨日に報じた記事:「香港の入試問題 『日本の侵略美化』と中国が取り消し要求」(https://www.sankei.com/world/news/200516/wor2005160019-n1.html)には、痛快と思うより、意外な思いが先に立った。香港の大学入試(統一試験)で出題された歴史の問題を巡って、中国側が「日本の侵略を美化するもの」として取り消しを要求し、香港の民主派や教師が中国の介入に反発を強めている、というのだ。出題された設問は以下の通りだという。

(引用はじめ)
・・・(1)1905年に清国側の要望で日本の法政大に1年の速成課程が設置されることが記された文書、(2)12年に中華民国臨時政府が日本側に支援を求めた書簡――を資料として挙げた上で、「1900~45年の間に日本は弊害よりも多くの利益を中国にもたらした」とする説について、どう考えるかを問うもの・・・
(引用おわり)

 香港政府の教育局長は「(日本の侵略が)有害無益だったことは議論の余地がない」として、入試を担当する独立機関に対し、設問を無効とするよう求める異例の事態に発展し、中国国営・新華社通信は「設問を取り消さなければ、中国人の憤怒は収まらない」と強く反発し、「香港の教育は学生に毒をばらまいている。根治させよ」と香港政府に要求する論評を配信したらしい。これに対し、ある香港立法会議員(民主派)は「設問は学生に同意を求めているのではなく、分析能力を問うものだ」と反論し、ある高校教師は「青少年の自由な思考を抑圧するものだ。文化大革命を想起させる」と懸念を示したらしい。
 民主派寄りの香港紙・蘋果日報は、「毛沢東が生前、日本軍が中国の大半を占領しなければ中国共産党は強大になれなかったとして、『日本軍閥に感謝しなければならない』と述べていたことを紹介し、設問を問題視する当局を揶揄している」らしい。このエピソードは日本の保守派には有名で、1961年、社会党の代議士(黒田寿男氏)が中国を訪問した際、日本による中国侵略をお詫びしなければならないと話したことに対して、毛沢東は次のように答えたとされる。
 「・・・日本の軍閥はかつて中国の半分以上を占領していました。このために中国人民が教育されたのです。そうでなければ、中国人民は自覚もしないし、団結もできなかったでしょう。そしてわれわれはいまなお山の中にいて、北京にきて京劇などをみることはできなかったでしょう。日本の『皇軍』が大半の中国を占領していたからこそ、中国人民にとっては他に出路がなかった。それだから、自覚して、武装しはじめたのです。多くの抗日根拠地を作って、その後の解放戦争[日本敗戦後の国共内戦―北村注]において勝利するための条件を作りだしました。日本の独占資本や軍閥は『よいこと』をしてくれました。もし感謝する必要があるならば、私はむしろ日本の軍閥に感謝したいのです・・・」(外務省アジア局中国課監修『日中関係基本資料集 一九四九-一九六九』所収、資料70<毛沢東主席の黒田寿男社会党議員等に対する談話>、霞山会、1970年)
もとより無条件の「感謝」とは受け取れない。一種の倒錯の世界で(笑)、勝利者の余裕があってこそ、ジョークで返したものであり、日本にパンダハガーがいる如く、中国側の「抱きつき戦略」と見るべきだろう(笑)。
 法輪功系の在米反中メディア・大紀元の過去記事によれば、毛沢東はこのときだけでなく、1956年、元陸軍中将の遠藤三郎氏との会談でも、1960年、日本文学代表団と左派文学家の野間宏氏との会見でも、1964年、第2回アジア経済討論会に参加したアジア、アフリカ、オセアニアの各国の訪中代表団との会見でも、同じ1964年、再び日本社民党の代議士(佐々木更三氏、黒田寿男氏、細迫兼光氏など)との会見でも、1970年、米国人ジャーナリストのエドガー・スノー氏との談話でも、日本が蒋介石軍(国民党の力)を弱め、そのお陰で共産党が支配する根拠地と軍隊を発展させることができた、といったことに言及し、1972年、田中角栄元首相との会見では、だから戦後賠償は要らないとまで話したとされている。
 田中角栄元首相との談話の詳細は公表されていないが、それ以外は中国で出版された書籍に記載されているようだ。今の中国大陸で、これらの記述にどこまでアクセス可能か知らないが、香港にはその記憶が今なおしっかり受け継がれているのが、なかなか興味深く思われた次第だ。

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