風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

茶番

2011-06-04 08:48:59 | 時事放談
 それにしても、とんだ茶番劇があったものです(当日の夜は呆れて不貞寝して、昨晩、本稿を書き終えたのですが、一晩、寝かせて、今朝、あらためて抑制を効かせるよう推敲しました)。
 菅さんは、一昨日の民主党代議士会で「(震災の復旧・復興に)一定のめどがついた段階で、若い世代の皆さんに責任を移していきたい」と、事実上の退陣表明を行い、内閣不信任案を捨て身で否決させました。誰もがそう受け取ったし、当の鳩山さんもシメシメと思ったことでしょう。もっともこうした局面で何故また鳩山さんが登場するのか?という疑問は残ります。この方がしゃしゃり出るとロクなことにはならないですね。昨日の日経・春秋でも「もしかすると鳩山由紀夫前首相はすごい政治家なのではないか」と揶揄されていましたが、政治家を辞めることを表明しながら、現世に未練が残る亡霊のように永田町界隈を彷徨うのが目障りで、この方が大震災の時の首相でなくて良かったと思っている人は多いはずです(もっとも菅さんでも似たようなものですが)。
 ところが「一定のめどがついた段階で」という退陣の時期について、菅さんは言質を取られないように注意し、結果、鳩山さんからペテン師呼ばわりされても、とにかく暫くは政権にしがみつく覚悟のようです。ムーミンのようにトロンと眠そうな顔をして、時おり意味なくニヤつきながら、一体、この方は何をやりたいのか、全くもって不気味です。一方の鳩山さんは、相変わらず詰めが甘いですね。やんごとなき家系に生まれ合わせた宿命と言うべきなのでしょうか。
 二人が確認した事項とやらを引用します。
    一、民主党を壊さないこと
    二、自民党政権に逆戻りさせないこと
    三、大震災の復興並びに被災者の救済に責任を持つこと
      ①復興基本法案の成立
      ②第2次補正予算の早期編成のめどをつけること
 綱領もない摩訶不思議な政党である民主党のどこを守るのか、分かりかねます。その民主党を壊さないことが第一であり、自民党政権に逆戻りさせないことが第二であり、いずれも大震災の復興や被災者救済に先行しているのが、どうにも解せません。菅さんにしても、鳩山さんにしても、一体、何を守ろうとしているのか、許せない曖昧さ、と言えましょう。さて、こうしたドタバタ劇の末にあらためて明らかになったことが3つありました。
 一つは、こうした政局の舞台裏がほぼリアルタイムで世間一般に知れ渡ってしまうことの馬鹿馬鹿しさでしょう。まさかとは思いますが、これだけではないと思いたい。この国難をなんとかしなければならないという憂いと信念がぶつかり合い、政治家としてのプライドを賭けた様々な駆け引きがあったと思いたい。ところが、今、世間に知れているようなストーリーが全てであり、これが民主党が掲げるオープンな政治の行きつく先なのだとすれば、余りに薄っぺらで志が低過ぎて情けなくなります。
 次は、菅さんのスタイルは相変わらずだということです。かつて周辺に漏らしていたという、「民主主義とは、政権交代可能な独裁だ」という持論は、しかし甚だしき勘違いです。大統領制か、はたまた民主主義の本家・イギリスのエリート主義的な、と言ってしまうと語弊があるのなら、イギリスでは最も優秀な人材が政治家を目指すという前提があってこそ成り立つ政治家の一種の独裁的手法が、市民運動家に過ぎない、国を経営する信念も器量もない方が、いやしくも、のたまうべきことではありません。日本で最も優秀な人材が目指すのは官僚だというのが通り相場です。日本的な組織の論理に埋もれてしまいがちという欠点はあるものの、概ねそれは正しい。そうであるなら、日本にあっては、政治主導などと頓珍漢なことを喚くのではなく、冷静に、優秀な官僚を使いこなす器量を発揮するべきです。
 およそ市民運動家はサヨクの変形または進化系であり、かつての薬害エイズ訴訟や消えた年金のようにシングル・イシューを責めたてるのは得意ですが、政権与党として目指さなければならない「総合性」は、からっきし苦手です。あちらを立てればこちらが立たないのが世の常であり、政治力とは、その利害が厳しく対立する中で、まがりなりにも調整し納得させて丸く収める力技です。然るに民主党のマニフェストは、政権担当能力を誇示せんがために「総合」計画の衣装をまとっているかのように見せかけながら、その実、シングル・イシューの羅列でしかなく、ビジネスの世界では当たり前の優先順位づけだとか、個々の政策を全体として調整するような国家意思は、カケラも見えません。だからこそ人はそれを「バラマキ」と呼ぶのです。
 そして最後は、いよいよ菅政権はフン詰まり、レイムダック化したということです。未曾有の大災害に遭遇し、本来なら国民の安全を守るべき菅一派や反・菅一派は、自らの身の安全を守ろうとするばかりで、相変わらずコップの中の政争に明け暮れるばかり。何しろ、松木某という、普段はやんちゃで歯牙にもかけられない人が、今回は筋を通したともてはやされるほどなのです。そんな日本の政治の体たらくをよそに、国際社会は、事実上の退陣表明を行った(政権に留まったとしても進退窮まる)政権と、まともに付き合ってくれるとは思えません。こうしてジャパン・リスクの汚名挽回のチャンスは遠のき、再びジャパン・パッシングが始まるのでしょうか。
コメント
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