大坊川の土手にツツジが咲く季節になった。記憶では、この花が咲くと、ワラビ出るはずだ。例年より10日以上に早い季節の進みぐあいだが、ワラビの粗朶に近づいてみると、ワラビが2、3本出ているのが見えた。あまり肥料分のない土手のため、細い初ワラビだが、よく見ると方々に萌えだしている。初物
の春の味覚に出会えてうれしい。
石走る垂水の上のさわらびの
萌えいづる春になりにけるかも (万葉集・巻8 1418)
春いちばんにワラビを見つけて、思い出すのは、志貴皇子の名吟である。春のよろこびの歌にワラビが詠まれるのは、この時代から食用に採取されていた証でもある。わらびにつく「さ」は接頭語。わらびが生き生きと芽吹く活力を喚起する力を持っている。苗にさをつけてさなえ、枝にさをつけてさえだ、乙女にさをつけてさおとめ、どれも奥深い意を添えて、もの存在に充足感を与えている。
これから、山に入って、多種類の山菜を収穫する季節になる。コゴミ、タラノメ、ウド、ネマガリダケ。色々と考えると、方々へ走って、取り歩く体力は、残念ながら失われていく一方だ。