ベニバナ
2022年07月04日 | 花

ベニバナが咲いた。この季節になると、高瀬のあたりまで、花を見に出かけたものだ。最近はめったに車で出かけることも少なくなって、たまに近所で植えられたこの花を見つけるとうれしくなる。私はこの土地の生まれでもないのだが、この花にあるとこの地の特産の花に会った気になる。以前、土地の人に聞いたが、昔、サクランボは東北であれば、どこでも栽培していた。戦後の経済発展の時代、サクランボは山形の農家しか栽培しなくなった。理由はサクランボが余りに手数がかかるためだったという。他の土地では皆、サクランボを切り、もっと手早く金になる方へ転換してしまった。サクランボと言えば、山形産ということになっているのは、手数を惜しまない県民性にある。
ベニバナも同じことが言える。棘のある草に分け入って、棘が鋭くなる前の早朝に花を収穫する。一切の道具を使わずに手作業で、朝の暗いうちからベニバナの畑で作業をする。それを筵に広げ、集めてつぶしてベニバナ餅する。そこから生まれたのが、ベニバナ染めの原料や口紅である。もう染料や口紅の材料にベニバナを用いることはない。水上勉の『紅花』に描かれいるベニバナ農家は、手数を厭わない、長い労働に耐える山形人にしかできないものであったような気がする。
はつはつに触れし紅花棘の中 福永耕二