大岡信の『折々のうた』が朝日新聞のコラムとして一面に掲載されたのは、昭和54年1月25日のことである。朝日新聞が創刊100周年を記念して始めたコラムである。このコラムはロングランになったので記憶している人も多いだろう。朝、新聞を開いて先ず目をやるのがこのコラムであった。うたといっても和歌や詩、俳句など広い分野にわたっていたので非常にバラエティに富んだ連載であった。
いくたびも雪の深さを尋ねけり 正岡子規
冬の時期のコラムに正岡子規のこの句が登場した。東京は雪も最高気温が零下になることも非常に稀だ。この句が詠まれたのは明治29年で、この年その珍しい大雪が東京に降った。この年、子規は重症の腰痛でほとんど病床を離れることができずに臥していた。東京には珍しい大雪というので、子規は看病していた母や妹に戸外の様子を聞いた。
大岡信はこの句について、「大雪が降ったという戸外の景色を思いえがきつつ、何度も看護の母や妹に積雪の状態を尋ねたのだ。俳句の省略された語法が、病人の心踊り、空想、あこがれを表現し得て、言うに言われず深い」と書いている。
今日、東京は寒波で都心に雪が降るかと心配しているようだが、記録では東京の最大の積雪は33cmだという。あるいは子規が見たかった雪がその記録に残る雪であったかも知れない。積雪の記録はこの他に指折り数えるくらいしか降っていないから東京に雪が降るとニュースになるのも分からないではない。
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