彼女は階下(した)へ降(お)りると、侍(さむらい)が眠っているはずの座敷(ざしき)へ飛(と)び込んだ。しかしそこには侍の姿(すがた)はなかった。布団(ふとん)は敷(し)かれているのだが、そこには寝た形跡(けいせき)がない。
呆然(ぼうぜん)と立ちつくしている彼女の後ろから、父親が声をかけた。
「どうやら元(もと)の時代(じだい)へ戻(もど)ってしまったようだ。もう少し話を聞きたかったんだが…」
父親は古文書(こもんじょ)を彼女に見せて、「これを見てもらいたかったんだ。残念(ざんねん)だよ」
彼女は古文書を受け取り、パラパラとページをめくっていった。昔の人が書いた文字なので、何が書かれているのか彼女にはほとんど分からなかった。
あるページへきたとき、父親が指(ゆび)を差して言った。
「どうやらこれが我(わ)が家の系図(けいず)らしい。ここに吉田勘三(よしだかんぞう)の名前が書かれているだろ」
確(たし)かにそこにはあの侍の名前があった。彼女は侍の名前の横に書かれている文字に目がいった。そこには、平仮名(ひらがな)で<はな>と書かれてる。
彼女は思わず呟(つぶや)いた。「これって、私と同じ名前……」
「そうなんだ。父(とう)さんも見て驚(おどろ)いたよ。これも何かの因縁(いんねん)なのかなぁ」
「じゃあ、さっきの夢(ゆめ)って…。いやいや、そんなのあり得(え)ないわよ。私が――」
彼女には昔(むかし)の時代を生きた記憶(きおく)があるはずもなく、これってどういうことなのか? いくら考えても答(こた)えは出そうになかった。
<つぶやき>もし他の時代と行き来することができたら、面白(おもしろ)いことがいっぱい聞けそう。
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