月島(つきしま)しずくは柊(ひいらぎ)先生に連れられて校舎(こうしゃ)の階段(かいだん)を昇(のぼ)っていた。しずくは、さっきのドキドキがまだ続いていて、階段を上がる足もガクガクしている。先生は屋上(おくじょう)へ出る扉(とびら)の前まで来ると立ち止まった。
扉の把手(とって)をつかもうとする先生に、しずくは慌(あわ)てて言った。
「先生、屋上は立入禁止(たちいりきんし)になってます。だから、鍵(かぎ)がかかってて――」
先生はしずくをチラリと見ると、把手を回した。するとどうだろう、把手はキィっと小さな音をたて、扉がギーィっと軋(きし)みながら開いた。
「どうやら壊(こわ)れてるみたいね。後で直(なお)してもらわないと」
先生はそう言うと、ツカツカと屋上へ出てしまった。しずくは少しためらったが、先生の後を追(お)いかけた。
烏杜(からすもり)高校はちょっとした高台(たかだい)の上に建っている。周(まわ)りには高い建物もなく見晴(みは)らしは抜群(ばつぐん)だ。ちょうど陽(ひ)が西に傾(かたむ)き、辺りの家並(いえな)みを赤く染(そ)めはじめていた。しずくはこの景色(けしき)に圧倒(あっとう)されて、思わず声を上げて手すりに駆(か)け寄った。入学以来、校舎の屋上へ昇るのは初めてだったのだ。突然(とつぜん)、先生に呼(よ)ばれて、しずくは現実(げんじつ)に戻(もど)された。
「月島さん、あなたにはがっかりしたわ。――私が鍛(きた)え直(なお)してあげる」
しずくはキョトンとして先生の顔を見た。その顔には、怖(こわ)いほどの迫力(はくりょく)があった。
<つぶやき>先生は何をしようというのでしょ。しずくの運命(うんめい)はこれからどう変わるのか。
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