その日は夜遅(よるおそ)くまで、歓迎会(かんげいかい)と称(しょう)して飲めや歌えの大騒(おおさわ)ぎになった。母親は、ご近所から苦情(くじょう)が来るのではないかと気を揉(も)んた。娘(むすめ)の方は早々(そうそう)に切り上げて、二階の自分の部屋へ引っ込んだ。だが、階下(した)がうるさくてなかなか眠(ねむ)ることができない。
――どのくらいたったろう、侍(さむらい)が目を開けると、そこは婚礼(こんれい)の宴(うたげ)の席(せき)だった。目の前には料理(りょうり)の膳(ぜん)が並(なら)び、見知(みし)った親戚(しんせき)連中や仲間(なかま)たちが、これまた飲めや歌えの大騒ぎをしていた。侍は、ふと隣(となり)の席を見た。そこには見知らぬ女性が座っている。俯(うつむ)き加減(かげん)でいるので、長い黒髪(くろかみ)が邪魔(じゃま)をして顔がよく分からない。
はて誰(だれ)だろうと、侍はその女性の顔をしげしげと見つめた。女性もその視線(しせん)を感じて、ますます下を向く。たまらず侍は声をかけた。女性は反射的(はんしゃてき)に侍の方へ身体(からだ)を向けて、
「あの、こんなあたしでいいのでしょうか? あなたの妻(つま)として――」
侍は女性の顔を見て首(くび)を傾(かし)げる。どこかで見たことのあるような…。でも、はっきりとは思い出せない。侍は、この人が自分の妻なんだと納得(なっとく)して彼女に言った。
「こちらこそ、こんなむさ苦(くる)しい家に嫁(とつ)いでくれて、ありがたい。本当(ほんとう)にありがたい」
ホッとしたように女性の顔に笑(え)みがこぼれる。――その顔、着物姿(きものすがた)ではあるが、それは紛(まぎ)れもなくあの娘の顔と瓜二(うりふた)つであった。
突然(とつぜん)、悲鳴(ひめい)が響(ひびき)き渡った。ベッドから飛び起きた娘は荒(あら)い息をしている。あまりにもリアルな夢(ゆめ)を見たようだ。娘はベッドから飛び出すと、階段(かいだん)を駆(か)け下りた。
<つぶやき>娘もタイムスリップしちゃったんでしょうか? それとも、ただの夢なの?
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