「あれ、須藤(すどう)先輩? どうしたんですか?」
部室(ぶしつ)でしょげ返っている先輩(せんぱい)を見て、翔太(しょうた)は訊(き)いた。そばにいた淳史(あつし)が答えて、
「あゆみちゃんの夢(ゆめ)を見たんだってさ。そしたら、夢の中に綾部(あやべ)先輩が出て来て――」
「えっ、綾部先輩って、あゆみちゃんと付き合ってるんじゃないかって噂(うわさ)の?」
「なんか、夢の中であゆみちゃんに告白(こくはく)したら、綾部先輩が出て来て『俺(おれ)の女に手を出すな』って。それで、あゆみちゃんからも『先輩とは無理(むり)です』って速攻(そっこう)で返されて」
翔太は呆(あき)れて言った。「先輩、たかが夢じゃないですか。元気(げんき)出してくださいよ」
須藤は顔を引きつらせながら、「たかが…。たかがだと! 俺があゆみちゃんの夢を見るためにどれだけ苦労(くろう)したと思ってるんだ。せめて夢だけでも、あゆみちゃんの笑顔を…」
「じゃあ、告白しましょう」淳史が言った。「俺、同じクラスなんで、呼(よ)び出しますから」
「バカヤロ。そんなことしたら、何もかも終わりだぞ。俺なんかと付き合うわけないだろ」
「そんなこと分かんないじゃないですか。綾部先輩のことだって、ただの噂で――」
「お前、想像(そうぞう)できるか? 俺とあゆみちゃんが、二人並(なら)んで歩いてることを!」
いきり立つ須藤をなだめながら翔太が言った。
「先輩。俺、先輩にピッタリの彼女、探しますから」
須藤は矛先(ほこさき)を翔太に向けて、「お前、なめとるんか? あゆみちゃん以上の女がいるわけないだろ。お前らに、俺の気持ちが分かってたまるか!」
<つぶやき>一途(いちず)な純情(じゅんじょう)ってやつですね。あゆみちゃんってどんな娘(こ)か見てみたいです。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。