「うゎーっ!!」夫(おっと)が突然(とつぜん)リビングで叫(さけ)び声を上げた。
私は何ごとかと思って行ってみると、夫はテレビの前で茫然(ぼうぜん)としていた。そして、うわごとのように呟(つぶや)いた。
「消(き)えた…? えっ、どうして…。何で映(うつ)らないんだよ……」
どうやら、テレビ番組(ばんぐみ)の録画(ろくが)をしていたハードディスクが故障(こしょう)してしまったみたい。夫の落胆(らくたん)は見ていられないほどだ。夫は観(み)たい番組を録画して、後でゆっくり観るのを楽しみにしていた。だから、ものすごくショックだったのだろう。私に気づくと、
「どうしよう…、あの番組、観たかったのに…。これ、何とかならないかな…」
私も彼の気持ちは分かるけど、こればかりはどうしようもない。私は夫に言ってあげた。
「もうずいぶん使ってたから、仕方(しかた)ないよ。あきらめて、新しいの買ってきたら?」
「そんな…。だって、連(れん)ドラとか、映画(えいが)だって録画してたのに…」
夫は泣(な)きそうな声で訴(うった)えた。私は、彼の知らなかった一面(いちめん)を見たようで、何だかおかしくなってしまった。でも、ここで本当(ほんとう)に笑(わら)ってしまったらかわいそうだわ。私は彼を慰(なぐさ)めるように、こうささやいた。
「じゃあ、今から二人で残念(ざんねん)会をやらない? 今日は飲みましょ。私が美味(おい)しいもの作るから、元気(げんき)出して。そうだ! 明日は休みだし、一緒(いっしょ)に新しいの買いに行きましょうよ。ついでに…、私も欲(ほ)しいものがあるんだけど、いいかしら?」
<つぶやき>妻(つま)はちゃっかりとおねだりをするのであります。ああ、まいったまいった。
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