「私が言ったのは、そういうことじゃなくて…」彼女は困惑顔(こんわくがお)で言った。
「でも、そういうことだろ」彼は吐(は)き捨(す)てるように言った。「俺(おれ)に近寄(ちかよ)って来る女はみんなそうだ。俺がプレゼントするものを嬉(うれ)しそうに受け取って、俺にすり寄って来る。君(きみ)もその一人だ。俺じゃなく、俺の金が目当(めあ)てなんだろう?」
彼女は小さくため息(いき)をつくと、「そりゃ、お金は大切(たいせつ)よ。でも、私は――」
「金以外(いがい)に何がある? 俺はこの通り背(せ)も低いし、顔だって…。そんなこと分かってるんだよ。いいさ、それでも。いくらでも使ってやるさ。金さえあれば、どんな女だって…」
彼は、彼女の顔に手を当てて、引きつった笑(え)みを浮(う)かべた。彼女は一種(いっしゅ)、恐怖(きょうふ)の表情(ひょうじょう)を見せたが、彼の手をゆっくりと払(はら)いのけると静(しず)かに言った。
「私、あなたとは無理(むり)みたい。お金、お金、お金…、あなたにはそれしかないの? 私が好きになったあなたは、もっと純粋(じゅんすい)な人だったわ。私は、あなたの旅先(たびさき)でのお話を聞くのが大好きだった。あなたのお話を聞いてると、何だかワクワクして、私も一緒(いっしょ)に旅をしているみたいで…。私にとって大切(たいせつ)なのは、お金なんかじゃないわ」
彼女はゆっくり立ち上がると、彼から数歩離(はな)れて振(ふ)り返った。そして、憂(うれ)いをにじませた瞳(ひとみ)で彼を見つめた。彼はその時、感じてしまった。彼女は探し求めていた女神(めがみ)だと…。彼は駆(か)け寄ると、彼女を強く抱(だ)きしめた。彼女は嫌(いや)がる素振(そぶ)りも見せずに、ほくそ笑(え)んだ。
<つぶやき>彼女は、彼のすべてを自分のものにしたかったのでしょうか? それとも…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。