徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:池井戸潤著、『ハヤブサ消防団』(集英社文芸単行本)

2022年11月18日 | 書評ー小説:作者ア行

池井戸潤作品は実に3年ぶりに読みました。足袋屋がランニングシューズを開発するストーリーの『陸王』を読んだのが最後でした。

『ハヤブサ消防団』は、亡き父の故郷に東京から移住した売れないミステリ作家・三馬太郎が主人公のミステリーです。
中国地方の田園地帯。田舎なので人々はよそ者には開放的ではないのですが、太郎は両親の離婚のせいで疎遠になっていたものの、祖父母が健在の時代は訪れることもあったので、「ああ、野々村さんとこの息子か」と出戻った村の子のようにすんなり受け入れられます。
濃厚な人間関係も含めて田舎暮らしの醍醐味と心得、村人たちに誘われるまま自治会に入り、その会合の後の飲み会で、今度はハヤブサ地区の消防分団に勧誘を受け、それにも愛郷心を示そうとして引くに引けなくなって入団することになります。
そして入団式の日、放火と思われる火事が起きて早速出動することに。実はハヤブサ地区では立て続けに謎の火事が起こっており、放火か過失または事故かうやむやになったままで、村人たちは何かおかしなことが起こっているという不安に苛まされており、消防団は村と村人を守るために気合を入れています。
もう1つの村の悩みは太陽光発電の会社による土地の買い取りだった。村人が様々な事情でその会社に土地を売り、その後に作られたソーラーパネルパークが景観を損ねています。その会社が土地を買い占めようとしているのは他に目的もあるようだ。
長閑な田舎に放火犯、殺人犯、ソーラー会社、ハヤブサ地区にいい感情を抱いていない村長、新興宗教などが複雑に絡み合い、不穏な影を落とす中、太郎はミステリ作家としての推理力を発揮して真相の究明をめざしますが、その身には危険が迫り、誰が本当の敵なのか、スパイが誰なのか分からなくなり、ハラハラします。
見事な長編小説です。


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