徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Endless Night(終わりなき夜に生まれつく)』(HarperCollins)

2018年08月25日 | 書評ー小説:作者カ行

『終わりなき夜に生まれつく(Endless Night)』(1967)はアガサ・クリスティーの晩年の作品の1つ。たくさんある中でなんでこの作品を選んだのか自分でもよく分からないのですが、読んでいてすごく違和感を感じました。なぜなら200ページを過ぎても誰も死ななかったので。ウェールズの湿地帯にある「Gipsy's Acre」と地元の人たちが呼ぶ不吉な土地でMikeことMicheal RogersがEllieことFenella Gutemann(アメリカの富豪の相続人)に出会い、恋をして、その土地に家を建てることを夢見、ついに結婚して、彼らの夢を実現するストーリー。彼ら、特にエリーを「ここから出て行かないとひどい目に合う」と近くに住むジプシーの老女に脅かされるなど、不吉な影が付きまとっているものの、彼らがいかに幸せに暮らしていたかが延々と語られるので、ミステリーと言うよりは悲恋物語のようです。そしてついにと言うべきか、ある朝エリーがいつものように乗馬に出かけ、そのまま帰らぬ人となってしまいます。落馬事故にしては大した死に至るようなケガもなかったので、「ショック死」ということで処理され、彼女の遺言によりマイクは莫大な遺産を相続することになります。彼は妻の死がショックで抜け殻のようになり、妻の秘書兼世話役を務めていたグレータがすべてを取り仕切り、なぜエリーがグレータに依存していたのかが分かったと語られるので、エリーの死はジプシーの老女と関係があるのか、彼女の乗馬友だちだったClaudia Hardcastleがなぜか彼らの家が売却されるならぜひ買いたいと言い出したことと関係があるのか、あるいは彼女の元夫でエリーの管財人の一人Stanford Lloydが何か企んだのかなどと読者を混乱させ、まさかマイクとグレータが実は数年前から恋人同士で、最初から計画していたとは思い至らないため、驚きの種明かしとなります。

マイクがアメリカから戻り、エリーと最初に出会った場所で、いるはずのないエリーを見て、彼女には自分が見えていないことに気づいて嫌な気分になり、実は彼も本当はエリーをふりではなくて実際に愛していた(こともあった)と気づいて後悔します。なのでやはり悲恋物語のような印象を受けます。

タイトルの『Endless Night』はWilliam Blakeの詩「Auguries of Innocence」から来ています。その一部をエリーがギターを弾きながら歌うシーンがあります。

Every night and every morn,
Some to misery are born,
Every morn and every night,
Some are born to sweet delight.
Some are born to sweet delight,
Some are born to endless night.

いないはずのエリーの姿を見た後でマイクはこの詩を思い起こし、エリーはSweet delight(甘やかな歓喜)に生まれつき、自分こそはEndless Night(終わりのない夜)に生まれついたのだと考え、他の道を行くことはできなかったのか自問しますが、結局自分はそうするしかなかった的な運命論のようなものを出すので、後悔はしても本当の意味では反省していない感じで、「なんだこいつは?」という腑に落ちない感覚が残ります。


書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』(HarperCollins)

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ミス・マープルシリーズ

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