徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:今野敏著、『潮流 東京湾臨海署安積班』(ハルキ文庫)

2022年05月14日 | 書評ー小説:作者カ行

買ったまま放置して1年ほど経ってしまいましたが、積読本の山も小さくなってきましたので、手を付けることにしました。
東京湾臨海署安積班シリーズは『東京ベイエリア分署』『神南署』『東京湾臨海署』の三期に亘って、三十年以上書き継がれてきた著者のライフワークだというロングランですが、主要キャラはほぼ同じでもマンネリ化しない作品群です。

東京湾臨海署の強行犯係の安積剛志係長を中心にした物語ではあるものの、警察組織内の実に多くの人間がそれぞれの仕事をこなしながら協力したり対立したりして織りなす複雑な人間関係と、様々な事件を解決していくスーパーヒーロー不在のリアリティーが魅力です。

さて、この『潮流』は安積班全員が比較的平和に署に詰めて書類処理などをしていたある日に急病人が3人立て続けに救急車で病院に搬送されたことから始まります。彼らにつながりはなく、共通点も見つからないのですが、間もなく3人とも亡くなったので安積係長が気にし始め、須田の奇妙な知識にヒントを得て、死因が毒殺であることを突き止めます。テロを疑っていると、犯人らしい人物から東京湾臨海署宛てにメールが届き、さらに殺人を続けることを匂わせます。
捜査本部は作られず、管理官と警視庁捜査一課から因縁の相手が臨海署に乗り込んできて捜査が秘密裏に始まりますが、マスコミがリークしたため、安積が情報がどこから漏れたのか調べる羽目になります。
さらに、臨海署だけにメールが来たため、過去に臨海署が関わった事件との関係があるかもしれないと過去の事件をを調べることになり、四年半前に起きた宮間事件が浮上してきます。既に有罪が確定して結審しているものの、被告の宮間は一貫して無実を訴えており、「きれいに終わった」と感じられない引っ掛かりがあり、そのような曖昧な「勘」で雲をつかむような捜査を続けます。
筋が見えてくるまでに大分時間がかかり、方針の違う捜査一課の佐治と対立を深めます。
…という感じに地味に展開していくので、事件の真相に迫る推理過程よりも人間ドラマの方が比重が高いという印象です。

『潮流』は、一度流れができてしまうと間違っていてもみんな押し流されてしまうことがあるけれども、その流れはあるきっかけからいい方に変わることもある、という現象を象徴するタイトルです。
どんな流れなのかは読んでからのお楽しみです。


安積班シリーズ
 

隠蔽捜査シリーズ


警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ


ST 警視庁科学特捜班シリーズ


「同期」シリーズ
横浜みなとみらい署 暴対係シリーズ


鬼龍光一シリーズ

奏者水滸伝