宮沢賢治作「セロ弾きのゴーシュ」、中村哲作「わたしはセロ弾きのゴーシュ」の朗読を聴いた。アナウンサー出身の熊谷百合子さんの柔らかな声音が心に浸みた。加えて、チェロ、クラリネット、ピアノの音楽が朗読を一層効果的に盛り上げた。
12月7日(木)夜、NHK札幌放送局でチェロ奏者の向井航さんの演奏を聴いたその足で、札幌市民交流プラザで開催された「朗読ユニットふたりしずか」が主催する「ふたりしずか文芸館」に足を運んだ。
「ふたりしずか文芸館」がどのような会なのかもよく承知せず、「セロ弾きのゴーシュ」という文言に魅かれてチケットを購入したのだ。
プログラムは3部構成となっていた。
第1部 朗読音楽劇 宮沢賢治原作 南木千絵作曲「セロ弾きのゴーシュ」
第2部 〔うた〕 宮沢賢治作詞・作曲「星めぐりのうた」
宮沢賢治作詞・讃美歌「ポラーノの広場のうた」
第3部 〔朗読〕 中村哲著「わたしはセロ弾きのゴーシュ」
以上だった。
朗読、そして〔うた〕は、熊谷百合子さん、チェロは吉田大さん、クラリネットは小松崎緑さん、ピアノは伊藤希代子さんというメンバー構成だった。
この会を主宰し、リーダーと目される熊谷百合子さんは、ニッポン放送のアナウンサーを経て、現在は朗読教室を開催したり、各種の朗読イベントなどに出演されたりしている方のようだ。さすがに熊谷さんは朗読のプロだった。非常に柔らかな声で、聴いている者を物語の世界に誘ってくれた。
音楽の方もそれぞれが専門的に修練された方々の演奏だったから、とても効果的だった。ただ、向井航さんのチェロを聴いた直後だったから、チェロの吉田さんにとっては不運だった。(あくまで私の個人的事情ではあるが…)
やや残念だったのは〔うた〕の部分だった。熊谷さんの歌は確かにきれいな歌声だったのだが、歌うことを専門にされていない方の歌のように思えた。できれば専門の方を歌を聴きたいと思った部分だった。
第3部の中村哲さんの「わたしはセロ弾きのゴーシュ」は、バックストーリに魅せられた。中村哲さんはご存じのとおり、アフガニスタンの人たちのために一生を捧げる中、志半ばで凶弾に倒れた医師である。中村氏の業績については、私もNHKのドキュメンタリーなどで何度も視聴していたこともあり関心が大きかったのだが、中村氏が自らの姿を “セロ弾きのゴーシュ” になぞらえていたことは知らなかった。中村氏らしい謙虚な言葉である。中村氏がアフガニスタンの地に捧げた思い、その業績の足跡を熊谷さんの朗読で聴くことができたのは、私にとって特別な時間となった…。