楽しいミニコンサートだった。それは主役の大久保さんに形式ぶったところがなく、聴衆をリラックスさせようとしてさまざまな工夫を凝らしてくれたところにあった。ところが、大久保さんは大変高名な声楽家のお一人だった…。
12月5日(火)夕刻、午後6時から北海道銀行本店のロビーにおいて「道銀文化財団 CLASSIC♪FAN #7」が開催されたので駆け付けた。この日の出演はバリトンの大久保光哉さん、ピアノ伴奏の大久保咲恵子さんのご夫妻だった。
道銀文化財団では定期的に道銀本店のロビーを会場にして、夕刻にロビーコンサートを開催している。今回はその一環として第7回目のクラシックコンサートを開催し、ゲストとしてバリトンの大久保光哉さんと、ピアノ伴奏の大久保咲恵子さんを招請したということである。
私は大久保光哉さんについては全く知らなかった。そこで調べてみると、大久保さんの経歴はちょっと特異だった。
大久保さんは北海道・白糠町の出身であるが、慶応大法学部を卒業され北海道銀行に就職している。コンサートでは大久保さんと同期入行の方が、現在北海道銀行の頭取をされているというエピソードも紹介された。大久保さんは慶応大時代に男声合唱団に所属されていたというが、就職後も音楽の道断ちがたく、一念発起して東京芸術大の大学院音楽研究科に進学し、後期博士課程を修了している(博士号取得)。その後は、文化庁在外派遣研修員としてスゥエーデンに留学、帰国後はオペラ歌手として主要なオペラに出演され、一線級のバリトン歌手として活躍された方だという。現在は北海道教育大学岩見沢校で後進育成のために準教授としても活躍されている方だそうだ。
コンサートはオペラなどには初心者である方向けのプログラムを用意されていた。そのラインナップは?
◆モーツァルト/オペラ「フィガロの結婚」より “もう飛ぶまいぞこの蝶々”
◆モーツァルト/「ドン・ジョヴァンニ」より “カタログの歌”
◆大中恩/平身低頭
◆大中恩/仔猫のようだった
◆コープランド/猫を買った
◆ロッシーニ/猫の二重唱?
◆大中恩/いぬのおまわりさん
◆大中恩/サッちゃん
◆大中恩/サッちゃんの家
前半2曲はオペラの有名な曲であるが、その中でも大久保さんは “カタログの歌” を披露する前に「オペラの歌というのは、イタリア語で分からないと思いますが、そのほとんどが恋の歌である」と解説し、“カタログの歌”というのは、女性のタイプを次々と歌ったものであるとして、そのタイプを例えば「肥った女性」、「痩せた女性」、「背の高い女性」などと次々と歌の中に出てくる女性のタイプを模造紙に書いて、それを示しながら歌ってくれるというサービスをしてくれたのだ。
その後の曲も大久保さんの配慮というか、アソビが入ったような選曲である。諸氏がお気づきのように猫と犬の歌に特化(?)しているのだ。
そして「いぬのおまわりさん」と「サッちゃん」は歌詞カードを用意してくれ、「一緒に歌いましょう!」というコーナーまで用意してくれるというサービスぶりだった。
クラシック界で活躍された方はプライドが高く、中には曲名の紹介もないコンサートなどもある中、後進の指導をされているからだろうか?披露する歌をやさしく解説してくれたり、聴いている者が飽きないようにと様々な工夫を凝らしてくれたことに頭が下がる思いだった。
もちろん歌の方も、まだ58歳ということで声量も十分、まだまだ現役としても通用する豊かな声量で聴いている私たちを魅了したことは言うまでもない。
楽しく豊かなひと時を過ごすことができた思いだった…。