私たち消費者が行動を起こすには “動因” と “誘因” の二つが存在するという。この二つが合わさったときに私たち消費者は “行動” を起こし、消費者トラブル生まれるという。この “行動” をいかに食い止めるか?心理学の研究者からお話を聴いた。
11月9日(水)午後、北海道立消費者センター主催の「くらしのセミナー」を受講した。この日のテーマは「だまされない消費者になるための心理学~ポジティビティバイアス~」と題して中央大学文学部の有賀敦紀教授のお話を伺った。
実はこの日も先日の中島岳志東工大教授のときと同じように、リアル講座ではなくリモート講座となってしまった。当初は有賀教授も来札して直接お話を伺えることになっていたのだが、北海道が他府県に比べて突出しコロナ感染者が多いことから、急きょリモート講座に切り替えたとのことだった。残念だが仕方がない。
有賀氏は最初に消費者心理に大きな影響を与える “動因” と “誘因” について触れた。「動因とは、人の内面にある欲しいという気持ち」のことで、「誘因とは、人の外側にある欲しいという気持ちを満たすもの」であると説明された。具体的に例えば「金銭的に裕福になりたい」という “動因” がある営業社員に対して「営業成績に応じたインセンティブ制度を導入するという “誘因” をつくることで社員の “行動” を喚起する場合などがある。これが「美しくなりたい」などという “動因” を持つ消費者に対しては、魅惑的な “誘因” によって消費者が騙されてしまう(つまり “行動” に移る)例が多いという。
そこで有賀氏たち心理学者は “行動” をいかに食い止めるかについての研究をされているそうだ。
人が騙される心理的要因の一つとして「都合の良い情報補完」をする傾向があるという。人間の認知システムは、足りない情報を都合よく補完するという。例えば、他人を見た時正面より後ろ姿の方が魅力的に評価される傾向があるという。俗にいうマスク美人もこのたぐいだろろうか?したがって、騙そうとする人たちは、あえて情報を隠すちという手法を取る ことにより消費者の「都合の良い情報補完」の心理を利用するそうだ。
第二の心理的要因として「ポジティブバイアス」という誤った情報処理をする傾向が人間にはあるという。人間の認知システムは自身の期待に添う情報を優先的に処理し、不要な情報を無視する傾向があるとした。例えば、契約金が少々高額だが、その後 儲かるからいいかとか、2年間解約はできないけど、美容効果があるならいいか、等々、自身の期待に沿うよう、ポジティブな情報を選択してしまうという。
第三の心理的要因として「見た目重視」の心理が人間にはあるという。特に高齢者は過去の行いよりも顔で信頼性を評価する傾向があるそうだ。
第四の心理的要因としては「不合理な価値判断」を人間はしがちだという。その一つに「アンカリング効果」があるという。
第五の心理的要因としては「支払ったコストへの執着」があるという。これは「サンクト効果」と呼ばれているそうだ。「アンカリング効果」とか、「サンクト効果」については、説明が難しいので、ここでは省略させていただく。
さらに有賀氏の説明は続いたが、それらを省略して、私たちが「騙されないため」にはとして次のようにまとめられた。
「騙そうとする側の思惑通りに、消費者が事象や情報を都合よく認知してしまうのは仕方がない。(“動因” があるかぎり “誘因” は生まれる)」しかし、そこから “行動” に移さないためには「知識に基づいて行動を抑制する必要がある。(人間の心理特性を知ることの重要性)」という。そして最後に次のようにまとめられた。
「私たちは『こころの法則』に抗うことはできないが、教養に基づいて冷静に行動することはできる」
つまり私たちの心理は騙そうとする側が創り出す “誘因” に日常的にさらされているが、 今回のセミナーなどを通して知識を蓄えることにより、自らの “行動” を抑制する以外にないということのようだ。つまり特効薬などはなく、私たち消費者は注意深く、そして抑制的に生きるべき、ということなのかもしれない…。