“グリーンブック”とは、1960年代のアメリカにおいて南部を旅行する黒人のためのガイドブックだったそうだ。その名が示すとおり、映画は黒人差別の問題をモチーフとした映画だったのだが…。
映画は2019年のアカデミー賞最優秀作品賞を受賞した作品であるが、実際あった話を題材にしたものと伝えられている。
時は1962年、インテリの黒人ピアニストとして名声を博していたドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は、当時黒人差別が激しいとされていたアメリカ南部を演奏旅行することにした。その際のボディガード兼運転手として雇われたのが粗野で無学だが口の達者なイタリア系アメリカ人のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)だった。
※ ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)とトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)
トニーはイタリア系アメリカ人として底辺の生活を送っており、黒人に対しても差別的なところをもった人物だった。そのトニーが黒人の雇われ運転手として8週間の南部への旅行を共にしたのだ。当初二人は粗野な白人と、教養があり上品な黒人というギャップもあってぎすぎすとした関係だった。しかし、シャーリーのピアノの腕前が並外れていたことでトニーのシャーリーに対する見る目が変わった。さらには、南部の演奏会において富裕層たちはシャーリーの演奏に拍手することはあれ、シャーリーに対しては食事をする場所も、泊るところも、トイレも全て黒人専用のところでの使用しか認めなかった。そうした処遇を目の前にしてトニーは怒りを覚え、次第にシャーリーを護ろうとするようになり、二人の間は親密なものとなっていった。
と書いてくると、単なる二人の友情物語のように聞こえてくる。確かにそれがストーリーのベースではあるが、映画を観ている私には当時「ジム・クロウ法」という法律があり、公然と黒人(並びに有色人種)に対する差別が容認されていたアメリカ南部の社会のいびつさは想像を絶したものであったことに改めてアメリカの歪みを見た思いだった。(そのことが今のアメリカの社会の中でも底辺では通底しているのではないか)そして、そこになぜ北部の社会で成功していたシャーリーが乗り込んでいこうとしたのか、そこのところがもう一つ理解できなかった。そのことに対する私の明確な答えはないが、シャーリーはたとえ北部アメリカで成功したとはいっても、やはり白人と真の人間的な付き合いはできていなかったのではないか?だから自らのアイデンティティを探して南部への演奏旅行を思い立ったのではないだろうか?しかし、そこに待ち構えていたのは想像以上の酷い仕打ちだった、ということなのではないか、と私は考えたのだが…。
※ 演奏中のドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)のトリオです。
黒人差別を扱った映画としては2014年に同じアカデミー賞作品賞を受賞した「それでも夜は明ける」があるが、観終えた後の感想としてはこちらの「グリーンブック」の方が爽やかな気持ちで観終えることができたように思う。それはきっと、シャーリーとトニーが最後にお互いを分かりあい、いたわり合う存在となったからだと思う。いい映画だった…。