報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサと2人の帰宅」

2023-04-24 21:23:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月7日16時19分 天候:曇 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。きくかわ~、菊川~〕

 私とリサは、無事に菊川駅に着いた。
 電車を降りると、改札階へ上がるエスカレーターへと向かう。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 急行電車が通過するような小さな駅では、各駅停車もすぐに発車する。
 ホームには強風が吹いた。
 エスカレーターや階段にも、その注意を促す表示がしてある。
 リサのさらさらとした髪や、短い制服のスカートがその風に靡いた。

 愛原「高橋もいないことだし、途中で食材買って行こうか?」
 リサ「うん、分かった」

 改札口を出ると、リサはまた私と腕を組んできた。

 愛原「何だか恥ずかしいなぁ……」
 リサ「わたしのお母さんも、こうして……お父さん?……と、腕を組んだのかな?」
 愛原「さあ……。何しろ、50年も前だからなぁ……」

 医療ミスの廉で警察に追われ、ヤクザにも追われていた上野医師。
 そして、白井伝三郎に追われていた斉藤玲子の2人に、腕を組んで歩くほどの余裕があったのかは分からない。
 だが、もしもリサの両親がこの2人なら、少なくとも逃亡生活の最中に子作りできた余裕があったと窺い知ることはできる。
 それも、リサ1人だけではない。
 日本版リサ・トレヴァーとなったリサの姉妹達もいるのだ。

[同日16時35分 東京都江東区森下 ローソンストア100江東森下三丁目店]

 コンビニながら、ミニスーパーの機能も併せ持つローソンストア100が近所にあって助かる。

 愛原「夕食は何かデリバリーを頼むから、明日の朝だな」
 リサ「分かった。他にも何か買っていい?」
 愛原「いいよ」

 私は明日の朝食用の食材を買っていた。
 もっとも、殆ど電子レンジやオーブントースターで完結できてしまうものばかりだが。
 リサはお菓子とジュースでも買うのかと思いきや、もちろんそれもあったのだが、他にも生理用品や化粧水などを所望した。
 うん、女の子だから、当たり前だな。
 それと、リサが関心を寄せていたのが……。

 リサ「鬼ころし……」
 愛原「こらこら!お酒は20歳になってからだぞ?」

 実家で父親が飲んでいた『鬼ころし』とは違う酒造メーカーだが、パック入りの酒でそれが売られていた。
 1匹の赤鬼が千鳥足になっているイラストが描かれていた。

 リサ「わたしの実年齢は50歳以上……」
 愛原「実際の肉体年齢と、新しい戸籍の年齢が基準です!」
 リサ「わたしが飲んだら、どうなるかな……?」
 愛原「そりゃあ、またいつぞやの時みたいに、変化するだろう。今度は、どんな状態になるか分からんのだぞ?だから、飲酒禁止」
 リサ「あのお酒はね。でも、これなら違う効果が出そうな気がする……」
 愛原「違う効果って何だよ?」
 リサ「飲んでみないと分かんないけど、多分、この赤鬼さんみたいになる」
 愛原「てことは、酔い潰れるってことだろ。ダメだよ。まだ17歳なのに」
 リサ「うーん……」

 元々『鬼ころし』というネーミングは、『普段は鬼のように強い巨漢であっても、これを飲めば立ちどころに酔い潰れる』ことから付けられたそうなのだ。
 つまり、本物の鬼かどうかは関係ない。

 リサ「鬼封じの酒……鬼の力を封じる効果……」
 愛原「マンガの読み過ぎだよ。とにかく、今度こそ取り返しのつかない状態に変化したら大変なことになるんだから、絶対に飲まないように。分かった?」
 リサ「……はーい」

 とは言いつつ、私も父親が美味そうに飲んでいたのは思い出した。
 酒造メーカーは違うし、所詮コンビニでパック詰めで売られているくらいだから、そんなに上等な酒ではないのだろうが、私は試しに1パック買ってみることにした。
 200mlなら大した量ではない。
 ちょうど、給食の牛乳パック1個分である。

[同日17時00分 天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私とリサはマンションへは帰らず、事務所へ立ち寄ることにした。

 愛原「ピザを予約注文しておいた。リサはLサイズのミートピザでいいな?」
 リサ「ん!」
 愛原「育ち盛りだから沢山食べるのはいいが、今のオマエはそのエネルギーが『鬼の力』に消費されるからな……」
 リサ「お腹空くからね。それに、たまに電撃を放たないと、エネルギーが余って漏電しちゃう」
 愛原「どうするんだ!?」
 リサ「そういう時は、屋上に行くの」
 愛原「屋上?」
 リサ「そう。屋上には避雷針があるから、それに電撃を放つの」
 愛原「なるほど。人工的に落雷させるわけか」
 リサ「そう。そうするとね、結構スッキリするから」
 愛原「ストレス解消か」

 リサは事務所内を掃除してくれた。
 しかし、狭い事務所とはいえ、1人で掃除するのは大変だろう。
 それはリサも思ったらしく……。

 リサ「明日、『魔王軍』のメンバー何人か連れて来て、掃除手伝ってもらう。先生、バイト代よろしく」
 愛原「ああ、分かった。どうせ明日は、高橋も帰って来るしな」
 リサ「でも、お兄ちゃんは病み上がりだし」
 愛原「まあ、そうだな。明日は無理はしないようにさせないと……」

[同日18時00分 天候:曇 同地区内 愛原のマンション]

 事務所を閉めて、私とリサはマンションに帰宅した。

 愛原「風が出てきたな……」
 リサ「今夜は大気の状態が不安定になるんだって」
 愛原「そうなのか」

 じゃあ、雨が降るかもしれないな。
 リサは相変わらず、私と腕を組んでくる。

 愛原「それにしてもリサ、変化前よりもスカートが短くないか?」
 リサ「『魔王軍』のメンバーがそうしてるだけだよ」
 愛原「『魔王様』として止めないのか?」
 リサ「理由が無いから」
 愛原「でも、校則違反じゃないのか?」
 リサ「ここまでギリギリ違反じゃない」
 愛原「そうなのか!」
 リサ「それに……」
 愛原「それに?」
 リサ「ヨドバシから、『この方が愛原先生も喜ばれるよ』って言われたから」
 愛原「おいおいw」

 私はそんな風に見られているのか。
 いや、それとも、オシャレな淀橋さんが私をダシにしているだけか?

 愛原「まあ、俺の口からは何とも言わん。それに、スカートの下はブルマだろ?」
 リサ「見る?」

 リサはスカートの裾を掴むと、少し持ち上げる仕草をした。

 愛原「いや、いいよ!こんな、マンションの外で……」
 リサ「じゃあ、入ったらね」

 玄関から部屋に入ると、リサは一気にスカートを捲り上げた。
 しかし、その下は学校指定の黒いスパッツであった。

 愛原「あれ!?」
 リサ「ははっw、ゴメンねぇ!ガッカリさせちゃって!」
 愛原「い、いや、してないよ!」
 リサ「トイレ掃除の時に濡らしちゃって、それで着替えたの。だから、乾かしておくね」

 リサは鞄の中から、緑色のブルマを取り出した。

 愛原「トイレ掃除で、何で濡らしたの?」
 リサ「アホが1人、ホースの水勢い良く流しやがって、それでブルマが濡れたの」
 愛原「パンツは?」
 リサ「それも濡れたから、生理用のを持って来ておいて良かった」
 愛原「まさか、制裁を……」

 するとリサ、ニヤッと笑った。
 マスクを外しているので、口元から牙が覗く。

 リサ「『老廃物』と『血液』の提供で許してやったよ」

 リサは右の掌から、触手を出して言った。
 変化後も、そこから触手を出す所は変わらない。
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“私立探偵 愛原学” 「次なる調査への準備」

2023-04-22 19:57:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月7日15時29分 天候:晴 東京都港区新橋 JR新橋駅→山手線1562G電車最後尾車内]

〔まもなく6番線を、電車が通過します。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。京浜東北線の快速電車は、当駅には停車致しません。山手線の電車を、ご利用ください〕
〔まもなく5番線に、東京、上野方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、有楽町に、停車します〕

 善場主任との話が終わり、私はJR新橋駅にいた。
 事務所に戻るなら、乗り換え無しなら都営バス。
 時間通りに帰りたければ都営地下鉄、急いでいるならタクシーを使うのがデフォである。
 しかし、私には考えがあった。

〔しんばし~、新橋~。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に、停車します〕

 20代の若い女性車掌に視線を送りつつ、私は空いている最後尾車両に乗り込んだ。
 そして、先代の車両よりも柔らかい座席に腰かけた。
 ホームからは、賑やかな発車メロディが流れてくる。
 東海道本線のホームではゆったりとしたメロディなのに対し、こちらはせわしない感じのメロディだ。

〔5番線の山手線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 京浜東北線の快速電車に追い抜かれ、私を乗せた山手線電車は、京浜東北線の後を追い掛けるように発車した。
 尚、北行きの快速電車の運行は、これで終わり。
 あとは終電まで、各駅停車のみとなる。

〔次は有楽町、有楽町。お出口は、左側です。地下鉄日比谷線と、地下鉄有楽町線はお乗り換えです〕

 私が山手線で向かう先は、秋葉原。
 善場主任から、今度は斉藤玲子の実家を調査するように依頼された。
 そこで今度は、福島県郡山市までの新幹線のキップを購入しようと思ったのである。
 それなら何も、わざわざ秋葉原まで行かなくても、新橋駅にだって“みどりの窓口”や指定席券売機はある。
 それなのに、どうして秋葉原なのか。
 まあ、何となくそんな気がしただけだ。
 何となく、な……。

[同日15時45分 天候:晴 東京都千代田区外神田 JR秋葉原駅]

 因みに実家からの連絡によると、高橋の体調は、37度台まで下がったらしい。
 中途半端に動けることもあり、高橋は何としてでも今日中に帰京したいとのことだったが、36度台まで下がってから帰るようにLINEしておいた。
 昨日が38度台、今日が37度台なら、おとなしく寝ていれば、明日には平熱に下がっているだろう。
 病院からは薬を3日分出されたらしいので、それを飲んでおとなしく寝ているようにと申し伝えておいた。
 それから私は、指定席券売機で新幹線のキップを購入した。
 もちろん、リサや高橋の分も入っている。
 領収書をもらうのも忘れない。
 尚、前回の旅費については、先ほどのデイライトの事務所で清算してもらった。

 リサ「せーんせっ!」

 後ろから肩を叩かれた。

 愛原「リサ……」

 振り向くと、学校の制服姿のリサがいた。

 リサ「先生の匂いがしたから、もしかしたらと思ったら、ここにいたね」

 リサはニッと笑った。
 もっとも、ピンク色のマスクを着けているので、口元から覗いているはずの牙は見えない。

 愛原「学校帰りか?」
 リサ「そ。先生も帰りでしょ?一緒に帰ろうよ?」
 愛原「ああ、そうだな」

 私は券売機からキップとお釣と領収書を手にすると、秋葉原駅をあとにした。

[同日16時12分 天候:晴 東京都千代田区神田岩本町 都営地下鉄岩本町駅→新宿線1512T電車最後尾車内]

 リサ「お待たせー」
 愛原「じゃあ、行こうか」

 私達は都営地下鉄の岩本町駅に移動した。
 電車に乗る前、リサがトイレに寄って行った。
 それから、ホームに下りる。
 尚、この間、リサは私と腕を組んでいた。
 まるで、『パパ活女子』みたいで誤解されるからやめるように言ったのだが、これだけはリサは頑として聞かなかった。

 リサ「お兄ちゃんがいると邪魔されるからね。いない今のうちだけでもいいでしょ?」

 というのがリサの言い分。
 まあ、あまりに固辞し過ぎて機嫌を損ねてしまい、暴走に繋がったら私の責任になるので、好きにさせることにした。
 こういうのもBSAA等に監視されているはずなのだが、特に何も言われないので、まだ許容範囲であるらしい。

〔まもなく4番線に、各駅停車、本八幡行きが、10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 トンネルの向こうから轟音と強風が吹いてくる。
 編成が長いので、電車も勢い良く入線してくるのだ。
 電車がやってくると、リサの肩まで伸ばした髪がゆらゆら揺れ、短くしているスカートもひらひら靡いた。

〔4番線は、各駅停車、本八幡行きです。いわもとちょう、岩本町、秋葉原〕

 私達は最後尾の車両に乗り込んだ。
 他の鉄道会社の秋葉原駅は比較的賑わっているのだが、そこから少し離れたこの駅は、急行電車が通過するということもあり、あまり賑わっている感じはない。
 もちろん、これから夕方ラッシュが始まれば、もう少し賑わうのだろうが。

〔4番線、ドアが閉まります〕

 JR東日本の通勤電車と同じ音色のドアチャイムが鳴り、ドアが閉まる。
 東京都交通局の車両だと、そういう音色である。
 京王線から乗り入れてくる電車のドアチャイムは、JR東海の普通列車と同じ音色である。

〔次は馬喰横山、馬喰横山。都営浅草線、JR総武快速線はお乗り換えです。お出口は、左側です〕

 電車が走り出した。
 私とリサは隣同士で座れる座席が空いていなかったということもあり、ドアの前に立っていた。
 リサはスマホを出して、『魔王軍』メンバーとLINEのやり取りをしているようだ。
 今は角を引っ込め、耳も人間と同じ形に化けており、これだけ見ると、普通の女子高生のようである。
 日本アンブレラは、こういう少年少女を大量生産して、どこかに売るつもりだったらしいが……。
 どうせ、ロクでもない計画だろう。
 ここにいるリサという成功例はできたが、それが大量生産される前に会社が潰れて良かったと思う。
 もっとも、白井伝三郎には、もっと別の目的があったようだが……。
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“私立探偵 愛原学” 「深夜の帰宅と、翌日の仕事」

2023-04-20 17:01:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日23時12分 天候:曇 東京都千代田区丸の内 JR東北新幹線9250B列車1号車内→JR東京駅]

 東北新幹線最速列車“はやぶさ”は、深夜の都心を走行していた。
 車窓にはそんな都心の夜景が広がっている。
 しかしリサはそれを楽しむ余裕は無く、むしろ座席にもたれてウトウトしていた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 深夜帯に入っていることもあり、自動放送による乗換案内は省略されてしまっている。
 実際、もう東海道新幹線は東京駅発の列車は無い。

〔「到着ホーム20番線。お出口は、左側です。JR各在来線にお乗り換えのお客様、最終列車の時間にご注意ください。……」〕

 愛原「リサ、そろそろ降りるぞ」
 リサ「ん……」

 リサは眠い目を擦った。
 窓の外に目をやると、リサの目が変わっている。
 白目が赤黒く、黒目が白の三白眼だ。
 しかしそれは一瞬で、また元の目に戻る。
 牙は戻らないが、角は引っ込めることができる。
 私は網棚に置いた荷物を下ろした。
 降りる準備をしているうちに、列車はホームに進入した。

〔ドアが開きます〕

 停車するとドアチャイムではなく、自動アナウンスが流れてドアが開く。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、お降りください。20番線の電車は、回送電車です。ご乗車にはなれませんので、ご注意ください」〕

 私とリサは、東京駅にホームに降り立った。

 愛原「やっと帰ってきたな」
 リサ「無事に帰れて良かった」
 愛原「そうだな。もう夜も遅いし、タクシーで帰るか」
 リサ「うん」

 リサはマスク越しに大欠伸をした。

 愛原「疲れたな。早く帰って寝よう」
 リサ「うん」

 新幹線改札口を出て、今度は八重洲南口の在来線改札口を出る。
 日曜日の夜ということもあり、そこの高速バス乗り場から出る夜行バスの乗客達が賑わっていた。
 私達はそれを尻目に、タクシー乗り場に向かう。
 そして、タクシー乗り場に止まっていたタクシーに乗り込んだ。

[同日23時45分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 帰宅してからリサには、すぐ寝る準備をさせた。

 リサ「夜、眠くなるだけ、まだ人間に近い感じがしていいね」

 と、リサは言った。
 私がどういうことかと聞くと、

 リサ「だって、完全に人間を辞めてる『鬼』って、昼は外に出られないでしょ?」

 とのことだ。

 リサ「昼に活動できなくなったら、わたしも終わりだよ……」

 そう言いながら、洗面所に向かった。
 私は何とも言えなかった。

 愛原「明日は善場主任の所に報告に行かないとな……」

 午前中は報告書をまとめ、午後、報告に行く予定である。
 もしかしたら、そこでまた新たな仕事の依頼を受けられるかもしれない。

 リサ「先生……」

 リサは丸首Tシャツ型の体操服に、臙脂色のブルマに着替えていた。
 学校指定のものではなく、リサが私の気を引く為に購入したものである。
 ただ、エンジ色のブルマは、来年の絵のモデルの衣装として購入したと聞いている。

 リサ「おやすみ」
 愛原「ああ、寝坊するなよ?」
 リサ「先生も気をつけて」
 愛原「お互いにな」
 リサ「おやすみ」

 リサは自分の部屋に戻って行った。
 私も、そろそろ寝るとしよう。

[11月7日14時00分 天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 翌日の午後になり、私は新橋のデイライト事務所に行き、善場主任を訪ねた。
 元々デイライトという名前は『日光』から取っており、アンブレラを潰す為に設立されたからである。
 アンブレラとは雨傘のことであるが、社是として、『病気の雨から世界の人々を守る傘でありたい』というのがあったが、実際は生物兵器を陰で売り捌く悪の製薬企業であった。
 そこで、『日の光が差すほどの好天であれば、雨傘なんか要らないよね?』というタップリの嫌味が込められている。
 もっとも、そんなデイライトに対し、逮捕された日本法人の五十嵐社長は、『日本の夏はどんなに好天であっても、ゲリラ豪雨が降るのだ!』と、裁判で反論している。

 善場「愛原所長、お疲れ様です。今回もありがとうございました」

 事務所内にある応接会議室に通された私は、そこで善場主任と面会した。

 愛原「恐れ入ります。昨日送った新聞記事のコピーは届きましたでしょうか?」

 私は報告書を提出した。

 善場「はい、拝見しました。あそこで白井の名前が出てくるとは、思いもしませんでした」
 愛原「私もです」

 今まで白井伝三郎の兄2人、伝一郎氏や伝二郎氏にも話を聞きに行ったことはあったが、仙台の家のことは全く出てこなかった。
 2人とも開業医や歯科医師を務める医療従事者であったが、いずれも伝三郎とは疎遠であった為、詳しい話を聞くことができなかった。
 3兄弟で医療三師になるはずが、薬剤師になるはずだった末弟が、まさかのマッドサイエンティストになってしまった為。

 愛原「問題は、どこで桧枝岐村の話が出たかなんですよね……」
 善場「それはまだ、今後の調査ということになりますね」
 愛原「私の予想では、斉藤玲子の実家……福島県郡山市の方で、何か桧枝岐村と繋がるものがあったのではないかと思っております」
 善場「素晴らしい推理です。……私共の方でも、独自に調査してみました」
 愛原「えっ、そうなんですか?」
 善場「もちろん、愛原所長方を信用していないというわけではありませんので、そこは誤解なさらないでください。ただ、私にも微かな記憶がありまして……」
 愛原「えっ?」
 善場「私の祖父もまた、福島県出身でして……。もっとも、桧枝岐村とは何の関係もありません。福島県も広いですしね。祖父はいわき市に住んでいましたから」
 愛原「それは初耳ですね。いわき市というと、福島県沿岸部の町です。震災の被害とかは、大丈夫でしたか?」
 善場「はい。いわき市も広いのですよ。で、祖父の家は内陸の方にありまして……。その……愛原所長は、磐越東線の小川郷駅は御存知ですか?」
 愛原「聞いたことがあります。もちろん、乗り降りしたことはありませんが。磐越東線もまた福島県のJR線では屈指のローカル線で、全線走り通す列車は、1日に数本しか無いような路線ですね」
 善場「さすがは愛原所長です。その祖父なのですが、今から50年ほど前、所用で郡山市に行った帰り、磐越東線の車内で急病を起こしまして……」
 愛原「あらま!」
 善場「所長は御存知かもしれませんが、あの路線は途中に大きな駅はありません」
 愛原「小野新町駅くらいですかねぇ……」

 もっとも、あくまで磐越東線内の途中駅では最も大きい駅というだけだ。
 有人駅で上下線離合の設備があるだけに過ぎない。

 善場「よくドラマとかである『お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか!?』レベルですよ」
 愛原「そんなに!?」
 善場「その時、ちょうど運良く医師が乗り合わせており、その医師が救命措置をしてくれたおかげで助かったそうです」
 愛原「そ、その医師って……?」
 善場「名前は名乗っておりませんでしたが、『中学生くらいの娘を連れていた』と言ってましたから……」
 愛原「うあー……」

 恐らく、上野医師と斉藤玲子だろう。
 まさか、善場主任とも繋がっていたとは……。

 愛原「すると、上野医師と斉藤玲子は、磐越東線経由でいわきに行ったと?」
 善場「もしも若かりし頃の祖父を助けてくれたのがそうだとしたら、そうなります」
 愛原「平泉からだと、常磐線経由の方が早いのに?」
 善場「そう、ですね……。郡山を経由する、何か理由があったのかもしれません」

 やはり、郡山の家を調査する必要がありそうだと思った。
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“私立探偵 愛原学” 「2人の帰京」

2023-04-20 12:57:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日21時15分 天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅→東北新幹線9250B列車1号車内]

 私とリサは夕食後、実家の風呂に入浴させてもらい、それから父親の車で仙台駅まで送ってもらった。

 父親「はい、着いたよ」
 愛原学「うん、ありがとう。高橋のこと、よろしくね」
 父親「ああ。こっちは任せてくれ」
 リサ「お世話になりました」
 学「リサ、フード被れ。角が出てるぞ」
 リサ「おっと」

 夏は帽子、それ以外の季節はパーカーのフードを被って角を隠す。
 但し、髪を長く伸ばして、巻き上げることにより、隠す方法も検討中とのこと。
 私とリサは車から降りると、仙台駅西口に入った。

 愛原学「キップは渡しておくよ。窓側でいいな?」
 リサ「うん。ありがとう」

 エスカレーターでまずは2階へと上がり、それからまたエスカレーターで3階へと上がる。
 それから、在来線改札口にある自動改札機と比べて、一回り大きな新幹線改札口の自動改札機を通過した。

 リサ「車内販売ある?」
 愛原「いや、“はやぶさ”でも、仙台始発だと無いだろうな」
 リサ「それじゃ、ここで買ってく」
 愛原「そうか」

 改札内コンコースにあるNewDaysに立ち寄り、リサは飲み物とお菓子を購入した。
 私もコーヒーを買って、新幹線ホームに向かった。

〔14番線に停車中の電車は、21時38分発、“はやぶさ”250号、東京行きです。この電車は、大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車です。……〕

 先頭の1号車は、車両の形状のせいで定員が少ない。
 反対側の10号車はそこをグランクラスにすることで、売り上げを確保する狙いがあったようだが、さすがに1号車までもがそのようなことはできなかったようだ。
 そこに乗り込んで、指定された2人席に座った。
 進行方向右側である。

〔「ご案内致します。この電車は21時38分発、“はやぶさ”250号、東京行きです。全車両指定席で、自由席はございません。また、仙台を出ますと、次は大宮に止まります。停車駅に、ご注意ください。……」〕

 座席に座ると、リサはテーブルを出して、そこに飲み物やお菓子を置いた。

 愛原「あっ、待って、リサ」
 リサ「ん?」
 愛原「スマホ、充電させてくれ」

 普通車だと、充電コンセントは窓の下にしか無い。
 必然的に窓側席の特権的な位置にある。

 リサ「いいよ」

 私は充電器を出すと、それでリサの足元にあるコンセントに差した。

 リサ「ねえ、先生。こっち見て」
 愛原「何だ?」

 するとリサ、わざと足を開いた。
 黒いスカートの中が、目の前に現れる。
 そこには、白いショーツがあった。
 紺色のブルマを穿いていたはずだが、入浴する時に脱いで、穿かなかったようである。

 愛原「こら、はしたないぞ!」
 リサ「先生になら、いいからね」
 愛原「何でブルマ穿かなかったんだ?」
 リサ「どうせ家に着いたら脱ぐし」
 愛原「大丈夫だろうな?ちゃんと持って来ただろうな?」
 リサ「大丈夫だよ。どうして?」
 愛原「子供の頃、母方の従姉が夏休みとかに遊びに来たことがある。俺よりもズボラな性格で、よくそこら中に脱いだ服をそのままにするもんだから、伯母さんによく怒られてたんだ」
 リサ「ほおほお。それでそれで?」
 愛原「使用済みのパンツやら、ブルマやらね。伯母さんでも回収しきれずに、そのまま帰ってしまったことがある」
 リサ「そして先生は、それをパクッてヌキヌキ……」
 愛原「するかい!……したかったけど」
 リサ「あ、したかったんだw」
 愛原「そろそろ女の子に興味を持つ年頃に、そんなことやられてみー?そういうことだから。オマエも気を付けろよ?今更だけど。何せ東京中央学園は、男女共学だからな」
 リサ「先生の子供の頃の思い出、わたしが再現してあげる!」
 愛原「せんでいい。ちゃんと脱いだ服は片付けるように」

[同日21時34分 天候:晴 JR東北新幹線9250B列車1号車内]

〔14番線から、“はやぶさ”250号、東京行きが発車致します。次は、大宮に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 リサと話をしているうちに、発車の時刻になり、ホームから微かに発車メロディが聞こえてきた。
 地元の管弦楽団『仙台フィルハーモニー』の生演奏を録音したもので、“青葉城恋唄”を発車メロディ用にアレンジしたものである。
 そして、甲高い客扱い終了合図のブザーが響いてきたかと思うと、ドアが閉まる音がする。
 仙台駅にはホームドアが無い為、車両のドアが閉まり切ると、列車が走り出した。
 上り副線ホームに停車していた為、本線に出る為にポイントを渡る。
 その時にガクンと列車が大きく揺れた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“はやぶさ”号、東京行きです。次は、大宮に止まります。……〕

 まだ、仙台市内においてはそんなにスピードは出さない。
 カーブが続くからだろう。
 仙台市内を出て、隣の名取市内に入る頃には加速を始める。

 愛原「あんまり男をからかうんじゃないぞ?」
 リサ「もちろん、先生以外にはこんなことしないよ。それより、もっと先生の昔の思い出聞かせて?」
 愛原「分かった分かった。母方の従姉はズボラなこともあって、あんまり可愛げは無かったんだけど、父方の従姉は逆でね。当時悪ガキだった俺は、イタズラでそんな従姉のスカートめくりをしたことがある」
 リサ「で、何色のパンツ穿いてた?わたしが再現してあげるよ」
 愛原「いや、パンツは見えなかった。何せ、ブルマを穿いてたんだからな」
 リサ「ああ、そう。何色?」
 愛原「緑。母方の従姉は紺色のブルマだったが、父方の従姉は緑のブルマだったよ」
 リサ「緑なら、東京中央学園と同じだね」
 愛原「そうだな」
 リサ「……あ、先生。他の女にはそんなことしちゃダメだよ?浮気と見なして電撃だからね?」
 愛原「今更そんなことするかい!犯罪だっつの!」

 まだ小学生の悪ガキが、身内にやっているから怒られるだけで済むのである。

 愛原「それより、高橋が心配だ」
 リサ「今更ゾンビ化はしないでしょ」
 愛原「そういうことじゃない!」

 熱が上がったりしないかが心配だと言ってるのに……。

 リサ「先生のブルマの思い出は分かった。あとはスク水の思い出とかは?」
 愛原「いや、それは無い。確かに小中学校では旧式スク水だったが、高校では競泳水着だったな。それは東京中央学園も同じだろ?」
 リサ「そうなんだけど、わたしがスク水着たら、『魔王軍』が真似するようになったね」

 体操服が緑なら、学校指定の水着も緑なのだが、通常は競泳水着タイプであった。
 それがリサが、旧型のスク水を着たら……。
 さすがは『魔王様』である。
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“私立探偵 愛原学” 「仙台での調査、終わり」 2

2023-04-18 21:22:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日17時45分 天候:曇 宮城県仙台市若林区某所 愛原家]

 電車は無事に薬師堂駅に到着し、私とリサはそこから徒歩で私の実家へと向かった。

 愛原学「ただいまァ」
 リサ「ただいま戻りました!」

 リサは実家では正体を隠さなかった。
 興奮さえしなければ、目の色が不気味に変わることはない。

 母親「お帰りなさい。色々と回って来たの?」
 学「事件の核心に触れる為には、まだまだ足りないくらいだよ」
 母親「そう。ごはん、もうすぐできるからね」
 リサ「いい匂い……」
 学「母さん、高橋は?」
 母親「奥の客間で寝てるわ。多分、眠ってると思うからね」
 学「ちょっと見てくるよ」

 私は客間に向かった。
 高橋が眠っているからか、客間への廊下の照明は消えているし、客間そのものも消灯している。
 私がそっと覗くと、確かに高橋が眠っていた。
 氷枕の上に頭を乗せていて、頭には冷却シートを貼っている。

 愛原「そうか……」

 私は客間をあとにすると、ダイニングに向かった。

 父親「新型コロナでもなければ、インフルエンザでもない。まあ、38度台で済んでいるし、今日はもちろん、明日まで寝てないとダメな状態だろう」
 学「だよなぁ……」
 父親「とにかく、家で面倒看るから、心配せずに行きなさい」
 学「申し訳ないね」

 その時、キッチンから肉を焼く音が聞こえた。

 リサ「あ!わたしの肉は生でお願いします!」
 母親「ええっ!?」
 学「それじゃステーキじゃねぇ!」
 リサ「何なら先生のお肉もセットでお願いします!」
 学「食う気か!」
 母親「ダメよ。うちではミディアム以上となっているんだから」
 リサ「えー……」
 父親「それだと、学の肉のセットはOKということになってしまうぞ?」
 リサ「ミディアムでいいので、先生のお肉とセットでお願いします!」
 学「こらぁっ!」
 母親「向こうでは、ステーキは生で食べてるの?」
 学「い、いや、そんなことはないよ。ちゃんと焼いて食べてるよ。まあ、リサはレアにしてるけど……」
 リサ「もっと生でもいいのに、先生とお兄ちゃんに阻止される……」
 母親「むしろ、もっと焼くべきなのよ?」

 さすがは人食い鬼。
 まだ、人食い自体は経験したことがないとはいえ……。

[同日19時00分 天候:曇 愛原家]

 父親「リサちゃんは、ちゃんと御行儀良く食べるねぇ」
 学「本当は、もっとがっついて食べるんだけど、俺ん家だから遠慮してるんだよ」

 ステーキ肉なんか、ガツガツ食べるリサだが、今日は上品にステーキナイフで肉を細く切って食べていた。
 そのリサは今、キッチンで母親と一緒に洗い物をしている。

 母親「リサちゃん、お客さんなんだからゆっくりしてていいのに……」
 リサ「いいんです。わたしは、先生のお嫁さんですから」
 母親「冴えない息子を好きになってくれてありがとね」
 学「自分の息子をさりげなくディスってんじゃねぇ!」
 父親「『高橋君みたいな、イケメンの息子ができたら……』」
 学「高橋はまだ20代だぞ!」
 父親「そういうオマエこそ、まだ10代のリサちゃんを誑かせて……。警察の御厄介になっても知らんぞ?」
 学「下手すりゃ警察より上の国連軍の世話になりそうだから、問題ない」
 父親「オマエなぁ……」
 学「ああ見えて、本当は50歳ちょっとのオバハンなんだよ?」
 父親「ウソだぁ……」
 学「母親はうちの母さんより年下だけどね」
 父親「意味が分からん」
 学「あ、そうだ。今から50年くらい前の7月半ば、一本杉町辺りで大きな火事があったのを覚えてる?家が3棟焼ける火事で、住人が何人か焼死した火事」
 父親「今から50年も前のことか……。まあ、そんな火事があったような気がするって感じだな。それがどうかしたのか?」
 学「やっぱり、そんなもんだよなぁ……」
 父親「それより学。オマエ、何時の新幹線で帰るんだ?俺が仙台駅まで、車で送ってやるぞ?」
 学「えっ、いいの?」
 父親「そのつもりで、今日は酒を飲まなかったんだ」
 学「なるほど!俺達が乗るのは、21時38分発の“はやぶさ”250号だよ(※)」

 ※実際には運転されていません。フィクションです。

 父親「なに?随分と遅い新幹線に乗るんだな?」
 学「まあ、調査がいつ終わるか分からなかったから……」
 父親「まあ、しょうがない。因みに、明日は仕事なんだろ?」
 学「そう。リサも学校」
 母親「家に着いたら、早く寝なさいね」
 学「分かってるよ」

 そんな話をしている時だった。

 リサ「!」

 リサの長くて尖った耳がピクッと動く。
 いわゆる、エルフ耳と呼ばれる形状だ。
 鬼形態となっている今、彼女の聴力はとても鋭いものとなっている。

 リサ「何か来る!」
 学「なにっ!?どこからだ!?」
 リサ「向こうから!」

 リサは家の奥を指さした。
 そっちには客間がある。

 リサ「ゾンビが歩くような音……。ゾンビが吐き出す呻き声……」
 学「お、おい!それってまさか……!?」

 高橋がゾンビ化した!?
 今頃!?

 父親「お、おい!?一体、何だというんだ!?」
 学「父さん達は、動かないで!母さん!勝手口の鍵を開けるんだ!」

 私は勝手口に最も近い場所にいる母親に言った。

 母親「ええっ!?」
 学「いざとなったら、そこから逃げるんだ!」

 私は荷物の中から、ショットガンを用意した。

 父親「お、おい!家の中でそんなもの……!」
 リサ「そうだよ、先生!それは危ないよ!わたし1人で十分!」
 学「いや、しかしだな……!」

 そして、廊下向こう……客間の方に通じる廊下側のドアが開けられた。

 高橋「ハァァ……ハァァ……!」
 リサ「お兄ちゃん!わたしが楽にしてあげる!ゾンビの弱点は頭ーっ!」

 だが、高橋の肉体は腐敗もしていないし、そもそもゾンビはドアをぶち破って来るはずで、普通に開けてくるはずがない。

 学「待て、リサ!」
 高橋「だ……誰がゾンビだ……!」
 母親「高橋君、寝てなきゃダメよ!」
 学「高橋、大丈夫なのか!?」
 高橋「さ……サーセン……先生……」
 学「いいから気にせず寝てろ!」
 リサ「わたしのウィルス投与したら、すぐに治るけどね。その代わりに、『鬼』かゾンビになるけど」
 学「いらんっちゅーに!……後で新幹線代を渡しておく。熱が引いたら、それで帰って来い」
 高橋「さ、サーセン……」

 あー、びっくりした。
 急にリサが迎撃態勢に入るものだから、本当に高橋が今頃ゾンビ化したのかと思った。
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