報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「八王子中央ホテル」 3

2021-09-26 20:18:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日20:00.天候:晴 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル]

 愛原:「その画商の詳細は分かりますか?」
 オーナー:「絵を買い取った時の領収証に書いてあったはずです。その領収証は……多分、取ってあると思うのですが……」
 愛原:「是非とも見せてもらいたいのです。『白井画廊』って、白井伝三郎と何か関係はありますか?」
 オーナー:「全く知りません」
 愛原:「その画商、下の名前は?」
 オーナー:「それもちょっと……。まさか、このタイミングで聞かれるとは思いもしなかったので……」

 だが、名前さえ分かれば、あとは何とかなる。
 ネットで調べればヒットするだろう。

 愛原:「一応、白井画廊の方の名刺や領収証が見つかったら、見せてもらえませんか?」
 オーナー:「分かりました」
 愛原:「今週末にまたお邪魔します。その時でよろしいですか?」
 オーナー:「分かりました。その時までに探しておきましょう」
 愛原:「ありがとうございます。因みに、オーナーが最近買った絵ってのは見られませんか?」
 オーナー:「いいですよ。それならお持ちしましょう」
 愛原:「飾ってないんですか?」
 オーナー:「うーん……。私としては押し売りされたようなものですし、何とも不気味な絵なので、飾りたくないんですよ」

 オーナーは困った顔をして言った。

 オーナー:「今、持って来ますので、ちょっとお待ちください」

 オーナーはそう言うと、エレベーターの鍵を取り出した。
 それでインジゲーターの下にある鍵穴に差し込む。
 このホテルは地下室もあって、エレベーターでも行けるようになっているのだが、地下は倉庫や機械室がある関係で、宿泊客は行けないようになっているのだという。
 オーナーはエレベーターに乗って、地下1階まで下りて行った。
 その間、私達はソファに座って待つ。

 高橋:「先生、ここで白井に関する手掛かりが出てきましたね?」
 愛原:「まさか、絵画で繋がるとはな……」
 リサ:「そういえば私、美術部から絵のモデルを頼まれたことがあった」
 絵恋:「ええっ!?」
 高橋:「おい、まさか脱ぐのか?」
 絵恋:「ええっ!?」
 リサ:「そうとは聞いてない。あと、映研部から自主製作映画の出演依頼来た」
 絵恋:「ええっ!?」
 高橋:「ラスボスの役か。適任だな」
 愛原:「さっきから高橋、ちょっとズレてないか?」
 リサ:「脱がないし、役も主人公だから」
 絵恋:「是非観たいです!それと、リサさんの絵、100万円で買った!!」
 愛原:「こういうのが市場価格を吊り上げてしまうのです。皆さん、気を付けましょう」
 絵恋:「欲しいものに関しては、金に糸目をつけないのがセレブってものですわ?欲しかったら、金を用意しなさい」
 高橋:「出た。高飛車御嬢様」
 絵恋:「何よ!?」

 そんなことで盛り上がっていると、エレベーターのドアが開いた。
 そこからオーナーが降りて来る。
 また、閉まる時にブーとブザーが鳴った。
 挟まれ防止の注意喚起とはいえ、こういちいち鳴られては耳障りである為か、平成に入ってからは新規にブザー付きのエレベーターは販売されなくなった。
 代わりにチャイムや音声で知らせるタイプが出回るようなり、現在に至る。

 オーナー:「お待たせしました」

 オーナーは布に包まれた絵を台車に乗せて運んで来た。
 サイズはA1ほどある。
 埃被った布を取ると、それは人物画だった。
 それは少女の絵だが、階段の踊り場や廊下に飾ってあるものとは確かに異色の雰囲気を放っていた。
 そしてその絵を見たリサは、その人物が誰かすぐに分かった。

 リサ:「エブリンだ!」

 真正面にこちらに向かって無邪気な笑顔を見せているが、しかしその笑顔はどこか不気味だった。
 リサもたまにこんな笑顔をすることがある。
 10歳くらいの少女で、ウェーブの掛かったショートヘアー。
 黒いワンピースに黒いブーツを履いていた。

 オーナー:「2017年の作で、正にタイトルは『エブリン』です。御存知でしたか」
 愛原:「御存知も何も……。てか、この絵の作者って誰なんです?」
 オーナー:「日本人画家だと聞きました。タダ同然で引き取ったものです」
 愛原:「作者名も知らないで買ったんですか?いくらタダ同然とはいえ……」
 オーナー:「前のオーナーが生きてらっしゃったら、絶対にこれを買うだろうと言われたんですよ。前のオーナーの供養の為にも、これは絶対に買っておくべきだとまで言われましたね」
 愛原:「凄い営業だ」

 私は呆れた。

 愛原:「そこまで凄い営業をされたのなら、もう少し覚えていらっしゃっても良かったんじゃないですか?」
 オーナー:「仰る通りです。30代後半くらいの男性で、中肉中背、メガネは掛けていない紺色スーツの男性でした」
 愛原:「その人が画廊の社長さん?」
 オーナー:「……とのことです」

 随分若い社長だ。
 白井伝三郎には子供がいないから、別の兄弟の子供だろうか。

 オーナー:「すいませんね。こんなことになるなら、もっと名刺や領収証を大事に保管しておくべきでしたよ」
 愛原:「どちらが見つけやすいですか?」
 オーナー:「五十歩百歩といったところですか。領収書は経費の計算に使いますし、名刺は顧客管理に使いますし……。ただ、白井画廊さんについては、顧客ではないので……」

 むしろ、白井画廊の方がこのオーナーを顧客として扱う側だろう。

 愛原:「分かりました。後でまたお伺いしますので、その時までにお願いします」
 オーナー:「はい、必ず見つけておきます」

 私達はエレベーターに乗り込んだ。
 4階に行く前に3階に寄って、そこの自販機コーナーに向かう。
 寝酒代わりにと、缶ビールとおつまみを買った。
 リサ達はスナックとジュース。

 愛原:「それじゃキミ達、夜更かしするなよ?」
 リサ:「はーい」
 絵恋:「分かりましたー!」

 私は少女達と別れ、高橋と一緒に自室に入った。

 高橋:「先生、もうもう少し布団くっつけていいっスか!?」
 愛原:「アホ。余計なことすんな」
 高橋:「……サーセン」

 私は座卓の上に缶ビールやおつまみを置いて座った。

 愛原:「それより、あのオーナー、どう思う?」
 高橋:「ホントは何か情報知ってんじゃないスかね?でも、隠してるって感じっス」
 愛原:「オマエもそう思うか」
 高橋:「何でしたら、ボコして吐かせますか?」
 愛原:「いや、いい。白井画廊という名前が出て来ただけでも重要な情報だ」

 私は手持ちのノートPCを立ち上げ、LANケーブルを繋いでネットにアクセスした。
 このホテルにはWi-Fiは無いが、一応LANケーブルを繋げばネットが使えるようにはなっている。
 それで白井画廊を検索してみると、全国に何件かヒットとした。
 一番近いところでは、中央区銀座に画廊がある。
 だが、代表者の名前を見ると、どうも違うような気がした。
 30代の男性が白井画廊の社長だとすると、もう少しカジュアルな内容の公式サイトになっているかもしれない。

 愛原:「……ダメだ。分からん」
 高橋:「ダメですか」
 愛原:「どれも怪しいと言えば怪しいし、怪しくないと言えば怪しくない」
 高橋:「そもそもあのオーナーがウソついて、適当な名前を言っただけかもしれないですしね」
 愛原:「そ、そうか」
 高橋:「やっぱりボコして締め上げます?」
 愛原:「いや、いいよ、警察沙汰はマズい。取りあえず、藤野の後でまた寄ってみよう。実は正直な話なんだとしたら、ちゃんと帰りには情報が手に入るということだからな」
 高橋:「はあ……」

 だが、確かに私も高橋の言う事には一理あるとは思った。
 ウソはついていないとは思う。
 ただ、まだオーナーは全てを話したわけではないというのが一番近いのではないだろうか。
 さっき地下の倉庫から持って来たのだって、あれ一枚とは限らない。
 オーナーは数年前に一枚買ったと言っていたが、もしかしたら前のオーナーが既に売買契約を結んでいたものだったのかもしれないし。
 ほら、よくあるだろう。
 有名な画家が新しく絵を書いたら、それをすぐに買いますとかいう話。
 その画家が新しい絵を描き上げるのに、例え数年掛かろうが構わないから他の誰にも売らず、自分に売ってくれというものだ。
 可能性は低いが、しかしそれかもしれないし。

 愛原:「とにかく、このホテルにバイオハザード絡みの絵が飾ってあると分かっただけでも儲けものだと思うね」
 高橋:「そうっスね」

 この時、私はすっかり忘れていた。
 テロリストの存在を……。
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“愛原リサの日常” 「八王子中央ホテル」 2

2021-09-26 15:48:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日19:30.天候:晴 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル]

 愛原:「それじゃ、荷物置いたらまた出て来いよ」
 リサ:「分かった」

 角部屋に愛原と高橋が入り、リサと斉藤絵恋は隣の部屋に入った。
 鍵を開けて中に入ると……。

 リサ:「これは……!」

 ツインのベッドが置かれている部屋かと思ったら違った。
 そこは和室8畳間であった。
 既に布団が2組敷いてある。

 リサ:「和室だ」
 絵恋:「何だか合宿みたいねぇ……」

 絵恋は荷物を入口横のクロゼット前に置くと、布団を移動し始めた。

 リサ:「何してるの?」
 絵恋:「もっとくっつきましょうよ
 リサ:「人食いBOWに自ら近づくサイトーは、本当にもう……」
 絵恋:「萌えへへへ……。ま、まあね」
 リサ:「褒めてない褒めてない。長生きできなくても知らないよ?」
 絵恋:「リサさんに殺されるなら本望ですぅ」
 リサ:「あー、ハイハイ。オリジナルのリサ・トレヴァー先輩も、サイトーからは逃げる他無いだろう」
 絵恋:「あの階段の踊り場にあった絵のこと?」
 リサ:「あれはアンブレラに捕まって実験される前の、本当の人間の姿だ」
 絵恋:「今のリサさんのその姿も、アンブレラに捕まる前の姿なんでしょ?」
 リサ:「……どうかな」
 絵恋:「えっ?」

 何しろ人間だった頃の記憶は殆ど無く、本当に今の第0形態の姿の自分が、イコール人間だった頃の姿そのままなのか自分でも分からないのだ。
 人間だった頃の名前、『上野暢子』を名乗らず、便宜上の名前である『愛原リサ』を名乗り続けているのもそこに理由がある。
 恐らく人間に戻っても、今の名前を使い続けることになるだろう。

 リサ:「それより早く行こう。先生達が待ってる」
 絵恋:「え、ええ」

 いくらヒートアイランド現象からは逃れられている東京都の郊外、八王子市でも熱帯夜は熱帯夜だ。
 冷房は点けたままにしておいた。
 こういう古い建物だと、冷暖房は集中式で、風の強さくらいしか調節できないというイメージだが、このホテルの部屋は家庭用ルームエアコンが設置されていた。

 愛原:「準備はいいか?」
 リサ:「うん」
 愛原:「おっと。ちゃんと鍵は掛けておけよ?オートロックじゃないから」
 リサ:「分かった」

 リサは鍵を掛けた。

 愛原:「リサの部屋の中には、どんな絵が飾ってあった?」
 リサ:「……島の絵?『ザイン島』とかって書いてあった」
 愛原:「『ザイン島』か。恐らく、2011年にロシア領の離島であったバイオハザード事件の舞台になった島だな」
 高橋:「あんまり聞いたこと無いっスね」
 愛原:「日本じゃ、東日本大震災で、てんやわんやだったからな。殆ど報道されなかったさ。日本人が犠牲になったというのなら話は別だろうが、犠牲になったのは島の住民とかだけだし」
 高橋:「なるほど」
 愛原:「よし、行ってみよう」

 リサは愛原達に付いて、ホテル内の廊下や階段、共用トイレ内に飾られた絵を見て回った。
 本当に風景画から静物画から人物画から、サイズもまちまちで飾られている。
 ただ、これらの絵画を調達した前のオーナーというのは、ちゃんとこだわっていたらしい。
 絵の下には、美術館や画廊でそうしているように、全てタイトルと制作年が書かれた札も掲示しているからだ。
 さすがに客室の中に飾ってある絵までは見られないが、少なくとも分かったことはあった。
 まず、飾られている絵全てがバイオハザードに関連したものではないということ。
 そして、最新の絵は2013年までだということ。
 恐らく、前のオーナーと今のオーナーが交替した時期なのではないだろうか。
 今のオーナーは絵画に興味が無いと言っていたので、新たに調達するとは思えない。
 2013年と言えば、アメリカのトールオークス市や東欧某国、そして香港でバイオハザードが起きた年だ。

 高橋:「先生、あれアネゴに似てません?」

 高橋が指さした所には、高野芽衣子と似ている人物が描かれた絵があった。
 上半身の横向きでしか描かれていないが、裸である。
 タイトルを見ると、『カーラ・ラダメス、エイダ・ウォンへ』と書かれていた。
 カーラ・ラダメスとは、2013年に起きたバイオハザード事件の首謀者の1人である。
 ネオ・アンブレラと名乗るテロ組織の女性科学者であったが、中国・香港で死亡したとされている。
 何でも、組織の黒幕に良いように使われていたとか……。

 愛原:「似ているな。そもそもが、高野君がエイダ・ウォンに似ていると思う」
 高橋:「それも、そうっスね」

 因みに制作年毎に展示されているかと言えば、そうでもない。
 前のオーナーとしては何かの法則性を持たせたのかもしれないが、少なくとも私達から見ては、それが何なのか分からないほど無節操な順番で展示されていた。
 しばらくすると、また人物画。

 愛原:「タイトル、『little Miss』か……。『小さいお嬢さん』という意味かな?」
 リサ:「リサ・トレヴァー大先輩のと比べると、もっと幼いね」
 愛原:「12歳……にもなってないか」
 高橋:「あれもバイオハザード絡みっスかね?」
 愛原:「2011年制作とある。あの『ザイン島』と同じだ。もしかしたら、ザイン島の関係者なのかもな」
 リサ:「私も知らないコ」

 そんな感じで愛原達は階段を下りながら、絵を見ていった。
 そして再び1階ロビーまで降りる。

 オーナー:「いかがでしたか?」

 フロントにいるオーナーが話し掛けて来た。
 もちろん、今のオーナーだ。

 愛原:「ああ。前のオーナーさんのこだわりが分かるような気がしますよ。そして、私達にこのホテルを紹介した人の意図もね」

 ただの偶然とは思えない。
 善場は愛原に何かを発見してもらいたくて、このホテルを紹介したのだろう。
 ただ、今のリサにはそれが何なのかは分からなかった。
 少なくとも年季の入った古いホテルで、たまたま前のオーナーが絵画好き、そしてたまたま集めた絵の中にバイオハザード関連の物が多数含まれているだけに過ぎない。

 オーナー:「そうですか。興味を持って頂けましたか。前のオーナーも、きっと喜びますよ」
 愛原:「前のオーナーさんはお元気ですか?」
 オーナー:「いえ、今はもう故人です。それで私がこのホテルを引き継ぐことになったわけですよ」
 愛原:「それは2013年頃の話ですか?」
 オーナー:「2014年ですね。2013年頃から体調を悪くしまして、およそ一年間の闘病生活の後に……といったところです。よく、お分かりですね?」
 愛原:「いえ、見せて頂いた絵の中で、最新の物が2013年になっていましたので。で、今のオーナーであるあなたは絵に興味は無いと仰る。興味の無いオーナーが引き続き絵画を集めるなんてなさらないと思いますので、前のオーナーが現役であった頃は2013年くらいまでかなと思いました」
 オーナー:「凄いですね!まるで刑事さんみたいです」
 高橋:「先生は名探偵だぜ?」
 オーナー:「探偵さんでしたか。お見逸れしました」
 愛原:「とはいうものの、まだ全部の絵は観ていない。本当に最新のものは2013年までなんですか?」
 オーナー:「……と、思いますが。何故ですか?」
 愛原:「いや、画商のことだから、興味の無いオーナーにも絵を売り付けようとしていたんじゃないかと思いましてね」
 オーナー:「さすがは探偵さんです。実はそうなんですよ。2、3回来たんですが、お断りしましたよ。そしたら、さすがにもう来なくなりましたね」
 愛原:「画商が来たのは、前のオーナーが亡くなった直後ですか?」
 オーナー:「そうです。……いや、待てよ。数年前にまた1度、ひょっこり来ましたね。……あー、来た来た!あんまりうるさいものだから、1枚だけ買っておきましたよ。もちろん、だいぶ値切らせてもらいましたがね」
 愛原:「その画商の名前は?」
 オーナー:「『白井画廊』と言いました」
 愛原:「白井だって!?」
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“私立探偵 愛原学” 「八王子中央ホテル」 1

2021-09-23 19:45:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日19:10.天候:晴 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル]

 多くの人が行き交う駅前を出て、場末のような所を行く。

 高橋:「先生、こっちでいいんスか?」
 愛原:「ああ、そうだよ」
 絵恋:「何だか、大宮南銀座の裏通りみたい……」

 しかし、駅前の界隈であることは間違いない。
 すぐ近くにはパチンコ屋もある。
 日曜の朝とかは行列ができそうな感じだ。

 愛原:「ここだ」
 高橋:「ここっスか」

 それは鉄筋コンクリート造りながら、古めかしい外観が特徴のホテルだった。
 昭和時代から営業している老舗であることは明らかであるが……。
 それにしても、外観が昭和のままである。

 愛原:「ホテル名、『八王子中央ホテル』。間違いない」

 私は善場主任から渡された宿泊券と、ホテルの看板を見比べて言った。

 高橋:「またすっごい所見つけて来たもんスね、あの姉ちゃんは」
 愛原:「まあ、宿泊代はNPO法人デイライトさんが出してくれるんだから、文句は言えないさ。それに、ここに泊まることに何か意味があるんだろう」

 そしてその意味は、すぐに知ることになる。

 オーナー:「ようこそ、いらっしゃいませ」

 ホテルの中に入ると、こぢんまりとしたロビーとフロントがあった。
 フロントでは年配のオーナーが出迎えた。
 白髪交じりの髪をオールバックにして、黒いベストに赤い蝶ネクタイをしている。
 周辺が場末っぽい雰囲気のせいか、オーナーがホテルマンというよりもバーテンダーに見えてしまった。
 思わず、『マティーニを』と言いそうになる。

 オーナー:「4名様で御予約の愛原様ですね。どうぞ、こちらに」

 もうすっかり待ち構えていたらしい。
 私は観念した様子でフロントに向かった。

 愛原:「今日、一泊させて頂きます愛原です」
 オーナー:「お待ちしておりました。それでは、こちらに御記入をお願いします」

 私は宿泊券を渡して、宿泊者シートに名前などを書き込んだ。

 高橋:「どうした、リサ?」
 リサ:「あれ……」
 高橋:「あれがどうした?」
 リサ:「…………」

 私が宿泊者シートを書き終えると、オーナーは鍵を2つと朝食券4枚を持って来た。

 オーナー:「ありがとうございます。愛原様、一泊朝食付きプランですので、朝食券をどうぞ」
 愛原:「どうも。で、朝食は……」
 オーナー:「そちらに食堂がございますので、朝7時から9時まで御用意致しております」
 愛原:「分かりました」
 オーナー:「お部屋は4階です。そちらのエレベーターで4階へどうぞ。あと、自販機コーナーは3階にございます。電子レンジは2階にございます」
 愛原:「なるほど。了解です。それじゃ、お世話に……ん?どうした?」

 私が鍵と朝食券を手にフロントを離れようとした。
 エレベーターの横には階段がある。
 リサが2階に上がる途中の踊り場に掛けられた絵画に見入っていた。
 そういえばこのホテル、結構絵画が多く掛けられている。
 風景画だったり静物画だったり人物画だったりと様々だ。
 リサが見入っているのは人物画だった。
 モナ・リザのように椅子に座り、似たようなポーズで微笑を浮かべる少女の絵だった。

 愛原:「その絵がどうした?」
 リサ:「リサ……トレヴァー……大先輩……!」
 愛原:「え!?」

 その少女は10歳~15歳くらい。
 ウェーブの掛かった黒髪をセミロングにして、白いワンピースを着ていた。

 高橋:「……あ、ホントだ。先生、『リサ・トレヴァー』って書いてありますよ?」
 愛原:「なに!?」

 確かに絵画の下には美術館のように、絵のタイトルが書かれた札が貼られていた。
 そこには確かに『リサ・トレヴァー14歳』と書かれていた。
 制作年は1967年とある。
 今から54年も前の作品だ。

 オーナー:「この絵ですか?これは本物ではなく、レプリカです」
 愛原:「この絵はどうされたんですか?」
 オーナー:「前のオーナーが買い付けて掛けたものです。この絵だけじゃなく、他にも館内の至る所に絵画を掛けておりますが、全て前のオーナーの趣味です」
 愛原:「絵が好きだったんですか?」
 オーナー:「それもありますし、まあ、古いホテルですから、時代に取り残された殺風景な雰囲気を払拭したいと思って、色々と買い付けたようです。もっとも、その殆どが有名画家のレプリカだったり、無名画家のものだったりと安い物ばかりです」
 愛原:「他にも、アンブレラと関係した絵が飾られていたりしますか?」
 オーナー:「恐らくは……。申し訳ございませんが、私自身は絵にあまり興味が無いもので……。前のオーナーから譲られた時も、無いよりはマシだと思ってそのままにしてあるんです。実際、中にはお客様のように、絵が目当てで来られるお客様もいらっしゃいますので……」

 そうなのだ。
 このホテルの階段や廊下には、まるで美術館や画廊のように絵が飾られていた。

 愛原:「もしかしたら、他にもアンブレラ関係の絵があるかもしれないな。オーナーさん、他にも絵を見て歩いていいですか?」
 オーナー:「どうぞどうぞ」
 愛原:「因みに、この絵を前のオーナーに売った業者のことは御存知ですか?」
 オーナー:「そう……ですね。私がここの一スタッフだった頃、よく前のオーナーに会いに来ていましたから。その時の名刺とかを探せば分かると思います」
 愛原:「どうかよろしくお願いします」

 まさかこんな所で、アンブレラの影を見るとは思わなかった。

 愛原:「取りあえず、部屋に荷物を置いて来よう」

 私は一旦1階に下りると、古めかしいエレベーターのボタンを押した。
 乗り込んでみると、中も古かった。
 何しろ開閉ボタンが、漢字の『開』『閉』表示なのだから。
 しかもドアが閉まる時に、ブーとブザーが鳴るタイプだった。
 私が子供の頃とかは、こういうエレベーターがあったのは記憶しているが、まさか令和の今になっても現役とは……。
 それを知らない平成生まれのこの3人は、

 リサ:「サイトー、重量オーバー?」
 絵恋:「私、そんなに太ってないもん!」
 高橋:「いや、案外リサだろ。オマエ、飯の食い過ぎだ」
 リサ:「この中では、私が一番小さいよ?」
 高橋:「小さいから軽いとは限らねぇよ」
 愛原:「ただの『ドアが閉まります。ご注意ください』のブザーだよ」
 高橋&絵恋&リサ:「ええっ!?」(;゚Д゚)

 古めかしいエレベーターなので、モーター音が籠内に響いたり、上昇する時や停止する時にガクンと揺れるのも昭和時代の名残である。
 因みにこの籠内にも、絵が飾られていた。
 先ほどの『リサ・トレヴァー14歳』がA0サイズなら、こちらはA3サイズといったところだ。
 山奥に建つ洋館の遠景といった風景画であった。
 タイトルは『オズウェル・E・スペンサー邸遠景』とあった。
 ……どこかで聞いたことのある名前だな……。

 絵恋:「何か、ガクンと揺れるんだけど、このエレベーター、壊れてない?」
 愛原:「大丈夫だよ。昭和時代のエレベーターなんて、こんなものだ」

 4階に着いてドアが開く。
 古めかしい造りの廊下ながら、清掃などは行き届いていて、ゴミ1つ落ちていなかった。
 やはりここの廊下にも絵が飾られているが、こちらはアンブレラと関係があるのかは分からなかった。

 愛原:「えーと……ここだな」

 角部屋とその隣が予約されていた。

 愛原:「後でこのホテルの絵を見てみよう。ついでに3階の自販機コーナーで飲み物も買っておく」
 高橋:「分かりました」

 私はフロントで渡された古い鍵を手に、部屋のドアを開けた。
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“愛原リサの日常” 「通勤特急の旅」

2021-09-23 15:00:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日18:15.天候:晴 東京都新宿区 JR中央線5201M列車9号車内]

 特急“はちおうじ”1号は新宿駅を2分停車して出発した。
 この時点で普通車は満席に近くなったが、グリーン車は半分くらいがようやく埋まったくらいだ。
 これではJRも、グリーン車を定期客にも解放したくなるかもしれない。

〔♪♪♪♪。この電車は、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。【中略】次は、立川です〕

 この後、電車は30分近く停車しない。
 夕方ラッシュたけなわの中、多くの通勤電車が動員されている合間を縫って走るので、特急にしてはそんなに速いスピードでは走らない。
 ウィキペディアによると、特急“はちおうじ”の運転最高速度は時速95キロだという。
 護送船団方式で、周囲の通勤電車に合わせているのだろう。
 中央線内にもちゃんと待避線を備えた駅は存在していて、そこではさすがに先行の通勤電車を追い抜いたりはするだろう。

 リサ:「ちょっとトイレ」
 絵恋:「奇遇ね。私も行きたいと思ったところ」
 リサ:「じゃあサイトー、先に行って来て」
 絵恋:「えーっ!一緒に行きましょうよぉ~!」
 リサ:「……しょうがない」

 駅弁を食べ終わったリサは、その空箱を捨てに行きがてら、トイレに向かった。
 グリーン車のデッキは広く、車掌室の他に休養室を兼ねた多目的室、AEDもあった。
 『防犯カメラ稼働中』とあるので、こんな所にテロリストが潜んでいたらさすがに怪しまれるだろう。
 車掌室もあるし。
 グリーン車のトイレは男女兼用の多目的トイレと、男子用小便器が設置された個室がある。
 その2つに挟まれる形で、洗面所があった。

 絵恋:「早速2人で入りましょ!」
 リサ:「どこの芸能人だ。いいから、サイトー先に入って」
 絵恋:「……私の老廃物、要らない?」
 リサ:「今は要らない」

 自我も知性も知能もしっかり確保されている上級BOWにとって、食欲たる食人衝動は性欲と連動しているような気がする。
 リサはそんな自覚を持つようになっていた。
 絵恋がトイレに入っている間、リサは洗面所に入った。
 高崎線普通列車のグリーン車に乗った時、同じように洗面所の鏡に姿を映してみたら、新型BOWエブリンの影がチラッと見えたような気がしたのだが、さすがにそんなことはなかった。

 男性客A:「……はい、もしもし。あー、どうもお疲れ様です。今、電車の中です」
 リサ:「!?」

 グリーン車の方から、白いワイシャツ姿の男性客がスマホで電話をしながらデッキに出て来た。
 グリーン車の乗客の1人だっただろうか。
 通話をするので、デッキに出て来たようだ。

 リサ:「!」

 それと、10号車の方から別の男性客がやってきて、男子用小便器のある個室へと入って行った。
 この2人は一般客を装った警察関係者だろうか?
 それとも、テロリスト?
 或いは、本当にただの一般客か……。

 絵恋:「お待たせ」

 しばらくすると、絵恋がトイレから出て来た。

 リサ:「私のことは待たなくていいから、先に席に戻って」
 絵恋:「どうしてそんなこと言うの?」
 リサ:「このデッキに男性客が2人いる」
 絵恋:「ひっ……!」

 典型的なLGBTのLで男性嫌悪症の絵恋は絶句するような反応をすると、慌てて自分の席に戻って行った。
 客室に入る所まで見送ってから、リサは自分もトイレに入った。
 もっとも、トイレの中とて安全地帯というわけではない。
 バイオテロなら、自分もさんざんっぱらその手伝いをさせられていたから、その手段については愛原よりも詳しいつもりだ。
 通気口からウィルス垂れ流せば、あっという間に中の人間はゾンビ化するし、クリーチャーの中にはダクトを移動できる種類もある。
 さすがのリサは、ダクトの中を移動することはできないが。
 リサも用を足して、それからトイレの外に出た。

 若頭:「…………」
 リサ:「!!!」

 トイレの外に出ると、愛原と同じアラフォーくらいの強面のスーツ姿の男が立っていた。

 若頭:「失礼。次、利用しても?」
 リサ:「あ、はい。どうぞ」
 若頭:「親分、トイレが空きましたので、どうぞ」
 最高顧問:「スマンのう、お嬢ちゃん。急かしたみたいで……」
 リサ:「いえ……」

 80代ほどの車椅子に乗った老人が、強面の男に押されて中に入った。
 ヨボヨボの老人ではあるが、眼光は鋭い。
 しかしリサに対しては、その鋭い眼光のままニコリと笑った。
 強面の男は、相変わらずいかつい表情のままであったが。

 リサ:(ヤクザさん!?)

 リサは周囲を見渡した。
 いつの間にかデッキには、誰もいない。

 リサ:(警察の人とヤクザの人がいれば、テロリストなんて怖くないよね?)

 だからなのか、列車は何事も無く運行を続けた。

[同日18:54.天候:晴 東京都八王子市 JR八王子駅]

〔♪♪(車内チャイム“鉄道唱歌”)♪♪。まもなく終点、八王子、八王子です。八王子から中央線、高尾、大月方面、横浜線、八高線、相模線はお乗り換えです。【中略】本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、八王子に到着致します。到着ホームは3番線、お出口は左側です。……」〕

 愛原:「何事も無かったな……。本当にテロリストは同乗しているのか?」
 高橋:「サツっぽいのはいる感じですけどねぇ……」
 リサ:(ヤクザさんならいるよ)

 と、リサは言おうとしたがやめた。
 高橋に荷物を降ろしてもらう。
 リサはリュックを背負った。
 列車は速度を落とし、ポイントを通過して副線ホームに入線した。

〔はちおうじ~、八王子~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
〔「3番線に到着の電車は、回送です。ご乗車できませんので、ご注意ください」〕

 リサ達はホームに降り立った。
 都内でも郊外に移動したせいか、それとも日が暮れたせいなのか、乗車した時よりは若干涼しいように思われた。

 リサ:「ここからホテルは近いの?」
 愛原:「ああ、近いよ。付いてきて」

 改札口へ移動すると、リサ達は北口へと向かって行った。
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“私立探偵 愛原学” 「特急はちおうじ1号、再び」

2021-09-21 21:06:26 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日17:55.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅→中央線5201M列車9号車内]

 東京駅構内でトイレ休憩を済ませたり、夕食の駅弁を購入して、中央線のホームに上がった。
 中央線ホームは地上1番線と2番線、つまり一番丸の内寄りにあるホームである。
 で、他の在来線ホームより更に1段高い位置にある。
 これは北陸新幹線用のホームを増設する際、用地確保の為に中央線のホームを移設したことによる。
 元々あった1番線・2番線の更に外側に造ったわけだから、0番線・00番線と番号が下がったり、『中央1番線・中央2番線』なんて新たに名前が付けられることは無く、最初からまた番号を振り直したようである。
 夕方ラッシュたけなわで、引っ切り無しに通勤電車が行き交う中、全席指定の特急がここから出る。
 私達が2度目の乗車となる特急“はちおうじ”号は、かつて“中央ライナー”と呼ばれていた。
 言わば有料の通勤快速のようなもので、大都市近郊区間なら大体運転されているので、中京圏や関西圏の方々にもお馴染みであろう(尚、作者の故郷、仙台では専用の都市近郊区間を割り振られているにも関わらず、ライナーの類は史上1度も運転されたことがない)。

〔まもなく2番線に、当駅始発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この電車は、全車指定席です。グリーン車が付いております。……〕
〔「2番線、ご注意ください。18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きの到着です。12両編成、全ての車両が指定席です。自由席はございませんので、ご注意ください。尚、普通車におきましては、お手持ちの定期券の他、指定席特急券でのご利用が可能です。……」〕

 尚、10月1日からは定期券とプラスしてグリーン券も購入すればグリーン車にも乗れる(9月30日までは、乗車券を買わないとグリーン車には乗れない)。
 神田方向から新型のE353系車両がゆっくりと入線してきた。
 LEDなのかHIDなのか分からないが、真っ白なヘッドライトが眩い。
 確かにグリーン車は、外からでもそれとすぐに分かる。
 普通車がギンギラギンの昼白色照明なのに対し、グリーン車は淡い電球色の色をしているからだ。
 まだ外は明るいが、八王子に着く頃には暗くなっているだろうから、その頃には尚一層際立つだろう。
 あと、そもそも1両しか無いというのも目立つ。

〔「お待たせ致しました。どうぞ、ご乗車ください」〕

 東京駅の中央線ホームには、ホームドアが無い。
 通勤電車に混じってこのような特急電車が運転されたり、あと通勤電車にもグリーン車を連結しようという動きがあるので、車両の規格合わせをしないと設置できないのだろう。
 普通車の方はぞろぞろと乗客が乗り込んで行ったが、グリーン車はガラガラだった。

 リサ:「おー、フカフカー!広々ー!」

 リサは初めて乗る特急のグリーン車に大喜び。
 しかし、何度も乗っているのか、絵恋さんの方は冷めている。

 絵恋:「これでも国内線だとクラスJとかプレミアムシート、国際線だとプレミアムエコノミーといったところかしら」
 高橋:「御嬢様風、吹かせやがって」

 高橋は舌打ちしながら、私の隣に座った。
 長身の高橋には、グリーン車くらいのシートピッチはちょうどいいだろう。
 反対にまだ身長160cm台の私や絵恋さんは、足が余る。
 いわんや150cm台のリサにおいてをや。
 私が進行方向右側の窓側、リサがその後ろ、高橋が私の隣、絵恋さんはその後ろであった。
 テーブルはインアームタイプと、背面タイプがある。
 サイズが大きいのは背面タイプなので、私は前の座席からテーブルを出し、その上に駅弁と飲み物を置いた。
 前回は高野君に窘められながらも缶ビールを飲んだ記憶があるが、さすがに今は飲む気にはなれない。
 ホテルに着いたら、1缶だけ飲もうかと思う。

〔♪♪♪♪。「ご案内致します。この電車は18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。停車駅は新宿、立川、終点八王子の順です。12両編成、全ての車両が指定席です。自由席特急券でのご乗車はできませんので、ご注意ください。……」〕

 愛原:「高橋、荷物置いてやれ」
 高橋:「ハイッ!」

 高橋は絵恋さんのキャリーバッグと、リサのリュックを荷棚に置いてあげた。
 私は自分のボストンバッグは自分で上げる。
 そうしながら、後ろに座るリサ達に聞いた。

 愛原:「駅弁は何を買ったんだ?」
 リサ:「“やまゆり牛しぐれ煮弁当”」
 愛原:「リサはやっぱり肉か」
 リサ:「もちろん」

 リサは大きく頷いた。
 因みに“やまゆり牛”とは、神奈川県のブランド牛のことである。
 神奈川で“やまゆり”というと、あの事件を思い出す人達も多いだろう。
 そう、神奈川県相模原市で起きた『津久井やまゆり園殺傷事件』である。
 津久井とは相模原市になる前の郡名、やまゆりとはブランド牛の名前から取ったのだろうと思う。
 最寄り駅は相模湖駅。
 私達が明日下車する藤野駅の隣の駅である。

 愛原:「絵恋さんは?」
 絵恋:「わ、私は、お魚で……。“まぐろいくら弁当”です」
 高橋:「高ェモン買うなぁ」
 愛原:「お金あるんだから、好きなの買って食べればいいだろう」
 リサ:「先生達は何にしたの?」
 愛原:「俺は“幕の内弁当”だな」
 絵恋:「オーソドックスですね」
 愛原:「当たりハズレの無い物を選ぼうとすると、どうしてもこうなるよな」
 高橋:「無難な線を行かれるとはさすがです!」

 というわけで、高橋も私と同じ物を買った由。
 座席は向かい合わせにはしなかった。
 駅構内や車内で、新型コロナウィルス感染防止の為に、それは控えるよう呼び掛けられていたからだ。
 もちろん、最初から向かい合わせになっているボックスシートはこの限りではない。
 発車の5分前に入線してきて、そんなことをしているうちに発車の時刻が迫って来た。
 ホームからは、発車メロディが微かに聞こえて来る。
 向かい側1番線に停車している通勤電車は、既に満席になっていて、このホームにも次の通勤電車を待つ乗客達が列を作っていた。
 中央線は東京駅で必ず折り返すので、始発の着席狙いである。
 そんな中、必ず座れる特急に乗車でき、尚且つグリーン車は羨望であろうが、しかし、そんな電車で帰らざるを得ないほど遠くに住むのもどうかと思う今日この頃である。
 列車は時刻表通りに発車した。
 今のところ、テロリストらしき影はまだ見当たらない。
コメント (2)
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