報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「事務所に帰る」

2021-09-18 20:21:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日16:03.天候:晴 東京都新宿区 都営地下鉄新宿駅→都営新宿線1638T電車先頭車内]

 善場主任との打ち合わせが終わり、私達は都営地下鉄新宿駅に向かった。
 一応はリサの検査結果が全て出てから再検査を行うことになった。
 それが出るのは明日。
 明後日から早速、再検査をしたいという。
 善場主任達が急ぐのは、来月から東京都だけでなく、首都圏全域に緊急事態宣言が発出されることになるからだ。
 藤野も神奈川県で、当然ながらそこも対象となる。
 その前に済ませておきたいということだった。
 明日にはもう動くことになる。

 愛原:「再び藤野かぁ……」
 高橋:「車用意しなくていいんスかね?」
 愛原:「いいんじゃない?主任、何も言ってなかったし」

 私達は都営地下鉄新宿線のホームに到着した。
 正確に言えば、ここは都営地下鉄が管理しているホームではない。
 ホーム番線が4番線と5番線となっている。
 1番線から3番線は京王線のホームであり、ここは京王新線のホームである。
 その為、ホーム番線が連番となっているのだ。
 実際、ホームや駅名看板の意匠が東京都交通局ではなく、京王電鉄のものとなっている。

〔「5番線、ご注意ください。16時3分発、各駅停車、本八幡行きが到着致します。短い8両編成での到着です。ホームドアから離れてお待ちください」〕

 一本前の急行電車をやり過ごし、次の各駅停車を待つ。
 急行は菊川駅に止まらないからだ。
 また、この各駅停車は当駅始発である。
 先頭車に乗り込むと、座席に腰かけた。
 新しい後期タイプは比較的座面が柔らかいが、前期タイプは硬い。
 これは後者だった。
 8両編成だと概してこれである。

〔この電車は、各駅停車、本八幡行きです〕
〔「16時3分発、各駅停車、本八幡行きです。途中駅での急行電車の待ち合わせはございません。まもなく発車致します」〕

 すぐに発車の時刻になる。
 ホームには甲高い発車ベルが流れた。
 それからドアが閉まる。
 JR東日本の通勤電車みたいなドアチャイムが流れた。
 心なしか、ドアの閉まり方もそれに似ている。
 運転室から発車合図のブザーの音が微かに聞こえると、ハンドル操作のガチャッという音がした。
 床下からエアーが抜ける音がすると、スーッと電車が走り出した。
 その間、リサはずっとスマホを弄っている。
 どうやら、絵恋さんとLINEでもしているようだ。

〔都営新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は各駅停車、本八幡行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔Thank you for using the Toei Shinjuku line.This is a local train bound for Motoyawata.The next station is Shinjuku-sanchome.S02.Please change here for the Marunouchi line and the Fukutoshin line.〕

 愛原:「リサ、絵恋さんとLINEしてるのか?」
 リサ:「ん。サイトー、寂しがりや」
 愛原:「元々寂しがりやさんだったところ、オマエがウィルスに感染させて余計そうしたんだからしょうがないさ。そこはちゃんと責任持たないと」
 リサ:「責任持って……食べる?」
 愛原:「取りあえず、LINEの相手でもしていればいいから。それで、どうなんだ?もしかしたら、一緒に藤野まで行くことになるかもしれないって話、したのか?」
 リサ:「した。そしたら、『絶対私も行く!』って豪語していた」
 愛原:「まだ誘っていないのにか?」
 リサ:「ん。サイトー、私に依存し過ぎ」
 愛原:「そういう風にしたのはオマエだからな。ちゃんと相手してやれ」
 リサ:「分かった」
 愛原:「本当に分かってんのか?先生の仰ることは絶対だぞ?」
 リサ:「分かってるって」
 高橋:「それで先生、この後、どうされますか?」
 愛原:「一旦、事務所に戻るさ。各駅停車の鈍行で帰っても、20分くらいで着くだろう?」
 高橋:「俺、夕食の買い出しに行っていいですか?」
 愛原:「ああ、いいよ。リサにも手伝わせるか?」
 高橋:「いや、俺1人でいいっス。場合によっちゃ、俺の知り合いに手伝わせますんで」
 愛原:「都合のいい時に、ヤンキー軍団呼べるオマエも凄いよ」
 高橋:「でへへへ……」
 愛原:「照れんな!」

[同日18:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 事務所に帰った私は所内で事務作業をしていた。
 斉藤社長からのメールはこちらのPCに届いており、本日の業務が無事に終了したことを確認したので、後ほど報酬を振り込んでくれるという。
 一応、娘さんの件を伝えておいた方が良いと思い、ここからメールを送った。
 送信が完了すると、今度は私のスマホにメールが着信した。
 それは善場主任からで、明日から向かってもらうという。
 その文章を読んだ時、私は藤野の研修センターに前泊するものだと思っていた。
 あれにはあまり良い思い出が無い。
 前泊だと食事が出ない為、自前で用意しなければならないのだ。
 自販機コーナーにはカップ麺やスナック類の自販機があるにはあるが、夕食とするには侘しい。
 ところが、どうやら違うようである。
 かといって、当日入りというわけでもない。
 要は、前泊はするが、直接研修センターではなく、八王子市内のホテルでとのことだ。
 テロ関係者などの目を欺く為だという。
 資料などは翌日に宅配便で事務所に届けるとのこと。
 ということは、翌日の午後以降に動くことになりそうである。

 愛原:「リサ、絵恋さんに明日の午後以降に移動するかもしれないと伝えておいてくれ」
 リサ:「分かった。何泊くらいする?」
 愛原:「そうだな……。さすがの公務員さん達も週末は休みだろう。まあ、2泊3日……長くて3泊4日だと思えばいいんじゃないか。まあ、仮に延長になっても、ホテルや研修所ならコインランドリーもあるから」
 リサ:「分かった」

 リサは自分のスマホを出し、絵恋さんにLINEを送り始めた。
 それにしても、いつもと全く変わらないリサだが、本当に寄生虫がいるのだろうか。
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“私立探偵 愛原学” 「新宿での話」

2021-09-18 15:35:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日14:00.天候:晴 東京都新宿区 JR新宿駅→渋谷区 ホテルサンルートプラザ新宿]

 私達を乗せた埼京線電車は、ダイヤ通りに新宿駅に到着した。
 池袋駅を出た時点で主任にメールを送ってみると、すぐに返信があった。
 新宿駅近くのホテルまで来てほしいという。
 そのホテルにはカフェがあって、そこで話をしたいとのことだ。
 なるほど。
 ホテルのカフェなら静かに話ができるだろう。
 新宿駅の南側、都営地下鉄の乗り場に近い所にホテルはあり、意外と歩かされた。
 それほどまでに新宿駅はデカい所だということだ。

 愛原:「えーと……ここだな」
 高橋:「姉ちゃん、泊まってるんですかね?」
 愛原:「同じ都内で?まあ、テレワークで泊まるとかかな?善場主任のオフィスでは、そういうことってあるのかな」

 そんなことを話しながら指定された場所へ向かう。
 ホテル内にあるレストランだったが、どちらかというと雰囲気はダイニングバーに似ている。
 それがこの時間はカフェタイムで営業しているということか。

 高橋:「何か、高そうっスね」
 愛原:「サンルートホテルって高級ホテルだったっけ?」

 私は首を傾げつつ、1Fにある店舗へと入った。

 善場:「愛原所長、こちらです」

 善場が手を振ってくれた。
 そこは奥まったテーブル席であった。

 善場:「暑い中、御足労ありがとうございます」
 愛原:「いえいえ。仕事の依頼とあらば、酷暑だろうが極寒だろうがお伺いしますよ」
 善場:「恐れ入ります。まずは何か注文してください」
 愛原:「はあ……」
 リサ:「ジュース、ジュース」
 高橋:「先生や姉ちゃんより高いモン頼むんじゃねぇぞ?」

 私達が飲み物を注文すると、善場主任が口を開いた。

 善場:「北与野駅にいらっしゃったということは、斉藤社長の関係ということですか」
 愛原:「娘さんが退院されたのですが、今日は平日で社長がお迎えに行けません。そこで、私に依頼があったというわけです」
 善場:「そういうことでしたか。御令嬢、絵恋さんですね。具合の方は如何でしたか?あのテロリストの射殺体が発見されたということで、相当なショックを受けられたようですが……」
 愛原:「普段は落ち着いていますが、それを確保する為にリサへの依存度が高くなったような気がします。『常にリサと一緒じゃなきゃ嫌だ』ってな感じで、社長宅を失礼する時も、なかなか放してくれなかったんですよ」
 高橋:「あの喰い付きっぷりは何かのクリーチャーだぜ、クリーチャー」
 善場:「ええ。恐らくクリーチャーでしょうね」
 高橋:「お?姉ちゃんも分かるのか?あのレズガキ、相当ヤバいと思ったんだよ~」

 高橋が1人、ウンウンと何度も頷いて納得している。
 だが私は、主任が真顔でいることに気づいた。

 愛原:「絵恋さんがクリーチャー化しているというのは本当なんですね?」
 善場:「直接見ていないので何とも言えないのですが、兆候としてはあるかと」
 高橋:「え?え?え?どういうことだ?」
 愛原:「『絵恋さんがクリーチャー化している』というのはガチバナだってよ」
 高橋:「えぇっ?だって見た目は普通の人間でしたよ?」
 善場:「高橋助手。最近の上級BOWは、配下のクリーチャーを作るのに、見た目は人間のままというパターンもあるのですよ」
 高橋:「オメ、何やったんだよっ!?」
 リサ:「何もしてない……つもり」

 リサにとっては無意識の行動だったというわけだ。

 愛原:「主任が以前に仰った、『絵恋さんはリサから高濃度のTウィルスを注入されている』というものですね」
 善場:「そうです。詳しくは彼女も検査しないと分かりませんが、恐らくGウィルスとの混合でしょう。Tウィルス単体では、リサの意思で活性化や不活性化の操作ができないでしょうから」

 Gウィルス感染者の精神的特徴として、親子のような関係が構築されるというものがある。
 つまり、大元のGウィルスを持ったリサが『親』で、そこから胚を注入された絵恋さんは『子』ということになる。
 あくまでも比喩的表現なので、本当の親子関係というわけではない。
 日本の暴力団や海外マフィアの組織構造が『親子関係』に例えられるのと同じ。
 子分(組員)が親分(組長)を『親父』と呼ぶ、あの関係である。
 なので今の絵恋さんは、まるで幼子が『母親』であるリサに付き従うようなものなのだ。

 愛原:「ど、どうします?ワクチンなんて……」
 善場:「ありますよ」
 愛原:「あるんですか!」

 そんなことを話していると、私達が注文した飲み物が届いた。

 善場:「それを踏まえた上で、本題に入ります。リサの再検査の話ですね」
 愛原:「リサのどんな数値がヤバかったんですか?」
 善場:「体内に保有しているウィルスそのものは、こちらの想定通りです。確かに今だにリサには暴走の危険性は残っていますし、そのウィルスも取り扱いを誤ると大変なことになります。ですが、まだこちらの想定内なのです」
 高橋:「じゃあ、何が悪いんだよ?」
 善場:「ウィルス以外の物が見つかったということです」
 愛原:「ウィルス以外の物?」
 善場:「そうです。一言で言えば寄生虫ですね。それも、ただの寄生虫ではありません。ただの寄生虫がリサの体内に入ったことにより、体内のウィルスに感染し、特殊な寄生虫に変化を遂げたものといったところです」
 愛原:「でもリサは何とも無さそうですが……」
 善場:「リサのウィルスに感染したことで、その寄生虫はリサのペットですよ。問題はそれすらリサの使役通りに動いて悪さをするということです。そうよね?」
 リサ:「バレたか……」
 善場:「寄生虫じゃないけど、それと似たような事例が海外であったからね。『プラーガ』っていうんですけど……」
 愛原:「『プラーガ』?以前、資料で見たことがありますね。それまでのクリーチャーがゾンビウィルス絡みで発生していたものが、今度は寄生虫と言うか、寄生獣?みたいなものに支配されて発生したものじゃなかったでしたっけ?」

 ゾンビウィルスによるゾンビが本当に見た目がゾンビなのに対し、プラーガに寄生された者は一見して普通の人間と見た目は変わらない。
 しかしリサが新たに持った寄生虫は、そんなプラーガともまた違う存在なのだそうだ。

 善場:「これは新たな生物兵器になるかもしれません。けして、この事は内密にお願いします」
 愛原:「分かってますよ」

 そもそもリサがBOWであるということ自体、秘密なものだろう。
 学園関係者の一部に対しては、公然の秘密になっているようだが。

 愛原:「それで、再検査はどうします?絵恋さんも連れて行った方がいいですよね」
 善場:「はい、お願いします。それでは今後の詳細なのですが……」
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