報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「八王子中央ホテル」 1

2021-09-23 19:45:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日19:10.天候:晴 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル]

 多くの人が行き交う駅前を出て、場末のような所を行く。

 高橋:「先生、こっちでいいんスか?」
 愛原:「ああ、そうだよ」
 絵恋:「何だか、大宮南銀座の裏通りみたい……」

 しかし、駅前の界隈であることは間違いない。
 すぐ近くにはパチンコ屋もある。
 日曜の朝とかは行列ができそうな感じだ。

 愛原:「ここだ」
 高橋:「ここっスか」

 それは鉄筋コンクリート造りながら、古めかしい外観が特徴のホテルだった。
 昭和時代から営業している老舗であることは明らかであるが……。
 それにしても、外観が昭和のままである。

 愛原:「ホテル名、『八王子中央ホテル』。間違いない」

 私は善場主任から渡された宿泊券と、ホテルの看板を見比べて言った。

 高橋:「またすっごい所見つけて来たもんスね、あの姉ちゃんは」
 愛原:「まあ、宿泊代はNPO法人デイライトさんが出してくれるんだから、文句は言えないさ。それに、ここに泊まることに何か意味があるんだろう」

 そしてその意味は、すぐに知ることになる。

 オーナー:「ようこそ、いらっしゃいませ」

 ホテルの中に入ると、こぢんまりとしたロビーとフロントがあった。
 フロントでは年配のオーナーが出迎えた。
 白髪交じりの髪をオールバックにして、黒いベストに赤い蝶ネクタイをしている。
 周辺が場末っぽい雰囲気のせいか、オーナーがホテルマンというよりもバーテンダーに見えてしまった。
 思わず、『マティーニを』と言いそうになる。

 オーナー:「4名様で御予約の愛原様ですね。どうぞ、こちらに」

 もうすっかり待ち構えていたらしい。
 私は観念した様子でフロントに向かった。

 愛原:「今日、一泊させて頂きます愛原です」
 オーナー:「お待ちしておりました。それでは、こちらに御記入をお願いします」

 私は宿泊券を渡して、宿泊者シートに名前などを書き込んだ。

 高橋:「どうした、リサ?」
 リサ:「あれ……」
 高橋:「あれがどうした?」
 リサ:「…………」

 私が宿泊者シートを書き終えると、オーナーは鍵を2つと朝食券4枚を持って来た。

 オーナー:「ありがとうございます。愛原様、一泊朝食付きプランですので、朝食券をどうぞ」
 愛原:「どうも。で、朝食は……」
 オーナー:「そちらに食堂がございますので、朝7時から9時まで御用意致しております」
 愛原:「分かりました」
 オーナー:「お部屋は4階です。そちらのエレベーターで4階へどうぞ。あと、自販機コーナーは3階にございます。電子レンジは2階にございます」
 愛原:「なるほど。了解です。それじゃ、お世話に……ん?どうした?」

 私が鍵と朝食券を手にフロントを離れようとした。
 エレベーターの横には階段がある。
 リサが2階に上がる途中の踊り場に掛けられた絵画に見入っていた。
 そういえばこのホテル、結構絵画が多く掛けられている。
 風景画だったり静物画だったり人物画だったりと様々だ。
 リサが見入っているのは人物画だった。
 モナ・リザのように椅子に座り、似たようなポーズで微笑を浮かべる少女の絵だった。

 愛原:「その絵がどうした?」
 リサ:「リサ……トレヴァー……大先輩……!」
 愛原:「え!?」

 その少女は10歳~15歳くらい。
 ウェーブの掛かった黒髪をセミロングにして、白いワンピースを着ていた。

 高橋:「……あ、ホントだ。先生、『リサ・トレヴァー』って書いてありますよ?」
 愛原:「なに!?」

 確かに絵画の下には美術館のように、絵のタイトルが書かれた札が貼られていた。
 そこには確かに『リサ・トレヴァー14歳』と書かれていた。
 制作年は1967年とある。
 今から54年も前の作品だ。

 オーナー:「この絵ですか?これは本物ではなく、レプリカです」
 愛原:「この絵はどうされたんですか?」
 オーナー:「前のオーナーが買い付けて掛けたものです。この絵だけじゃなく、他にも館内の至る所に絵画を掛けておりますが、全て前のオーナーの趣味です」
 愛原:「絵が好きだったんですか?」
 オーナー:「それもありますし、まあ、古いホテルですから、時代に取り残された殺風景な雰囲気を払拭したいと思って、色々と買い付けたようです。もっとも、その殆どが有名画家のレプリカだったり、無名画家のものだったりと安い物ばかりです」
 愛原:「他にも、アンブレラと関係した絵が飾られていたりしますか?」
 オーナー:「恐らくは……。申し訳ございませんが、私自身は絵にあまり興味が無いもので……。前のオーナーから譲られた時も、無いよりはマシだと思ってそのままにしてあるんです。実際、中にはお客様のように、絵が目当てで来られるお客様もいらっしゃいますので……」

 そうなのだ。
 このホテルの階段や廊下には、まるで美術館や画廊のように絵が飾られていた。

 愛原:「もしかしたら、他にもアンブレラ関係の絵があるかもしれないな。オーナーさん、他にも絵を見て歩いていいですか?」
 オーナー:「どうぞどうぞ」
 愛原:「因みに、この絵を前のオーナーに売った業者のことは御存知ですか?」
 オーナー:「そう……ですね。私がここの一スタッフだった頃、よく前のオーナーに会いに来ていましたから。その時の名刺とかを探せば分かると思います」
 愛原:「どうかよろしくお願いします」

 まさかこんな所で、アンブレラの影を見るとは思わなかった。

 愛原:「取りあえず、部屋に荷物を置いて来よう」

 私は一旦1階に下りると、古めかしいエレベーターのボタンを押した。
 乗り込んでみると、中も古かった。
 何しろ開閉ボタンが、漢字の『開』『閉』表示なのだから。
 しかもドアが閉まる時に、ブーとブザーが鳴るタイプだった。
 私が子供の頃とかは、こういうエレベーターがあったのは記憶しているが、まさか令和の今になっても現役とは……。
 それを知らない平成生まれのこの3人は、

 リサ:「サイトー、重量オーバー?」
 絵恋:「私、そんなに太ってないもん!」
 高橋:「いや、案外リサだろ。オマエ、飯の食い過ぎだ」
 リサ:「この中では、私が一番小さいよ?」
 高橋:「小さいから軽いとは限らねぇよ」
 愛原:「ただの『ドアが閉まります。ご注意ください』のブザーだよ」
 高橋&絵恋&リサ:「ええっ!?」(;゚Д゚)

 古めかしいエレベーターなので、モーター音が籠内に響いたり、上昇する時や停止する時にガクンと揺れるのも昭和時代の名残である。
 因みにこの籠内にも、絵が飾られていた。
 先ほどの『リサ・トレヴァー14歳』がA0サイズなら、こちらはA3サイズといったところだ。
 山奥に建つ洋館の遠景といった風景画であった。
 タイトルは『オズウェル・E・スペンサー邸遠景』とあった。
 ……どこかで聞いたことのある名前だな……。

 絵恋:「何か、ガクンと揺れるんだけど、このエレベーター、壊れてない?」
 愛原:「大丈夫だよ。昭和時代のエレベーターなんて、こんなものだ」

 4階に着いてドアが開く。
 古めかしい造りの廊下ながら、清掃などは行き届いていて、ゴミ1つ落ちていなかった。
 やはりここの廊下にも絵が飾られているが、こちらはアンブレラと関係があるのかは分からなかった。

 愛原:「えーと……ここだな」

 角部屋とその隣が予約されていた。

 愛原:「後でこのホテルの絵を見てみよう。ついでに3階の自販機コーナーで飲み物も買っておく」
 高橋:「分かりました」

 私はフロントで渡された古い鍵を手に、部屋のドアを開けた。
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“愛原リサの日常” 「通勤特急の旅」

2021-09-23 15:00:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日18:15.天候:晴 東京都新宿区 JR中央線5201M列車9号車内]

 特急“はちおうじ”1号は新宿駅を2分停車して出発した。
 この時点で普通車は満席に近くなったが、グリーン車は半分くらいがようやく埋まったくらいだ。
 これではJRも、グリーン車を定期客にも解放したくなるかもしれない。

〔♪♪♪♪。この電車は、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。【中略】次は、立川です〕

 この後、電車は30分近く停車しない。
 夕方ラッシュたけなわの中、多くの通勤電車が動員されている合間を縫って走るので、特急にしてはそんなに速いスピードでは走らない。
 ウィキペディアによると、特急“はちおうじ”の運転最高速度は時速95キロだという。
 護送船団方式で、周囲の通勤電車に合わせているのだろう。
 中央線内にもちゃんと待避線を備えた駅は存在していて、そこではさすがに先行の通勤電車を追い抜いたりはするだろう。

 リサ:「ちょっとトイレ」
 絵恋:「奇遇ね。私も行きたいと思ったところ」
 リサ:「じゃあサイトー、先に行って来て」
 絵恋:「えーっ!一緒に行きましょうよぉ~!」
 リサ:「……しょうがない」

 駅弁を食べ終わったリサは、その空箱を捨てに行きがてら、トイレに向かった。
 グリーン車のデッキは広く、車掌室の他に休養室を兼ねた多目的室、AEDもあった。
 『防犯カメラ稼働中』とあるので、こんな所にテロリストが潜んでいたらさすがに怪しまれるだろう。
 車掌室もあるし。
 グリーン車のトイレは男女兼用の多目的トイレと、男子用小便器が設置された個室がある。
 その2つに挟まれる形で、洗面所があった。

 絵恋:「早速2人で入りましょ!」
 リサ:「どこの芸能人だ。いいから、サイトー先に入って」
 絵恋:「……私の老廃物、要らない?」
 リサ:「今は要らない」

 自我も知性も知能もしっかり確保されている上級BOWにとって、食欲たる食人衝動は性欲と連動しているような気がする。
 リサはそんな自覚を持つようになっていた。
 絵恋がトイレに入っている間、リサは洗面所に入った。
 高崎線普通列車のグリーン車に乗った時、同じように洗面所の鏡に姿を映してみたら、新型BOWエブリンの影がチラッと見えたような気がしたのだが、さすがにそんなことはなかった。

 男性客A:「……はい、もしもし。あー、どうもお疲れ様です。今、電車の中です」
 リサ:「!?」

 グリーン車の方から、白いワイシャツ姿の男性客がスマホで電話をしながらデッキに出て来た。
 グリーン車の乗客の1人だっただろうか。
 通話をするので、デッキに出て来たようだ。

 リサ:「!」

 それと、10号車の方から別の男性客がやってきて、男子用小便器のある個室へと入って行った。
 この2人は一般客を装った警察関係者だろうか?
 それとも、テロリスト?
 或いは、本当にただの一般客か……。

 絵恋:「お待たせ」

 しばらくすると、絵恋がトイレから出て来た。

 リサ:「私のことは待たなくていいから、先に席に戻って」
 絵恋:「どうしてそんなこと言うの?」
 リサ:「このデッキに男性客が2人いる」
 絵恋:「ひっ……!」

 典型的なLGBTのLで男性嫌悪症の絵恋は絶句するような反応をすると、慌てて自分の席に戻って行った。
 客室に入る所まで見送ってから、リサは自分もトイレに入った。
 もっとも、トイレの中とて安全地帯というわけではない。
 バイオテロなら、自分もさんざんっぱらその手伝いをさせられていたから、その手段については愛原よりも詳しいつもりだ。
 通気口からウィルス垂れ流せば、あっという間に中の人間はゾンビ化するし、クリーチャーの中にはダクトを移動できる種類もある。
 さすがのリサは、ダクトの中を移動することはできないが。
 リサも用を足して、それからトイレの外に出た。

 若頭:「…………」
 リサ:「!!!」

 トイレの外に出ると、愛原と同じアラフォーくらいの強面のスーツ姿の男が立っていた。

 若頭:「失礼。次、利用しても?」
 リサ:「あ、はい。どうぞ」
 若頭:「親分、トイレが空きましたので、どうぞ」
 最高顧問:「スマンのう、お嬢ちゃん。急かしたみたいで……」
 リサ:「いえ……」

 80代ほどの車椅子に乗った老人が、強面の男に押されて中に入った。
 ヨボヨボの老人ではあるが、眼光は鋭い。
 しかしリサに対しては、その鋭い眼光のままニコリと笑った。
 強面の男は、相変わらずいかつい表情のままであったが。

 リサ:(ヤクザさん!?)

 リサは周囲を見渡した。
 いつの間にかデッキには、誰もいない。

 リサ:(警察の人とヤクザの人がいれば、テロリストなんて怖くないよね?)

 だからなのか、列車は何事も無く運行を続けた。

[同日18:54.天候:晴 東京都八王子市 JR八王子駅]

〔♪♪(車内チャイム“鉄道唱歌”)♪♪。まもなく終点、八王子、八王子です。八王子から中央線、高尾、大月方面、横浜線、八高線、相模線はお乗り換えです。【中略】本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、八王子に到着致します。到着ホームは3番線、お出口は左側です。……」〕

 愛原:「何事も無かったな……。本当にテロリストは同乗しているのか?」
 高橋:「サツっぽいのはいる感じですけどねぇ……」
 リサ:(ヤクザさんならいるよ)

 と、リサは言おうとしたがやめた。
 高橋に荷物を降ろしてもらう。
 リサはリュックを背負った。
 列車は速度を落とし、ポイントを通過して副線ホームに入線した。

〔はちおうじ~、八王子~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
〔「3番線に到着の電車は、回送です。ご乗車できませんので、ご注意ください」〕

 リサ達はホームに降り立った。
 都内でも郊外に移動したせいか、それとも日が暮れたせいなのか、乗車した時よりは若干涼しいように思われた。

 リサ:「ここからホテルは近いの?」
 愛原:「ああ、近いよ。付いてきて」

 改札口へ移動すると、リサ達は北口へと向かって行った。
コメント (1)
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