[7月28日19:10.天候:晴 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル]
多くの人が行き交う駅前を出て、場末のような所を行く。
高橋:「先生、こっちでいいんスか?」
愛原:「ああ、そうだよ」
絵恋:「何だか、大宮南銀座の裏通りみたい……」
しかし、駅前の界隈であることは間違いない。
すぐ近くにはパチンコ屋もある。
日曜の朝とかは行列ができそうな感じだ。
愛原:「ここだ」
高橋:「ここっスか」
それは鉄筋コンクリート造りながら、古めかしい外観が特徴のホテルだった。
昭和時代から営業している老舗であることは明らかであるが……。
それにしても、外観が昭和のままである。
愛原:「ホテル名、『八王子中央ホテル』。間違いない」
私は善場主任から渡された宿泊券と、ホテルの看板を見比べて言った。
高橋:「またすっごい所見つけて来たもんスね、あの姉ちゃんは」
愛原:「まあ、宿泊代はNPO法人デイライトさんが出してくれるんだから、文句は言えないさ。それに、ここに泊まることに何か意味があるんだろう」
そしてその意味は、すぐに知ることになる。
オーナー:「ようこそ、いらっしゃいませ」
ホテルの中に入ると、こぢんまりとしたロビーとフロントがあった。
フロントでは年配のオーナーが出迎えた。
白髪交じりの髪をオールバックにして、黒いベストに赤い蝶ネクタイをしている。
周辺が場末っぽい雰囲気のせいか、オーナーがホテルマンというよりもバーテンダーに見えてしまった。
思わず、『マティーニを』と言いそうになる。
オーナー:「4名様で御予約の愛原様ですね。どうぞ、こちらに」
もうすっかり待ち構えていたらしい。
私は観念した様子でフロントに向かった。
愛原:「今日、一泊させて頂きます愛原です」
オーナー:「お待ちしておりました。それでは、こちらに御記入をお願いします」
私は宿泊券を渡して、宿泊者シートに名前などを書き込んだ。
高橋:「どうした、リサ?」
リサ:「あれ……」
高橋:「あれがどうした?」
リサ:「…………」
私が宿泊者シートを書き終えると、オーナーは鍵を2つと朝食券4枚を持って来た。
オーナー:「ありがとうございます。愛原様、一泊朝食付きプランですので、朝食券をどうぞ」
愛原:「どうも。で、朝食は……」
オーナー:「そちらに食堂がございますので、朝7時から9時まで御用意致しております」
愛原:「分かりました」
オーナー:「お部屋は4階です。そちらのエレベーターで4階へどうぞ。あと、自販機コーナーは3階にございます。電子レンジは2階にございます」
愛原:「なるほど。了解です。それじゃ、お世話に……ん?どうした?」
私が鍵と朝食券を手にフロントを離れようとした。
エレベーターの横には階段がある。
リサが2階に上がる途中の踊り場に掛けられた絵画に見入っていた。
そういえばこのホテル、結構絵画が多く掛けられている。
風景画だったり静物画だったり人物画だったりと様々だ。
リサが見入っているのは人物画だった。
モナ・リザのように椅子に座り、似たようなポーズで微笑を浮かべる少女の絵だった。
愛原:「その絵がどうした?」
リサ:「リサ……トレヴァー……大先輩……!」
愛原:「え!?」
その少女は10歳~15歳くらい。
ウェーブの掛かった黒髪をセミロングにして、白いワンピースを着ていた。
高橋:「……あ、ホントだ。先生、『リサ・トレヴァー』って書いてありますよ?」
愛原:「なに!?」
確かに絵画の下には美術館のように、絵のタイトルが書かれた札が貼られていた。
そこには確かに『リサ・トレヴァー14歳』と書かれていた。
制作年は1967年とある。
今から54年も前の作品だ。
オーナー:「この絵ですか?これは本物ではなく、レプリカです」
愛原:「この絵はどうされたんですか?」
オーナー:「前のオーナーが買い付けて掛けたものです。この絵だけじゃなく、他にも館内の至る所に絵画を掛けておりますが、全て前のオーナーの趣味です」
愛原:「絵が好きだったんですか?」
オーナー:「それもありますし、まあ、古いホテルですから、時代に取り残された殺風景な雰囲気を払拭したいと思って、色々と買い付けたようです。もっとも、その殆どが有名画家のレプリカだったり、無名画家のものだったりと安い物ばかりです」
愛原:「他にも、アンブレラと関係した絵が飾られていたりしますか?」
オーナー:「恐らくは……。申し訳ございませんが、私自身は絵にあまり興味が無いもので……。前のオーナーから譲られた時も、無いよりはマシだと思ってそのままにしてあるんです。実際、中にはお客様のように、絵が目当てで来られるお客様もいらっしゃいますので……」
そうなのだ。
このホテルの階段や廊下には、まるで美術館や画廊のように絵が飾られていた。
愛原:「もしかしたら、他にもアンブレラ関係の絵があるかもしれないな。オーナーさん、他にも絵を見て歩いていいですか?」
オーナー:「どうぞどうぞ」
愛原:「因みに、この絵を前のオーナーに売った業者のことは御存知ですか?」
オーナー:「そう……ですね。私がここの一スタッフだった頃、よく前のオーナーに会いに来ていましたから。その時の名刺とかを探せば分かると思います」
愛原:「どうかよろしくお願いします」
まさかこんな所で、アンブレラの影を見るとは思わなかった。
愛原:「取りあえず、部屋に荷物を置いて来よう」
私は一旦1階に下りると、古めかしいエレベーターのボタンを押した。
乗り込んでみると、中も古かった。
何しろ開閉ボタンが、漢字の『開』『閉』表示なのだから。
しかもドアが閉まる時に、ブーとブザーが鳴るタイプだった。
私が子供の頃とかは、こういうエレベーターがあったのは記憶しているが、まさか令和の今になっても現役とは……。
それを知らない平成生まれのこの3人は、
リサ:「サイトー、重量オーバー?」
絵恋:「私、そんなに太ってないもん!」
高橋:「いや、案外リサだろ。オマエ、飯の食い過ぎだ」
リサ:「この中では、私が一番小さいよ?」
高橋:「小さいから軽いとは限らねぇよ」
愛原:「ただの『ドアが閉まります。ご注意ください』のブザーだよ」
高橋&絵恋&リサ:「ええっ!?」(;゚Д゚)
古めかしいエレベーターなので、モーター音が籠内に響いたり、上昇する時や停止する時にガクンと揺れるのも昭和時代の名残である。
因みにこの籠内にも、絵が飾られていた。
先ほどの『リサ・トレヴァー14歳』がA0サイズなら、こちらはA3サイズといったところだ。
山奥に建つ洋館の遠景といった風景画であった。
タイトルは『オズウェル・E・スペンサー邸遠景』とあった。
……どこかで聞いたことのある名前だな……。
絵恋:「何か、ガクンと揺れるんだけど、このエレベーター、壊れてない?」
愛原:「大丈夫だよ。昭和時代のエレベーターなんて、こんなものだ」
4階に着いてドアが開く。
古めかしい造りの廊下ながら、清掃などは行き届いていて、ゴミ1つ落ちていなかった。
やはりここの廊下にも絵が飾られているが、こちらはアンブレラと関係があるのかは分からなかった。
愛原:「えーと……ここだな」
角部屋とその隣が予約されていた。
愛原:「後でこのホテルの絵を見てみよう。ついでに3階の自販機コーナーで飲み物も買っておく」
高橋:「分かりました」
私はフロントで渡された古い鍵を手に、部屋のドアを開けた。
多くの人が行き交う駅前を出て、場末のような所を行く。
高橋:「先生、こっちでいいんスか?」
愛原:「ああ、そうだよ」
絵恋:「何だか、大宮南銀座の裏通りみたい……」
しかし、駅前の界隈であることは間違いない。
すぐ近くにはパチンコ屋もある。
日曜の朝とかは行列ができそうな感じだ。
愛原:「ここだ」
高橋:「ここっスか」
それは鉄筋コンクリート造りながら、古めかしい外観が特徴のホテルだった。
昭和時代から営業している老舗であることは明らかであるが……。
それにしても、外観が昭和のままである。
愛原:「ホテル名、『八王子中央ホテル』。間違いない」
私は善場主任から渡された宿泊券と、ホテルの看板を見比べて言った。
高橋:「またすっごい所見つけて来たもんスね、あの姉ちゃんは」
愛原:「まあ、宿泊代はNPO法人デイライトさんが出してくれるんだから、文句は言えないさ。それに、ここに泊まることに何か意味があるんだろう」
そしてその意味は、すぐに知ることになる。
オーナー:「ようこそ、いらっしゃいませ」
ホテルの中に入ると、こぢんまりとしたロビーとフロントがあった。
フロントでは年配のオーナーが出迎えた。
白髪交じりの髪をオールバックにして、黒いベストに赤い蝶ネクタイをしている。
周辺が場末っぽい雰囲気のせいか、オーナーがホテルマンというよりもバーテンダーに見えてしまった。
思わず、『マティーニを』と言いそうになる。
オーナー:「4名様で御予約の愛原様ですね。どうぞ、こちらに」
もうすっかり待ち構えていたらしい。
私は観念した様子でフロントに向かった。
愛原:「今日、一泊させて頂きます愛原です」
オーナー:「お待ちしておりました。それでは、こちらに御記入をお願いします」
私は宿泊券を渡して、宿泊者シートに名前などを書き込んだ。
高橋:「どうした、リサ?」
リサ:「あれ……」
高橋:「あれがどうした?」
リサ:「…………」
私が宿泊者シートを書き終えると、オーナーは鍵を2つと朝食券4枚を持って来た。
オーナー:「ありがとうございます。愛原様、一泊朝食付きプランですので、朝食券をどうぞ」
愛原:「どうも。で、朝食は……」
オーナー:「そちらに食堂がございますので、朝7時から9時まで御用意致しております」
愛原:「分かりました」
オーナー:「お部屋は4階です。そちらのエレベーターで4階へどうぞ。あと、自販機コーナーは3階にございます。電子レンジは2階にございます」
愛原:「なるほど。了解です。それじゃ、お世話に……ん?どうした?」
私が鍵と朝食券を手にフロントを離れようとした。
エレベーターの横には階段がある。
リサが2階に上がる途中の踊り場に掛けられた絵画に見入っていた。
そういえばこのホテル、結構絵画が多く掛けられている。
風景画だったり静物画だったり人物画だったりと様々だ。
リサが見入っているのは人物画だった。
モナ・リザのように椅子に座り、似たようなポーズで微笑を浮かべる少女の絵だった。
愛原:「その絵がどうした?」
リサ:「リサ……トレヴァー……大先輩……!」
愛原:「え!?」
その少女は10歳~15歳くらい。
ウェーブの掛かった黒髪をセミロングにして、白いワンピースを着ていた。
高橋:「……あ、ホントだ。先生、『リサ・トレヴァー』って書いてありますよ?」
愛原:「なに!?」
確かに絵画の下には美術館のように、絵のタイトルが書かれた札が貼られていた。
そこには確かに『リサ・トレヴァー14歳』と書かれていた。
制作年は1967年とある。
今から54年も前の作品だ。
オーナー:「この絵ですか?これは本物ではなく、レプリカです」
愛原:「この絵はどうされたんですか?」
オーナー:「前のオーナーが買い付けて掛けたものです。この絵だけじゃなく、他にも館内の至る所に絵画を掛けておりますが、全て前のオーナーの趣味です」
愛原:「絵が好きだったんですか?」
オーナー:「それもありますし、まあ、古いホテルですから、時代に取り残された殺風景な雰囲気を払拭したいと思って、色々と買い付けたようです。もっとも、その殆どが有名画家のレプリカだったり、無名画家のものだったりと安い物ばかりです」
愛原:「他にも、アンブレラと関係した絵が飾られていたりしますか?」
オーナー:「恐らくは……。申し訳ございませんが、私自身は絵にあまり興味が無いもので……。前のオーナーから譲られた時も、無いよりはマシだと思ってそのままにしてあるんです。実際、中にはお客様のように、絵が目当てで来られるお客様もいらっしゃいますので……」
そうなのだ。
このホテルの階段や廊下には、まるで美術館や画廊のように絵が飾られていた。
愛原:「もしかしたら、他にもアンブレラ関係の絵があるかもしれないな。オーナーさん、他にも絵を見て歩いていいですか?」
オーナー:「どうぞどうぞ」
愛原:「因みに、この絵を前のオーナーに売った業者のことは御存知ですか?」
オーナー:「そう……ですね。私がここの一スタッフだった頃、よく前のオーナーに会いに来ていましたから。その時の名刺とかを探せば分かると思います」
愛原:「どうかよろしくお願いします」
まさかこんな所で、アンブレラの影を見るとは思わなかった。
愛原:「取りあえず、部屋に荷物を置いて来よう」
私は一旦1階に下りると、古めかしいエレベーターのボタンを押した。
乗り込んでみると、中も古かった。
何しろ開閉ボタンが、漢字の『開』『閉』表示なのだから。
しかもドアが閉まる時に、ブーとブザーが鳴るタイプだった。
私が子供の頃とかは、こういうエレベーターがあったのは記憶しているが、まさか令和の今になっても現役とは……。
それを知らない平成生まれのこの3人は、
リサ:「サイトー、重量オーバー?」
絵恋:「私、そんなに太ってないもん!」
高橋:「いや、案外リサだろ。オマエ、飯の食い過ぎだ」
リサ:「この中では、私が一番小さいよ?」
高橋:「小さいから軽いとは限らねぇよ」
愛原:「ただの『ドアが閉まります。ご注意ください』のブザーだよ」
高橋&絵恋&リサ:「ええっ!?」(;゚Д゚)
古めかしいエレベーターなので、モーター音が籠内に響いたり、上昇する時や停止する時にガクンと揺れるのも昭和時代の名残である。
因みにこの籠内にも、絵が飾られていた。
先ほどの『リサ・トレヴァー14歳』がA0サイズなら、こちらはA3サイズといったところだ。
山奥に建つ洋館の遠景といった風景画であった。
タイトルは『オズウェル・E・スペンサー邸遠景』とあった。
……どこかで聞いたことのある名前だな……。
絵恋:「何か、ガクンと揺れるんだけど、このエレベーター、壊れてない?」
愛原:「大丈夫だよ。昭和時代のエレベーターなんて、こんなものだ」
4階に着いてドアが開く。
古めかしい造りの廊下ながら、清掃などは行き届いていて、ゴミ1つ落ちていなかった。
やはりここの廊下にも絵が飾られているが、こちらはアンブレラと関係があるのかは分からなかった。
愛原:「えーと……ここだな」
角部屋とその隣が予約されていた。
愛原:「後でこのホテルの絵を見てみよう。ついでに3階の自販機コーナーで飲み物も買っておく」
高橋:「分かりました」
私はフロントで渡された古い鍵を手に、部屋のドアを開けた。
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