報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「特急はちおうじ1号、再び」

2021-09-21 21:06:26 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日17:55.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅→中央線5201M列車9号車内]

 東京駅構内でトイレ休憩を済ませたり、夕食の駅弁を購入して、中央線のホームに上がった。
 中央線ホームは地上1番線と2番線、つまり一番丸の内寄りにあるホームである。
 で、他の在来線ホームより更に1段高い位置にある。
 これは北陸新幹線用のホームを増設する際、用地確保の為に中央線のホームを移設したことによる。
 元々あった1番線・2番線の更に外側に造ったわけだから、0番線・00番線と番号が下がったり、『中央1番線・中央2番線』なんて新たに名前が付けられることは無く、最初からまた番号を振り直したようである。
 夕方ラッシュたけなわで、引っ切り無しに通勤電車が行き交う中、全席指定の特急がここから出る。
 私達が2度目の乗車となる特急“はちおうじ”号は、かつて“中央ライナー”と呼ばれていた。
 言わば有料の通勤快速のようなもので、大都市近郊区間なら大体運転されているので、中京圏や関西圏の方々にもお馴染みであろう(尚、作者の故郷、仙台では専用の都市近郊区間を割り振られているにも関わらず、ライナーの類は史上1度も運転されたことがない)。

〔まもなく2番線に、当駅始発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この電車は、全車指定席です。グリーン車が付いております。……〕
〔「2番線、ご注意ください。18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きの到着です。12両編成、全ての車両が指定席です。自由席はございませんので、ご注意ください。尚、普通車におきましては、お手持ちの定期券の他、指定席特急券でのご利用が可能です。……」〕

 尚、10月1日からは定期券とプラスしてグリーン券も購入すればグリーン車にも乗れる(9月30日までは、乗車券を買わないとグリーン車には乗れない)。
 神田方向から新型のE353系車両がゆっくりと入線してきた。
 LEDなのかHIDなのか分からないが、真っ白なヘッドライトが眩い。
 確かにグリーン車は、外からでもそれとすぐに分かる。
 普通車がギンギラギンの昼白色照明なのに対し、グリーン車は淡い電球色の色をしているからだ。
 まだ外は明るいが、八王子に着く頃には暗くなっているだろうから、その頃には尚一層際立つだろう。
 あと、そもそも1両しか無いというのも目立つ。

〔「お待たせ致しました。どうぞ、ご乗車ください」〕

 東京駅の中央線ホームには、ホームドアが無い。
 通勤電車に混じってこのような特急電車が運転されたり、あと通勤電車にもグリーン車を連結しようという動きがあるので、車両の規格合わせをしないと設置できないのだろう。
 普通車の方はぞろぞろと乗客が乗り込んで行ったが、グリーン車はガラガラだった。

 リサ:「おー、フカフカー!広々ー!」

 リサは初めて乗る特急のグリーン車に大喜び。
 しかし、何度も乗っているのか、絵恋さんの方は冷めている。

 絵恋:「これでも国内線だとクラスJとかプレミアムシート、国際線だとプレミアムエコノミーといったところかしら」
 高橋:「御嬢様風、吹かせやがって」

 高橋は舌打ちしながら、私の隣に座った。
 長身の高橋には、グリーン車くらいのシートピッチはちょうどいいだろう。
 反対にまだ身長160cm台の私や絵恋さんは、足が余る。
 いわんや150cm台のリサにおいてをや。
 私が進行方向右側の窓側、リサがその後ろ、高橋が私の隣、絵恋さんはその後ろであった。
 テーブルはインアームタイプと、背面タイプがある。
 サイズが大きいのは背面タイプなので、私は前の座席からテーブルを出し、その上に駅弁と飲み物を置いた。
 前回は高野君に窘められながらも缶ビールを飲んだ記憶があるが、さすがに今は飲む気にはなれない。
 ホテルに着いたら、1缶だけ飲もうかと思う。

〔♪♪♪♪。「ご案内致します。この電車は18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。停車駅は新宿、立川、終点八王子の順です。12両編成、全ての車両が指定席です。自由席特急券でのご乗車はできませんので、ご注意ください。……」〕

 愛原:「高橋、荷物置いてやれ」
 高橋:「ハイッ!」

 高橋は絵恋さんのキャリーバッグと、リサのリュックを荷棚に置いてあげた。
 私は自分のボストンバッグは自分で上げる。
 そうしながら、後ろに座るリサ達に聞いた。

 愛原:「駅弁は何を買ったんだ?」
 リサ:「“やまゆり牛しぐれ煮弁当”」
 愛原:「リサはやっぱり肉か」
 リサ:「もちろん」

 リサは大きく頷いた。
 因みに“やまゆり牛”とは、神奈川県のブランド牛のことである。
 神奈川で“やまゆり”というと、あの事件を思い出す人達も多いだろう。
 そう、神奈川県相模原市で起きた『津久井やまゆり園殺傷事件』である。
 津久井とは相模原市になる前の郡名、やまゆりとはブランド牛の名前から取ったのだろうと思う。
 最寄り駅は相模湖駅。
 私達が明日下車する藤野駅の隣の駅である。

 愛原:「絵恋さんは?」
 絵恋:「わ、私は、お魚で……。“まぐろいくら弁当”です」
 高橋:「高ェモン買うなぁ」
 愛原:「お金あるんだから、好きなの買って食べればいいだろう」
 リサ:「先生達は何にしたの?」
 愛原:「俺は“幕の内弁当”だな」
 絵恋:「オーソドックスですね」
 愛原:「当たりハズレの無い物を選ぼうとすると、どうしてもこうなるよな」
 高橋:「無難な線を行かれるとはさすがです!」

 というわけで、高橋も私と同じ物を買った由。
 座席は向かい合わせにはしなかった。
 駅構内や車内で、新型コロナウィルス感染防止の為に、それは控えるよう呼び掛けられていたからだ。
 もちろん、最初から向かい合わせになっているボックスシートはこの限りではない。
 発車の5分前に入線してきて、そんなことをしているうちに発車の時刻が迫って来た。
 ホームからは、発車メロディが微かに聞こえて来る。
 向かい側1番線に停車している通勤電車は、既に満席になっていて、このホームにも次の通勤電車を待つ乗客達が列を作っていた。
 中央線は東京駅で必ず折り返すので、始発の着席狙いである。
 そんな中、必ず座れる特急に乗車でき、尚且つグリーン車は羨望であろうが、しかし、そんな電車で帰らざるを得ないほど遠くに住むのもどうかと思う今日この頃である。
 列車は時刻表通りに発車した。
 今のところ、テロリストらしき影はまだ見当たらない。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする