報恩坊の怪しい偽作家!

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“愛原リサの日常” 「通勤特急の旅」

2021-09-23 15:00:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日18:15.天候:晴 東京都新宿区 JR中央線5201M列車9号車内]

 特急“はちおうじ”1号は新宿駅を2分停車して出発した。
 この時点で普通車は満席に近くなったが、グリーン車は半分くらいがようやく埋まったくらいだ。
 これではJRも、グリーン車を定期客にも解放したくなるかもしれない。

〔♪♪♪♪。この電車は、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。【中略】次は、立川です〕

 この後、電車は30分近く停車しない。
 夕方ラッシュたけなわの中、多くの通勤電車が動員されている合間を縫って走るので、特急にしてはそんなに速いスピードでは走らない。
 ウィキペディアによると、特急“はちおうじ”の運転最高速度は時速95キロだという。
 護送船団方式で、周囲の通勤電車に合わせているのだろう。
 中央線内にもちゃんと待避線を備えた駅は存在していて、そこではさすがに先行の通勤電車を追い抜いたりはするだろう。

 リサ:「ちょっとトイレ」
 絵恋:「奇遇ね。私も行きたいと思ったところ」
 リサ:「じゃあサイトー、先に行って来て」
 絵恋:「えーっ!一緒に行きましょうよぉ~!」
 リサ:「……しょうがない」

 駅弁を食べ終わったリサは、その空箱を捨てに行きがてら、トイレに向かった。
 グリーン車のデッキは広く、車掌室の他に休養室を兼ねた多目的室、AEDもあった。
 『防犯カメラ稼働中』とあるので、こんな所にテロリストが潜んでいたらさすがに怪しまれるだろう。
 車掌室もあるし。
 グリーン車のトイレは男女兼用の多目的トイレと、男子用小便器が設置された個室がある。
 その2つに挟まれる形で、洗面所があった。

 絵恋:「早速2人で入りましょ!」
 リサ:「どこの芸能人だ。いいから、サイトー先に入って」
 絵恋:「……私の老廃物、要らない?」
 リサ:「今は要らない」

 自我も知性も知能もしっかり確保されている上級BOWにとって、食欲たる食人衝動は性欲と連動しているような気がする。
 リサはそんな自覚を持つようになっていた。
 絵恋がトイレに入っている間、リサは洗面所に入った。
 高崎線普通列車のグリーン車に乗った時、同じように洗面所の鏡に姿を映してみたら、新型BOWエブリンの影がチラッと見えたような気がしたのだが、さすがにそんなことはなかった。

 男性客A:「……はい、もしもし。あー、どうもお疲れ様です。今、電車の中です」
 リサ:「!?」

 グリーン車の方から、白いワイシャツ姿の男性客がスマホで電話をしながらデッキに出て来た。
 グリーン車の乗客の1人だっただろうか。
 通話をするので、デッキに出て来たようだ。

 リサ:「!」

 それと、10号車の方から別の男性客がやってきて、男子用小便器のある個室へと入って行った。
 この2人は一般客を装った警察関係者だろうか?
 それとも、テロリスト?
 或いは、本当にただの一般客か……。

 絵恋:「お待たせ」

 しばらくすると、絵恋がトイレから出て来た。

 リサ:「私のことは待たなくていいから、先に席に戻って」
 絵恋:「どうしてそんなこと言うの?」
 リサ:「このデッキに男性客が2人いる」
 絵恋:「ひっ……!」

 典型的なLGBTのLで男性嫌悪症の絵恋は絶句するような反応をすると、慌てて自分の席に戻って行った。
 客室に入る所まで見送ってから、リサは自分もトイレに入った。
 もっとも、トイレの中とて安全地帯というわけではない。
 バイオテロなら、自分もさんざんっぱらその手伝いをさせられていたから、その手段については愛原よりも詳しいつもりだ。
 通気口からウィルス垂れ流せば、あっという間に中の人間はゾンビ化するし、クリーチャーの中にはダクトを移動できる種類もある。
 さすがのリサは、ダクトの中を移動することはできないが。
 リサも用を足して、それからトイレの外に出た。

 若頭:「…………」
 リサ:「!!!」

 トイレの外に出ると、愛原と同じアラフォーくらいの強面のスーツ姿の男が立っていた。

 若頭:「失礼。次、利用しても?」
 リサ:「あ、はい。どうぞ」
 若頭:「親分、トイレが空きましたので、どうぞ」
 最高顧問:「スマンのう、お嬢ちゃん。急かしたみたいで……」
 リサ:「いえ……」

 80代ほどの車椅子に乗った老人が、強面の男に押されて中に入った。
 ヨボヨボの老人ではあるが、眼光は鋭い。
 しかしリサに対しては、その鋭い眼光のままニコリと笑った。
 強面の男は、相変わらずいかつい表情のままであったが。

 リサ:(ヤクザさん!?)

 リサは周囲を見渡した。
 いつの間にかデッキには、誰もいない。

 リサ:(警察の人とヤクザの人がいれば、テロリストなんて怖くないよね?)

 だからなのか、列車は何事も無く運行を続けた。

[同日18:54.天候:晴 東京都八王子市 JR八王子駅]

〔♪♪(車内チャイム“鉄道唱歌”)♪♪。まもなく終点、八王子、八王子です。八王子から中央線、高尾、大月方面、横浜線、八高線、相模線はお乗り換えです。【中略】本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、八王子に到着致します。到着ホームは3番線、お出口は左側です。……」〕

 愛原:「何事も無かったな……。本当にテロリストは同乗しているのか?」
 高橋:「サツっぽいのはいる感じですけどねぇ……」
 リサ:(ヤクザさんならいるよ)

 と、リサは言おうとしたがやめた。
 高橋に荷物を降ろしてもらう。
 リサはリュックを背負った。
 列車は速度を落とし、ポイントを通過して副線ホームに入線した。

〔はちおうじ~、八王子~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
〔「3番線に到着の電車は、回送です。ご乗車できませんので、ご注意ください」〕

 リサ達はホームに降り立った。
 都内でも郊外に移動したせいか、それとも日が暮れたせいなのか、乗車した時よりは若干涼しいように思われた。

 リサ:「ここからホテルは近いの?」
 愛原:「ああ、近いよ。付いてきて」

 改札口へ移動すると、リサ達は北口へと向かって行った。

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1 コメント

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あとがき (雲羽百三)
2021-09-23 19:20:40
 泊まり勤務の帰り際、んっ?さんにコメントレスした後、部屋で仮眠を取っていたら、暗闇でリサに後ろから追尾されるという夢を見た。
 BGMはリサのテーマ(https://www.youtube.com/watch?v=BayW7aXI0zI1

 取りあえず起床後、リサ視点でストーリーを少し進めてみた。
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