報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「八王子中央ホテル」 3

2021-09-26 20:18:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日20:00.天候:晴 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル]

 愛原:「その画商の詳細は分かりますか?」
 オーナー:「絵を買い取った時の領収証に書いてあったはずです。その領収証は……多分、取ってあると思うのですが……」
 愛原:「是非とも見せてもらいたいのです。『白井画廊』って、白井伝三郎と何か関係はありますか?」
 オーナー:「全く知りません」
 愛原:「その画商、下の名前は?」
 オーナー:「それもちょっと……。まさか、このタイミングで聞かれるとは思いもしなかったので……」

 だが、名前さえ分かれば、あとは何とかなる。
 ネットで調べればヒットするだろう。

 愛原:「一応、白井画廊の方の名刺や領収証が見つかったら、見せてもらえませんか?」
 オーナー:「分かりました」
 愛原:「今週末にまたお邪魔します。その時でよろしいですか?」
 オーナー:「分かりました。その時までに探しておきましょう」
 愛原:「ありがとうございます。因みに、オーナーが最近買った絵ってのは見られませんか?」
 オーナー:「いいですよ。それならお持ちしましょう」
 愛原:「飾ってないんですか?」
 オーナー:「うーん……。私としては押し売りされたようなものですし、何とも不気味な絵なので、飾りたくないんですよ」

 オーナーは困った顔をして言った。

 オーナー:「今、持って来ますので、ちょっとお待ちください」

 オーナーはそう言うと、エレベーターの鍵を取り出した。
 それでインジゲーターの下にある鍵穴に差し込む。
 このホテルは地下室もあって、エレベーターでも行けるようになっているのだが、地下は倉庫や機械室がある関係で、宿泊客は行けないようになっているのだという。
 オーナーはエレベーターに乗って、地下1階まで下りて行った。
 その間、私達はソファに座って待つ。

 高橋:「先生、ここで白井に関する手掛かりが出てきましたね?」
 愛原:「まさか、絵画で繋がるとはな……」
 リサ:「そういえば私、美術部から絵のモデルを頼まれたことがあった」
 絵恋:「ええっ!?」
 高橋:「おい、まさか脱ぐのか?」
 絵恋:「ええっ!?」
 リサ:「そうとは聞いてない。あと、映研部から自主製作映画の出演依頼来た」
 絵恋:「ええっ!?」
 高橋:「ラスボスの役か。適任だな」
 愛原:「さっきから高橋、ちょっとズレてないか?」
 リサ:「脱がないし、役も主人公だから」
 絵恋:「是非観たいです!それと、リサさんの絵、100万円で買った!!」
 愛原:「こういうのが市場価格を吊り上げてしまうのです。皆さん、気を付けましょう」
 絵恋:「欲しいものに関しては、金に糸目をつけないのがセレブってものですわ?欲しかったら、金を用意しなさい」
 高橋:「出た。高飛車御嬢様」
 絵恋:「何よ!?」

 そんなことで盛り上がっていると、エレベーターのドアが開いた。
 そこからオーナーが降りて来る。
 また、閉まる時にブーとブザーが鳴った。
 挟まれ防止の注意喚起とはいえ、こういちいち鳴られては耳障りである為か、平成に入ってからは新規にブザー付きのエレベーターは販売されなくなった。
 代わりにチャイムや音声で知らせるタイプが出回るようなり、現在に至る。

 オーナー:「お待たせしました」

 オーナーは布に包まれた絵を台車に乗せて運んで来た。
 サイズはA1ほどある。
 埃被った布を取ると、それは人物画だった。
 それは少女の絵だが、階段の踊り場や廊下に飾ってあるものとは確かに異色の雰囲気を放っていた。
 そしてその絵を見たリサは、その人物が誰かすぐに分かった。

 リサ:「エブリンだ!」

 真正面にこちらに向かって無邪気な笑顔を見せているが、しかしその笑顔はどこか不気味だった。
 リサもたまにこんな笑顔をすることがある。
 10歳くらいの少女で、ウェーブの掛かったショートヘアー。
 黒いワンピースに黒いブーツを履いていた。

 オーナー:「2017年の作で、正にタイトルは『エブリン』です。御存知でしたか」
 愛原:「御存知も何も……。てか、この絵の作者って誰なんです?」
 オーナー:「日本人画家だと聞きました。タダ同然で引き取ったものです」
 愛原:「作者名も知らないで買ったんですか?いくらタダ同然とはいえ……」
 オーナー:「前のオーナーが生きてらっしゃったら、絶対にこれを買うだろうと言われたんですよ。前のオーナーの供養の為にも、これは絶対に買っておくべきだとまで言われましたね」
 愛原:「凄い営業だ」

 私は呆れた。

 愛原:「そこまで凄い営業をされたのなら、もう少し覚えていらっしゃっても良かったんじゃないですか?」
 オーナー:「仰る通りです。30代後半くらいの男性で、中肉中背、メガネは掛けていない紺色スーツの男性でした」
 愛原:「その人が画廊の社長さん?」
 オーナー:「……とのことです」

 随分若い社長だ。
 白井伝三郎には子供がいないから、別の兄弟の子供だろうか。

 オーナー:「すいませんね。こんなことになるなら、もっと名刺や領収証を大事に保管しておくべきでしたよ」
 愛原:「どちらが見つけやすいですか?」
 オーナー:「五十歩百歩といったところですか。領収書は経費の計算に使いますし、名刺は顧客管理に使いますし……。ただ、白井画廊さんについては、顧客ではないので……」

 むしろ、白井画廊の方がこのオーナーを顧客として扱う側だろう。

 愛原:「分かりました。後でまたお伺いしますので、その時までにお願いします」
 オーナー:「はい、必ず見つけておきます」

 私達はエレベーターに乗り込んだ。
 4階に行く前に3階に寄って、そこの自販機コーナーに向かう。
 寝酒代わりにと、缶ビールとおつまみを買った。
 リサ達はスナックとジュース。

 愛原:「それじゃキミ達、夜更かしするなよ?」
 リサ:「はーい」
 絵恋:「分かりましたー!」

 私は少女達と別れ、高橋と一緒に自室に入った。

 高橋:「先生、もうもう少し布団くっつけていいっスか!?」
 愛原:「アホ。余計なことすんな」
 高橋:「……サーセン」

 私は座卓の上に缶ビールやおつまみを置いて座った。

 愛原:「それより、あのオーナー、どう思う?」
 高橋:「ホントは何か情報知ってんじゃないスかね?でも、隠してるって感じっス」
 愛原:「オマエもそう思うか」
 高橋:「何でしたら、ボコして吐かせますか?」
 愛原:「いや、いい。白井画廊という名前が出て来ただけでも重要な情報だ」

 私は手持ちのノートPCを立ち上げ、LANケーブルを繋いでネットにアクセスした。
 このホテルにはWi-Fiは無いが、一応LANケーブルを繋げばネットが使えるようにはなっている。
 それで白井画廊を検索してみると、全国に何件かヒットとした。
 一番近いところでは、中央区銀座に画廊がある。
 だが、代表者の名前を見ると、どうも違うような気がした。
 30代の男性が白井画廊の社長だとすると、もう少しカジュアルな内容の公式サイトになっているかもしれない。

 愛原:「……ダメだ。分からん」
 高橋:「ダメですか」
 愛原:「どれも怪しいと言えば怪しいし、怪しくないと言えば怪しくない」
 高橋:「そもそもあのオーナーがウソついて、適当な名前を言っただけかもしれないですしね」
 愛原:「そ、そうか」
 高橋:「やっぱりボコして締め上げます?」
 愛原:「いや、いいよ、警察沙汰はマズい。取りあえず、藤野の後でまた寄ってみよう。実は正直な話なんだとしたら、ちゃんと帰りには情報が手に入るということだからな」
 高橋:「はあ……」

 だが、確かに私も高橋の言う事には一理あるとは思った。
 ウソはついていないとは思う。
 ただ、まだオーナーは全てを話したわけではないというのが一番近いのではないだろうか。
 さっき地下の倉庫から持って来たのだって、あれ一枚とは限らない。
 オーナーは数年前に一枚買ったと言っていたが、もしかしたら前のオーナーが既に売買契約を結んでいたものだったのかもしれないし。
 ほら、よくあるだろう。
 有名な画家が新しく絵を書いたら、それをすぐに買いますとかいう話。
 その画家が新しい絵を描き上げるのに、例え数年掛かろうが構わないから他の誰にも売らず、自分に売ってくれというものだ。
 可能性は低いが、しかしそれかもしれないし。

 愛原:「とにかく、このホテルにバイオハザード絡みの絵が飾ってあると分かっただけでも儲けものだと思うね」
 高橋:「そうっスね」

 この時、私はすっかり忘れていた。
 テロリストの存在を……。
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“愛原リサの日常” 「八王子中央ホテル」 2

2021-09-26 15:48:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日19:30.天候:晴 東京都八王子市某所 八王子中央ホテル]

 愛原:「それじゃ、荷物置いたらまた出て来いよ」
 リサ:「分かった」

 角部屋に愛原と高橋が入り、リサと斉藤絵恋は隣の部屋に入った。
 鍵を開けて中に入ると……。

 リサ:「これは……!」

 ツインのベッドが置かれている部屋かと思ったら違った。
 そこは和室8畳間であった。
 既に布団が2組敷いてある。

 リサ:「和室だ」
 絵恋:「何だか合宿みたいねぇ……」

 絵恋は荷物を入口横のクロゼット前に置くと、布団を移動し始めた。

 リサ:「何してるの?」
 絵恋:「もっとくっつきましょうよ
 リサ:「人食いBOWに自ら近づくサイトーは、本当にもう……」
 絵恋:「萌えへへへ……。ま、まあね」
 リサ:「褒めてない褒めてない。長生きできなくても知らないよ?」
 絵恋:「リサさんに殺されるなら本望ですぅ」
 リサ:「あー、ハイハイ。オリジナルのリサ・トレヴァー先輩も、サイトーからは逃げる他無いだろう」
 絵恋:「あの階段の踊り場にあった絵のこと?」
 リサ:「あれはアンブレラに捕まって実験される前の、本当の人間の姿だ」
 絵恋:「今のリサさんのその姿も、アンブレラに捕まる前の姿なんでしょ?」
 リサ:「……どうかな」
 絵恋:「えっ?」

 何しろ人間だった頃の記憶は殆ど無く、本当に今の第0形態の姿の自分が、イコール人間だった頃の姿そのままなのか自分でも分からないのだ。
 人間だった頃の名前、『上野暢子』を名乗らず、便宜上の名前である『愛原リサ』を名乗り続けているのもそこに理由がある。
 恐らく人間に戻っても、今の名前を使い続けることになるだろう。

 リサ:「それより早く行こう。先生達が待ってる」
 絵恋:「え、ええ」

 いくらヒートアイランド現象からは逃れられている東京都の郊外、八王子市でも熱帯夜は熱帯夜だ。
 冷房は点けたままにしておいた。
 こういう古い建物だと、冷暖房は集中式で、風の強さくらいしか調節できないというイメージだが、このホテルの部屋は家庭用ルームエアコンが設置されていた。

 愛原:「準備はいいか?」
 リサ:「うん」
 愛原:「おっと。ちゃんと鍵は掛けておけよ?オートロックじゃないから」
 リサ:「分かった」

 リサは鍵を掛けた。

 愛原:「リサの部屋の中には、どんな絵が飾ってあった?」
 リサ:「……島の絵?『ザイン島』とかって書いてあった」
 愛原:「『ザイン島』か。恐らく、2011年にロシア領の離島であったバイオハザード事件の舞台になった島だな」
 高橋:「あんまり聞いたこと無いっスね」
 愛原:「日本じゃ、東日本大震災で、てんやわんやだったからな。殆ど報道されなかったさ。日本人が犠牲になったというのなら話は別だろうが、犠牲になったのは島の住民とかだけだし」
 高橋:「なるほど」
 愛原:「よし、行ってみよう」

 リサは愛原達に付いて、ホテル内の廊下や階段、共用トイレ内に飾られた絵を見て回った。
 本当に風景画から静物画から人物画から、サイズもまちまちで飾られている。
 ただ、これらの絵画を調達した前のオーナーというのは、ちゃんとこだわっていたらしい。
 絵の下には、美術館や画廊でそうしているように、全てタイトルと制作年が書かれた札も掲示しているからだ。
 さすがに客室の中に飾ってある絵までは見られないが、少なくとも分かったことはあった。
 まず、飾られている絵全てがバイオハザードに関連したものではないということ。
 そして、最新の絵は2013年までだということ。
 恐らく、前のオーナーと今のオーナーが交替した時期なのではないだろうか。
 今のオーナーは絵画に興味が無いと言っていたので、新たに調達するとは思えない。
 2013年と言えば、アメリカのトールオークス市や東欧某国、そして香港でバイオハザードが起きた年だ。

 高橋:「先生、あれアネゴに似てません?」

 高橋が指さした所には、高野芽衣子と似ている人物が描かれた絵があった。
 上半身の横向きでしか描かれていないが、裸である。
 タイトルを見ると、『カーラ・ラダメス、エイダ・ウォンへ』と書かれていた。
 カーラ・ラダメスとは、2013年に起きたバイオハザード事件の首謀者の1人である。
 ネオ・アンブレラと名乗るテロ組織の女性科学者であったが、中国・香港で死亡したとされている。
 何でも、組織の黒幕に良いように使われていたとか……。

 愛原:「似ているな。そもそもが、高野君がエイダ・ウォンに似ていると思う」
 高橋:「それも、そうっスね」

 因みに制作年毎に展示されているかと言えば、そうでもない。
 前のオーナーとしては何かの法則性を持たせたのかもしれないが、少なくとも私達から見ては、それが何なのか分からないほど無節操な順番で展示されていた。
 しばらくすると、また人物画。

 愛原:「タイトル、『little Miss』か……。『小さいお嬢さん』という意味かな?」
 リサ:「リサ・トレヴァー大先輩のと比べると、もっと幼いね」
 愛原:「12歳……にもなってないか」
 高橋:「あれもバイオハザード絡みっスかね?」
 愛原:「2011年制作とある。あの『ザイン島』と同じだ。もしかしたら、ザイン島の関係者なのかもな」
 リサ:「私も知らないコ」

 そんな感じで愛原達は階段を下りながら、絵を見ていった。
 そして再び1階ロビーまで降りる。

 オーナー:「いかがでしたか?」

 フロントにいるオーナーが話し掛けて来た。
 もちろん、今のオーナーだ。

 愛原:「ああ。前のオーナーさんのこだわりが分かるような気がしますよ。そして、私達にこのホテルを紹介した人の意図もね」

 ただの偶然とは思えない。
 善場は愛原に何かを発見してもらいたくて、このホテルを紹介したのだろう。
 ただ、今のリサにはそれが何なのかは分からなかった。
 少なくとも年季の入った古いホテルで、たまたま前のオーナーが絵画好き、そしてたまたま集めた絵の中にバイオハザード関連の物が多数含まれているだけに過ぎない。

 オーナー:「そうですか。興味を持って頂けましたか。前のオーナーも、きっと喜びますよ」
 愛原:「前のオーナーさんはお元気ですか?」
 オーナー:「いえ、今はもう故人です。それで私がこのホテルを引き継ぐことになったわけですよ」
 愛原:「それは2013年頃の話ですか?」
 オーナー:「2014年ですね。2013年頃から体調を悪くしまして、およそ一年間の闘病生活の後に……といったところです。よく、お分かりですね?」
 愛原:「いえ、見せて頂いた絵の中で、最新の物が2013年になっていましたので。で、今のオーナーであるあなたは絵に興味は無いと仰る。興味の無いオーナーが引き続き絵画を集めるなんてなさらないと思いますので、前のオーナーが現役であった頃は2013年くらいまでかなと思いました」
 オーナー:「凄いですね!まるで刑事さんみたいです」
 高橋:「先生は名探偵だぜ?」
 オーナー:「探偵さんでしたか。お見逸れしました」
 愛原:「とはいうものの、まだ全部の絵は観ていない。本当に最新のものは2013年までなんですか?」
 オーナー:「……と、思いますが。何故ですか?」
 愛原:「いや、画商のことだから、興味の無いオーナーにも絵を売り付けようとしていたんじゃないかと思いましてね」
 オーナー:「さすがは探偵さんです。実はそうなんですよ。2、3回来たんですが、お断りしましたよ。そしたら、さすがにもう来なくなりましたね」
 愛原:「画商が来たのは、前のオーナーが亡くなった直後ですか?」
 オーナー:「そうです。……いや、待てよ。数年前にまた1度、ひょっこり来ましたね。……あー、来た来た!あんまりうるさいものだから、1枚だけ買っておきましたよ。もちろん、だいぶ値切らせてもらいましたがね」
 愛原:「その画商の名前は?」
 オーナー:「『白井画廊』と言いました」
 愛原:「白井だって!?」
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