報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「謎の遊漁船」

2021-01-26 16:07:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日13:21.天候:晴 宮城県牡鹿郡女川町 JR女川駅→石巻線1634D列車先頭車内]

 あいにくと女川町内では有力な情報を手に入れることができなかった私達。
 しかし公一伯父さんから情報提供があった。
 日本アンブレラのカードについて知っている人物が知り合いにいるといい、それが石巻市内に住んでいるので、紹介してくれるという。
 私達は列車の時間に合わせて女川駅に向かった。

〔ピンポーン♪ この列車は石巻線、石巻、前谷地方面、各駅停車の小牛田行きワンマンカーです。浦宿、沢田、万石浦の順に各駅に停車致します。まもなく、発車致します〕

 1台しかない券売機で石巻駅までの乗車券を買い(小牛田駅と石巻駅にしかSuicaは対応していない為)、それで石巻駅に向かうことにした。
 列車は相変わらず2両編成の気動車であったが、往路と違い、2両で1編成のものではなく、1両編成を2両繋いだタイプであった。
 運転席の窓から運転士が顔を出して、乗車客の有無を確認するのは同じ。
 ワンマン列車ならではの光景か。
 列車は定刻通りに発車し、ディーゼルエンジンの唸り声を響かせる。
 すぐ進行方向左手にトレーラーハウス群のホテル施設が見える。
 町の主要な駅前にホテルがあるのはベタな法則だが、それがシティホテルやビジネスホテルではないというのは珍しいかもだ。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は石巻線、石巻、前谷地方面、各駅停車の小牛田行きワンマンカーです。これから先、浦宿、沢田、万石浦の順に各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、浦宿です〕

 高橋:「名誉教授のお知り合いって、どんな方なんですか?」
 愛原:「伯父さんの大学で、海洋生物学の研究をしていた人らしい。伯父さん自身も釣りが好きだから、それで意気投合したらしいよ」

 その割に伯父さん、内陸の美里町に住んでるんだけどな。

 愛原:「駅前で待ち合わせをしているから、それで話を聞こう」
 高橋:「うっス」

[同日13:47.天候:晴 宮城県石巻市 JR石巻駅]

〔ピンポーン♪ まもなく、石巻です。石巻では全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、定期券は駅の自動改札口をご利用ください。運賃、整理券は駅係員にお渡しください。石巻から仙石線、仙石東北ラインはお乗り換えです〕

 女川駅から石巻駅まで、約25分で到着する。
 恐らくここでも列車はすぐには発車せず、長い停車時間が取られているのだろう。
 単線非電化路線の宿命か。
 列車が3番線に到着し、他の乗客がドアを開けると、私達も席を立った。
 やはり、殆どの乗客がこの駅で降りて行く。
 石巻線の乗客の流れは、この石巻駅を中心とするらしい。

 愛原:「改札口は1つしか無いから、迷うことは無いな」

 首都圏でも見慣れたSuica対応の自動改札口。
 これは小牛田駅や仙石線、仙石東北ラインからのSuica利用客に対応したものらしい。

 愛原:「えーと……あの人かな」

 海洋生物学の研究者で博士号を持った人だと聞いていたが、待ち合わせをしていた人物は、まるで釣り人のような姿をしていた。
 釣りの行き帰りなのではないかと思うくらい。
 年齢的にはうちの伯父さんと同じくらいだ。
 歳も近いので、意気投合しやすかったのだろう。

 愛原:「あ、すいません。佐々木先生ですか?」
 佐々木:「はい。私が佐々木和夫です。愛原さん達ですね?公一君の甥っ子の……」
 愛原:「あ、はい。そうです。愛原学と申します。こちらは助手の高橋とリサで……」
 高橋:「先生の信頼厚き助手1号、高橋正義と申します!」
 リサ:「先生の『お嫁さん』、愛原リサです!」
 佐々木:「ん!?」
 愛原:「こら、リサ!」
 高橋:「ざっけんじゃねぇ!」
 愛原:「あ、アハハハ……!あ、あの、こちらが名刺です」
 佐々木:「ほ、ほう……。東京で探偵をなさっておられるのですか……」
 愛原:「ひょんなことから、旧アンブレラの悪事を追うことになりまして、その調査を(今のところボランティアで)している最中です」
 佐々木:「なるほど。それで私に……」

 佐々木博士は眼鏡を押し上げた。

 愛原:「先生はこのカードに見覚えがあるそうですね?」

 私はタイラントが落とした日本アンブレラのカードを見せた。

 佐々木:「それです。確かに昔、そのカードを見ました」
 愛原:「お手数ですが、その時の状況を教えて頂けますか?」
 佐々木:「分かりました。誰が見ているか分かりませんで、取りあえず車まで行きましょう」

 私達は駅近くの駐車場に向かった。
 そこに停車しているワゴンRが佐々木博士の車だった。
 高齢者マークが貼られている、現行年式の青い車である。

 佐々木:「どうも歳を取ると、大きな車を回しにくくなりましてな……」
 愛原:「うちの伯父さんなんか、性懲りも無くプリウスをまた導入しましたよ?」
 佐々木:「何と。やるなぁ……」

 私が助手席、高橋とリサがリアシートに座っている。

 佐々木:「あれは今から10年以上前の話です。まだ、震災前の話ですな。私は海洋生物学の博士号をいつの間にか取ってしまいましたが、実際はただの釣りバカです。あの時も沖合で釣りを楽しむ為、鮎川漁港に行ってたんですよ」

 早朝、鮎川漁港から遊漁船に乗り込む為、佐々木博士はそこに向かった。
 行ってみると、船着き場には既に他の乗客達が遊漁船を待っていた。
 佐々木博士も一緒に遊漁船を待っていると、しばらくして船がやってきた。
 そして、他の乗客達に続いて自分も乗り込もうとしたが、何だか様子がおかしいことに気づいたという。

 佐々木:「普通、遊漁船というのは船長が1人であることが多いんです。しかしその船には船長の他に、2人の船員がいました。それも、何故だかヘルメットにゴーグルと防毒マスクといった出で立ちだったんです」
 愛原:「銃とかは持ってましたか?」
 佐々木:「そこまでは見ていませんでしたが……。で、その乗客達は乗り込む前、船員にカードを渡していたんです」
 愛原:「それがこのカード!?」
 佐々木:「はい。そして代わりに、金色のカードを受け取って乗っていました」
 愛原:「それはこのカードですかね?」

 私はリサに黄金色のカードを出させた。

 佐々木:「そうですね。こんな感じだったかもしれません。私は船を間違えてしまったものと思い、船員に確認したんです。そしたら……」

 船員達は殺気だって佐々木博士に詰め寄ってきたのだという。

 佐々木:「終いには、『見られたからには、こいつも連れて行こう』とか、『沖合で沈める』とか言ってきましたね。全速力で逃げましたよ。当然、釣りどころではありませんでしたからね」

 どうにか逃げ切った佐々木博士。
 急いで警察に駆け込むも、その船は全く見つからなかったという。

 佐々木:「今から思えば、あの乗客達も釣り客を装った関係者だったのかもしれません」
 愛原:「佐々木先生、お手数ですが、その現場まで案内しては頂けませんか?」
 佐々木:「構いませんよ。そうだろうと思って、車で来たんです」

 佐々木博士は車のエンジンを掛けた。

 佐々木:「それでは行きます」
 愛原:「お願いします」

 車は駐車場を出て、鮎川漁港へ向かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「女川の町」

2021-01-24 18:57:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日11:01.天候:晴 宮城県牡鹿郡女川町 JR女川駅→女川港]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、女川です。女川では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。乗車券、運賃、整理券は運賃箱にお入れください。定期券は運転士にお見せください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私達を乗せた列車は、終点の駅に近づいた。
 ホームに入る直前、進行方向右側にトレーラーハウスが多く見られたが、後にそれはホテルであることが分かった。

 愛原:「やっと着いた。ここで何か情報でも入るといいがな」

 女川駅は一面一線の頭端式。
 つまり1番線しかなく、改札口は列車の更に進行方向にあるというものだ。
 この駅は無人駅なのだろうか。

 運転士:「はい、ありがとうございました」

 女川駅はSuicaのエリア外である。
 なので小牛田駅から私達は紙の乗車券を買って乗った。
 そのキップを路線バスにあるような運賃箱の中に入れる。
 それから降りて、駅舎内に向かった。
 駅事務室はあって、窓口らしきものもある。
 しかし、改札口のブースは無い。
 駅員はいるが、子会社に出札業務を委託しているだけで、改札業務までは行っていないのだろう。
 券売機も1台だけある。

(BGM:“FFⅦリメイク”より、“からっぽの空”https://www.youtube.com/watch?v=sbPSde4pYL4)

 愛原:「きれいな駅舎だ。きっと震災で全てを破壊されたんで、全部新しくしたんだろう」

 駅前もきれいに纏められている。
 また、駅舎の中には温泉施設もあった。
 調査が終わって余裕があるなら、是非立ち寄ってみたいものだ。
 駅前のこれまた新しい商店街を抜け、女川港に向かう。
 ここからは金華山に向かう定期船が出ており、その案内所に行ってみた。
 驚くことに定期船は土日祝日しか運航されておらず、それ以外に島に渡るには海上タクシーを利用するしかないのだという。
 そして便数も定期ダイヤの時は、1往復しか運航されていない。
 今日は運航日ではあるが、島行きはもう出航してしまったという。

 愛原:「このカードを御存知ですか?」

 私はタイラントが落とした日本アンブレラのカードを見せた。

 係員:「何ですか、それは?」
 愛原:「分かりませんが、金華山に何か関係があるのではないかと思うのですが……」
 係員:「ちょっと見たことないですねぇ……」

 係員のオバさんは事務所に行って、他の係員にも聞いてくれた。
 ロゴマークから日本アンブレラだと分かってくれた人はいたが、このカード自体は知らないという。

 愛原:「このカードで定期船に乗れたり、海上タクシーに乗れたりはしますか?」
 係員:「そんなことないですよ」

 とのこと。
 アテが外れたか?
 やはり金華山というのは島そのものではなく、何かの例えなのだろうか。

 愛原:「因みに、ここ以外で金華山に行く船はありますか?」

 私が船に限定しているのは、定期的な交通手段が船しかないからである。
 離島だとヘリコプターの便もあるが、金華山は島全体が黄金山神社の神域とされており、島の住民は神社の関係者しかいないという。
 そんな島にヘリの便など、あるはずがない。

 係員:「石巻の鮎川港からも出ていますけど、あそこも午前中に1つしか無いので、今から行っても無いですよ」
 愛原:「石巻の鮎川港ねぇ……」

 だとしたら、このカードを解析して出てきた『Onagawa』という単語に意味が無くなってしまう。
 このカードは、金華山内で使えるものなのだろうか?

 高橋:「先生、どうしますか?」
 愛原:「うーん……。この港から、金華山以外へ行く便は無いですか?」
 係員:「定期便では金華山だけです」
 愛原:「定期便以外だと?」
 係員:「貨物便ですか?えーと……」

 やはりアテが外れたのだろうか。
 私達は定期船乗り場を出た。
 港には漁船も多く留まっている。
 中には釣り客を乗せて沖合に向かう遊漁船もあるだろう。

 愛原:「アテが外れたみたいだ。戻ろう」
 高橋:「先生、次の列車、13時21分っすよ?」
 愛原:「はあ!?」
 高橋:「さすが田舎の路線っすねぇ……。どうします?」
 愛原;「少し早いが、ここで昼飯食って駅の中の温泉に入ろう。それで時間潰せるだろう」
 リサ:「おー!魚食べたい!」
 愛原:「ああ。そうしよう」

[同日13:00.天候:晴 JR女川駅(日帰り温泉“ゆぽっぽ”)]

 昼食を食べ終えた私達は駅に戻ると、そこの温泉施設に入った。
 震災前から温泉施設はあったが、震災による大津波で駅舎と一緒に流されてしまった。
 地震の影響で温泉が枯れてしまった所が散見される中、ここの温泉はそこまでの被害は無かったらしい。
 しかし、温泉が枯れてしまった所がある反面、逆に湧き出て来た所もあるようだが、そういう所では新しい入浴施設が出来たりしたのだろうか。

 愛原:「はい、もしもし?」

 施設内の休憩所で休んでいると、公一伯父さんから電話が掛かってきた。

 公一:「今、どこにおる?」
 愛原:「女川駅だよ」
 公一:「そこで何か有力な情報は掴めたかね?」
 愛原:「いや、まだだよ。港に行ったけど、このカードのことについて知っている人は誰もいなかった」
 公一:「そうか。ならば、石巻の鮎川に行ってみるといい」
 愛原:「ああ。金華山行きの船は、そこからも出てるって話でしょ?だけど、今日はもうその船は終わったってよ」
 公一:「違う。そのカードのことについて知ってる者がいるんじゃ。ワシの知り合いで、海洋生物の研究者がおる。その者が石巻に住んでおるから、そいつに聞いてみると良い。ワシが話を付けておいてやる」
 愛原:「さすが伯父さん!頼りになるぅ!」
 公一:「ワシのかわいい甥っ子の為じゃ。頑張るのじゃぞ」

 有力な情報を掴めるなら、ありがたいことだ。
 私は電話を切った。
 そして高橋達に次の行き先を伝えたのだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「JR石巻線」 2

2021-01-24 14:17:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日10:25.天候:晴 宮城県石巻市 JR石巻駅→石巻線1631D列車先頭車]

 

 私達は今、JR石巻駅で足止めをされている。
 別に石巻線が運転見合わせになったのではなく、ダイヤ上、30分以上も停車することになっているからだ。
 明らかに起点から終点まで、通しの利用客を想定していないことが分かる。
 高橋がタバコ休憩から戻ってきたのだが、同じくジュースを買いに行ったリサが戻ってこない。
 高橋に聞くと、何でも『仮面ライダー』や『サイボーグ009』のモニュメントに見入っているのだという。
 この駅を中心駅とする石巻市は、かの有名漫画家、石ノ森章太郎氏の出身地である。
 町ぐるみでそれを観光のネタにしており、それでその中心駅にあっても、石ノ森氏の作品のモニュメントが展示されているのである。
 私らフラフォー世代では、『仮面ライダー』と言えば既にスーツアクター演じる特撮ものというイメージが先行しており、元々の原作はマンガであるということを頭から知っている世代は、もっと上のアラフィフ世代なのではなかろうか。

 愛原:「ちょっとリサを迎えに行って来るよ。荷物見ててくれ」
 高橋:「分かりました」

 私は気動車のディーゼルエンジンのアイドリング音が響くホームに降りた。
 この石巻線下りホームには何も無いので、喫煙所やトイレ、自販機は上りホームに集約されている。
 因みに仙石線はもっと東側にある。
 跨線橋を昇り降りして、上りホームに向かうと、改札口の横に仮面ライダー1号とサイボーグ009の主人公達のモニュメントが立っている。

 愛原:「リサ、そんなに気になるか?」
 リサ:「あっ、先生。『元は人間から改造されて、正義の味方』という所が羨ましくて……」
 愛原:「ああ、なるほど」

 それに対して、リサ・トレヴァーは『元は人間から改造されて、人類の強敵』か。

 愛原:「心配するな。オマエだけでも『正義の味方』になっているじゃないか。それでいいんだよ。それでも気になるようなら、善場主任達が模索している、『人間に戻す計画』に乗ればいい」
 リサ:「うん……」
 愛原:「さて、俺はトイレに行ってコーヒー買ってくる。リサは早いとこ列車に戻るんだ」
 リサ:「あ……まだジュース買ってない」
 愛原:「というか自販機どこだ?」
 リサ:「あっち」
 愛原:「ん?」

 自販機は仙石線ホームへのコンコース上にあった。

 愛原:「よし、分かった。じゃあ、ジュース買ったら戻って」
 リサ:「うん」

 列車内にもトイレはあるのだが、狭い列車トイレより、駅のトイレの方が広く使えて良いという私の考え。
 トイレに行って、それから自販機に行くと、紙コップの自販機があることが分かった。
 これ、あれだ。
 高速道路のサービスエリアなんかにもある、抽出中に“コーヒールンバ”が流れるヤツだ。
 但し、この駅にあるのはモニタとBGMが省略された簡易版であった。
 鉄道駅にあるのは、この簡易タイプであることが多い。
 寒い日に、温かいコーヒーはありがたい。
 私はこれを買うと、列車に戻った。

〔「お待たせ致しました。10時36分発、石巻線の下り普通列車、女川行き、まもなく発車致します」〕

 発車の時間が近づいて来たが、車内の乗客数は石巻駅到着時と比べればだいぶ少ない。
 運転士が運転席の乗務員室窓から顔を出して、ホームに向かって笛を吹く。
 駆け込み客がいないのか、やはりこちらもスムーズに発車した。
 大きなアイドリング音がして、ゆっくり発車する。
 それでも旧国鉄車両と比べれば、アイドリング音は小さく、加速度も軽やかなものなのだろう。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は石巻線、各駅停車の女川行きワンマンカーです。これから先、陸前稲井、渡波(わたのは)、万石浦の順に各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、陸前稲井です〕

 高橋:「随分ゆっくりな鉄道旅っスけど、結局終点に着くのって何時何分っスか?」
 愛原:「11時1分らしいな。まあ、いいんじゃないか。女川駅から女川港までは歩いて行けるらしいし、そこで聞き込み調査でもしてさ」
 高橋:「はあ……」
 リサ:「海沿いだと、魚が美味しい?」
 愛原:「そういうことだ。ついでに、魚介類の美味い物食って帰るか」
 高橋:「半分観光っスね」
 愛原:「タイラントが来て、カードを落とさなければ、こんなことも無かったんだがな」

 そこで私はふと気づいた。

 愛原:「なあ。もしかして、これって罠だったりしてな?」
 高橋:「あー……なるほど」
 リサ:「罠?」
 愛原:「俺達を捕まえる為のさ」
 高橋:「有り得ますね」
 愛原:「タイラントが落としたカードとあれば、それを解析しようとするだろう。そして、解析中に現れた文字が気になって、そこへ行こうとするだろう。行った先に罠が待ち構えているって寸法だ」
 高橋:「どうします?引き返しますか?」
 愛原:「多分、港までは大丈夫だろう。いくら田舎とはいえ、これから行く女川駅は女川町の中心駅だ。ましてや今は昼間。そんなに寂しいこともないだろうから、そんなに大掛かりな罠は仕掛けられないんじゃないか?」

 私は楽観的に捉えた。
 金華山という言葉が入っていることから、私は恐らく金華山内に何かあるのだと思った。
 だが、正式に調査を頼まれたわけではない。
 あくまでも、私は民間探偵業者。
 依頼が無ければ動けない。
 島に渡るのは止めておいた方が良いだろう。
 港で定期船乗り場の調査に止めておくことにしよう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「JR石巻線」

2021-01-23 20:24:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日09:27.天候:晴 宮城県遠田郡美里町 JR小牛田駅→石巻線1631D列車先頭車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私達は公一伯父さんの家に一泊した後、彼の車でJR小牛田駅まで送ってもらった。
 寒風が吹き、構内やホームの横にある操車場(小牛田運輸区)には雪が積もっている。
 2面4線のホームの一番東側、4番線には2両編成の気動車が停車していた。
 フロントガラスには、『ワンマン』の表示がされている。
 東北本線を走る電車は半自動ドアが中止になって、全自動ドアになっていたが、気動車の方は半自動ドアだった。
 しかもキハ110系シリーズは、基本的に窓が開かない。
 開くのは、乗務員室扉の窓のみ。
 その先頭車に乗り込むと、車内は空いていた。
 東北本線の方は賑わっていたことから、今日行われる『仙台初売り』に向かう人々だと思われる。

 愛原:「これで行くと、乗り換え無しで行ける」
 高橋:「ローカル列車ですね」

 4人用ボックスシートに固まって座る。
 窓の下にテーブルは無いが、窓の桟に飲み物くらいは置ける。

〔ピンポーン♪ お知らせ致します。この列車は石巻線、前谷地、石巻方面、各駅停車の女川行きワンマンカーです。上涌谷、涌谷、前谷地の順に各駅に停車致します。まもなく、発車致します〕

 車内に自動放送が流れると、運転士が乗務員室扉の窓からホームを覗き込んで笛を吹いた。
 駆け込み客がいないと分かると、そのままドアスイッチを『閉』にする。
 元々ドアそのものは全て閉まっているので、発車はすぐである。
 運転席からハンドルを動かす音が聞こえてくると、ディーゼルエンジン音が唸り声を上げ、列車は発車した。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は石巻線、前谷地、石巻方面、各駅停車の女川行き、ワンマンカーです。これから先、上涌谷、涌谷、前谷地の順に、各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、上涌谷です〕

 列車は駅を出ると、右にカーブする。
 雪に覆われた田園地帯を走る長閑な路線である。
 しかし牧歌的な場所だからといって、バイオハザードとは無縁と思ってはいけない。
 2017年にはアメリカのルイジアナ州で、1つの農場がバイオハザードに見舞われたのだ。
 被害者は農場経営者家族とその従業員達、そして惨状を知らずに来訪した人々である。
 日本だって無縁ではない。
 昨夜、まさかのタイラントが勝手に来訪してきたというのだからな。
 恐らくはリサが目的だろう。
 だが、問題はそのタイラントを連れて帰ったヘリコプターだ。
 恐らくそのタイラントを連れて来たのも件のヘリコプターだと思われるが、どこの機で、リサに何の用で連れて来たのか分からない。
 日本製のタイラントは、日本製リサ・トレヴァーの命令を聞くように設定されている。
 もしも『2番』のリサを処分する為に来たとしたら、愚かな判断だと言わざるを得ない。
 まだネメシスを投入する方が賢明と言えよう。
 とはいうものの、恐らくこの推理はハズレだ。
 リサの話では、タイラントはリサの姿を見て狼狽していたという。
 それはまるで、リサがそこにいたとは知らなかったといった感じだったとのこと。
 なのでタイラントは、別の用件で来たのだろう。
 それが何かは分からない。
 公一伯父さんが作ったという、化学肥料とか農薬の強奪が目的なのだろうか。
 特に日本アンブレラが健在だった頃、伯父さんの作った『枯れた苗を元に戻す薬』を喉から手が出るほど欲しがったという。
 それが欲しかったのだろうか。
 因みにその技術は、NPO法人デイライトに渡している。
 何でも、リサを人間に戻す薬の参考になるのだとか。

 愛原:「このカード、一体何に使うんだろう?」

 私はタイラントが持っていて落としたと思われるカードを取り出した。
 サイズはICカードと同じ。
 全体的にグレーに塗られており、真ん中には“赤いアンブレラ”のロゴマーク(紅白の雨傘を開いて、上から見た図をデザイン化したもの)が描かれており、その中に日本法人を表す『JP』の文字が書かれている。

 高橋:「まあ、やっぱアンブレラの施設のドアとかに使うカードキーじゃないスかね」
 愛原:「金華山にでも行けって?でも、気軽に行けるようなダイヤじゃないよなぁ……」

 金華山は島全体が黄金山神社の神域とされており、そんな所にアンブレラの関係者が勝手に施設など造ろうものなら、バレるに決まっている。
 それとも金華山の島は関係無く、何かの例えなのだろうか。
 とにかく行ってみないと分からない。

[同日10:04.天候:晴 宮城県石巻市 JR石巻駅]

〔ピンポーン♪ まもなく、石巻です。石巻では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】石巻から仙石線、仙石東北ラインはお乗り換えです〕

 列車は線内のターミナル駅の1つである石巻駅に到着した。
 線内では唯一の市部駅である。
 その為か、ここまで乗車する客も多い。
 ところが、ここでローカル線ならではの事が起きた。

〔「ご乗車ありがとうございました。石巻、石巻です。お忘れ物の無いよう、お降りください。この列車は石巻線、普通列車の女川行きです。発車は10時36分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 高橋:「は!?10時36分!?」

 ↑現在時刻に注目である。

 愛原:「30分以上も停車するのか……。単線だからかな?」

 別にこの駅で車両の増解結が行われるわけではないし、列車番号が変わるわけでもないようだ。
 本当に運行上の都合らしい。
 ドアが開くと、ぞろぞろと乗客達が降りていった。
 殆どの座席が埋まるほどの乗客数にはなっていたのだが、それが一気に降りたと言った感じだ。
 新たに乗車する客は、殆どいない。
 それほどまでに乗客の少ない閑散路線というよりは、そもそも発車があと30分以上もあるからだろう。
 つまり、起点の小牛田駅から終点の女川駅まで通しで乗車する客などいないという前提で組まれたダイヤなのだろう。
 実際、線内の中間地点に規模の大きい駅が挟まれている場合、その駅を中心にダイヤが組まれることはよくある。
 線区によっては、その駅を境に運用が分断されるほどだ(例としてJR川越線の川越駅、JR八高線の高麗川駅など。私鉄では東武アーバンパークラインの柏駅、東武東上線の小川町駅など)。

 高橋:「……先生。30分も何してろと?」
 愛原:「タバコでも吸ってこい」
 高橋:「はあ……」
 リサ:「じゃあ、ジュース買って来る」
 愛原:「ああ。行ってこい」

 私は留守番していることにした。
 今現在停車している石巻線下りホームには、基本何も無い。
 喫煙所もトイレも自販機も、駅本屋に最も近い石巻線上りホームに集約されているのである。
 よし。2人が帰ってきたら、私も少し駅構内を歩かせてもらうとしよう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“愛原リサの日常” 「深夜の訪問者」

2021-01-23 16:00:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日02:00.天候:雪 宮城県遠田郡美里町某所 愛原公一の家]

 夕食は豪勢なすき焼きをたらふく食べたリサ。
 風呂にも入って、ちょっとした民宿気分を味わった。
 しかし、寝る所は1人。
 いくらBOWとはいえ、見た目は15歳の女の子を愛原達と同じ部屋に泊まらせるわけにはいかないということで。
 その代わりと言っては何だが、公一の飼い犬で柴犬(雄 3歳)のジョンが一緒に寝ていた。
 さすがは野性の勘。
 この家の中で、一番強い者が誰かを瞬時に把握し、それに媚びるという犬の習性である。

 ジョン:「ウゥウ……!」

 リサと同じ布団に入って丸くなっていたジョンだが、何かの気配を察知し、起き上がって唸り声を上げる。

 リサ:「ウゥウ……!侵入者……アリ……!」

 リサは第1形態に変化しており、やはり布団から出た。
 寒さなど物ともしないBOWだからか、この真冬にTシャツと短パンでも全く寒さを感じなかった。

 リサ:「家の外……?」

 リサは右手だけでバキッと骨を鳴らすと、玄関の鍵を開けて、そっと外に出た。
 外はシンシンと雪が積もっている。

 リサ:「あれは……!」

 母屋の隣にある車庫兼農機具小屋。
 何故かその横に、工事現場などで見られる仮設トイレが置かれている。
 使われていない為か、鍵が掛かっているらしい。
 それを開けようとしている者がいた。
 大きなガタイの男。

 リサ:「……おい」
 ジョン:「ワンッ!ワンワンワン!!」
 タイラント:「!?」

 それはタイラントだった。
 リサを見て驚いている。

 リサ:「何をしてるの?タイラント君?」
 タイラント:(;゚Д゚)

 まさかここに、上級BOWのリサ・トレヴァーがいるとは思ってもみなかったのだろう。
 リサを見て、明らかに狼狽している。
 命令されれば、ターゲットをどこまでも追い掛けて殺すことを平気でするというのに……。

 タイラント:「……!」

 タイラントは慌てて逃げ出した。

 リサ:「待てっ!」

 リサは後ろからタイラントに飛び掛かった。
 長く鋭く伸ばした爪で、タイラントを引っ掻く。
 如何に上級BOWであっても、それだけでタイラントを殺すことはできないが、タイラントはうつ伏せに転倒した。

 ジョン:「ガウウウッ!!」

 ジョンはそんなタイラントの頭に噛み付いた。

 リサ:「ジョン!離れて!」

 リサが命令すると、ジョンはタイラントの頭から離れた。
 だが、それで良かった。
 タイラントもまた大きな腕を振って、起き上がったからだ。
 リサが命令していなければ、ジョンはその腕の直撃を受けて即死していただろう。

 リサ:「何をしていたの!?誰の命令でやっていたの!?」

 リサが詰問したが、タイラントは答えない。
 それどころか……。

 リサ:「な、なに!?」

 上空からヘリコプターが舞い降りたかと思うと、そこから縄梯子が下ろされ、タイラントはそれに掴まった。
 そして、ヘリコプターが一気に舞い上がる。
 そのヘリコプターはダークグレーに塗装されていて、どこのヘリだか分からなかった。
 しかし、ライトグレーに塗装されたBSAAや、ブルーに塗装された“青いアンブレラ”のヘリではないようだ。

 リサ:「逃げられた。一体、何だっていうの?」

 するとジョンが、さっきタイラントが倒れた場所に向かって、そこから何かを咥えて来た。
 それはグレーのカードのようなもの。
 表には赤いアンブレラのロゴマークが大きく描かれており、その中心には『JP』と書かれていた。
 明らかに日本アンブレラ社のロゴマークである。

 リサ:「後で先生に言わなきゃ……!」

[同日07:00.天候:晴 愛原公一の家]

 愛原学:「何っ、タイラントだと!?」
 リサ:「そうなの!」

 リサは昨夜のことを起きて来た愛原学に話すと、カードを渡した。

 学:「うーむ……。何か、カードキーのようなものに見えるな……」
 公一:「ワシが解析しよう。機械ならある」
 学:「都合良くそんなものがあるの?」
 公一:「うむ。昔、大学の研究所のカードキーを紛失したことがあってな。それの偽造に……」
 学:「退職したから時効ってわけじゃないと思うよ、それは」
 高橋:「さすが先生の伯父さん……」

 それから1時間ほどして、解析が終わった。

 公一:「これはやはり、日本アンブレラのパスカードらしいぞ」
 学:「この近くにあるの?」
 公一:「いや、この近くではない。だが、日本アンブレラの施設であることは間違いない。具体的な場所まではこのカードのデータでは分からんが、『Onagawa』とか『Kinkazan』とかいう文字は出て来た」
 学:「女川!?金華山!?」
 公一:「恐らくはな。もしかすると、東日本大震災の復興のドサグサに紛れて、施設でも造ったのかもしれんな」
 学:「でもその頃には、日本アンブレラは倒産していたよね?」
 公一:「そうじゃ。しかし、あの倒産自体が計画倒産の茶番劇だとも言われておる。これ以上、アンブレラの悪事が露見せんようにな。資金はまだタップリある状態での計画倒産じゃ。しかも、震災の後で地価が大幅に下落した場所に設置する。地価の安い田舎や山奥に秘密の研究所を建てるのが、アメリカのアンブレラのやり方じゃった。それを現地法人たる日本アンブレラが真似ても、何らおかしいことはない」
 学:「確かに、この前は日光にあったな……。学校施設の地下に造って、ものの見事に誤魔化すというやり方ね」
 公一:「そしてそれとはまた別に、震災復興のドサグサということも有り得る」
 学:「そういった意味では、福島第一原発付近もかなり怪しいことになるね」
 公一:「まあな」
 高橋:「先生、どうします?」
 学:「どうせ明日までヒマなんだから、ちょっと行ってみるか。幸い、小牛田駅から石巻線一本で行ける」
 高橋:「はい!」

 リサは愛原達の会話を聞いていて疑問に思った。

 リサ:(どうしてタイラント君が、あのトイレをこじ開けようとしていたのか……調べないの?)

 リサはそのことについて愛原に指摘しようとしたが……。

 高橋:「先生。このことを報告書にまとめて、正月休み明けに善場の姉ちゃんに出したら、びっくりしますぜ?」
 学:「それもそうだな!上手く行けば報酬もバッチリ!」
 公一:「おいおい。解析したのはワシじゃぞ?その暁には、ワシの功績も忘れんといてくれな?」
 学:「へいへい」
 高橋:「さすが先生の伯父貴っス!」
 リサ:「…………」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする