報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「謎の遊漁船」

2021-01-26 16:07:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日13:21.天候:晴 宮城県牡鹿郡女川町 JR女川駅→石巻線1634D列車先頭車内]

 あいにくと女川町内では有力な情報を手に入れることができなかった私達。
 しかし公一伯父さんから情報提供があった。
 日本アンブレラのカードについて知っている人物が知り合いにいるといい、それが石巻市内に住んでいるので、紹介してくれるという。
 私達は列車の時間に合わせて女川駅に向かった。

〔ピンポーン♪ この列車は石巻線、石巻、前谷地方面、各駅停車の小牛田行きワンマンカーです。浦宿、沢田、万石浦の順に各駅に停車致します。まもなく、発車致します〕

 1台しかない券売機で石巻駅までの乗車券を買い(小牛田駅と石巻駅にしかSuicaは対応していない為)、それで石巻駅に向かうことにした。
 列車は相変わらず2両編成の気動車であったが、往路と違い、2両で1編成のものではなく、1両編成を2両繋いだタイプであった。
 運転席の窓から運転士が顔を出して、乗車客の有無を確認するのは同じ。
 ワンマン列車ならではの光景か。
 列車は定刻通りに発車し、ディーゼルエンジンの唸り声を響かせる。
 すぐ進行方向左手にトレーラーハウス群のホテル施設が見える。
 町の主要な駅前にホテルがあるのはベタな法則だが、それがシティホテルやビジネスホテルではないというのは珍しいかもだ。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は石巻線、石巻、前谷地方面、各駅停車の小牛田行きワンマンカーです。これから先、浦宿、沢田、万石浦の順に各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、浦宿です〕

 高橋:「名誉教授のお知り合いって、どんな方なんですか?」
 愛原:「伯父さんの大学で、海洋生物学の研究をしていた人らしい。伯父さん自身も釣りが好きだから、それで意気投合したらしいよ」

 その割に伯父さん、内陸の美里町に住んでるんだけどな。

 愛原:「駅前で待ち合わせをしているから、それで話を聞こう」
 高橋:「うっス」

[同日13:47.天候:晴 宮城県石巻市 JR石巻駅]

〔ピンポーン♪ まもなく、石巻です。石巻では全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、定期券は駅の自動改札口をご利用ください。運賃、整理券は駅係員にお渡しください。石巻から仙石線、仙石東北ラインはお乗り換えです〕

 女川駅から石巻駅まで、約25分で到着する。
 恐らくここでも列車はすぐには発車せず、長い停車時間が取られているのだろう。
 単線非電化路線の宿命か。
 列車が3番線に到着し、他の乗客がドアを開けると、私達も席を立った。
 やはり、殆どの乗客がこの駅で降りて行く。
 石巻線の乗客の流れは、この石巻駅を中心とするらしい。

 愛原:「改札口は1つしか無いから、迷うことは無いな」

 首都圏でも見慣れたSuica対応の自動改札口。
 これは小牛田駅や仙石線、仙石東北ラインからのSuica利用客に対応したものらしい。

 愛原:「えーと……あの人かな」

 海洋生物学の研究者で博士号を持った人だと聞いていたが、待ち合わせをしていた人物は、まるで釣り人のような姿をしていた。
 釣りの行き帰りなのではないかと思うくらい。
 年齢的にはうちの伯父さんと同じくらいだ。
 歳も近いので、意気投合しやすかったのだろう。

 愛原:「あ、すいません。佐々木先生ですか?」
 佐々木:「はい。私が佐々木和夫です。愛原さん達ですね?公一君の甥っ子の……」
 愛原:「あ、はい。そうです。愛原学と申します。こちらは助手の高橋とリサで……」
 高橋:「先生の信頼厚き助手1号、高橋正義と申します!」
 リサ:「先生の『お嫁さん』、愛原リサです!」
 佐々木:「ん!?」
 愛原:「こら、リサ!」
 高橋:「ざっけんじゃねぇ!」
 愛原:「あ、アハハハ……!あ、あの、こちらが名刺です」
 佐々木:「ほ、ほう……。東京で探偵をなさっておられるのですか……」
 愛原:「ひょんなことから、旧アンブレラの悪事を追うことになりまして、その調査を(今のところボランティアで)している最中です」
 佐々木:「なるほど。それで私に……」

 佐々木博士は眼鏡を押し上げた。

 愛原:「先生はこのカードに見覚えがあるそうですね?」

 私はタイラントが落とした日本アンブレラのカードを見せた。

 佐々木:「それです。確かに昔、そのカードを見ました」
 愛原:「お手数ですが、その時の状況を教えて頂けますか?」
 佐々木:「分かりました。誰が見ているか分かりませんで、取りあえず車まで行きましょう」

 私達は駅近くの駐車場に向かった。
 そこに停車しているワゴンRが佐々木博士の車だった。
 高齢者マークが貼られている、現行年式の青い車である。

 佐々木:「どうも歳を取ると、大きな車を回しにくくなりましてな……」
 愛原:「うちの伯父さんなんか、性懲りも無くプリウスをまた導入しましたよ?」
 佐々木:「何と。やるなぁ……」

 私が助手席、高橋とリサがリアシートに座っている。

 佐々木:「あれは今から10年以上前の話です。まだ、震災前の話ですな。私は海洋生物学の博士号をいつの間にか取ってしまいましたが、実際はただの釣りバカです。あの時も沖合で釣りを楽しむ為、鮎川漁港に行ってたんですよ」

 早朝、鮎川漁港から遊漁船に乗り込む為、佐々木博士はそこに向かった。
 行ってみると、船着き場には既に他の乗客達が遊漁船を待っていた。
 佐々木博士も一緒に遊漁船を待っていると、しばらくして船がやってきた。
 そして、他の乗客達に続いて自分も乗り込もうとしたが、何だか様子がおかしいことに気づいたという。

 佐々木:「普通、遊漁船というのは船長が1人であることが多いんです。しかしその船には船長の他に、2人の船員がいました。それも、何故だかヘルメットにゴーグルと防毒マスクといった出で立ちだったんです」
 愛原:「銃とかは持ってましたか?」
 佐々木:「そこまでは見ていませんでしたが……。で、その乗客達は乗り込む前、船員にカードを渡していたんです」
 愛原:「それがこのカード!?」
 佐々木:「はい。そして代わりに、金色のカードを受け取って乗っていました」
 愛原:「それはこのカードですかね?」

 私はリサに黄金色のカードを出させた。

 佐々木:「そうですね。こんな感じだったかもしれません。私は船を間違えてしまったものと思い、船員に確認したんです。そしたら……」

 船員達は殺気だって佐々木博士に詰め寄ってきたのだという。

 佐々木:「終いには、『見られたからには、こいつも連れて行こう』とか、『沖合で沈める』とか言ってきましたね。全速力で逃げましたよ。当然、釣りどころではありませんでしたからね」

 どうにか逃げ切った佐々木博士。
 急いで警察に駆け込むも、その船は全く見つからなかったという。

 佐々木:「今から思えば、あの乗客達も釣り客を装った関係者だったのかもしれません」
 愛原:「佐々木先生、お手数ですが、その現場まで案内しては頂けませんか?」
 佐々木:「構いませんよ。そうだろうと思って、車で来たんです」

 佐々木博士は車のエンジンを掛けた。

 佐々木:「それでは行きます」
 愛原:「お願いします」

 車は駐車場を出て、鮎川漁港へ向かった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「女川... | トップ | “私立探偵 愛原学” 「終焉... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事