報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「元日の東京駅」

2021-01-18 20:03:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月1日09:15.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京駅丸の内北口です」〕

 私達を乗せた都営バスが終点に着くと、少ない乗客達は中扉から下車した。
 もちろんその中に、私達もいる。
 菊川駅前から乗った時、元日にしてはそこそこ乗っていたバスも、門前仲町でぞろぞろ降りて行った。
 やはり、殆どが初詣客だったらしい。
 本来なら私達のような帰省客も終点か、或いは1つ手前の呉服橋バス停(東海道新幹線に乗り換えるなら、このバス停で降りた方が良い)までそこそこ乗っていていいだろうに、数少ないのは、そもそも帰省客自体が少ないからだろう。
 それほどまでにコロナ禍の影響は大きいのだ。

 愛原:「外は寒いな。だけど、仙台はもっと寒い。何しろ、雪が降ったって言うからな。というか、今も現在進行形で雪が降ってるらしい」
 リサ:「雪かぁ。1年生の時のスキー合宿以来だね」
 愛原:「そうか。リサ達は学校でスキー合宿があったんだったな」
 リサ:「そう!ガーラ湯沢」
 愛原:「で、昨年は無かったと」
 リサ:「修学旅行もね」

 修学旅行を決行した学校もあれば中止になった学校もあり、悲喜こもごもである。
 その代わり、東京中央学園では高等部に進学する今の中等部3年生に対し、その時できなかった修学旅行の代わりを計画しているらしい。
 中高一貫校ならではだ。
 但し、問題なのが高等部から入学してきた生徒をどうするかだ。
 東京中央学園は中等部を卒業して別の高校に進学する生徒も少数ではあるが存在し、またその逆も存在する。
 『1番』が通っていたとされる聖クラリス女学院のような、完全中高一貫校ではないのである。

 愛原:「今年は、せめて修学旅行くらい行けるようになれればいいな」
 高橋:「結局リサのウィルス、コロナの特効薬になれなかったっスねぇ……」

 新型コロナウィルスどころか、エボラ出血熱やHIVウィルスをも食い殺してしまうTウィルスとGウィルスであるが、どうしてもゾンビ化などを抑えることができず、計画が頓挫してしまった感がある。

 駅の中に入ると、吹き抜けの天井の下を歩く利用者の姿は少なかった。

 愛原:「ちょっとしたオペラハウスみたいな感じだろう?」
 高橋:「場所が場所なら、ここでボス戦って感じっスね」
 愛原:「或いはスタート地点か、セーブポイントになっているかもしれない」

 “バイオハザード”の世界では、エントランスホールは安全地帯になっている場合が多い。
 もちろん例外はあるし、スタート地点たるエントランスホールが、続編やスピンオフではラスボス戦の会場になる場合もある。

 愛原:「まずはキップを買おう。だけどその前に、いい加減どの列車に乗るか決めるか」
 高橋:「はい」

 私達は改札口の上にある発車標を見た。
 かつてはパタパタ式だっただろうが、今ではフルカラーLED式である。

 高橋:「9時36分発、“はやぶさ”13号、新函館北斗行きが1番先に出発しますね」
 愛原:「あれだとキップを買ってすぐにホームに行って、もう乗り込むといった感じだ。もう少し時間的余裕は欲しい。オマエだって、タバコ吸い溜めしたいだろう?」
 高橋:「た、確かに……」
 愛原:「実家への土産はその餅とお節料理でいいだろうが、公一伯父さんにはもっと別の物買って行こうと思う。何しろ、『6番』を倒した功労者なんだからな」
 高橋:「高齢者のプリウスアタックが、あんな所で役に立つとは思いませんでしたねぇ……。俺も助かりましたよ」
 リサ:「日に当たっただけで死ぬポンコツだっただけ。でも、さすがは先生の伯父様」
 愛原:「もう70代の老人なんだが……」
 リサ:「うん。お腐れ臭マジパねぇ!」
 愛原:「お腐れ臭とか言ってやるな」
 高橋:「先生、次のは9時40分発、“やまびこ”55号、盛岡行きっスけど……」
 愛原:「たった4分しか違わないか。もう少し余裕が欲しい」
 高橋:「それじゃあ、10時ちょうど発の“やまびこ”“つばさ”133号、仙台行きと……」
 愛原:「待て。確か山形新幹線を連結している“やまびこ”の場合、福島駅で切り離し作業をしている間に追い抜きをする“はやぶさ”とかがあったはずだ。いつもなら混んでいるから、むしろ前者の“やまびこ”にするところだが、今なら“はやぶさ”でもいいかもしれない」
 高橋:「さすが先生!名推理っス!まるで鉄道ダイヤのトリックを暴く殺人事件ドラマっスね!」
 愛原:「んな大げさな……。とにかく、券売機に行くぞ」

 私達は指定席券売機に向かった。
 そこでの端末の操作をリサが見ている。

 愛原:「よく見ておけよ?大人になって1人で旅行する時があったら、1人で新幹線の予約とかするんだからな?」
 リサ:「1人はヤだな……」
 愛原:「大人になったらの話だよ。善場主任だって、部下を連れていない時は1人で行動しているだろうが」
 リサ:「…………」

 私はタッチパネルを操作した。
 するとやはり、“やまびこ”“つばさ”133号の後すぐに出発する“はやぶさ”があった。
 “はやぶさ”15号で、しかも仙台止まり。
 それでもコロナ禍など無かったら満席に近い予約があっただろうに、座席表を見てみたらスッカスカだ。
 しかも秋田新幹線の車両まで連結している。
 供給過多状態だ。
 だが、本来なら、そこまでしないとすぐに満席になるような状態だったのだろう。
 私は秋田新幹線の車両を予約したい衝動に駆られたが、あいにくとそっちには3人席が無いので、東北新幹線の車両の3人席を押さえた。

〔発券しています。しばらくお待ちください〕

 乗車券の区間も同じせいか、キップは1人1枚ずつ出て来た。

 愛原:「よし。キップは1人1枚ずつ持とう」
 高橋:「何か、随分と時間が空きましたね」
 愛原:「これでも昼前には仙台に着いちゃうんだ。この土産は昼食で食べてもらうってことなりそうだな」
 高橋:「はい」

 私達は買ったばかりのキップを手に、東京駅のラチ内……改札内に入った。

 愛原:「東海道新幹線のラチ内と違って、こっちの新幹線ラチ内はあまり店が多いイメージじゃない。ので、この在来線ラチ内で買おう」
 高橋:「はい」

 恐らく東海道新幹線は改札口を入ったら、直にもう新幹線乗り場なので、そういうことになっているのだろう。
 しかしJR東日本側の場合は、在来線というワンクッションがあるので、店を在来線に集約しているのかもしれない。
 もちろん、駅弁やキヨスク自体は新幹線乗り場にはちゃんと存在する。

 高橋:「公一先生には何がいいんスか?」
 愛原:「公一伯父さんはああ見えて甘党だから、それ系のがいいな。『適度な糖分の補給は、脳を動かす潤滑油じゃ』って言ってたしね。まあ、オーソドックスに“ひよこ”辺りでも……。あ、いや、オーソドックス過ぎるか……」
 高橋:「逆にいっぱいあって選びにくいっスね」
 愛原:「年寄りだから、あんまり硬くてアゴを使うのは止めた方がいいな。……“ひよこ”の方がいいか?」

 私達のお土産選びは、良い時間潰しになった。
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“私立探偵 愛原学” 「愛原事務所の年始」

2021-01-18 14:39:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2020年12月31日23:45.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

〔「ほぉたぁ~るのひかぁ~り♪窓の雪~♪……」〕

 まもなく年が明けようとしている。
 NHK紅白歌合戦で“蛍の光”が流れると、そんな気にさせてくれる。
 台所では高橋が年越し蕎麦を茹でてくれている。

 リサ:「下りの“ひかり”♪名古屋行き~♪」
 愛原:「22時3分発、“ひかり”669号、名古屋行き発車致します。……ってか」
 高橋:「2人とも、何やってんスか」
 愛原:「もうすぐ今年も終わるねぇ……」
 リサ:「終わるねぇ……」
 愛原:「リサは年越し蕎麦食べたら、さっさと寝るんだぞ」
 リサ:「はぁーい」

 リサはそう答えると、大きな欠伸をした。
 完全にリラックスしているせいか、第1形態に戻っている。
 なので大きく口を開けると、牙が剥き出しになる。
 しばらく“ゆく年くる年”を眺めていると……。

 愛原:「そろそろカウントダウンだ」

 私がスマホを取り出すと、時計が23時59分を指している。
 そして……。

 愛原:「ほい、時間だ。2021年1月1日。明けまして、おめでとう!」
 リサ:「おめでとうございます!」
 高橋:「おめでとうございます!」
 愛原:「というわけで、これはお年玉」
 リサ:「おー!ありがとう!」

 クリスマスプレゼントとも相まって、額は【相場通り】。

 高橋:「先生。年越し蕎麦できました」
 愛原:「お~、さすがだな」

 といっても、掛けそばである。
 ネギとカマボコが乗っかっているくらい。
 だが、それがいい。

 愛原:「うん。コシがあって美味い」
 高橋:「あざっス」
 愛原:「食べたら、さっさと風呂入って寝よう」
 高橋:「はい」
 愛原:「リサから先に入っていいから」
 リサ:「分かった」

[2021年1月1日06:30.天候:晴 愛原のマンション]

 この時間に私は起きた。
 初日の出を拝む為である。
 着替えてからコートを羽織り、屋上へ向かう。
 まだ、日は昇っていなかった。

 高橋:「先生、おはようございまっス!」
 愛原:「高橋。別に寝てていいんだぞ。ってか、リサも……」
 リサ:「私も特殊部隊のヘリ、迎撃するー!」
 愛原:「ネメシスじゃないからな!ロケランもってないし!……そうじゃなくて、初日の出だよ」
 リサ:「ああ。去年も見た」
 愛原:「今年も拝もうと思ってね」

 そう話しているうちに、初日の出が昇って来た。

 愛原:「昇ったねぇ……」
 高橋:「昇りましたねぇ……」
 リサ:「私は太陽の下にいられる。太陽の下も歩けない化け物とは違う」
 愛原:「あれのメカニズムが分からんな。だけど、アンブレラが造るBOWは太陽の下でも大丈夫なのが多いな」
 リサ:「兵器として造るわけだから、夜しか活動できないなんて出来損ない過ぎるよ」
 愛原:「まあな。よし、戻って朝飯にしよう」
 高橋:「早速昨日ついた餅を食べましょう」
 愛原:「そうだな」

 私達は初日の出を拝むと、部屋に戻った。

[同日08:46.天候:晴 都営バス菊川駅前停留所→都営バス東20系統車内]

 朝食にお餅とお節料理を自分用に食べた。
 それから出発の準備をし、私達は最寄りのバス停に向かった。
 元旦ということもあり、通りを歩いている人も車も少ない。
 高橋は断熱バッグを持っていた。
 この中に、実家への土産用としてのお餅やお節料理が入っている。
 まるでウーバーイーツだな。
 しばらくしてバスを待っていると、フロント部分に国旗を交差させた物を装着したバスがやってきた。

 愛原:「これで行けばいいな」

 バスに乗り込む。
 後ろの空いている席に座った。

 高橋:「先生。乗る新幹線の目星、もう付いてるんですか?」
 愛原:「いや、まだだな。適当に空いてる列車でいいと思うよ」
 高橋:「そうですか」
 愛原:「だいたい、このバスだって時間通りに走るかどうか不明だし」
 高橋:「まあ、それもそうですね」

〔発車致します。お掴まりください〕

 ドアが閉まってバスが走り出す。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは東京都現代美術館前、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます〕

 意外にも乗客が多いのは、このバスが門前仲町に行くからだと分かった。
 そこには富岡八幡宮や成田山東京別院深川不動尊があり、そこへ初詣に行く人達が多く乗っているのだろう。
 富岡八幡宮は宮司が内ゲバ事件を起こし、呪いの遺書を残して自殺した曰く付きの場所であるが、未だに呪いは発動されていないようだ。
 1990年代だったら、呪いが発動したことになったかもしれない。


 愛原:「しかし、昨年もあっという間に終わったもんだ」
 高橋:「そうですね」
 愛原:「あと1ヶ月ちょっと経てば、もう節分だ。今年は2月2日だそうだ」
 高橋:「そうなんですか。節分……鬼……」
 リサ:「何でそこで私を見るの?」
 高橋:「リアル鬼がそこにいますけど、豆ぶつけていいんスよね?」
 愛原:「本人に聞いてみたら?」
 リサ:「節分が終わったら、鬼の逆襲」
 高橋:「リアル鬼はマグナム撃ち込まないと倒せないみたいですよ?」
 愛原:「それが、マグナムでも倒せないんだって」
 リサ:「ロケランだったら、私もヤバいかもね」
 高橋:「善場の姉ちゃんに頼んで、ロケラン借りていいっスか?」
 愛原:「何に使うんだって絶対聞かれるぞ?」
 高橋:「節分の豆まきっス」
 愛原:「多分却下されるだろうな」

 そもそもロケランで豆まきなんかできるわけがない。
 せいぜい、マシンガンかガトリング砲のいずれかだな。

 リサ:「私は恵方巻が食べたい。豆よりそっちの方がいい」
 愛原:「まあ、そうなるわな。それより、今はお節だ。早く向こうに行って食べないとな」
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“私立探偵 愛原学” 「愛原事務所の年末」

2021-01-18 12:07:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月29日15:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 善場:「……というわけでありまして、年末年始もBOWの脅威には注意しなければなりません。くれぐれも油断することのないよう、お願い致します」

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事納めの日。
 私と高橋は最後の打ち合わせに来ていた。
 結局今年、リサ・トレヴァー『1番』を倒すことはできず、新型BOWエブリンについてもその実体を掴むことはできなかった。
 それというのも、彼女達が全く動きを見せないからである。
 うちの『2番』のリサもそうだが、彼女達は人間に上手く化けて市井の中で暮らせる。
 それが却って捜索を困難なものにしていた。

 愛原:「分かりました。『1番』やエブリンの居場所、目星とかは付かないのですか?」
 善場:「今のところは……。聖クラリス女学院には、病気療養を理由に長期欠席をしている生徒がいまして、その生徒が『1番』である確率は高いです。しかし、療養先でもその姿を掴めず、目下のところ捜索中ということになります」

 『1番』もまた『2番』と同様、学校に通っていたので、そこまでは足が付いている。
 だが、学校にも行っていないと思われるエブリンについては全く分からない。

 善場:「とにかく、年末年始でも気を抜くことの無いようにお願いします」
 愛原:「分かりました」

 最後の打ち合わせが終わると、善場主任が話し掛けて来た。

 善場:「愛原所長は仙台に帰省されたりはしますか?」
 愛原:「年始に挨拶に行こうとは思っています。うちの伯父が用があるみたいなので」
 善場:「農学博士にして、大学の名誉教授でもある愛原公一氏ですか」
 愛原:「どうせロクでもない話でしょうがね」
 善場:「何か良い情報がありましたら、提供の方お願いしますね」
 愛原:「分かりました」

[同日18:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 愛原:「ただいまー」
 リサ:「お帰りなさい」

 私と高橋が事務所を閉めてマンションに帰ると、リサが留守番していた。
 リサ達も冬休みに入っている。

 愛原:「お?勉強していたのか?」
 リサ:「うん。冬休みの宿題。とっとと片付ける」
 愛原:「冬休みの宿題かぁ……。書き初めとかもあるのかな?」

 中学校だと無いか?
 いや、あるのかな。

 リサ:「あるよ。早速、下書きしてみた」
 高橋:「季節感全く無ェな。書き初めって、正月にやるもんだぞ」
 愛原:「まあ、そうだな」
 リサ:「いくつか書いたんだけど、どれがいい?提出するのは一部だけ」
 愛原:「どれどれ……」

 リサが書いた熟語は以下の通り。
 『勝訴』『不当判決』『共闘』『マル生打倒』『中出中継』『一審差戻』

 愛原:「ははは……」

 私はポンとリサの肩を叩いた。

 愛原:「もっと別なの書こうか。な?」
 リサ:「ダメ?」
 高橋:「確かにこれはちょっと……っスね。俺がいいネタ提供してやります」
 愛原:「『夜露死苦』とか『愛羅武勇』とかは無しな?」
 高橋:「何時代のゾッキーっスか!そんなんじゃないっスよ!」

 高橋がパパパッと書いたのは……。

 『少年法最強』『警察上等』『中出最高』『避妊不要』『速度無制限』『軽死庁』『都狂走』『関東連合足立支部江北地区本部』

 愛原:「……おい!」
 高橋:「ダメっスかね?」
 愛原:「ダメに決まってんだろ!」
 リサ:「先生は?先生は何かいいネタ無い?」
 高橋:「先生!是非、先生の最高のネタを!シクヨロっス!」
 愛原:「しょうがねーな」

 『出発進行』『場内中継制限』『場内進行』『運転抑止』『防護発報』『上番報告』『24勤務』

 リサ:「先生の趣味100%」
 高橋:「す、素晴らしいっス!さすが先生っス!リサ、これを学校に提出しろ!」
 リサ:「ヤだよ!」

 結局、『悪鬼滅殺』になった。
 鬼の姿になれるリサが、同じ鬼の姿になれる『1番』を倒すのが来年の目標になるからと……。
 ただこれ、後で聞いた話だが、栗原蓮華さんの書き初めとカブったらしい。
 尚、栗原家では他に、『広宣流布』『南無妙法蓮華経』『法華経』『多宝富士大日蓮華山』『破折屈伏』なんかも候補に挙がっていたという。

 高橋:「ネタも決まったところで、さっさと夕飯にしましょう」
 愛原:「頼むぞ」

 私は着替えをしに自分の部屋に行った。
 それからダイニングに戻ると、リサも部屋に戻ったようだ。
 私がテレビを点けてニュースを観ていると、コロナ禍で年末の帰省ラッシュはほぼ閑古鳥である旨が流れていた。
 これなら自由席に乗っても余裕だろう。
 JRにとっては火の車になりそうだが。

 高橋:「先生。御実家へのお土産は何にしますか?」
 愛原:「これから餅をついて、お節作るんだろ?それを持って行けばいいよ」
 高橋:「了解っス」

 高橋の人脈で杵と臼を毎年借りられる。
 これで餅をついて、年始はほぼ餅ばっかり食べるのが毎年のセオリーになってしまった。
 何でも高橋が収監中に身に付けたスキルなのだとか。

[12月31日15:00~18:00.天候:晴 愛原のマンション屋上→5F愛原の部屋]

 高橋:「でやぁーっ!」
 リサ:「ん!」
 高橋:「うぉらぁーっ!」
 リサ:「ん!」

 高橋が餅を突き、リサがこねる。
 これで来年の餅も完成だな。
 因みに外から帰って来たら、真っ先にエアコンの下に避難するリサ。
 寒さはへっちゃらのBOWのはずだが、さすがに今冬は寒いらしい。
 日本海側の方は雪害が大変みたいだしな。

 高橋:「これから年越し蕎麦を打ちますんで、期待しててください」
 愛原:「毎年スマンね。俺が1人だった頃はカップ蕎麦で済ませていたものだが……」
 高橋:「俺が弟子になったからには、先生に季節感を楽しんで頂きますよ!」
 愛原:「それはありがたい」
 リサ:「私も頑張るー」
 愛原:「うん。因みにお雑煮とかは実家で作ってくれるみたいだし、お節も実家が用意するみたいだよ」
 高橋:「まあ、確かに汁物はあれなんで、先生の御実家へのお土産はお餅とお節にしましょう」

 昨年末は斉藤絵恋さんが遊びに来て、紅白で歌われたパプリカをリサと一緒に踊っていた記憶があるが、今年はそれも無し。
 本当に自粛の年末だ。

 高橋:「明日はいつ出発しましょう?」
 愛原:「自由席で十分なくらいガラガラだからな。ましてや、元日は元々空いてるし。あれだ。東京駅まで行く都営バスの始発で行こう」
 高橋:「元日だから、特別ダイヤとかじゃ?」
 愛原:「いや、普通の休日ダイヤらしな」
 高橋:「そうですか。じゃあ、お節はそれに合わせて作っておきます」
 愛原:「頼むよ」

 こうして、私達の2020年は地味に終わろうとしていた。
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