報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「終焉の始まり」

2021-01-26 19:59:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日15:15.天候:晴 宮城県石巻市鮎川浜南 鮎川港]

 私達は佐々木博士の車で石巻市郊外の鮎川港に向かった。
 ここは宮城県の牡鹿半島の先にある港町である。
 石巻市の市街地から車で飛ばして1時間ほど掛かる場所にある。

 佐々木:「もう震災の後だから、だいぶ変わってしまいましたね」
 愛原:「それもそうですよね」

 それでも船着き場の方に行くと、多くの漁船が係留されていた。
 この辺りも東日本大震災の大津波の被害を受けた場所なのだ。

 愛原:「それで先生、だいたいどの辺りなんですか?」
 佐々木:「少し変わってしまいましたが、この辺りですよ」

 私達は“おしかホエールランド”の更に海側の道を走っている。

 佐々木:「金華山行きの船の乗り場も変わってしまいました」

 私達は車を止めて、なるべく船着き場に近い所を歩いた。
 少しでも佐々木博士の記憶を呼び戻す為だ。

 愛原:「あの船で、他に何か気づいたこととかはありませんか?」
 佐々木:「そうは言いましてもねぇ……」
 愛原:「例えば船員のこんな所がおかしかったとか、釣り客達のこんな所がおかしかったとか……」
 佐々木:「そういえば、釣り客達は会話が本当に釣り客のようでした。普通、遊漁船に乗り合わせる客というのは、顔見知りなんていないわけですが、その釣り客達は全員が顔見知りといった感じでした。それもまた、『あれ?違うのかな?』と思った次第です」
 愛原:「その釣り客達、アンブレラを匂わせるようなことは話していましたか?」
 佐々木:「いいえ。本当に釣りの話です。だから私は最後まで、アンブレラのこととは知らなかったわけです」

 その釣り客達は関係者だったのだろうか?
 それとも、知らずに集められた本当の釣り客だった者達なのだろうか。
 可能性は両方有り得る。
 前者だと、本当にアンブレラの関係者達が『出勤』する為に釣り客を装って集まっていたこと。
 もちろん、自分達の勤める施設へ通勤する為だ。
 後者だと、被験者として集められた可能性。
 アンブレラは裏で人体実験を平気で行うような組織であった。
 もちろん、新薬開発の為に、生きている人間に被験者になってもらうことは普通にある。
 そのバイトが普通に募集されているくらいだ。
 しかしアンブレラの場合は動物実験に成功した開発中の新薬を、今度は人間で試験するというものに留まらなかった。
 ナチスドイツもびっくりの非人道的な人体実験を繰り返していたのである。
 その結果としてできたのが、ここにいるリサだ。

 愛原:「ここの港の人達は、知ってるんですかね?アンブレラの船がここから出ていたことは……」
 佐々木:「恐らく知らないでしょう。漁船は数多く出ているようで、それに紛れて出港しようとしていたわけですから。実際に間違ってその船に乗ろうとした私を抹殺しようとしていたくらいですから、当然地元民にも知られてはいけないと思っていたはずです」
 愛原:「なるほど……」

 でもこれで、旧アンブレラの船がこの港から出ていたことまでは突き止められた。
 あとのことは善場主任達に託せばいいだろう。
 民間探偵業者としてできることは、ここまでだ。
 あとは報告書に纏めて、善場主任に渡せばびっくりしてくれるだろう。

 愛原:「ありがとうございました。これでまたアンブレラの悪事を暴くことができそうです」
 佐々木:「いや、何の何の。こちらこそ、年寄りの暇つぶしに付き合って頂いて、ありがとうございます」

 私達は漁港の写真を撮ってから車に戻ろうとした。

 リサ:「待って!何か来る……!」
 愛原:「なに!?」

 リサが耳を澄ませる。
 佐々木博士がいるので、第1形態以降に変化はできない。

(BGM:“終焉の始まり” https://www.youtube.com/watch?v=BayW7aXI0zI)

 

 リサ:「上っ!!」

 リサがそう叫ぶと、陸揚げされている捕鯨船の舳先から何かが飛んで来た。
 それはコンクリートブロック。

 愛原:「先生、危ない!」

 それは佐々木博士の所へ飛んで来た。
 私が咄嗟に博士を庇う。
 そして、それをリサもはじき返した。
 この時、リサは右手だけ変化していた。
 最近は随分と器用に一部だけ変化させたりということができるようになった。

 ???:「あーあ、避けられちゃったかぁ!」

 捕鯨船の上から無邪気な女の子の声が聞こえたかと思うと、そこからヒラリと飛び降りてきた。
 それはリサ・トレヴァーだった。
 もちろんアメリカのオリジナル版ではなく、日本版である。
 セーラー服を着て、白い仮面を着けていたからだ。

 愛原:「リサ・トレヴァーか!?」
 リサ・トレヴァー:「ん?あんた達、なに?」

 リサ・トレヴァーは右手に鉄パイプを持って、それを肩の後ろに回してトントン叩いていた。
 あんな華奢な体でコンクリートブロックをぶん投げ、そして何十キロもある鉄パイプを軽々と持っているのだから、やはり相手は人間ではない。

 愛原:「お前こそ、何だ?『何番』だ!?」
 リサ・トレヴァー:「ん?アタシのこと知ってるの?どこかで会った?」

 うちのリサよりは身長が高く、声の感じからしてハイティーンと思われる。
 だが、『1番』でないことは確かだ。
 その辺りはがっかりだが……。

 愛原:「いや、多分初めて会っただろう。だが、リサ・トレヴァーのことは他のどの人間よりも知っているつもりだ」
 リサ・トレヴァー:「?」
 愛原:「こっちにも本物がいるからな」
 リサ:「…………」

 リサは眉を潜めたまま、無言で鞄の中から同じ白い仮面を取り出すと、それを着けた。

 リサ・トレヴァー:「同胞!?」
 リサ(『2番』):「私もリサ・トレヴァー。ナンバリングは『2番』。あなたは?」
 リサ・トレヴァー:「どうして『2番』がここにいるの!?聞いてない!」
 『2番』:「いいから答えろ。オマエは『何番』だ?どうしてここにいる?」

 番号までは分からないが、恐らく彼女の目的は……。

 リサ・トレヴァー:「くっ!ならばせめて……!」

 リサ・トレヴァーは左手から触手を出すと、それを鎗のように佐々木博士に向かって突き出した。
 が!

 『2番』:「私の正体がばれた責任、オマエが取れよ……!」

 うちのリサもまた右手から触手を出して、相手の喉と額に突き刺していた。
 その速さ、硬さ、長さといい、うちのリサの方が上回っていた。

 リサ・トレヴァー:「かはっ……!」
 愛原:「やはり佐々木先生を狙っている!?」
 佐々木:「ば、バカな!?」

 やはりうちのリサは強かった。
 きっとここに現れたリサ・トレヴァーも、本来ならボスクラスだったのだろう。
 しかし、うちのリサの前ではザコ同然だ。
 そんなリサでも勝てるかどうか分からないという『1番』は、本当に強いのかもしれない。
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“私立探偵 愛原学” 「謎の遊漁船」

2021-01-26 16:07:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日13:21.天候:晴 宮城県牡鹿郡女川町 JR女川駅→石巻線1634D列車先頭車内]

 あいにくと女川町内では有力な情報を手に入れることができなかった私達。
 しかし公一伯父さんから情報提供があった。
 日本アンブレラのカードについて知っている人物が知り合いにいるといい、それが石巻市内に住んでいるので、紹介してくれるという。
 私達は列車の時間に合わせて女川駅に向かった。

〔ピンポーン♪ この列車は石巻線、石巻、前谷地方面、各駅停車の小牛田行きワンマンカーです。浦宿、沢田、万石浦の順に各駅に停車致します。まもなく、発車致します〕

 1台しかない券売機で石巻駅までの乗車券を買い(小牛田駅と石巻駅にしかSuicaは対応していない為)、それで石巻駅に向かうことにした。
 列車は相変わらず2両編成の気動車であったが、往路と違い、2両で1編成のものではなく、1両編成を2両繋いだタイプであった。
 運転席の窓から運転士が顔を出して、乗車客の有無を確認するのは同じ。
 ワンマン列車ならではの光景か。
 列車は定刻通りに発車し、ディーゼルエンジンの唸り声を響かせる。
 すぐ進行方向左手にトレーラーハウス群のホテル施設が見える。
 町の主要な駅前にホテルがあるのはベタな法則だが、それがシティホテルやビジネスホテルではないというのは珍しいかもだ。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は石巻線、石巻、前谷地方面、各駅停車の小牛田行きワンマンカーです。これから先、浦宿、沢田、万石浦の順に各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、浦宿です〕

 高橋:「名誉教授のお知り合いって、どんな方なんですか?」
 愛原:「伯父さんの大学で、海洋生物学の研究をしていた人らしい。伯父さん自身も釣りが好きだから、それで意気投合したらしいよ」

 その割に伯父さん、内陸の美里町に住んでるんだけどな。

 愛原:「駅前で待ち合わせをしているから、それで話を聞こう」
 高橋:「うっス」

[同日13:47.天候:晴 宮城県石巻市 JR石巻駅]

〔ピンポーン♪ まもなく、石巻です。石巻では全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、定期券は駅の自動改札口をご利用ください。運賃、整理券は駅係員にお渡しください。石巻から仙石線、仙石東北ラインはお乗り換えです〕

 女川駅から石巻駅まで、約25分で到着する。
 恐らくここでも列車はすぐには発車せず、長い停車時間が取られているのだろう。
 単線非電化路線の宿命か。
 列車が3番線に到着し、他の乗客がドアを開けると、私達も席を立った。
 やはり、殆どの乗客がこの駅で降りて行く。
 石巻線の乗客の流れは、この石巻駅を中心とするらしい。

 愛原:「改札口は1つしか無いから、迷うことは無いな」

 首都圏でも見慣れたSuica対応の自動改札口。
 これは小牛田駅や仙石線、仙石東北ラインからのSuica利用客に対応したものらしい。

 愛原:「えーと……あの人かな」

 海洋生物学の研究者で博士号を持った人だと聞いていたが、待ち合わせをしていた人物は、まるで釣り人のような姿をしていた。
 釣りの行き帰りなのではないかと思うくらい。
 年齢的にはうちの伯父さんと同じくらいだ。
 歳も近いので、意気投合しやすかったのだろう。

 愛原:「あ、すいません。佐々木先生ですか?」
 佐々木:「はい。私が佐々木和夫です。愛原さん達ですね?公一君の甥っ子の……」
 愛原:「あ、はい。そうです。愛原学と申します。こちらは助手の高橋とリサで……」
 高橋:「先生の信頼厚き助手1号、高橋正義と申します!」
 リサ:「先生の『お嫁さん』、愛原リサです!」
 佐々木:「ん!?」
 愛原:「こら、リサ!」
 高橋:「ざっけんじゃねぇ!」
 愛原:「あ、アハハハ……!あ、あの、こちらが名刺です」
 佐々木:「ほ、ほう……。東京で探偵をなさっておられるのですか……」
 愛原:「ひょんなことから、旧アンブレラの悪事を追うことになりまして、その調査を(今のところボランティアで)している最中です」
 佐々木:「なるほど。それで私に……」

 佐々木博士は眼鏡を押し上げた。

 愛原:「先生はこのカードに見覚えがあるそうですね?」

 私はタイラントが落とした日本アンブレラのカードを見せた。

 佐々木:「それです。確かに昔、そのカードを見ました」
 愛原:「お手数ですが、その時の状況を教えて頂けますか?」
 佐々木:「分かりました。誰が見ているか分かりませんで、取りあえず車まで行きましょう」

 私達は駅近くの駐車場に向かった。
 そこに停車しているワゴンRが佐々木博士の車だった。
 高齢者マークが貼られている、現行年式の青い車である。

 佐々木:「どうも歳を取ると、大きな車を回しにくくなりましてな……」
 愛原:「うちの伯父さんなんか、性懲りも無くプリウスをまた導入しましたよ?」
 佐々木:「何と。やるなぁ……」

 私が助手席、高橋とリサがリアシートに座っている。

 佐々木:「あれは今から10年以上前の話です。まだ、震災前の話ですな。私は海洋生物学の博士号をいつの間にか取ってしまいましたが、実際はただの釣りバカです。あの時も沖合で釣りを楽しむ為、鮎川漁港に行ってたんですよ」

 早朝、鮎川漁港から遊漁船に乗り込む為、佐々木博士はそこに向かった。
 行ってみると、船着き場には既に他の乗客達が遊漁船を待っていた。
 佐々木博士も一緒に遊漁船を待っていると、しばらくして船がやってきた。
 そして、他の乗客達に続いて自分も乗り込もうとしたが、何だか様子がおかしいことに気づいたという。

 佐々木:「普通、遊漁船というのは船長が1人であることが多いんです。しかしその船には船長の他に、2人の船員がいました。それも、何故だかヘルメットにゴーグルと防毒マスクといった出で立ちだったんです」
 愛原:「銃とかは持ってましたか?」
 佐々木:「そこまでは見ていませんでしたが……。で、その乗客達は乗り込む前、船員にカードを渡していたんです」
 愛原:「それがこのカード!?」
 佐々木:「はい。そして代わりに、金色のカードを受け取って乗っていました」
 愛原:「それはこのカードですかね?」

 私はリサに黄金色のカードを出させた。

 佐々木:「そうですね。こんな感じだったかもしれません。私は船を間違えてしまったものと思い、船員に確認したんです。そしたら……」

 船員達は殺気だって佐々木博士に詰め寄ってきたのだという。

 佐々木:「終いには、『見られたからには、こいつも連れて行こう』とか、『沖合で沈める』とか言ってきましたね。全速力で逃げましたよ。当然、釣りどころではありませんでしたからね」

 どうにか逃げ切った佐々木博士。
 急いで警察に駆け込むも、その船は全く見つからなかったという。

 佐々木:「今から思えば、あの乗客達も釣り客を装った関係者だったのかもしれません」
 愛原:「佐々木先生、お手数ですが、その現場まで案内しては頂けませんか?」
 佐々木:「構いませんよ。そうだろうと思って、車で来たんです」

 佐々木博士は車のエンジンを掛けた。

 佐々木:「それでは行きます」
 愛原:「お願いします」

 車は駐車場を出て、鮎川漁港へ向かった。
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