報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「御開扉」

2019-05-28 19:04:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日13:30.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・奉安堂]

 ターコイズブルーの座席に並んで座る信徒達。
 その中に稲生や鈴木も含まれている。

 稲生:「この座席のシートピッチは約90……」
 鈴木:「先輩、メジャーで測らないでくださいよ。恥ずかしいな」
 稲生:「ゴメンゴメン。前々から気になっててさぁ……」
 鈴木:「新幹線の自由席並みにはありますね」
 稲生:「そうだね。どちらかというと、E2系並みの980ミリくらい?」
 鈴木:「そのくらいだと思います」

 進行係:「御開扉に先立ちまして、注意事項を申し上げます。……」

 進行係の御僧侶がマイクで信徒達に注意事項を読み上げる。
 それまでワイワイガヤガヤやっていた信徒達も、これでだいぶ静かになるわけだ。

 鈴木:「今日は平日だから、たまに騒ぐガキがいなくていいですよ」
 稲生:「顕正会じゃ、隔離されてるもんねぇ……。高校生にならないと入信できないってことは、高校生になる前までは救われないってことになるからね」
 鈴木:「全くですな」

 しばらくして、ぞろぞろと僧侶席の左右の扉から御僧侶達がやってくる。
 あれにも席次が決まっているらしいが、あまり詳しく話すと【お察しください】。
 猊下の御着席される場所が固定されているのは当たり前だが。
 で、御僧侶のマイクによる先導で唱題が始まる。
 最後に猊下が来られ、猊下席に着かれると、鉄扉と呼ぶに相応しい鎧戸が重々しく開く。
 外側のは左右に、内側のは上下に開閉するタイプだ。

 稲生:(顕正会の青年会館にも、左右に開閉する鉄扉タイプのものがあったな……。あれを見て、逆に『宗教団体らしくなったなぁ』と思ったっけ)

 かくいう作者がそう。
 おかしな話だが、今から思えば、『新興宗教から伝統宗教っぽくなった』という意味合いでそう思ったのだろう。
 もちろん、ただの勘違いであるが。
 実際の伝統宗教は、もっと壮大なものである。
 二重の鉄扉が開くと、大きな仏壇が現れる。
 恐らく、高さは2メートル以上あるだろう。
 仏壇の前まで行って実際に観音扉を開く係の御僧侶と対比をしてみても、とても大きいものだと分かる。
 しかもこの仏壇には閂が掛けられており、係の御僧侶が恭しくその閂を外して、観音扉を開ける。
 すると、更に中には御厨子があって、その扉も開けて、ようやく大御本尊が信徒達の前に現れるのだ。
 その最後の御厨子の扉が開いた瞬間、唱題は終わる。
 それから猊下の先導で、読経が始まる。
 この流れは普段の勤行の五座三座とは違うものであり、どういうものなのかは実際に御受誡・御勧誡の上、体験されたし。

 それから15分から20分経ち、稲生に異変が起き始めた。

 稲生:(な、何だ……?魔か……?)

 それは妙法蓮華経如来寿量品第十六の自我偈を3回読み終わり、唱題に入ってからのことだった。
 それまで何ともなかった稲生に酷い睡魔が襲い掛かり、また鈍い頭痛が起き始めた。
 しかも、ただの睡魔や鈍痛ではない。
 脳裏にフラッシュバックのように、エレーナが映し出された。
 それは恐らくエレーナが昔、“魔の者”に憑依されたマフィアとボスと戦っている時の描写。
 背中にマシンガンの銃撃を受け、危うく死にかけたとのことだ。
 その時の被弾の痕は、今も背中に残っている。
 魔道士のローブが防弾スーツ代わりになったおかげで死にはしなかったが、さすがに重傷は負って血だらけになったということだった。

 稲生:(何でこんな場面が……?)

 稲生が混乱していると、猊下の鈴が力強く鳴った。
 それで稲生、ハッと正気に戻る。

 猊下:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 稲生:(一体、何が起きるというんです?エレーナに何かが起こるんですか?)

 いくら“魔の者”に憑依されたとはいえ、一大組織のマフィアのボスを殺したのだ。
 その後で組織は警察機関の介入を受けてズタズタになったわけだが、全員が逮捕されたわけではあるまい。
 中には未だに逃亡中で、エレーナの所業に大きな恨みを持った残党が報復に行くかもしれない。
 何しろ、北朝鮮の工作員の侵入を許していた国だ。
 マフィアの侵入も簡単に許すかもしれない。
 マフィアの構成員そのものはブロックできても、その息の掛かっているだけの者は可能だろう。

 猊下:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 稲生:(答えてください!エレーナに何が起こるというんですか!?マフィアの報復ですか!?)

 だが、稲生がいくら呼び掛けても、(当たり前だが)大御本尊からの回答は無かった。

[同日14:15.天候:晴 大石寺・奉安堂外]

 鈴木:「いやあ、顕正会の日曜勤行より達成感のある自行ですねぇ!」
 稲生:「うん……」
 鈴木:「先輩、大丈夫ですか?さっき唱題の時、ウツラウツラしてましたよ?」
 稲生:「ああ、うん……大丈夫……」

 建物の外に出て、石畳の上を歩く。

 鈴木:「今日は天気がいいから、富士山がよく見えますよ!」

 鈴木は手持ちのスマホで富士山の写真を撮った。

 鈴木:「エレーナに後で見せてあげよう!」
 稲生:「エレーナ……」
 鈴木:「さすがに富士山をじっくり眺めたことは無いみたいですからね!」
 稲生:「鈴木君、そのエレーナのことなんだけど……」

 奉安堂入口の門も出てから、稲生は鈴木に御開扉の際、自分の身に起きたことを話した。

 鈴木:「えっ、エレーナが!?」
 稲生:「そうなんだ。何だか、嫌な予感がする」
 鈴木:「分かりました!すぐにエレーナに連絡を取ります!」

 鈴木は自分のスマホを出した。

 稲生:「キミはエレーナと個人的な連絡先も交わしたのかい?」
 鈴木:「もちろん!」
 稲生:(もしかしたらエレーナのヤツ、鈴木君のことは満更でもないのかも……)
 マリア:「勇太」
 稲生:「えっ!?」

 突然背後から声を掛けられ、振り向くとそこにいたのはマリアだった。
 マリアだけではない。
 ルーシーにゼルダ、ロザリーも一緒だった。

 稲生:「マリアさん!?えっ、どうして?朝霧高原とかで観光するはずじゃ?」
 マリア:「それなんだけど、ちょっと困ったことになって……」
 稲生:「困ったこと?」
 鈴木:「先輩!エレーナが電話を代われと言ってます!」
 稲生:「ああ、分かった。……もしもし」
 マリア:「エレーナがどうかしたのか?」
 鈴木:「実はさっき先輩が……」

 必死にエレーナに危険予知を訴える稲生。
 鈴木の説明に驚いて稲生を見るマリア。
 日本語が分からず、この3人がどうして驚いているのか分からない魔女3人。
 魔の手は確実に高速で迫って来ていた……。
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“大魔道師の弟子” 「添書登山」

2019-05-28 16:48:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日10:40.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・登山事務所]

 BGM:“ZUN’s Music Collection”より、“蓬莱伝説”。
 https://www.youtube.com/watch?v=sm4bd7d9N9c

 

 稲生と鈴木を乗せた登山バスが大石寺に到着する。

 

 鈴木:「いやあ、総本山から眺める富士山は格別ですなぁ」
 稲生:「いや、全く」
 鈴木:「顕正会じゃ、富士山すら見えない」
 稲生:「ま、そりゃそうだろうね」

 バスから降りて、他の登山者と同様、添書を手に登山事務所へ向かう2人。

 御僧侶:「……それでは2000円の御開扉御供養をお願いします」
 稲生:「はい」

 創価学会破門前は券売機で行っていた御供養と内拝券のやり取り。
 破門直前は大人1600円、子供800円だった。
 効率的だが、何だか味気ないように思える。
 現在は登山事務所において、カウンター越しに係の御僧侶から直接御供養と内拝券をやり取りする。
 末寺で発行された添書を係の御僧侶に渡し、御供養も渡す。
 すると内拝券が発行されるので、それを手に背後の記帳台に移り、鉛筆で教区番号と所属寺院名を記入する。
 券の上にはパンチで開けた穴があって、そこに紐を通して結び、首から下げられるようになっているのだが、稲生と鈴木は既に内拝券入れを持って来ていた。
 これはその名の通り、内拝券用のパスケースである。
 これも首から掛けられる。

 御僧侶:「本日は報恩坊にて布教講演がございますので、ご参加ください」
 稲生:「報恩坊さん?ですか?」
 御僧侶:「はい」
 稲生:「分かりました」

 ※現実には5月13日、報恩坊では布教講演は行われていない。あくまで、フィクションです。

 鈴木:「先輩、行きましょう」
 稲生:「ああ、うん。(登山事務所から遠くない?)」

 2人は登山事務所を出ると、北の方にある塔中坊に向かった。

[同日11:20.天候:晴 大石寺・報恩坊]

 

 稲生:「えーと……。ここだな」
 鈴木:「奉安堂から近いですね」
 稲生:「うん、まあね。それにしても、広い境内だ」
 鈴木:「これでも広宣流布が来たら、手狭になるんですよね」
 稲生:「らしいね。広宣流布後の大石寺がどんなものなのか、それは想像つかないけど……」
 鈴木:「夏と冬のコミケ会場に行けば、だいたい分かりますよ。きっと、あんな感じなんだなって」
 稲生:「コミケか!さすがにコスプレして、大御本尊様の前には出れないよ?」
 鈴木:「先輩、あくまでもコスプレはサブであって、メインではないですからね?」

 とはいえ、今の鈴木の発言はコスプレイヤーの半分を敵に回す発言でもある。
 が、それに反論すると、今度は薄い本メインの参加者の反感を買うという……。

 鈴木:「塔中坊では漏れなく正座形式なんですね。末寺だと椅子席が半分くらいありますけど……」
 稲生:「そうみたいだね」

 元顕の2人は正座には慣れているが、鈴木だけ何だか煌びやかな正座椅子を使っている。
 これも顕正会時代から使っているものだという。

 進行係:「それでは御題目三唱を致します」

 布教講演が始まる前、奉安堂に向かって御題目三唱をする。
 大広間で行われると、実質的に報恩坊の本堂にも向かって三唱することにもなる。

[同日12:00.天候:晴 大石寺・売店(仲見世商店街)]

 布教講演が終わると、鈴木は報恩坊にも御供養を置いて行った。

 稲生:「さすがは鈴木君だね」
 鈴木:「顕正会でもだいぶ金を使っていたんですよ。恥ずかしい話です」
 稲生:「結局は浅井ファミリーの生活費に消えるもんね。ここは違う」
 鈴木:「そうそう。昼飯、何食べます?」
 稲生:「まあ、やっぱり“なかみせ”だろう」

 平日なので登山者数は少なかったが、日本人よりも外国人の方が多い感じだ。
 それも、アジア系が。

 

 稲生:「やっぱこれだな」
 鈴木:「先輩、カレー好きなんですか?」
 稲生:「まあね。芙蓉茶寮のカレーも美味かったけど、これに匹敵するものがここにあった」
 鈴木:「芙蓉茶寮、確かに味は悪くなかったんですけどねぇ……。特盛なんか、『御飯が止まらなーい!』なんて言って、なかなか芙蓉茶寮から出なかったものです」
 稲生:「徳森茂雄さんですか。愛称、『特盛さん』。あの人も塔中坊所属なんですって?」
 鈴木:「そうなんですよ。彼女と一緒に御受誡したらしいんですが、一体どこの所属なんだか……」
 稲生:「妙観講?それともさっきの報恩坊?」
 鈴木:「いや、妙観講では無かったと思いますねぇ。あいつ、妙観講員にボコボコにされてましたから」
 稲生:「は!?」
 鈴木:「あ、いや何でも……。エリもエリで、『オメーラ、フザけんじゃねぇ!何が妙観講だ!ヒック!』なんて」
 稲生:「酔っぱらってたんかい!」

[同日12:45.天候:晴 大石寺・大日蓮出版販売所]

 昼食が終わった後で、同じ並びにある大日蓮出版の販売所に向かう。

 鈴木:「んー、これこれ。“妙教”と“大日蓮”。こういう機関誌もよく読んでおかないとですね」
 稲生:「僕は“大白法”と“慧妙”がせいぜいだなぁ……」
 鈴木:「先輩、“慧妙”読んでるんですか?」
 稲生:「一応ね。最近は顕正会に対する破折記事が多いから、そういった意味では“大白法”より使えるかもね」

 但し、顕正会の中では“慧妙”は日蓮正宗の機関紙というより、妙観講単体の機関紙というイメージが強い為(間違ってはいない)、受け取りを拒否られる場合もある。
 顕正新聞は押し付けて来るくせに……。

 鈴木:「六巻抄も買って行こう」
 稲生:「結構、勉強熱心なんだね?」
 鈴木:「顕正会には御書が無いでしょう?でも何故か六巻抄はありました」
 稲生:「あったね!」
 鈴木:「しょうがないので、それで教学の勉強をしていたつもりなんですが、日蓮正宗で出しているものも読んでみたかったんですよ。そして、顕正会との違いをここでも見出してみようかと思いまして」
 稲生:「なるほどね。破折に使えるってわけか」

 因みに頒価も同じであるが、それの意味するところは【お察しください】。
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“大魔道師の弟子” 「こだま637号」

2019-05-26 20:36:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日07:43.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東海道新幹線ホーム]

〔まもなく14番線に、7時56分発、“こだま”637号、新大阪行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車までと13号車、14号車、15号車です。……〕

 ホームに落ち着いた感じの中年女性の声の自動放送が流れる。
 東北新幹線ホームと違うのは、英語放送が付いていないことだ。
 この理由については、今も分からない。

〔「14番線、お下がりください。7時56分発、“こだま”637号、新大阪行きの到着です。安全柵から離れてお待ちください」〕

 但し、駅員が肉声で英語放送はする。
 ただ、お世辞にも上手いと言えるかどうかは【お察しください】。
 しばらくして、列車が入線して来る。
 16両編成という長編成で、自由席のある前の車両が停車する所で待っていると、結構高速で入線してくる感じだ。
 大井車両基地から整備済みの車両を回送して来たのか、既に座席は進行方向を向いている。
 つまり、回送で来る時には座席は反対方向を向いているわけだ。
 これは逆もまたしかり。
 東京到着の列車が回送で大井基地まで戻る時は、いちいち座席は回転させずに回送する。

 稲生:「N700だ」
 鈴木:「ぶっちゃけ今、普通の700系って走ってるんですか?」
 稲生:「JR西日本のだったらあるかもね」

 尚、鈴木は稲生にルーシー達を紹介された。
 鈴木は外国語が喋れないのだが、そこは富裕層。
 ポケトークを使って、瞬時に日本語をイギリス英語に通訳する。
 もちろんそれで通じたのだが、ルーシーは自分達は魔法で通訳できるからと使用を拒否られた。
 握手もまたルーシーが険しい顔をして応じたのだが、ゼルダとロザリーは応じなかった。

 列車が停車し、安全柵のドアが開く。
 その際に鳴り響くメロディは“乙女の祈り”。

〔「14番線、ドアが開きます」〕

 車両のドアが開いて、稲生達は自由席車両に乗り込んだ。
 “のぞみ”や“ひかり”の自由席は車両が少ないせいか混んでいるが、“こだま”は空いている。

 鈴木:「向かい合わせにしましょうか?3人席も向かい合わせに……」
 マリア:「いや、いいよ。ルーシー達はこっちの3人席に座って。私は前の席に座る」
 ルーシー:「分かった」

 マリアが3A、稲生が3B、鈴木が3C、ゼルダが4A、ロザリー4B、ルーシーが4Cといった席順。

〔ご案内致します。この電車は“こだま”号、新大阪行きです。新大阪までの各駅に停車致します〕

 席に座ると、駅の売店で買った弁当やお茶をテーブルの上に出す。

 鈴木:「車だとこういう楽しみがありませんからねぇ……」
 稲生:「サービスエリアに途中寄って食べる感じ?」
 鈴木:「そうです。何だかその時間が勿体無いと思いましてですねぇ……」
 稲生:「情緒はあるけど、あまり御登山の往路で情緒に拘ると、後でガチ勢に何言われるか分かんないからなァ……」
 鈴木:「いや、全くです」

[同日07:56.天候:晴 東海道新幹線637A1号車内]

〔「レピーター点灯です」〕

 発車の時間が迫り、ホームに発車メロディが鳴り渡る。
 これはかつて、“のぞみ”用の300系電車で車内チャイムとして流れていたものだ。

〔14番線、“こだま”637号、新大阪行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよし!乗降よし!14番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ブー!というけたたましい客終合図のブザーが聞こえて来る。
 これでもって、車掌がドアを閉めるのである。
 と、同時に安全柵のドアが再び“乙女の祈り”を流しながら閉まる。
 そして、列車がスーッと走り出した。
 14番線と15番線ホームは元々東北新幹線用のホームとして用意されていたものなので、東北新幹線ホームと並行している。
 その分、他の東海道新幹線ホームよりも曲がっている。
 それが発車時の速度制限に影響があるのか分からないが、ポイント通過の関係もあるのか、ある程度の速度まで達した所で加速が止まった。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“こだま”号、新大阪行きです。新大阪までの各駅に停車致します。次は、品川です〕

 JR東海の車両における車内チャイムは、TOKIOの“AMBITIOUS JAPAN”。
 始発と終点ではイントロ部分が流れる。
 途中停車駅の場合は、サビの部分らしい。

 稲生:「マリアさん。新富士駅からバスがありますので、これで……」
 マリア:「分かった」

 稲生はマリアにバスの乗り場や時刻を教えてあげた。

 稲生:「これで帰りはまた新富士駅で待ち合わせして、また皆で東京に戻ればいいと思います」
 マリア:「そうだな」

[同日09:07.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]

 新横浜〜小田原間は駅間距離が長いので、“こだま”でも最高速度の285キロで走行する。
 また、地平区間でもあるので、結構なスピード感もある。
 初めて高速列車に乗ったルーシー達は、このスピードに驚喜した。
 ホウキでもここまでのスピードは出せない。
 ドラゴンで飛行する場合は、新幹線並みのスピードなのだそうだ(ドラゴンの種類による)。
 そして、右手の車窓に富士山が見えてきた時、空いている2人席の窓から写真を撮るルーシーの姿があった。
 この辺は普通の外国人観光客のようである。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、新富士です。新富士の次は、静岡に止まります〕

 東京駅から1時間ちょっとで下車駅に近づく。
 本当はもっと早く到着できるのだろうが、いかんせん、通過線のある駅では必ず後続列車に抜かれるダイヤになっている為、それで遅くなるのだ。
 後続の“のぞみ”や“ひかり”が高速で追い抜いて行く様についても、魔女達には新鮮さがあったようだ。

〔しんふじ、新富士です。しんふじ、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 副線ホームに入る為にポイントの通過があり、それで列車が少し揺れる。
 ドアが開いて稲生達が降りると、すぐに後続列車が高速で通過していく。
 秒単位の時刻の正確さは、日本の新幹線の大きな売りの1つである。
 それでも5分停車ということだから、けして抜かれるのは一本だけではないということ。

 マリア:「駅の外に出れば、もっと富士山がよく見えるよ」
 ルーシー:「そう」

 階段を下りて改札口を出る。
 富士山口と呼ばれる北口に行くと、バスターミナルがあった。

 稲生:「ここで一旦お別れですね。また夕方、このバスターミナルで会いましょう」
 マリア:「うん。先導ありがとう」
 稲生:「いえいえ」

 しかし、後にアクシデントが起ころうとは、この時点ではまだ誰も気づかない。
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“大魔道師の弟子” 「大宮から東京へ」

2019-05-26 16:29:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日06:28.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅・京浜東北線619B電車1号車内]

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の電車は、6時28分発、各駅停車、大船行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 稲生とマリアは大宮駅から京浜東北線の電車に乗った。
 この路線なら多少時間は掛かるものの、電車は必ず当駅折り返しとなる為、着席は確実である。

〔この電車は京浜東北線、各駅停車、大船行きです〕
〔This is the Keihin-Tohouku line train for Ofuna.〕

 どんどん座席は埋まって行き、ついには満席となる。
 通勤客の多さから、今日が平日であるということを見せつけられる。

〔「京浜東北線各駅停車、大船行き、まもなく発車致します」〕

 後続列車が入線してきて、それと行き違えるかのように発車の放送が車内に響いた。
 この時点で立ち客も出ているほど。
 2番線で流れる発車メロディは、朝からパンチの効いたもの。
 これは大宮アルディージャの応援ソング、“Vamos Ardija”が原曲である。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 一回再開閉をした後で、やっとドアが閉まる。
 スーッと走り出して、ポイントを渡る為に電車が揺れた。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は京浜東北線、各駅停車、大船行きです。次はさいたま新都心、さいたま新都心。お出口は、右側です〕
〔This is the Keihin-Tohouku line train for Ofuna.The next station is Saitama-Shintoshin.The doors on the right side will open.〕

 稲生:「ふと気づいたことがあるんですが……」
 マリア:「なに?」
 稲生:「ルーシーさん達、ホテルから東京駅に向かうじゃないですか」
 マリア:「そうだな」
 稲生:「鈴木君もあの近くに住んでるんですよ。東京駅で紹介することになってるのに、あそこの時点で鉢合わせになったりしないかなぁ……と」
 マリア:「それは大丈夫だろう。あの3人、ホテルからタクシーで行くと言ってる。鈴木が何で来るか知らないけど、まさか同じタクシーに同乗してはこないだろう」
 稲生:「それならいいんですけどね」

[同日07:22.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 途中、浦和駅では、今度は浦和レッズの応援歌が原曲の発車メロディが流れる。
 但し、大宮駅は始発駅なのでフルコーラス流れる確率が比較的高いが、途中駅の浦和駅では【お察しください】。
 だったら南浦和駅の方が2〜3本に1本は始発駅になるのでフルコーラスの確率が高くなるのだが、そこではレッズのホームから離れているというジレンマ。
 もっとも、本来のレッズのホームグラウンド最寄り駅は浦和みs【バキューン!】。

 電車は都心に近づく度に、車内の乗客を増やしていく。
 1つ手前の神田駅もオフィス街なのか下車客が多く、場合によってはそこで車内に余裕が出る(空席が出るほどではない)。
 あとは大手町や丸の内の高層ビルを左右に見ながら、京浜東北線の中間地点である東京駅に向かう。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください」〕

 そして電車がホームに滑り込む。

〔とうきょう〜、東京〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に止まります〕

 ここで降りる乗客は多い。

 稲生:「降りますよ」
 マリア:「ああ、分かった」

 稲生はマリアの手を取って電車から降りた。
 向かい側のホームでは、山手線の電車が発車していく所だった。
 山手線から降りて来た乗客も合わせ、ホームは多くの人出で賑わう。
 その為か、基本的にはホームは広めに造られている。
 初心者が面食らうのは、ホームではなく、その下のコンコース。
 平日・休日問わず、こちらはカオスな状態である。
 特に京葉線に向かう南口側は上級者向けかもしれない。
 稲生はマリアを手を握って、対向してくる乗客を右に左に交わしながら八重洲南口へと向かった。

 マリア:「相変わらずの人の多さ。人形を使って薙ぎ払いたくなる」
 稲生:「やめてくださいよ。せっかく今、電車がダイヤ通りに走っているんですから」
 マリア:「うん。時刻の正確さは凄い」

 で、八重洲南口改札を出る。
 すぐ左には東海道新幹線の八重洲南口があるわけだが、ここでルーシー達と合流することになっている。

 ルーシー:「マリアンナ」
 マリア:「ルーシー」

 ルーシー、ゼルダ、ロザリーはすぐにやってきた。
 ルーシーにあってはTシャツの上にパーカーを羽織り、下はジーンズをはいていた。
 普通の服も持って来ていたようである。

 ルーシー:「その恰好で山登りするの?」

 ルーシーは相変わらずブレザーにプリーツスカートをはいたマリアの服装を見て言った。

 マリア:「別に、バスで五合目までは登れるみたいみたいだし、本当に山頂まで登るわけじゃないんだから、これでいいと思う」
 ルーシー:「まあ、別にいいけど」
 マリア:「ゼルダとロザリーも、いつもの服みたいだけど?」

 そして、いつものローブを羽織っている。

 ゼルダ:「私もバスで登れる所まで行って、その周辺を散策してみるだけだから」
 ロザリー:「私も……」
 ローシー:「それで?私達は集まったけど、稲生さんの知り合いは?」
 稲生:「そろそろ来るはずなんですけど、ちょっと確認してみます」

 稲生はスマホを取り出した。

 マリア:「ルーシー達はまだ新幹線のキップを買っていないでしょう?こっちで買おう」
 ルーシー:「そうね」

 マリア達は南口にあるJR東海の出札窓口(『JR全線きっぷ売り場』と書かれている)に入った。
 ここは何か改修工事中らしく、券売機が無かった。
 仕方ないのでカウンターで直接買うことになる。
 マリアが今はだいぶ上手くなった日本語で、新富士駅までの新幹線のキップを注文した。
 だいぶ上手くなったと言っても、エレーナと比べれば、まだ発音やイントネーションに(日本人が聞いて)不自然さがある。

 鈴木:「先輩、おはようございます!」

 マリア達がJR全線きっぷ売り場にいる間、稲生は外で待っていた。
 そこへ鈴木が息せき切って走って来た。

 稲生:「鈴木君、遅かったじゃないか」
 鈴木:「すいません、寝坊しちゃって……!いやあ、間に合った間に合った!……あ、大丈夫です。ちゃんと朝の勤行はやって来ましたんで!」
 稲生:「じゃあ、マリアさん達が窓口から戻って来たら紹介するからね」
 鈴木:「お願いします!」
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“大魔道師の弟子” 「池袋から秋葉原へ」

2019-05-23 13:24:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月12日13:10.天候:晴 東京都豊島区池袋 JR池袋駅・山手線ホーム]

〔まもなく7番線に、上野、東京方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 明日の新幹線のキップを購入した稲生と鈴木は、今度は山手線で秋葉原へ向かうことにした。
 現地にはマリア以下4名の魔女達が散策しているはずだ。

〔「7番線、ご注意ください。山手線外回り、田端、上野、東京方面行きの到着です。ホームドアから離れてください」〕

 やってきた電車は……。

 稲生:「少し長めに乗る時に限って、E231なんだ」
 鈴木:「マジっすか。俺は久しぶりに旧型来たなぁと思いましたけど」
 稲生:「そうなのか」

〔いけぶくろ〜、池袋〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 稲生:「僕はマリアさん達と合流するけど、キミはまだ紹介できないよ。同門の僕でさえ避けられてるんだから」
 鈴木:「分かってます。俺はエレーナに会って来ますよ」
 稲生:「エレーナは今日休みじゃなかったかなぁ……」

 稲生は首を傾げた。
 乗り込んだ車両は先頭車。
 鉄ヲタの定位置。

 鈴木:「いや!今日の15時からまた夜勤に入るはずです!」
 稲生:「何でキミはエレーナの勤務表を持っているんだい?」

 発車メロディがホームに鳴り響く。

〔7番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 それから少しブランクがあって、電車が発車した。

〔この電車は山手線外回り、上野、東京方面行きです。次は大塚、大塚。お出口は、右側です。都電荒川線は、お乗り換えです。……〕

 鈴木:「俺はエレーナのホテルの近くに住んでるもんで……」
 稲生:「知ってるよ」
 鈴木:「アキバからすぐ岩本町に移動して消えますから」
 稲生:「一応、キミのことは僕の口からも説明しておくから」
 鈴木:「カッコよく説明しといてください」
 稲生:「後が怖いから正直に説明させてもらうよ」

[同日13:30.天候:晴 東京都千代田区外神田 JR秋葉原駅]

 電車が秋葉原駅に進入する。
 外側を走る京浜東北線は、まるで副線のように前後がカーブしているが、山手線はそんなことはない。
 というかここでは、本当に京浜東北線は副線なのだろうか。

〔あきはばら〜、秋葉原〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 休日の秋葉原も池袋同様、多くの人出で賑わっている。

 鈴木:「魔女達もここで爆買いを?」
 稲生:「どうだろうねぇ。エレーナも来るって話じゃない?」
 鈴木:「エレーナは何でも、掘り出し物を手に入れに来るらしいですよ」
 稲生:(御徒町以外にもあるのか)

 電車を降りた2人はエスカレーターでコンコースに下り、中央改札口から外に出た。

 稲生:「あれ?鈴木君、岩本町は昭和通り改札の方がいいんじゃないの?」
 鈴木:「せっかくですから、ヨドバシでエレーナへのプレゼントを見繕って行きますよ」
 稲生:「ヨドバシで見繕える物があるのか」

 それが何なのかまではあえて聞かない稲生だった。
 とにかく、鈴木は横断歩道を渡ってヨドバシアキバへと向かって行った。

 稲生:「もしもし、マリアさん?秋葉原駅に着きましたよ。どこへ行けば……えっ、UDX?分かりました。じゃあ、そっちへ向かいます」

 稲生はスマホでマリアと連絡を取り、UDXへと向かった。
 バスプールの前を通り、JRのガードを潜ればすぐそこだ。

 稲生:(そうか。今日は日曜だからホコ天やってるんだ)

 稲生はそれに気づきながらUDXの中に入る。

 マリア:「勇太、こっち!」
 稲生:「えっ?ああ!」

 ビルの中というか、1Fタリーズコーヒーのテラス席にいた。

 マリア:「お祈りは終わった?」
 稲生:「御講です。終わりましたよ。鈴木君は今、ヨドバシアキバです」
 マリア:「マジか。これから行こうと思ってたのに……」
 稲生:「何でもエレーナにプレゼントする物を買いに行くと行ってましたけど、何なんでしょうね」
 マリア:「……仕事で使うUSBメモリとかじゃないの?『パシリができた』とか言ってたから」
 稲生:「鈴木君、パシリかい!かわいそうに……」
 マリア:「魔女に惚れるとこうなる。パシリで済んで、まだ運が良い方だよ」
 稲生:「僕は引き換えに入門することになりましたけどねぇ……」
 マリア:「勇太は素質があるから、師匠の目に留まって勧誘されたんだよ。鈴木は全然ダメだ」
 稲生:「そういうもんですか。あ、これ、マリアさんの分のキップです」
 マリア:「ああ、ありがとう。後で皆の分も買わないと」
 稲生:「どうせ自由席だから、当日でも大丈夫なんですけどね」
 マリア:「それもそうか。券売機は英語にも対応してたっけ?」
 稲生:「してますよ」
 マリア:「それなら大丈夫か」
 稲生:「窓口でも買えますし」
 マリア:「何だ。それなら世話無いな」
 稲生:「そうなんですよ。秋葉原駅でも買えますしね」
 マリア:「なるほど。それじゃ明日のことについて、少し話してみよう」
 稲生:「分かりました」

 稲生もコーヒーを注文して、テラス席に座った。
 稲生以外に鈴木も新幹線の新富士駅まで同行することが分かると、魔女達は動揺した。

 マリア:「あくまでも同行するのは新幹線までであって、富士山まで一緒に行くわけじゃないから」
 稲生:「そうですよ。あなた達に近づけさせませんから」
 ルーシー:「それは本人にもよく言って聞かせてよね。今はエレーナに興味を持っているみたいだけど、ヘタに私達に興味を持とうものなら、命が無くなるって」
 稲生:「分かってますよ」
 ルーシー:「どんなヤツ?」
 稲生:「えー……“魔女の宅急便”のトンボ?」
 マリア:「あー……」
 ルーシー:「…………」
 稲生:「ま、まあ、今は悪いヤツじゃないですから!」
 ルーシー:「昔は悪いヤツだったわけね」
 マリア:「それは否定しない」
 稲生:「ハハハ……。と、とにかく、僕に任せてくださいよ」
 ルーシー:「私も嫌だけど、特にゼルダとロザリーに手を出したら本当に命無いからね?」
 稲生:「もちろん、よく聞かせておきます」

 稲生は大きく頷いた。
コメント (3)
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