[5月13日13:30.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・奉安堂]
ターコイズブルーの座席に並んで座る信徒達。
その中に稲生や鈴木も含まれている。
稲生:「この座席のシートピッチは約90……」
鈴木:「先輩、メジャーで測らないでくださいよ。恥ずかしいな」
稲生:「ゴメンゴメン。前々から気になっててさぁ……」
鈴木:「新幹線の自由席並みにはありますね」
稲生:「そうだね。どちらかというと、E2系並みの980ミリくらい?」
鈴木:「そのくらいだと思います」
進行係:「御開扉に先立ちまして、注意事項を申し上げます。……」
進行係の御僧侶がマイクで信徒達に注意事項を読み上げる。
それまでワイワイガヤガヤやっていた信徒達も、これでだいぶ静かになるわけだ。
鈴木:「今日は平日だから、たまに騒ぐガキがいなくていいですよ」
稲生:「顕正会じゃ、隔離されてるもんねぇ……。高校生にならないと入信できないってことは、高校生になる前までは救われないってことになるからね」
鈴木:「全くですな」
しばらくして、ぞろぞろと僧侶席の左右の扉から御僧侶達がやってくる。
あれにも席次が決まっているらしいが、あまり詳しく話すと【お察しください】。
猊下の御着席される場所が固定されているのは当たり前だが。
で、御僧侶のマイクによる先導で唱題が始まる。
最後に猊下が来られ、猊下席に着かれると、鉄扉と呼ぶに相応しい鎧戸が重々しく開く。
外側のは左右に、内側のは上下に開閉するタイプだ。
稲生:(顕正会の青年会館にも、左右に開閉する鉄扉タイプのものがあったな……。あれを見て、逆に『宗教団体らしくなったなぁ』と思ったっけ)
かくいう作者がそう。
おかしな話だが、今から思えば、『新興宗教から伝統宗教っぽくなった』という意味合いでそう思ったのだろう。
もちろん、ただの勘違いであるが。
実際の伝統宗教は、もっと壮大なものである。
二重の鉄扉が開くと、大きな仏壇が現れる。
恐らく、高さは2メートル以上あるだろう。
仏壇の前まで行って実際に観音扉を開く係の御僧侶と対比をしてみても、とても大きいものだと分かる。
しかもこの仏壇には閂が掛けられており、係の御僧侶が恭しくその閂を外して、観音扉を開ける。
すると、更に中には御厨子があって、その扉も開けて、ようやく大御本尊が信徒達の前に現れるのだ。
その最後の御厨子の扉が開いた瞬間、唱題は終わる。
それから猊下の先導で、読経が始まる。
この流れは普段の勤行の五座三座とは違うものであり、どういうものなのかは実際に御受誡・御勧誡の上、体験されたし。
それから15分から20分経ち、稲生に異変が起き始めた。
稲生:(な、何だ……?魔か……?)
それは妙法蓮華経如来寿量品第十六の自我偈を3回読み終わり、唱題に入ってからのことだった。
それまで何ともなかった稲生に酷い睡魔が襲い掛かり、また鈍い頭痛が起き始めた。
しかも、ただの睡魔や鈍痛ではない。
脳裏にフラッシュバックのように、エレーナが映し出された。
それは恐らくエレーナが昔、“魔の者”に憑依されたマフィアとボスと戦っている時の描写。
背中にマシンガンの銃撃を受け、危うく死にかけたとのことだ。
その時の被弾の痕は、今も背中に残っている。
魔道士のローブが防弾スーツ代わりになったおかげで死にはしなかったが、さすがに重傷は負って血だらけになったということだった。
稲生:(何でこんな場面が……?)
稲生が混乱していると、猊下の鈴が力強く鳴った。
それで稲生、ハッと正気に戻る。
猊下:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
稲生:(一体、何が起きるというんです?エレーナに何かが起こるんですか?)
いくら“魔の者”に憑依されたとはいえ、一大組織のマフィアのボスを殺したのだ。
その後で組織は警察機関の介入を受けてズタズタになったわけだが、全員が逮捕されたわけではあるまい。
中には未だに逃亡中で、エレーナの所業に大きな恨みを持った残党が報復に行くかもしれない。
何しろ、北朝鮮の工作員の侵入を許していた国だ。
マフィアの侵入も簡単に許すかもしれない。
マフィアの構成員そのものはブロックできても、その息の掛かっているだけの者は可能だろう。
猊下:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
稲生:(答えてください!エレーナに何が起こるというんですか!?マフィアの報復ですか!?)
だが、稲生がいくら呼び掛けても、(当たり前だが)大御本尊からの回答は無かった。
[同日14:15.天候:晴 大石寺・奉安堂外]
鈴木:「いやあ、顕正会の日曜勤行より達成感のある自行ですねぇ!」
稲生:「うん……」
鈴木:「先輩、大丈夫ですか?さっき唱題の時、ウツラウツラしてましたよ?」
稲生:「ああ、うん……大丈夫……」
建物の外に出て、石畳の上を歩く。
鈴木:「今日は天気がいいから、富士山がよく見えますよ!」
鈴木は手持ちのスマホで富士山の写真を撮った。
鈴木:「エレーナに後で見せてあげよう!」
稲生:「エレーナ……」
鈴木:「さすがに富士山をじっくり眺めたことは無いみたいですからね!」
稲生:「鈴木君、そのエレーナのことなんだけど……」
奉安堂入口の門も出てから、稲生は鈴木に御開扉の際、自分の身に起きたことを話した。
鈴木:「えっ、エレーナが!?」
稲生:「そうなんだ。何だか、嫌な予感がする」
鈴木:「分かりました!すぐにエレーナに連絡を取ります!」
鈴木は自分のスマホを出した。
稲生:「キミはエレーナと個人的な連絡先も交わしたのかい?」
鈴木:「もちろん!」
稲生:(もしかしたらエレーナのヤツ、鈴木君のことは満更でもないのかも……)
マリア:「勇太」
稲生:「えっ!?」
突然背後から声を掛けられ、振り向くとそこにいたのはマリアだった。
マリアだけではない。
ルーシーにゼルダ、ロザリーも一緒だった。
稲生:「マリアさん!?えっ、どうして?朝霧高原とかで観光するはずじゃ?」
マリア:「それなんだけど、ちょっと困ったことになって……」
稲生:「困ったこと?」
鈴木:「先輩!エレーナが電話を代われと言ってます!」
稲生:「ああ、分かった。……もしもし」
マリア:「エレーナがどうかしたのか?」
鈴木:「実はさっき先輩が……」
必死にエレーナに危険予知を訴える稲生。
鈴木の説明に驚いて稲生を見るマリア。
日本語が分からず、この3人がどうして驚いているのか分からない魔女3人。
魔の手は確実に高速で迫って来ていた……。
ターコイズブルーの座席に並んで座る信徒達。
その中に稲生や鈴木も含まれている。
稲生:「この座席のシートピッチは約90……」
鈴木:「先輩、メジャーで測らないでくださいよ。恥ずかしいな」
稲生:「ゴメンゴメン。前々から気になっててさぁ……」
鈴木:「新幹線の自由席並みにはありますね」
稲生:「そうだね。どちらかというと、E2系並みの980ミリくらい?」
鈴木:「そのくらいだと思います」
進行係:「御開扉に先立ちまして、注意事項を申し上げます。……」
進行係の御僧侶がマイクで信徒達に注意事項を読み上げる。
それまでワイワイガヤガヤやっていた信徒達も、これでだいぶ静かになるわけだ。
鈴木:「今日は平日だから、たまに騒ぐガキがいなくていいですよ」
稲生:「顕正会じゃ、隔離されてるもんねぇ……。高校生にならないと入信できないってことは、高校生になる前までは救われないってことになるからね」
鈴木:「全くですな」
しばらくして、ぞろぞろと僧侶席の左右の扉から御僧侶達がやってくる。
あれにも席次が決まっているらしいが、あまり詳しく話すと【お察しください】。
猊下の御着席される場所が固定されているのは当たり前だが。
で、御僧侶のマイクによる先導で唱題が始まる。
最後に猊下が来られ、猊下席に着かれると、鉄扉と呼ぶに相応しい鎧戸が重々しく開く。
外側のは左右に、内側のは上下に開閉するタイプだ。
稲生:(顕正会の青年会館にも、左右に開閉する鉄扉タイプのものがあったな……。あれを見て、逆に『宗教団体らしくなったなぁ』と思ったっけ)
かくいう作者がそう。
おかしな話だが、今から思えば、『新興宗教から伝統宗教っぽくなった』という意味合いでそう思ったのだろう。
もちろん、ただの勘違いであるが。
実際の伝統宗教は、もっと壮大なものである。
二重の鉄扉が開くと、大きな仏壇が現れる。
恐らく、高さは2メートル以上あるだろう。
仏壇の前まで行って実際に観音扉を開く係の御僧侶と対比をしてみても、とても大きいものだと分かる。
しかもこの仏壇には閂が掛けられており、係の御僧侶が恭しくその閂を外して、観音扉を開ける。
すると、更に中には御厨子があって、その扉も開けて、ようやく大御本尊が信徒達の前に現れるのだ。
その最後の御厨子の扉が開いた瞬間、唱題は終わる。
それから猊下の先導で、読経が始まる。
この流れは普段の勤行の五座三座とは違うものであり、どういうものなのかは実際に御受誡・御勧誡の上、体験されたし。
それから15分から20分経ち、稲生に異変が起き始めた。
稲生:(な、何だ……?魔か……?)
それは妙法蓮華経如来寿量品第十六の自我偈を3回読み終わり、唱題に入ってからのことだった。
それまで何ともなかった稲生に酷い睡魔が襲い掛かり、また鈍い頭痛が起き始めた。
しかも、ただの睡魔や鈍痛ではない。
脳裏にフラッシュバックのように、エレーナが映し出された。
それは恐らくエレーナが昔、“魔の者”に憑依されたマフィアとボスと戦っている時の描写。
背中にマシンガンの銃撃を受け、危うく死にかけたとのことだ。
その時の被弾の痕は、今も背中に残っている。
魔道士のローブが防弾スーツ代わりになったおかげで死にはしなかったが、さすがに重傷は負って血だらけになったということだった。
稲生:(何でこんな場面が……?)
稲生が混乱していると、猊下の鈴が力強く鳴った。
それで稲生、ハッと正気に戻る。
猊下:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
稲生:(一体、何が起きるというんです?エレーナに何かが起こるんですか?)
いくら“魔の者”に憑依されたとはいえ、一大組織のマフィアのボスを殺したのだ。
その後で組織は警察機関の介入を受けてズタズタになったわけだが、全員が逮捕されたわけではあるまい。
中には未だに逃亡中で、エレーナの所業に大きな恨みを持った残党が報復に行くかもしれない。
何しろ、北朝鮮の工作員の侵入を許していた国だ。
マフィアの侵入も簡単に許すかもしれない。
マフィアの構成員そのものはブロックできても、その息の掛かっているだけの者は可能だろう。
猊下:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
稲生:(答えてください!エレーナに何が起こるというんですか!?マフィアの報復ですか!?)
だが、稲生がいくら呼び掛けても、(当たり前だが)大御本尊からの回答は無かった。
[同日14:15.天候:晴 大石寺・奉安堂外]
鈴木:「いやあ、顕正会の日曜勤行より達成感のある自行ですねぇ!」
稲生:「うん……」
鈴木:「先輩、大丈夫ですか?さっき唱題の時、ウツラウツラしてましたよ?」
稲生:「ああ、うん……大丈夫……」
建物の外に出て、石畳の上を歩く。
鈴木:「今日は天気がいいから、富士山がよく見えますよ!」
鈴木は手持ちのスマホで富士山の写真を撮った。
鈴木:「エレーナに後で見せてあげよう!」
稲生:「エレーナ……」
鈴木:「さすがに富士山をじっくり眺めたことは無いみたいですからね!」
稲生:「鈴木君、そのエレーナのことなんだけど……」
奉安堂入口の門も出てから、稲生は鈴木に御開扉の際、自分の身に起きたことを話した。
鈴木:「えっ、エレーナが!?」
稲生:「そうなんだ。何だか、嫌な予感がする」
鈴木:「分かりました!すぐにエレーナに連絡を取ります!」
鈴木は自分のスマホを出した。
稲生:「キミはエレーナと個人的な連絡先も交わしたのかい?」
鈴木:「もちろん!」
稲生:(もしかしたらエレーナのヤツ、鈴木君のことは満更でもないのかも……)
マリア:「勇太」
稲生:「えっ!?」
突然背後から声を掛けられ、振り向くとそこにいたのはマリアだった。
マリアだけではない。
ルーシーにゼルダ、ロザリーも一緒だった。
稲生:「マリアさん!?えっ、どうして?朝霧高原とかで観光するはずじゃ?」
マリア:「それなんだけど、ちょっと困ったことになって……」
稲生:「困ったこと?」
鈴木:「先輩!エレーナが電話を代われと言ってます!」
稲生:「ああ、分かった。……もしもし」
マリア:「エレーナがどうかしたのか?」
鈴木:「実はさっき先輩が……」
必死にエレーナに危険予知を訴える稲生。
鈴木の説明に驚いて稲生を見るマリア。
日本語が分からず、この3人がどうして驚いているのか分からない魔女3人。
魔の手は確実に高速で迫って来ていた……。