報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「地下への鍵」

2018-07-18 15:14:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日00:30.天候:晴 宮城県仙台市太白区郊外 某廃校舎]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 木造の廃校舎というのは表向き。
 どうやらその地下には昔、アメリカ国内は元より、日本国内でも一都市をバイオハザードに陥れた悪の製薬企業アンブレラの秘密研究所がある恐れが出て来た。
 そして助手の高橋君が言うのには、そこに『仮面の少女』が隠れているのだと。
 しかしその地下へ下りる階段に行くには、固く閉ざされた鉄扉を開ける必要があった。
 鉄扉はドアノブ自体が鍵の役割を果たすグレモン錠となっている。
 つまり、ドアノブ型の鍵が外され、それを探して来なければ、そもそもドアが開かないというものだった。
 ボヤボヤしていると、ゾンビ化した高橋の仲間達が校門をブチ破ってここまで来てしまうかもしれない。

 愛原:「どこにあるだろう?」
 佐藤:「鍵関係だから、警備室じゃないスか?」
 高橋:「アホか。こんな廃校にガードマンがいるわけないだろう」
 愛原:「まあまあ。この木造校舎が現役だった頃は、先生や用務員さんが宿直で泊まり込んでいただろうからな。恐らく職員室か宿直室のどっちかにあるだろう」

 という常識が通用するのは、あくまでもこの学校が現役だった場合だ。
 果たしては、今は……。

 高橋:「職員室はどこにあるのでしょう?」
 愛原:「大抵は1階にあるよな」

 私達が廊下を歩き出した時だった。

 佐藤:「あっ!」

 佐藤君が声を上げた。
 彼の視線の先を追うと、何故か電気の点いている箇所があった。
 それはあり得ないはずだ。
 学校にしろ、秘密研究所にしろ、今はどちらも廃止されているわけだから、電気など止められているはずだ。
 にも関わらず、何ゆえ照明が点くのだ?

 愛原:「気を付けろよ。罠かもしれない」
 高橋:「はい!」
 佐藤:「う、うス……」

 私達は電気の点いた部屋に向かった。
 そこは部屋ではなく、女子トイレだった。

 佐藤:「は、入っていいんスかね?俺ら、男っスけど……」
 愛原:「別にいいだろう。どうせ誰もいない」
 高橋:「そうですね」
 愛原:「……ことになっているから」
 佐藤:「何スか、それ!」

 私達は鉄パイプやレンチを手に、唯一照明の点いている女子トイレに入った。
 古い時代の校舎だ。
 トイレは汲み取り式である。
 もう使われていないはずなのに、臭いが未だに残っている。

 愛原:「あっ!」

 中に入って、すぐに気づいた。
 トイレの中、壁に大きく赤い文字で何か書いていた。

 愛原:「『3階へ行け』だって!?」
 高橋:「ますます、あのクソガキのせいかもしれませんね!」

 霧生市のバイオハザードの時、最後に探索したのはアンブレラの研究施設だ。
 その時、『仮面の少女』がそんなことをしていた。

 愛原:「よし。3階へ行ってみよう」

 私達はトイレを出ると3階へ向かった。
 今のところ、校舎内には何もクリーチャーらしき者は襲ってきていないが……。
 この静けさが、却って不気味だ。
 古めかしい木の床がギシギシと嫌な音を立てる。

 愛原:「学校の怪談に、『十三怪談』とか『トイレの花子さん』とかがあってだな、私達は『トイレの花子さん』を追っていることになる」
 佐藤:「マジっすか!?」

 アンブレラの実験台にされた少女の本名は分からないし、何故そうされたのかも分からない。
 だが、元は普通の人間の少女として暮らしていたのに、ある日突然アンブレラに捕まり、『日本人版リサ・トレヴァー』とか『仮面の少女』『トイレの花子さん』となった経緯は如何ばかりか。

 愛原:「3階だ……うっ」

 3階まで階段を登り切り、そこからトイレの方を見ると、やはりそこも電気が点いていた。

 愛原:「……もしかしたら、地下に行く前に、ここで『花子さん』と遭遇するかもしれんぞ?」
 佐藤:「ええっ?」
 高橋:「そいつは好都合です。ここで俺達をナメやがったクソガキに、痛い目見せてやりますよ」

 私達は慎重に3階の女子トイレに向かった。
 そして、ドアを開ける。
 ギギギィィィと、これまた嫌な音を立てて開く木製のドア。
 トイレの中は1階と全く同じ構造だった。
 天井に灯るは、たった2個の電球。
 壁には、何の落書きも無い。

 高橋:「先生、確か『トイレの花子さん』は、奥から2番目の個室にいるんでしたよね?」
 愛原:「……らしいな」

 霧生市のアンブレラ研究所ではどうだったかな……?

 愛原:「開けても、多分何も出てこないだろう」
 高橋:「そうなんですか!?」
 愛原:「ああ。だが、油断は禁物だ」

 私はそう言って、ドアをノックした。
 怪談では外から3回ノックすると、中からも3回ノックの音が返されるということだが……。

 愛原:「あれ?」

 全く反応が無かった。
 もう1度叩いてみたが、やっぱり反応が無い。

 高橋:「先生?」
 愛原:「……逆に何か潜んでるかもしれんな」
 佐藤:「ちょっと何言ってるか分かんないス」
 高橋:「じゃ、お前が開けろ」
 佐藤:「ええっ!?」
 高橋:「先生の御見解にケチを付けやがった罰だ」
 愛原:「いや、別にいいよ!」

 高橋は佐藤君にドアを開けさせた。
 個室のドアは外側に開けるタイプである。
 佐藤君は震える手で、ドアを開けた。
 鉄パイプとレンチで身構える私達。
 だが、中には誰もいなかった。

 高橋:「……誰もいませんね」
 愛原:「そ、そうか?」

 私は天井や床、そして便器の中まで調べようとして気づいた。

 愛原:「あった!グレモン鍵!」
 高橋:「さすがは先生!」

 何でこれが、こんなトイレの中にあったのか?

 愛原:「もしかして、これを私達に見つけさせる為に、わざわざこんなことをしたのか?」
 高橋:「なるほど。それじゃ、これは俺達に対する挑戦状ですね?」
 愛原:「何でそうなる?とにかく、これで地下室へ行けるようになるぞ。早いとこ……」
 佐藤:「だ、誰だっ!?」

 その時、トイレの出口に目をやった佐藤君が叫んだ。

 愛原:「どうした!?」
 佐藤:「今、廊下を誰かが全力ダッシュして行きました!!」
 愛原:「なにっ!?」

 私達はトイレから出て廊下の外を見た。
 だが、月明かりの差し込む薄暗い廊下に人の気配は無かった。

 高橋:「キサマ、先生に嘘を付くとはいい度胸……」
 愛原:「いや、違うだろ!……佐藤君は何を見たんだい?」
 佐藤:「廊下が暗かったんで、よく分からなかったんスけど……。多分、女の子っス。女の子のスカートから下の足2本が、向こうへ走って行ったんです!」
 高橋:「足だけの妖怪!?」
 愛原:「そ、そうなのかな?上半身は暗くて見えなかっただけだろう?」
 佐藤:「多分……」
 愛原:「スカートから下はどんな感じだった?」
 佐藤:「いや、ほんとマジ一瞬だけだったんで……。ただ、黒っぽいスカートに黒いソックス履いて……そう、何か中学生っぽい感じだったかもです」
 高橋:「先生!?」
 愛原:「『仮面の少女』か……!?」

 彼女は私達の動向を監視している。
 トイレの照明を点けたのも、このグレモン鍵を置いて行ったのも、やはり彼女だったのか……。
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“私立探偵 愛原学” 「廃校であった怖い話」

2018-07-16 19:11:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日23:55.天候:晴 宮城県仙台市太白区郊外 とある廃校]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ……って、今はそういう場合じゃない!

 高橋:「先生!早く学校の中へ!」

 高橋は学校の校門を開けて私を誘導した。
 私と、高橋の仲間の佐藤君はそれに誘われるようにして中へ飛び込んだ。
 高橋の仲間だったゾンビ化した3人が、呻き声を上げながら私達に向かって来る。

 高橋:「うらぁっ!」

 そして、思いっ切り門扉を閉める。
 もちろん、閂をガチャンと掛けるのも忘れない。
 ゾンビ3人は門扉の鉄格子を乱暴に揺すり、あるいは隙間に手を突っ込んで、ただ言葉にならない叫びを上げていた。

 高橋:「しばらくはこれで大丈夫でしょう」
 愛原:「あ、ああ。そうだな」
 佐藤:「岡田、白鳥、二瓶……皆、どうしちまったんだよ……!?」

 佐藤君はその場にへたり込んでしまった。

 高橋:「あれが俺と先生が霧生市と船で体験したバイオハザードだ!ボヤボヤしてたら、あいつらに食い殺されるぞ!死にたくなかったらついてこい!」

 高橋は佐藤君の首根っこを掴むと、急いで木造校舎へと向かった。

 愛原:「街の方は大丈夫なんだろうな?」
 高橋:「今はそんなことを心配している時ではありません」

 学校の正面入口も校門と同じく観音開きであったが、こちらは2枚ドアだった。
 当然ながら、鍵が掛かっている。
 しかしそこは、高橋君。
 キーピックを鍵穴に差し込んで、いとも簡単に解錠してしまった。

 佐藤:「さ、さすがは高橋さんっスね……」
 高橋:「そんなことはいいから!もう1度言うが、死にたくなかったら、俺や先生から離れるんじゃねぇぞ」
 佐藤:「は、はい!」

 私達は学校の中に入った。
 入ったらもちろん最初にあるのは下駄箱。
 校舎が木造なら、下駄箱も木造だった。
 もちろん、用があるのはここではない。

 高橋:「おい、佐藤。ここからお前の出番だぞ?お前達はここで何を見たんだ?そこへ連れてけ」
 佐藤:「は、はい」

 無人の廃校だ。
 校門の外と違って、ゾンビが徘徊しているはずがない。
 廃校なので、もちろん校内には電気が通っておらず、真っ暗だ。
 それを見越して、私や高橋はライトを持って来ている。
 ハンディタイプだと片手が塞がり、ショットガンやライフルなど、両手を使って発砲する銃器が使えない為、耳に掛けて前方を照らすライトを持って来ていた。
 私は購入した覚えは無いのだが、どうも私が入院している時に高橋や高野君が購入したらしい。

 佐藤:「凄いっスね。何か、特殊部隊の装備みたいっスね」

 佐藤君はさっきの恐怖はどこへやら、そんな感嘆な声を上げた。
 そういう佐藤君はハンディタイプのライトを持って来ている。
 ポケットサイズなのでそんなに明るく照らせるものではないが、それなりに明るいのはLEDだからか。

 高橋:「いいから早く案内しろ」
 佐藤:「はい、こっちです」

 所々、暴走族のような落書きがしてあるのは、やはり不法侵入者がいたからか。
 もっとも、この佐藤君達もその1人であったわけで、彼らから齎された情報を基にここに来ている私達も共犯者のようなものか。

 愛原:「しかしねぇ、高橋君。言っちゃ何だか、やっぱり武器は必要なんじゃないかなぁ?」
 高橋:「武器ならありますよ?」

 高橋はさっきゾンビ化したケン君を殴り殺した大型のレンチと、車から持って来たという鉄パイプを持って来た。

 佐藤:「さすがは高橋さんっス!」
 愛原:「鉄パイプかよ……」

 霧生市のバイオハザードを体験した身としては、こんなものあまり役に立たないことは分かっている。
 ていうかこんなものを装備しているとは、走り屋じゃなくて、やっぱり暴走族なんじゃないのか?
 私がそう思っていると、高橋が言った。

 高橋:「珍走団の中には、走り屋を潰して回る『潰し屋』ってのがいるんですよ。それに対抗する為の、最低限の護身用です」
 佐藤:「そうそう」
 愛原:「色んなジャンルがあるんだなぁ……」
 佐藤:「『警察に捕まると点数とカネが減る。潰し屋に捕まると寿命とカネと減る』と言われてます」
 愛原:「ゾンビより怖ェな、おい!」
 高橋:「それよりまだなのか?」
 佐藤:「この先です」

 校舎の突き当りまでやってきた。
 それまでは月明かりが窓から差し込んでいて、場所によっては少し明るい所もあったのだが、そこは陰になっていて真っ暗だった。

 佐藤:「あれ!?」
 高橋:「どうした?」

 そこは階段になっていた。

 佐藤:「ここに下に降りる階段があったんです!こんなドア、前に来た時は無かったのに!」

 これだけ見ると、階段は2階へ上がるものだけしかないように見える。
 佐藤君の話では、下に降りる階段もあったというのだ。
 だが確かによく見ると、ここだけやけに新しい。
 鉄製のドアも、その周りの壁もコンクリート造りになっていた。
 ところが、そのドアにノブが無い。
 ノブがあったであろう場所は、丸い蓋がしてあった。
 それは簡単にズラすことはできたのだが、開けてみると、穴の中に正方形の出っ張りがあった。
 要はこの出っ張りにノブを取り付けて、それで開けられる仕組みになっているらしい。
 因みにドアノブ自体が鍵になっているこのタイプを、『グレモン錠』と言い、鍵とドアノブの両方を果たすそれを『グレモン鍵』または『ハンドルキー』と言う。

 愛原:「どこかでグレモン鍵を探さないと!」
 高橋:「チッ!誰がこんな面倒なマネを!」

 高橋の言葉に、私は背筋が寒くなるのを覚えた。
 ここは廃校だ。
 といっても管理自体は、まだ仙台市などの自治体が行っているのかもしれない。
 ただ、暴走族の侵入を許している時点で、それが疎かにはなっているのだろうが。
 逆を言えば、そんな管理状況で、何でここだけ真新しい壁とドアを作ったのか。
 ここがちゃんと管理されている場所なら、気にはなっても、背筋が寒くなるほどのものではなかっただろう。
 今にも朽ち果てそうな木造校舎には似つかわしくないコンクリート壁と鉄扉。
 これは一体……?

 愛原:「もしかしたら、本当にこの先に研究施設があるのかもな。……ていうか佐藤君だっけ?前来た時は無かったということは、キミはこの先にあるという階段を下りたってことかい?」
 佐藤:「は、はい!階段を下りた先にはエレベーターがありました」
 愛原:「エレベーター!?」
 佐藤:「そうなんです。ただ、階数表示のランプは点いて無かったですし、試しにボタンを押してみましたけど、何にも起こらなかったんで、そのまま帰ったんです」

 私は周りを見回した。
 もしエレベーターが1階から上にもあるのなら、この階段のすぐ横にあるはずだ。
 しかし、それは無かった。
 つまり、エレベーターは地下1階から更に下に降りる為のものなのではないか。
 そして、そこにあるものとは……。

 愛原:「やっぱり昔、アンブレラ日本支部が使ってた研究室があるのかもな。……となると、やっぱりちゃんとした武器が必要だと思う」
 高橋:「いや、それよりせっかくドアノブを見つけても、エレベーターが動いてないんじゃ意味が無いと思います」
 愛原:「エレベーターを動かす手段も、この学校の中にあるかもしれないぞ?」
 佐藤:「ただ単に停電してるんで、動いてないだけだと思いますけど……」

 取りあえず私達はハンドルキーを探すことにした。
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“私立探偵 愛原学” 「廃校」

2018-07-16 10:27:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日23:30.天候:曇 宮城県仙台市太白区某所 国道286号線上]

 私の名前は愛原学。
 今日は仕事以外でこの町にやってきた。
 何でも、バイオハザードたけなわだった霧生市から一緒に脱出した仮面の少女が私達に敵対し、そいつがこの町にいるのだと高橋が言ったからだ。
 私の記憶はまだまだ曖昧で、何が起こったのかは思い出せない。
 だが、少しずつ記憶は戻っているようで、その断片的な記憶から推測するに、どうも何か誤解があったのではないかと思う。
 ただ、分からないのは、霧生市脱出後、日本政府に保護されたはずの彼女が、どうしてあの船に乗っていて、どうして私達に敵対したのかだ。
 それと、もう1つ不安なのは、その彼女の強さは尋常ではないということ。
 船の中でどのように戦ったのかの記憶が無いので、霧生市のバイオハザードの時を思い返してみよう。
 タイラントと共に行動し、しかもタイラントの方が従属的な立場だったはずだ。
 そこはアメリカの話と全く違う。

 高橋:「ん?……おい、こんな道あったのか?」

 私が考え事をしていると、リアシートに私と並んで座る高橋が前を見ながら言った。

 佐藤:「ああ、バイパスっスね。だいぶ前からありましたよ」
 高橋:「ふーん……」
 千葉:「でも学校は、そっちの旧道の方にあるっス」
 高橋:「そうか」
 愛原:「ん?学校?……あ、そうか。廃校って行ってたっけ」
 高橋:「そうです」

 恐らくは車検に通らないであろう青白いヘッドランプを灯したストリームが、旧道の方にハンドルを切る。
 確かにバイパスと比べて、車の通りは少ないようだ。

 佐藤:「で、こっちと……」

 何か知らんが、朽ちたブロック塀などに、明らかに暴走族の落書きとかがしてあるのだが……。
 実は本当に暴走族の抗争会場に行くんじゃないのか。

 千葉:「おー、もうあいつら来てる」
 高橋:「見張りを頼んだからな」

 朽ちたブロック塀に錆びついた校門。
 そして月明かりに照らされて、木造校舎が見えて来る。
 確かに、こんな所に旧アンブレラの研究施設が隠されているとは誰も思うまいな。
 それにしても、ホラーチックな雰囲気だ。
 よくこんな所見っけてきたものだ。
 私がそれを指摘すると……。

 佐藤:「地元じゃ、ちょっとしたホラースポットなんスよ。俺らみたいなのが、よく肝試しに行くんス」

 とのことだ。
 ああ、やっぱり。
 いるんだよな、こういう無謀な若者たちが。

 高橋:「俺の仲間に地元が仙台ってヤツがいまして、そいつがぼんやり言ってたことがヒントになったんですよ」
 愛原:「キミ、俺より人脈あるな……」

 車が仲間の車2台の前に止まる。
 だが、仲間の車が来たというのに、誰も降りてこない。

 愛原:「なあ。あの車、誰か乗ってるのか?」
 高橋:「クソッ!俺達が来るまで待ってろと言ったのに!」
 佐藤:「一服でもしてんじゃないスか?」
 千葉:「便所にでも行ってるんスよ、きっと」
 愛原:「皆で連れション、連れタバコかい?それにしても、俺達が向かってるってのは知ってるんだから、誰かしら残っててもいいだろうに」
 高橋:「ええ。後で殴り聞かせておきますので、どうか先生、お怒りを鎮めてください……
 愛原:「いや、まずキミの怒りを収めようか」

 とにかく私達は車を降りた。
 そして、先に来て待っているはずの高橋の仲間の車に近づいた。
 止まっているのは赤いスカイラインと青いレガシー。
 どちらも、走り屋さんが乗りそうな車だ。
 実際そのように改造されている。

 愛原:「うーん……スカイラインは誰も乗っていなさそうだなぁ……」

 私は運転席を覗き込んだ。
 走り屋さんの車だと、窓にスモークが貼っていたりするから、尚更車内を覗き込みにくい。
 もっとも、それが狙いで貼っているのだろうが。

 佐藤:「あっ、いましたいました!」
 愛原:「えっ?」

 レガシーの方を見ると、助手席に誰かが乗っていた。
 シートを倒し、しかもうつ伏せになっているので、スモークガラスに隠れて分からなかったのだ。

 千葉:「寝てたのかよ、ケンのヤツ!w」

 千葉君は笑いながら助手席のドアを開けた。

 千葉:「おい、ケン!起きろ!高橋さん達、着いたぞ!」

 千葉君はケン君という仲間を揺り起こした。

 高橋:「留守番を任されていたものの、退屈で寝てしまったってところですかね」
 愛原:「それならしょうがないじゃん」
 千葉:「おいケン!ケンってば!おい!!」

 だが、何だか様子がおかしい。

 佐藤:「どうした?」
 千葉:「いや、ケンが起きねぇんだ」
 佐藤:「酔っ払って寝ちまったのか?」
 千葉:「酒の臭いはしねぇよ。……ケン、起きろよ!」
 ケン:「ウウウ……!」
 佐藤:「おっ、やっと起きたじゃん。しょうがねぇなぁ……」

 佐藤君が苦笑いをしている。
 だが、私は何だか嫌な予感がした。
 いや……その……ケン君とやらが放った呻き声……これって……。

 ケン:「ゥアアアアアッ!!」
 千葉:「ぎゃあああっ!!」
 佐藤:「な、何だァ!?」
 愛原:「ゾンビ化してる!?どういうことだ!?」
 高橋:「くっ……!」

 高橋は車の中に積んであった長いレンチを取り出すと、それでケン君の頭を殴り付けた。
 ケン君はお構いなしに千葉君の肉に食らい付いている。

 千葉:「がぁ……!あぁあ……!!」
 佐藤:「……!!」

 佐藤君は放心状態だった。
 私も何か武器になるものを探したが、あいにくと見つからない。
 そうこうしているうちに、高橋君がケン君の頭を叩き割った。

 ケン:「アァアッ……!」
 高橋:「はぁ……はぁ……!何てこった……!」

 私は千葉君に駆け寄ったが、千葉君は目を見開いたまま微動だにしなかった。
 もう死んでしまったことは明らかだった。

 高橋:「佐藤、お前は逃げろ。逃げてサツに通報してくれ」
 愛原:「そ、そうだな。それがいい」

 だが、佐藤君は腰が抜けて立てないようだった。

 高橋:「チッ、弱虫め」
 愛原:「いや、しょうがないよ。てか、何でゾンビ化!?別に、街は何とも無かったのに……」
 高橋:「あのクソガキのせいでしょう。船の時と同じだ」
 愛原:「ええっ?……とにかく、何の武器も無いんじゃしょうがない。佐藤君を連れて、一旦引き返そう。バイパスとの分岐点にコンビニがあっただろ。あそこまで行けば……」

 私がどうしてそんなことを言ったのかというと、スマホが何故か圏外になっていたからだ。
 私のも高橋のも、そして佐藤君のも……。
 山深い所だからなのか、或いは……。
 それでも、コンビニには固定電話がある。
 店の入口の横に公衆電話もあるだろうから、そこから通報すれば良い。
 そう思ったのだ。
 だが、それはできなかった。
 もう、私達は逃げられない。
 何故なら……。

 ゾンビA:「アァァ……!」
 ゾンビB:「ウゥウ……!」
 ゾンビC:「アァア……!」
 高橋:「こ、こいつら……!」

 高橋の仲間達は、ちゃんと私達を待っていたのだ。
 ゾンビ化し、私達の血肉を食らう為に……!
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“私立探偵 愛原学” 「23時以降は青少年育成条例により、翌日朝4時までの外出は禁止されている」

2018-07-15 20:13:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月1日 時刻不明 天候:雪 太平洋上を航行中の豪華客船“顕正”号]

 仮面の少女:「外に出れば幸せになれるって言ったのに……!そう言ったのに!!」

 愛原:「待つんだ!」

 高橋:「ナメんじゃねぇぜ、化け物が!!」

 高野:「ダクトの中からも来たよ!」

 仮面の少女:「もういい……!もう生きる希望なんて持たない……!全員ここで死ね……!」
 愛原:「違うんだ!それでも俺は……うわああああああっ!!」

[7月9日22:10.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 東北急行バス“スイート”号車内]

 高橋:「先生……先生!」
 愛原:「うう……うぁっ!」

 私はそこで目が覚めた。
 いつの間にか寝てしまったようだ。
 昼間とはいえ、長距離バスの中は何もすることが無い。
 その為か、つい寝落ちしてしまっていたようだ。

 高橋:「どうしました、先生?悪い夢でも見ましたか?」
 愛原:「そうかもしれないな。少しだけ、船の中の記憶が戻ったよ」
 高橋:「本当ですか!?」
 愛原:「ああ。だが、まだまだ断片的過ぎる。完全に記憶が戻るには、もう少し時間が掛かるかもしれない」
 高橋:「そうですか……」
 愛原:「それより、ここどこだ?」
 高橋:「ああ。もう仙台市内に入りましたよ。もうすぐ着きます」
 愛原:「そうか」

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく仙台駅前、仙台駅前に到着致します。お降りの方は、お忘れ物の無いよう、お支度をお願いします。……」〕

 私は倒していた座席を戻し、カーテンを開けた。
 バスはすっかり深夜帯となった市街地を走行している。
 それにしても、記憶が戻るのはいいのだが、その度に悪夢にうなされるというのは困るなぁ……。
 まあ、その為に今後も通院は必要みたいだけど。
 そんなことを考えていると、バスは『22』と番号の振られた停留所のポールの前に止まった。

 愛原:「やっと着いたな」
 高橋:「ええ」

 私達はバスを降りた。

 愛原:「で、ここからどうやって行くんだ?」

 高橋はバスの進行方向を指さした。
 そこには地下鉄の入口がある。

 高橋:「俺の仲間との待ち合わせ場所まで、あれで行きましょう」
 愛原:「ああ、分かった」

 私達は地下鉄入口の階段を降りた。

[同日22:23.天候:晴 仙台市地下鉄仙台駅・南北線ホーム]

〔1番線に、富沢行き電車が到着します。……〕

 ここの地下鉄もPasmoで乗れるんだな。
 持ち合わせが少ないから助かったよ。
 深夜帯とはいえ平日ということもあり、乗客はそれなりに多いと思う。
 しかし、そこは地方都市。
 やってきた電車は4両編成だ。

〔仙台、仙台。東西線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 私達は電車に乗り込み、開かない反対側のドアの前に立った。

〔2番線から、富沢行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 チャイムのようなメロディのような発車ベルが流れた。

〔「ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ホームドアがあって、その動作は東京メトロや都営地下鉄のそれと変わらない。
 電車が走り出した。

〔次は五橋、五橋です〕
〔The next stop is Itsutsubashi station.〕
〔日蓮正宗仏眼寺へは愛宕橋で、冨士大石寺顕正会仙台会館へは終点富沢でお降りください〕

 愛原:「そういえば高橋君」
 高橋:「何でしょうか?」
 愛原:「地下鉄と言えば、“バイオハザード”の舞台が大都市だった場合、必ずステージとして登場するよな。俺達の時は、霧生電鉄だったか」
 高橋:「そうですね」

 厳密に言えば、霧生電鉄は地下鉄ではない。
 ただ、私達が駆け込んだ駅は高台にあり、駅の入口は地上にあるものの、ホームはトンネルの中という特殊な構造の駅だった。
 もっとも、日本全国探せばそういう駅は他にもある。
 例えばここの地下鉄においては泉中央駅しかり、東西線の八木山動物公園駅や荒井駅がそうである。

 愛原:「ま、ここでは無いだろうけどな」
 高橋:「もしあったとしても、俺は大丈夫ですよ」
 愛原:「武器が無いとなぁ……」
 高橋:「武器が調達できるまで、俺に任せてください」
 愛原:「フフ、本当に期待できるものだから凄いよな」
 高橋:「ありがとうございます」

[同日22:35.天候:晴 仙台市太白区富沢 富沢駅]

 電車が南の終点駅に向かうまでの間、どんどん乗客は減って行く。
 1つ手前の長町南駅で、電車はガラガラの状態になってしまった。
 私はドア横の座席に座ったが、高橋はその横の仕切り板の前に立つだけであった。
 そして、電車は一気に坂を駆け登り、地上に出た。
 車窓には夜景が広がる。
 そのまま更に登り、高架線に入ると、電車は減速する。

〔富沢、富沢、カメイアリーナ仙台前。終点です。お出口は、右側です。お忘れ物の無いよう、ご注意願います〕

 愛原:「ここに高橋の友達が?」
 高橋:「ええ。駅前のロータリーで待ってるはずです」
 愛原:「そうか」

 電車がホームに止まり、ドアが開く。

〔富沢、富沢、カメイアリーナ仙台前。終点です。1番線の電車は、回送電車です。ご乗車にならないよう、お願い致します〕

 私と高橋は僅かな乗客達と共に電車を降りた。
 ずっと地下を走っていただけに、いきなり高架駅は何だか新鮮だ。

 高橋:「あっ、いたいた。あれです」

 駅を出てロータリーに行くと、これまた走り屋仕様の車が止まっていた。
 東京ではチェイサーに乗る機会があったが、今度はストリームである。

 高橋:「おーい!」
 青年A:「高橋先輩!」
 青年B:「チャス!」

 高橋君と歳は同じくらいか。
 しかし、やはりファッションは高橋君とよく似ている。
 1人は茶髪だし、もう1人は坊主頭だ。

 高橋:「今、東京で俺が世話になってる愛原先生だ」
 愛原:「ど、どうも。東京で探偵やってます、愛原です」
 青年A:「うス!高橋先輩の中学ん時の後輩で、佐藤って言います」
 青年B:「同じく千葉です。よろしくオナシャス」

 見た目はヤンキーっぽいが、いざ話してみると、そんなに性格が悪いって感じでもないみたいだ。

 佐藤:「じゃあ、どうぞ。乗ってください」
 高橋:「おう。先生、どうぞ」
 愛原:「あ、ああ。ありがとう。よろしく」

 それでも私は、少し緊張して車に乗り込んだ。
 何だか、このまま暴走族の抗争場所に連れて行かれるような気がして……。
 高橋の知り合いじゃなければ、絶対このまま逃げ帰っていたことだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「出張」

2018-07-14 20:13:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日13:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 取りあえず今日は抜け出していた病院に対し、お詫びと退院の手続きをしてきた。
 バスで事務所の近くまで戻ると、私と高橋は再び灼熱地獄に襲われた。
 梅雨明けした都内は、連日30度を超えているのだ。
 バスの中は冷房が効いていて涼しかったが、1度降りるとそれはもう……。
 途中で私達は昼食を取り、それからコンビニに寄った。
 コンビニ立ち寄りは、高橋の希望によるものだったが……。
 こうして私達は事務所へと帰ってきた。

 高野:「あ、先生。お帰りなさい」
 愛原:「ああ、ただいま。無事、病院の退院手続きをしてきたぞー」
 高野:「それはお疲れ様でした」

 事務所の中もまたクーラーが効いて涼しい。
 前の事務所は建物が古かったせいか、冷房の効きも悪かったのだが。

 高野:「今、お茶入れますね」
 愛原:「ああ、すまない」
 高橋:「アネゴ、先生にはアールグレイだぞ?」
 愛原:「いや、いいよ!普通に麦茶で!冷えていれば……」
 高野:「こんな暑いのに、熱い紅茶なんか飲めませんよね」
 愛原:「確かにちょっと厳しいな。ところで高橋君、さっきコンビニで何を買ってたんだい?」
 高橋:「ああ、ちょっと待ってください。アネゴ、俺と先生は夕方、仙台まで行って来る」
 愛原:「なに!?」
 高野:「ぬねの!?」

 すると高橋はコンビニの袋の中から、更に横長のチケットケースを取り出した。

 高野:「ちょっと!新幹線代だけでバカにならないのよ!?」
 愛原:「それに、クライアントから仕事の依頼が入ったらどうする!?」
 高橋:「御心配いりません。アネゴ、高速バスで行くから大丈夫だ」
 高野:「あら、そうなの。それなら行ってらっしゃい」
 高橋:「先生、ボスからは『しばらく仕事の依頼は無い』とのことです」
 愛原:Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

 そんなぁ……。
 せっかく仕事に復帰できると思ったのに……orz

[同日16:10.天候:晴 都営地下鉄新宿線菊川駅]

 私は1度マンションに帰ると、取りあえず出張の準備をした。
 それから最寄りの菊川駅に向かった。

〔まもなく1番ホームに、京王線直通区間急行、橋本行きが10両編成で到着します。黄色いブロックの内側まで、お下がりください。都営新宿線内、笹塚までは各駅に停車致します〕

 高橋:「先生にとっては、まだ気持ちの整理が付かないでしょうが、今をおいて他に無いんです」
 愛原:「それはもう何度も聞いたよ」

 電車が轟音を立ててやってくる。
 京王電鉄の車両がやってきた。

〔1番線の電車は、京王線直通区間急行、橋本行きです。笹塚までは、各駅に止まります。菊川、菊川〕

 夕方のラッシュが始まる前なので、そんなに混んではいなかったが、下校中の学生の姿は目立った。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 ピンポーンピンポーンとチャイムが2回鳴ってドアが閉まる。
 確か、京王の電車は大抵こんな音ではなかったかな。

〔「この電車は京王線直通、区間急行の大沢……失礼しました。橋本行きです。笹塚までは各駅に止まります。次は森下、森下です。都営大江戸線は、お乗り換えです」〕

 京王の電車、都営線内では自動放送ではなく、肉声放送を使うそうだが、どうやらその通りのようだ。
 その理由は分からない。

 愛原:「取りあえずこれで馬喰横山まで向かって、それから総武快速だな」
 高橋:「そうですね。さすが先生です」
 愛原:「こう見えても、十津川警部みたいな探偵を目指していたからな」
 高橋:「崇高な目標です。でも、本当にサツなんかには就職しないでくださいよ?」
 愛原:「この歳じゃ、今さら採用試験すら受けれねーよ」

 それより、さっきから女子高生達がこちらをチラチラ見ている。
 もちろん私などではなく、高橋だ。
 いかに彼がイケメンと言えよう。
 イケメンが、こんな世界に来るとは……実に勿体無い。
 私は吊り革に掴まりながら高橋に言った。

 愛原:「おい、高橋。さっきからJK達がキミのことを見てるぞ?イケメンだなぁ?おい」
 高橋:「ジェイケー?何のことですか?因みに俺はS系です。あ、でも、先生にだったらM系でも……」
 愛原:「何の話だ!?」

 高橋は天然系イケメンだ。
 いわゆる、残念系イケメンの1つだ。

[同日16:40.天候:晴 東京都中央区日本橋三丁目]

 そろそろ夕方ラッシュも始まろうとする頃、私達はバス乗り場に到着した。

 愛原:「東北急行バス“スイート”号、17時ちょうど発か。まだ時間あるな」

 バスの乗り場は待合所があるわけでもなく、ただ屋根付きのバス停があるだけだった。

 愛原:「夕飯でも買って乗り込むか……」
 高橋:「途中休憩ありますよ、先生?」
 愛原:「10分、15分じゃ、トイレ休憩とか一服がいい所だよ。ほら、ちょうどバス停の真ん前にセブンがあるじゃないか。そこで適当に見繕う」
 高橋:「はい」

 そう考えるのは私達だけではなかった。
 店内には他にも、高速バスの利用者と思しき者達が飲み物を購入していた。

 愛原:「ビール、ビールっと……」
 高橋:「先生も何気に旅行気分ですね」
 愛原:「仕事で行くわけじゃないからな」
 高橋:「ま、それもそうですね」
 愛原:「高橋君は飲まないのか?」
 高橋:「申し訳ありませんが、今そんな気分じゃありませんので」
 愛原:「そうか」
 高橋:「あのクソガキを【ぴー】したら、お供します」

 そんなにあの仮面子ちゃんは、高橋の逆鱗に触れるようなことをしたのだろうか?
 いや、まあ、彼の言う事が本当だとしたら、相当悪どいことはしていることになるが……。

[同日17:00.天候:晴 東北急行バス“スイート”号車内]

 バスに乗り込んでみると、昼行便であるにも関わらず、独立3列シートだった。
 広くてコンセントも毛布も付いていて、なかなか素晴らしいと思ったのだが、何故か高橋は不満顔。
 まさか、この安い値段で更にWi-Fiまで付けろなんて言うんじゃないだろうな?
 都営バスと一緒にしない方がいいぞ。

 高橋:「残念です。俺は先生のお隣に座りたかったのですが」
 愛原:「は?」

 私はこれ以上、深く聞くのはやめた。
 私は後ろの方の進行方向左側の窓側に座り、高橋はど真ん中のB席に座った。
 隣と言えば隣なのだが、他人が顔を合わせないようにと少し位置が前後にズレている。

 愛原:「……なあ?今頃、気づいたことがある」
 高橋:「何でしょうか?」
 愛原:「今から出発したら仙台に着くの、夜中だよなぁ?」
 高橋:「22時過ぎってところですね」
 愛原:「何でそんな時間に着くようにしたし?!」
 高橋:「新幹線より安く、しかしなるべく今日中には向かおうとしたら、こうなったのです」

 私は高橋の考えに、呆れて反論できなかった。
 とにかく、バスは座席を半分ほど埋めた状態で出発した。
コメント (3)
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