報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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“私立探偵 愛原学” 「地下への鍵」

2018-07-18 15:14:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日00:30.天候:晴 宮城県仙台市太白区郊外 某廃校舎]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 木造の廃校舎というのは表向き。
 どうやらその地下には昔、アメリカ国内は元より、日本国内でも一都市をバイオハザードに陥れた悪の製薬企業アンブレラの秘密研究所がある恐れが出て来た。
 そして助手の高橋君が言うのには、そこに『仮面の少女』が隠れているのだと。
 しかしその地下へ下りる階段に行くには、固く閉ざされた鉄扉を開ける必要があった。
 鉄扉はドアノブ自体が鍵の役割を果たすグレモン錠となっている。
 つまり、ドアノブ型の鍵が外され、それを探して来なければ、そもそもドアが開かないというものだった。
 ボヤボヤしていると、ゾンビ化した高橋の仲間達が校門をブチ破ってここまで来てしまうかもしれない。

 愛原:「どこにあるだろう?」
 佐藤:「鍵関係だから、警備室じゃないスか?」
 高橋:「アホか。こんな廃校にガードマンがいるわけないだろう」
 愛原:「まあまあ。この木造校舎が現役だった頃は、先生や用務員さんが宿直で泊まり込んでいただろうからな。恐らく職員室か宿直室のどっちかにあるだろう」

 という常識が通用するのは、あくまでもこの学校が現役だった場合だ。
 果たしては、今は……。

 高橋:「職員室はどこにあるのでしょう?」
 愛原:「大抵は1階にあるよな」

 私達が廊下を歩き出した時だった。

 佐藤:「あっ!」

 佐藤君が声を上げた。
 彼の視線の先を追うと、何故か電気の点いている箇所があった。
 それはあり得ないはずだ。
 学校にしろ、秘密研究所にしろ、今はどちらも廃止されているわけだから、電気など止められているはずだ。
 にも関わらず、何ゆえ照明が点くのだ?

 愛原:「気を付けろよ。罠かもしれない」
 高橋:「はい!」
 佐藤:「う、うス……」

 私達は電気の点いた部屋に向かった。
 そこは部屋ではなく、女子トイレだった。

 佐藤:「は、入っていいんスかね?俺ら、男っスけど……」
 愛原:「別にいいだろう。どうせ誰もいない」
 高橋:「そうですね」
 愛原:「……ことになっているから」
 佐藤:「何スか、それ!」

 私達は鉄パイプやレンチを手に、唯一照明の点いている女子トイレに入った。
 古い時代の校舎だ。
 トイレは汲み取り式である。
 もう使われていないはずなのに、臭いが未だに残っている。

 愛原:「あっ!」

 中に入って、すぐに気づいた。
 トイレの中、壁に大きく赤い文字で何か書いていた。

 愛原:「『3階へ行け』だって!?」
 高橋:「ますます、あのクソガキのせいかもしれませんね!」

 霧生市のバイオハザードの時、最後に探索したのはアンブレラの研究施設だ。
 その時、『仮面の少女』がそんなことをしていた。

 愛原:「よし。3階へ行ってみよう」

 私達はトイレを出ると3階へ向かった。
 今のところ、校舎内には何もクリーチャーらしき者は襲ってきていないが……。
 この静けさが、却って不気味だ。
 古めかしい木の床がギシギシと嫌な音を立てる。

 愛原:「学校の怪談に、『十三怪談』とか『トイレの花子さん』とかがあってだな、私達は『トイレの花子さん』を追っていることになる」
 佐藤:「マジっすか!?」

 アンブレラの実験台にされた少女の本名は分からないし、何故そうされたのかも分からない。
 だが、元は普通の人間の少女として暮らしていたのに、ある日突然アンブレラに捕まり、『日本人版リサ・トレヴァー』とか『仮面の少女』『トイレの花子さん』となった経緯は如何ばかりか。

 愛原:「3階だ……うっ」

 3階まで階段を登り切り、そこからトイレの方を見ると、やはりそこも電気が点いていた。

 愛原:「……もしかしたら、地下に行く前に、ここで『花子さん』と遭遇するかもしれんぞ?」
 佐藤:「ええっ?」
 高橋:「そいつは好都合です。ここで俺達をナメやがったクソガキに、痛い目見せてやりますよ」

 私達は慎重に3階の女子トイレに向かった。
 そして、ドアを開ける。
 ギギギィィィと、これまた嫌な音を立てて開く木製のドア。
 トイレの中は1階と全く同じ構造だった。
 天井に灯るは、たった2個の電球。
 壁には、何の落書きも無い。

 高橋:「先生、確か『トイレの花子さん』は、奥から2番目の個室にいるんでしたよね?」
 愛原:「……らしいな」

 霧生市のアンブレラ研究所ではどうだったかな……?

 愛原:「開けても、多分何も出てこないだろう」
 高橋:「そうなんですか!?」
 愛原:「ああ。だが、油断は禁物だ」

 私はそう言って、ドアをノックした。
 怪談では外から3回ノックすると、中からも3回ノックの音が返されるということだが……。

 愛原:「あれ?」

 全く反応が無かった。
 もう1度叩いてみたが、やっぱり反応が無い。

 高橋:「先生?」
 愛原:「……逆に何か潜んでるかもしれんな」
 佐藤:「ちょっと何言ってるか分かんないス」
 高橋:「じゃ、お前が開けろ」
 佐藤:「ええっ!?」
 高橋:「先生の御見解にケチを付けやがった罰だ」
 愛原:「いや、別にいいよ!」

 高橋は佐藤君にドアを開けさせた。
 個室のドアは外側に開けるタイプである。
 佐藤君は震える手で、ドアを開けた。
 鉄パイプとレンチで身構える私達。
 だが、中には誰もいなかった。

 高橋:「……誰もいませんね」
 愛原:「そ、そうか?」

 私は天井や床、そして便器の中まで調べようとして気づいた。

 愛原:「あった!グレモン鍵!」
 高橋:「さすがは先生!」

 何でこれが、こんなトイレの中にあったのか?

 愛原:「もしかして、これを私達に見つけさせる為に、わざわざこんなことをしたのか?」
 高橋:「なるほど。それじゃ、これは俺達に対する挑戦状ですね?」
 愛原:「何でそうなる?とにかく、これで地下室へ行けるようになるぞ。早いとこ……」
 佐藤:「だ、誰だっ!?」

 その時、トイレの出口に目をやった佐藤君が叫んだ。

 愛原:「どうした!?」
 佐藤:「今、廊下を誰かが全力ダッシュして行きました!!」
 愛原:「なにっ!?」

 私達はトイレから出て廊下の外を見た。
 だが、月明かりの差し込む薄暗い廊下に人の気配は無かった。

 高橋:「キサマ、先生に嘘を付くとはいい度胸……」
 愛原:「いや、違うだろ!……佐藤君は何を見たんだい?」
 佐藤:「廊下が暗かったんで、よく分からなかったんスけど……。多分、女の子っス。女の子のスカートから下の足2本が、向こうへ走って行ったんです!」
 高橋:「足だけの妖怪!?」
 愛原:「そ、そうなのかな?上半身は暗くて見えなかっただけだろう?」
 佐藤:「多分……」
 愛原:「スカートから下はどんな感じだった?」
 佐藤:「いや、ほんとマジ一瞬だけだったんで……。ただ、黒っぽいスカートに黒いソックス履いて……そう、何か中学生っぽい感じだったかもです」
 高橋:「先生!?」
 愛原:「『仮面の少女』か……!?」

 彼女は私達の動向を監視している。
 トイレの照明を点けたのも、このグレモン鍵を置いて行ったのも、やはり彼女だったのか……。

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