報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「仮面の少女」

2018-07-13 19:21:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日11:42.JR東京駅八重洲南口]

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございました。次は東京駅八重洲口、東京駅八重洲口。終点でございます。……〕

 私はそれまで記憶障害で入院していたという病院に向かい、そこで色々やってきた。
 検査などもしてみたが、相変わらずの記憶喪失というだけで、それ以外は特に障害も出ていない。
 その為、正式に退院しても大丈夫ということになった。
 但し、ボスが本当に何か申し入れをしてきたらしいが、そこはあえて【お察しください】。

 高橋:「すいません、先生。車、用意できなくて……」
 愛原:「いや、いいよ、別に。あとは、このまま事務所に帰るだけだから」
 高橋:「あいつらもまた、現地に向かいやがりまして……」
 愛原:「一体、何だって言うんだ?」

 私達はバスを降りた。
 都営バスは本当に駅の入口のすぐ近くにバスが止まるので、上手く乗りこなすと便利だ。

 高橋:「事務所でお話しましょう。その前に、寄る所がありますので」
 愛原:「寄る所だと?」

 私と高橋は駅構内を通り抜け、丸の内側へと出た。

 高橋:「大した所ではありません。コンビニですよ、コンビニ」
 愛原:「NEWDAYSなら、そこにあるだろう」
 高橋:「あ、いえ、そこじゃないです。ま、とにかく事務所へ」
 愛原:「?」

 私は首を傾げた。
 都営バスは反対側の丸の内側からも出ている。
 もっとも、運行担当営業所は違うだろうが。

 愛原:「だいぶ暑くなったな。俺の記憶が途切れる頃は、逆にクソが付くほど寒かったのに」
 高橋:「携帯型の扇風機で良ければ!」

 高橋はポケットの中から乾電池式の扇風機を取り出した。

 愛原:「ありがとう。……いや、うん……。熱風が来るだけだから、やっぱいいや」
 高橋:「そうですか。でもきっと、俺の話を聞いたら逆に寒くなりますよ」
 愛原:「何だ?納涼怪談大会でもする気か?」
 高橋:「近いかもしれません」
 愛原:「確かにバイオハザードのゾンビ祭りも文句無しのホラーだが、あれは寒くなるホラーじゃなくて、むしろ熱くなるホラーだからなぁ……」
 高橋:「でも、今度のはきっと寒くなります」
 愛原:「寒くなるホラーというと……幽霊の話とかか?」
 高橋:「……かもしれません」

[同日11:55.天候:晴 東京駅丸の内北口バス停→都営バス東20系統車内]

 バスの中はクーラーが効いて涼しかった。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは定刻通りに発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださまいして、ありがとうございます。この都営バスは東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。……〕

 私と高橋君は1番後ろの座席に座っている。
 真っ昼間のバス車内は空いていた。
 というか、お腹も空いて来たな。
 バスを降りたら、何か食べよう。

 高橋:「少しだけ、お話しましょうか」

 高橋が唐突に言った。

 高橋:「先生が行方不明の間も、俺はあの仮面のクソガキを捜してました。それで、そいつをようやく見つけたんです。今、俺のチームの者が見張っててくれています」
 愛原:「いいのか?相手はあのタイラントも従えていたコだぞ?何の武器も持たない状態で……」
 高橋:「分かってます。あくまで見張っているだけで、手を出さないように言ってあります」
 愛原:「向こうから襲って来たら?」
 高橋:「全力で逃げるように言ってあります」
 愛原:「それならいいか……いいのか?……まあ、いいや。で、そのリサはどこにいる?」

 本名は知らない。
 アメリカの『リサ・トレヴァー』という名前の少女が実験体にさせられたという話は日本にも伝わっており、コンセプトが似ていたことから、私もそう呼んでいる。
 マスコミなどは、『仮面の少女』とか、ネットでは『仮面子ちゃん』と呼ばれていたが。
 但し、こっちには日本人の少女なので、くれぐれも誤解の無いように。

 高橋:「ここです」

 高橋はスマホの画面を私に見せた。
 そこに写っていたのは……。

 愛原:「学校!?」

 それも、随分古い。
 今時、田舎に行ってもなかなか無いのではないかと思われる木造校舎の外観だった。

 高橋:「はい」
 愛原:「東京に、まだこんな木造校舎の学校があるなんて……」
 高橋:「あ、いえ。都内ではありません」
 愛原:「何だ?……はっ、まさか……霧生市!?」
 高橋:「……だったら、面白かったんですがね。あいにくとあそこは『滅菌中』とかで、完全に立入禁止区域となっています。東北ですよ」
 愛原:「東北?」
 高橋:「ええ」
 愛原:「何で?」
 高橋:「今はもうとっくに潰れましたが、アンブレラには日本法人があったんです」
 愛原:「それは知ってる。一応、アメリカの本体から独立して、善良な製薬会社を目指そうとはしたものの、霧生市のバイオハザードを引き起こして、結局潰れたんじゃないか」
 高橋:「ええ。もしかしたら、学校を装った研究施設があるかもしれませんよ?」
 愛原:「アメリカじゃないんだから、そんなことないだろう」
 高橋:「とにかく、いると分かった以上、俺はそこに行くつもりです。そしてそれは、先生も行くべきなんです」
 愛原:「何だか知らんが、リサがいるなら行くべきだろうな」

 私は霧生市のバイオハザードから脱出する時に、リサを連れ出した。
 彼女自身はタイラントと違って、どちらかというと被害者サイドではないかと思ったからだ。
 だから私は連れ出した。
 きっと、その方が幸せになれるだろうからと。
 もし彼女が何か困っているのなら、力にならなければならない義務がある。
 しかし、高橋は違う考えのようだった。

 高橋:「ええ。是非、先生の手で仕留めてください」
 愛原:「リサはそんなに悪い事をしたのか?」
 高橋:「先生は覚えていないでしょうけどね、あの船でバイオハザードを引き起こしたのはあのクソガキです」

 ちょっと何言ってるか分かんないです。
 何で政府に保護されているリサが、あの船に乗ってきて、しかもバイオハザードを引き起こしたんだ???
 全く、私にはワケが分からなかった。
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“私立探偵 愛原学” 「病院へ向かう」

2018-07-13 10:35:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日07:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 しかしながら、ここ7ヶ月ほどの記憶が無い。
 目覚まし時計が鳴って、私は起床した。
 ……うん、ちゃんと昨日の記憶はある。
 昨日は飲んだくれているところを、私の弟子を自負する高橋君に保護されたんだったけな。
 私は起き上がって、寝室から出た。
 因みに、住んでいる所まで変わってしまった。
 それもそのはず。
 私は爆弾テロされた旧・事務所の一角を、そのまま居住区にしていたのだから。

 高橋:「おはようございます、先生」
 愛原:「あ、ああ。おはよう」

 高橋は私の家に住み込みで働いている。
 何でも、私を一流の探偵ということで、その一挙手一投足から勉強したいのだそうだ。
 その代わり、私の身の周りのことは何でもしてくれるとのこと。

 高橋:「もうすぐ朝飯できますんで、もう少しお待ちください」
 愛原:「分かった。ちょっと、顔洗って来る」
 高橋:「はい!」

 10代の頃は暴走族だか半グレ集団だか知らないが、そういう荒れた生活していた割には、やたら生活能力は強い。
 本人曰く、『少年院や少年刑務所で習いました』とのことだが、本当だろうか。
 今だって、手際良く朝食を作ってくれている。

〔「……次のニュースです。今年元日に太平洋沖に沈んだ豪華客船“顕正号”沈没事故ですが、その後の調査で特異ウィルスによるバイオハザードが船内で発生していたと国連組織BSAAが明らかにしました。BSAA極東支部の会見では……」〕

 高橋:「チッ!」

 高橋は舌打ちをすると、テレビのチャンネルを替えた。

 愛原:「どうした?」
 高橋:「あ、いえ。何でもありません」

 私は顔を洗って来ると、ダイニングに戻った。
 それにしても、このマンションも広いな。
 これも探偵協会が用意してくれたということだが、何だか出来過ぎている。
 どういうつもりなのか、協会に行って聞いて来る必要があるかもしれないな。
 だがその前に事務所に寄って……あ、病院に行かなきゃいけないんだっけ。
 昨夜、高野君に強く言われたしなぁ……。

[同日08:00.天候:晴 同地区 愛原の事務所]

 私達の住むマンションと事務所は、徒歩数分の御近所さんだ。

 高橋:「先生、病院に行かれるんじゃないんですか?」
 愛原:「ああ。だけどその前に、少しでもこの半年間のブランクを埋めておきたい。まずはメールからだ」

 私は事務所に入った。
 まだ、高野君は来ていなかった。
 高野君は事務員であり、基本的に私や高橋君と行動することはない。

 愛原:「ん!?」

 その時、事務所の電話が鳴った。

 高橋:「はい、愛原学探偵事務所です。……ボス!」

 ん?ボスだと?

 高橋:「……あ、はい。何の御用でしょうか?……分かりました。少々お待ちください」

 高橋は電話の受話器を私に渡した。

 愛原:「もしもし。お電話代わりました。愛原です」
 ボス:「私だ。高野君から聞いたよ。ようやく、事務所に戻ってきてくれたみたいだね?」
 愛原:「あ、こりゃどうも……。何ともはや……」

 ボスの正体については、未だに分からない。
 私が事務所を開設した時に『探偵協会の者だ』と名乗り、ボスの指示に従って動けば、事務所経営を安泰にしてくれるという。
 実際にクライアントを紹介してくれたりして、確かにその通りであったのだが……。
 探偵の仕事ってこんなんだったっけ?と、未だに疑問符を取り払えないのだ。

 ボス:「まあいい。記憶障害は残っているようだが、それ以外は特に問題は無さそうだね」
 愛原:「は、はい。今のところは……」
 ボス:「ところで、今日のニュースを見たかね?」
 愛原:「いえ、それはまだ……」
 ボス:「探偵たるもの、常に周囲の情報には敏感でなければならんぞ。今朝の朝刊でも買って読みたまえ。それと病院の方には協会の方からも話しておくから、ちゃんと行くのだぞ?」
 愛原:「り、了解しました!」

 私は電話を切った。

 愛原:「高橋君。俺は病院に行ってくる」
 高橋:「お供します!」

 言うと思った。

 愛原:「……俺の病院どこだっけ?」
 高橋:「俺がチームの者に言って、車回させますよ」
 愛原:「いや、いいよ!キミの仲間をタクシー代わりに使うな!」
 高橋:「大丈夫です。皆、先生に心酔してますんで」
 愛原:「俺、何かした?」
 高橋:「バイオハザードを2回も生き抜いたってことで、先生はちょっとした有名人ですよ」
 愛原:「1回目……霧生市のバイオハザードはもちろん記憶にあるが、2回目の沈没船については全く記憶が無いんだって」

 高橋は私が止める間も無く、チームメイト(?)にLINEを送っていた。
 そして……。

 手下A:「高橋さん、おはざーっス!」
 手下B:「お迎えに参上っス!」
 高橋:「遅ェぞ!5分以内に来いっつったろ!45秒遅刻だ……!」

 ギロリと高橋は年下の2人を睨みつけた。

 愛原:「高橋君、いいから!やめなさい!」
 高橋:「先生がそう仰るのでしたら……」

 私は再び走り屋仕様のチェイサーに乗ることとなった。

[同日08:20.天候:晴 都内の道路]

 渋滞する都内の道路をすり抜けたり、時には空いている逆方向の道を走ったりしている。
 車内にはヘビメタのロックが掛かっている。

 手下B:「高橋さん、やりましたよ。山口のヤツ、ついに見つけたらしいっス!」
 高橋:「マジか!?」
 愛原:「何が?」
 高橋:「あ……えーと……!先生の前だ。黙ってろ」
 手下B:「さ、サーセン」
 手下A:「でも高橋さん、どうせ先生にも後で話すんでしょう?ざっくりとだけでも言ってみたらどうっスか?」
 愛原:「まあ、確かに気になるね」
 高橋:「アレですよ。昨夜話した、白い仮面のクソガキのことです」
 愛原:「あれでしょ?リサ・トレヴァーのことでしょ?」

 もちろん、昔アメリカに現れたというアレとはまた違う。
 ただ、日本でも似たような実験は行われていて、その実験体たる彼女のことだ。
 霧生市のバイオハザードの後、政府に保護されたということだが……。

 高橋:「ええ。霧生市のアイツです」
 愛原:「それがどうして、俺達の敵なんだ?」
 高橋:「話せば長くなります。後でお話します」
 愛原:「……分かった」
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“私立探偵 愛原学” 「事務所への帰還」

2018-07-11 19:32:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月8日22:15.天候:晴 東京都墨田区菊川]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私はここ半年以上もの間、記憶を無くしていた。
 都内の寿司屋で飲んだくれになっていた時、高橋君が私を見つけて連れ戻してくれている。

 手下A:「高橋さん、もうすぐ事務所ですよ」

 走り屋仕様の黒塗りのチェイサーのハンドルを握る男が言った。
 皆、高橋君がグレていた頃の知り合いらしく、だいぶ『オシャレ』の進んでいるコ達だ。

 高橋:「事務所の真ん前に着けてくれ」
 手下A:「了解っス!」

 ボボボと吹かしながら車は新しい事務所の前に止まった。

 高橋:「先生、どうぞ。ここが新しい事務所です」
 愛原:「ここかぁ……」

 それは北区に構えていた頃よりは新しいビルの中にあった。
 墨田区の住宅街の中にあるようなビルなので、そんなに高いビルではない。
 5階建てビルの最上階にあった。

 手下B:「それじゃ高橋さん、俺達はこれで」
 高橋:「サンキューな。俺は先生に状況を説明してから向かうから」
 手下A:「了解っス!つか、むしろ高橋さん達が来る前に俺達でやっときますよー」
 高橋:「バイオハザードをナメんなよ。銃が無いと生き残れねぇ世界だ。油断すんじゃねぇ」
 手下B:「さすが高橋さん、パねぇっス!」

 一体、何の話をしてるんだろう?
 というか高橋君に、こんなコネがあったとは……。

 高橋:「すいません、先生。お待たせしました。早くエレベーターへ」
 愛原:「ああ」

 私と高橋君は1機だけのエレベーターに乗り、5階へ向かった。
 ビルも新しいので、エレベーターも新しい。

 愛原:「今のコ達は、どういう関係?」
 高橋:「俺が先生に弟子入りする前に、色々と遊び歩いた仲間ですよ。あと他に……少年院少年刑務所にいた時の知り合いとかもいます」
 愛原:「ちょっと待て。キミが少年院に入っていたことは知ってるけど、少年刑務所は初めて聞いたぞ?」
 高橋:「大丈夫ですよ。先生に弟子入りする前にちゃんと満期で出所して、けして脱獄なんてしてませんから」
 愛原:「そこじゃない!」

 エレベーターが5階に到着し、ドアが開くと、事務所はすぐ目の前にあった。

 愛原:「ん?電気が点いてるぞ?」
 高橋:「ああ。姐御がいるんですね」
 愛原:「アネゴ?」

 高橋君が入口のガラス戸を開けた。

 高野:「先生!よく御無事で!」

 すると、中から黒髪のショートボブが似合う女性が出て来た。

 高野:「高橋君から『見つけた』って連絡を受けた時は、もう嬉しくて泣いちゃったんですよォ!」

 えーと……あ、思い出した。
 うん、高野芽衣子君だ。
 あくまでも、私の記憶は昨年末から無いだけであって、それ以前はちゃんとある。
 少年院に入りながら、なお今でも愚連隊時代の仲間を引き連れて歩ける高橋君が『姐御』呼ばわりするほど、気の強いコだったはずだ。
 高野君は私の両手を掴んでブンブン振っている。

 高橋:「アネゴ、年甲斐も無くはしゃいでんじゃねぇよ」
 高野:「うるっさいわね!別にいいでしょ!……ささ、先生、早く中に入ってください」
 愛原:「あ、ああ」

 年甲斐も……って、高橋君がまだ20代前半という若さってなだけであって、高野君もまだ30歳にもなっていなかったはずだが?
 私?私はまあ……アラフォーだけどさ。

 事務所の中はやはりというか、前の事務所よりも明るくて広かった。
 私を入れて、たった3人だけのスタッフだけで回すには勿体ないくらいだ。
 ここに住んでもいいくらいだな。

 高野:「先生、コーヒー入れますね」
 愛原:「あ、ああ。すまない」

 私は応接室に入ると、そこのソファに座った。

 愛原:「なあ、高橋君?」
 高橋:「はい!」
 愛原:「こんなきれいな事務所、どうしたんだ?名義とか、どうなってるんだい?」
 高橋:「順を追って説明するつもりでしたが、これは探偵協会からの御褒美です」
 愛原:「御褒美!?」
 高橋:「はい。俺達、豪華客船に乗って年末年始をエンジョイするはずだったって……記憶に無いですか?」
 愛原:「……覚えてないな。って、そんなカネ、どこにあったんだ!?」
 高橋:「探偵協会からの招待ですよ。昨年、先生のおかげでこの事務所、世界探偵協会から注目されましてね。そんな優秀な探偵事務所の連中を集めた船上パーティーをやろうって、胡散臭い話があったんです。でもそれはテロ組織の罠でしてね、船内でバイオハザードが発生したんです。先生はとても活躍してました」
 愛原:「俺が?」
 高橋:「はい!霧生市のバイオハザードを思い出しましたよ。だけど、それでも俺達を罠にハメやがった大馬鹿野郎がいましてね。先生が記憶を無くしたのは、それが原因です」
 愛原:「そうだったのか……。それで?」
 高橋:「結果的に船は沈没。生き残ったのは、俺達だけですよ」
 愛原:「は!?」
 高野:「厳密に言えば、他にも助かった人達はいたかもしれませんけど、取りあえずヘリで脱出できたのは私達だけってことです」

 高野君がコーヒーを入れて持って来た。

 愛原:「全然覚えて無いぞ?」
 高野:「先生、意識を失っておられましたから……。だけど、探偵協会がそんな私達を手放しで褒めてくれたんですよ。賞金もたんまり出してくれるって話だったんですけど……」
 高橋:「その矢先に爆弾テロですよ!テロ組織はまだ潰れちゃいなかったんだ!」
 高野:「そりゃそうでしょ。悔しいけど、あの船での戦いは私達の負けよ。私達、結局何もできず、脱出を考えることだけしかできなかった……」
 高橋:「とにかく、探偵協会がその後、全部面倒見てくれて、代わりの新しい事務所を用意してくれたんです」
 愛原:「そうだったのか……」
 高野:「ああ、先生。後で病院に戻ってくださいね」
 愛原:「病院?」
 高野:「先生、記憶障害の治療で入院されてたんですよ?そこから抜け出して、飲みに行ってたんですね」
 愛原:「そ、そうだったのか!」
 高橋:「アネゴ、俺のチームメイトが現地に向かってんだぞ?」
 高野:「あのね!先に主治医の先生に謝ってからでしょう?筋ってモンを考えなさいよ!」
 高橋:「だけどなぁ!」

 ああ、また高橋君と高野君の言い争いが始まった。
 まるで、姉弟ゲンカだ。
 本当に、私は事務所に帰って来たんだなぁ……。
 私はほっこりして、コーヒーを口に運んだ。
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“私立探偵 愛原学” 「腑抜けた探偵」

2018-07-11 10:16:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月8日21:03.天候:晴 東京都江東区豊洲 とある寿司屋]

 ……まずい酒だ。
 だけど、どういうことだろう。
 飲まないと、俺は何かに捕らわれてしまいそうな気がしてならない。
 俺はグラスの酒を一気にグイッと飲んだ。

 愛原:「大将、もう一杯」
 大将:「は、はい」

 大将は私の大酒飲みっぷりに驚いているようだが、そんなことは気にしない。
 俺はカウンター席に1人で座っているが、その隣にはさっきから寿司を頬張る若い兄ちゃんがいる。

 兄ちゃん:「この辺りは東京湾に近いくせに、なかなか美味い寿司が食えねぇ。だけど、この店のはアタリだよ」
 愛原:「あー、そうかい……」

 今時珍しく、他人に気軽に話し掛けてきやがる兄ちゃんだ。
 それとも、こいつも俺と同じく酔っ払ってるのか?
 そんなことを考えていると、大将が酒のお代わりを持って来た。
 だが、徳利を傾けてみると、お猪口一杯分しか入ってやがらねぇ。

 愛原:「大将、何だよ、これ?もっと入れてきてくれよ」
 大将:「お客さん、飲み過ぎですよ。うちはヤケ酒出すような店じゃないんですから」
 愛原:「……おい、大将、聞けや。オメェは愛想良く笑顔で、客に酒やら寿司やら出してんだろ?あ?だったら、黙って仕事しろ!」
 大将:「あんたに出す酒は無ェ!帰ェってくんな!」
 愛原:「……帰る場所なんて、無ェんだよ……」

 そうだ。
 俺には帰る場所が無い。
 帰る場所が無い?どういうことだ?俺の家は……。
 俺は、出口とは反対の方向に歩き出した。
 すると、今度はどこかのオヤジが私に口出しをしてきた。

 オヤジ:「おい、あんちゃんよ?帰れって言われただろ?」
 愛原:「うるせぇっ!!」

 俺はオヤジをテーブルに押し付け、手近にあったビール瓶を振り上げた。
 だが、それを止める者がいた。
 俺の隣に座っていた兄ちゃんだ。
 ビール瓶を振り上げた私の手を握り、首を横に振る。

 兄ちゃん:「ブザマですね。愛原学先生」
 愛原:「あ!?何だ、オメェは!?」
 兄ちゃん:「ちょっと話があるんです。ここに座ってください」

 兄ちゃんは空いているテーブル席へ私を座らせた。

 愛原:「誰だ、お前は?」
 兄ちゃん:「高橋です。高橋正義です」
 愛原:「……知らねぇな」
 高橋:「じゃあ、これはどうです?」

 高橋と名乗る青年は、俺に手持ちのスマホを見せた。
 その画面には、何だか分からない惨状が映し出されていた。

 愛原:「何だこれは?何の映画だ?」
 高橋:「映画ではありませんよ。ガチです。これは本当に、今から約半年以上も前……年末年始にとある場所で起きたバイオテロの光景です」
 愛原:「バイオ……テロ……?うっ……!」

 私の頭の中にフラッシュバックが起きた。
 業火の中にもだえ苦しむ人々の姿……。

 高橋:「まだ思い出せませんか?俺と先生、一緒にこの中から生還したんですよ?」
 愛原:「うう……!や、やめろ……!」

 何だ?何だこの頭痛は……!?

 高橋:「本当に忘れてしまったんですね。俺の事……」

 高橋と名乗る青年は寂しそうな顔をした。

 高橋:「それなら、これはどうです?」

 高橋はスマホの画面を切り替えた。
 そこに映し出されたのは、白い仮面。
 それが1番目を引く少女の姿だった。
 目の部分しか細い穴が開いていない為、彼女の表情を読み取ることはできない。
 少女だと思ったのは、この仮面の者が女子用の学生服を着ていたからだ。
 どちらかというとセーラー服に似たデザインのものだが、一体どこの学校の制服だろう?

 愛原:「何だこれは?……い、いや、これは……!」

 私は目を背けた。
 こいつは見てはいけない。
 何故か、そんな気がしたのだ。

 高橋:「見ろ!見ろよ、オラ!俺が……いや、あんたが忘れちゃいけない敵なんだよ!!」
 愛原:「やめろ!!」

 俺は顔ギリギリにスマホを近づけて来た高橋の手を払った。

 高橋:「クソッ!」

 高橋は憤然として椅子にどっかり座った。
 そしてスマホをテーブルの上に叩き付ける。

 高橋:「半年以上も必死に捜し回って、やっと見つけたと思ったのにこれかよ!!」

 その時、テーブルの上に叩き付けられたからなのか分からないが、スマホの画面がまた切り換わった。
 そこに映っていたのは、笑顔で写る俺と高橋、そしてもう1人、若い女が映っていた。
 その後ろには看板があって、そこに書かれていたのは……。

 愛原:「愛原学……探偵事務所……」

 それに高橋が反応して、またズイッと身を乗り出して来た。

 高橋:「そうです!あなたは1つの探偵事務所の経営者なんです!そして俺は先生の唯一の弟子、高橋正義です!」
 愛原:「…………」

 そう言われれば、そんな気もする。
 だけど、まだ釈然としない。
 高橋はまた画面をあの仮面の少女に切り替えた。

 高橋:「こいつの居場所は分かってる!兵隊も用意した!今こそ、乗り込むべき時です!」
 愛原:「兵隊?」

 高橋はパチンと指を鳴らした。
 すると、今まで歓談をしていた若い男達がぞろぞろとやってきた。

 高橋:「俺は先生を迎えに来たんです!何が何でも連れて行きます!いいですね!?」
 愛原:「…………」
 高橋:「……先生!」
 愛原:「……分かった。だけどこの通り、俺は殆ど何も覚えていない。その現地とやらに向かう前に、ちゃんと説明してもらおうか」
 高橋:「分かりました!まずは一先ず事務所へ!……おい、車回して来い」

 高橋は近くにいた似た年恰好の男に言った。
 男は急いで車を店の前に回して来たが、その車というのが……走り屋仕様であったことだけは伝えておく。
 そういえば高橋はかつて、ヤンキーとして暴れ回り、少年院に入っていたんだっけなぁ……。

 ていうか……。
 俺は……何から逃げて……何でここにいたのだろう……?

 高橋:「事務所の場所、変わったんですよ。少しでも先生の記憶を取り戻したいから、本当は事務所もそのままにしておきたかったんですが……」
 愛原:「どうして変わったんだ?」

 黒塗りのチェイサーのリアシートに、私と高橋で座る。
 加速する度に、改造されたマフラーから賑やかな音が響いて来る。
 高橋も短い髪を金色に染め、ピアスをしているが、運転している似た年恰好の男も負けず劣らず、かなり『オシャレ』をしていた。
 まるでこれから、暴走族同士の抗争会場に向かうかのようだ。

 高橋:「テロですよ」
 愛原:「テロ!?」
 高橋:「どこかのバカが、先生の大事な事務所に爆弾仕掛けて行きやがったんです!」

 高橋はまたスマホを私に見せた。
 そこには、半壊した雑居ビルの姿があった。

 愛原:「お、おま……!俺って、こんな爆弾テロされるようなことをしてたのか!?」
 高橋:「全部、テロ組織のせいですよ。先生のせいではありません」

 やっぱり……私は逃げていたのだろうな。
 現実から……。
 一探偵が、本来首を突っ込むべき事案ではなかった事から……。
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“戦う社長の物語” 「戦いの後で」 2

2018-07-09 19:22:10 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月6日11:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 社長室のテレビで囲み取材を受ける勝又都議の様子を観る敷島。

〔「勝又議員、ついに“クール・トウキョウ・プロジェクト”の始動が議会で承認されましたね?」「はい。2020年東京オリンピックとのタイアップも兼ねたこの企画、第一歩が踏み出せました」……〕

 敷島:「はは、勝っちゃんも有名人だな」
 エミリー:「あいつが効果をアップさせたのではないでしょうか?」

 エミリーはテレビ画面を指さした。
 勝又の後ろには、白いスーツを着たレイチェルが立っている。

 敷島:「レイチェルがお前達と同型機ってことは、秘書の仕事もできるんじゃないかって思ったんだ。で、ちょうど私設秘書を探していた勝っちゃんに勧めてみたら、見事に当たったな」

 敷島はズズズとコーヒーを啜った。

〔「後ろの秘書さんは、ロイドですか?」「いやあ、お分かりですか。クール・トウキョウ準備委員会の代表として、私自身がロイドを使う必要があると思いまして……」「これが議会で承認された大きな理由であるという話もありますが、それについては?」「それはあるかもしれません。とにかく、責任者自身がそうであるという態度を見せることに意義があったようです」〕

 敷島:「ちゃんと仕事してるじゃないか。勝っちゃん、良かったなァ」
 エミリー:「妹を褒めてくださり、ありがとうございます」
 敷島:「背後から近づいて暗殺していたわけだから、勝っちゃんの命をそうやって狙って来る輩に対しても万全だな」
 エミリー:「そうですね」

〔「次です。先週、日本各地で発生した爆弾テロの首謀者とされるデイジーについて、警察では……」〕

 敷島:「……デイジーの持ち主から一時預かって不正改造をした後、返却して持ち主を殺させたところまでは分かってるんだがなぁ……」

〔「東京では“クール・トウキョウ”の目玉となっているアンドロイド、特にボーカロイドやマルチタイプが注目されている中、人間に危害を加える個体も発生しているということで、対策が急がれています」〕

 敷島:「不正改造しやがる人間が悪いんだがな。映画なんかじゃ、そういう黒幕は大抵アメリカにいる場合が多いんだけど、デイジーの不正改造をしやがったヤツもアメリカ人っぽいぞ」
 エミリー:「社長の計画、進みそうですね」
 敷島:「何が?」
 エミリー:「社長御自らアメリカに乗り込み、その黒幕を退治することです」
 敷島:「バカ言え。そういうのはシュワちゃんやブルース・ウィリス辺りに任せるよ」

 大型バスで特攻する姿は、どう見てもハリウッドの映画スターにしか見えなかったエミリーだった。

 エミリー:「私には社長がハリアーやアパッチで、暴走したロイドに攻撃する姿が思い浮かびますが?」
 敷島:「こら。俺には操縦免許なんて無いぞ。……でもまあ、アメリカのデイライト社におバカな科学者がいたとしたら、一発殴りに行ってもいいかな」
 エミリー:「さすがです」
 敷島:「『営業が売りにくいモン造るな!』ってね」
 エミリー:「……観点が違います」
 敷島:「その点、平賀先生達は売り込みやすいものを造ってくれるから楽だ」

 営業畑一筋(自称)の敷島である。

 敷島:「午後は早速、売り込みに行くぞ」
 エミリー:「はい」
 敷島:「勝っちゃんの“クール・トウキョウ”が都議会で承認されたってことで、この勢いで霞ヶ関まで売りに行くぞ」

 未だに霞ヶ関へのマルチタイプの売り込みを続けていた敷島だった。

 敷島:「諦めないのが営業魂ってもんだからな」
 エミリー:「さすがです」

[同日17:05.天候:晴 豊洲アルカディアビル1Fメインホール]

 メインホールの片隅に置かれているグランドピアノ。
 このビルに入居している、とある楽器メーカーが宣伝用に置いたものだが、それをエミリーが弾くことがある。
 元々は自動演奏機能付きで17時になると勝手に流れていたのだが、それをエミリーがたまに弾くようになった(もちろん許可済み)。
 自動演奏機能が付いているのに、あえてロボット(ロイド)が弾いているということで注目を浴びたこともあった。
 今では、ビルの入居者は殆ど慣れてしまっている。

 ホール内に流れているのは“幻想即興曲”。

 鏡音リン:「あっ、社長!やっぱりここにいた!」

 エレベーターから降りてきたリンが、ホール内のベンチに茫然自失とした感じで座っている敷島に駆け寄った。

 敷島:「『アリッサー!』『ヒャッハー!“魔のモノ”の為に、お前の心臓は頂くぜー!』か……」
 リン:「社長、古いよ。それ、“クロックタワー3”でしょ?」
 敷島:「リンか……」
 リン:「お役所に売り込みに行ったけど、悉く断れたって話なら、もう何度もあったでしょ?」
 敷島:「“クール・トウキョウ”は推進されたはずなんだけどなぁ……」

 所詮は地方自治体の議会で可決されただけの話。
 国の機関としては、やはり国会を通らなければ棒にも箸にも掛からないらしい。

 リン:「リンの仲間は売らないの?リンも増産されたら面白いなぁ!」
 敷島:「ボーカロイドは、あくまでもエンターテイメント用だから。ミクみたいに、実は兵器用でしたなんて売り込んだりしようものなら……」

 エミリーのピアノ演奏が終わる。

 リン:「シンディの時は、横でフルート吹いてたね」
 エミリー:「シンディは管楽器が得意だからな。ピアノには自動演奏させて、自分は横でフルート吹いてたのだろう?」
 リン:「あれも面白かったよね。何せ、ピアノさんがシンディに合わせて鍵盤動かしてたんだから」

 リンはピアノの方を向いてニッと笑った。

 エミリー:「社長、気を取り直して帰りましょう。明日は科学館で七夕イベントがあります」
 敷島:「そうだったな。リンとレンがイベントに出るんだったな。明日はよろしく頼むぞ?」
 リン:「はーい!」(^O^)/

 ロイド達の活躍はまだまだ続く。
 敷島の営業は、前途多難なれど。
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