報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「始発電車」

2018-06-25 10:22:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月23日06:15.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅・新幹線乗り場]

 アリス:「ねむ……」

 アリスは大きな欠伸をした。

 敷島:「着くまで寝てていいよ。その代わり、朝飯は抜きな」
 アリス:「いや、食べるって」

 まずは在来線改札口に入る。
 朝早いということもあってか、多くの人で賑わうエキナカも今は人がまばらだ。

 敷島:「朝飯は駅弁でいいな」
 エミリー:「私が買ってきますよ」
 敷島:「いや、お前達は荷物を見ててくれ」

 エミリーとシンディは、大きなスーツケースを両手に2個ずつ持っていた。
 まるで、これから海外にでも行くかのようだ。
 ……というのは日本人の観点で、もしかしたら、『帰国する』という見方の方が適切かもしれない。
 もちろん、それぞれ中にあるのはRデコイなどのサブウェポンやロイド達の交換パーツなどが入っているのである。

 敷島:「何がいい?」
 アリス:「……ベーコンエッグ弁当」
 敷島:「無ェよ!」
 アリス:「『三元豚とんかつ弁当』」
 敷島:「これか。朝から随分とボリューミーなの食うな。まあいいや」

 敷島も自分のを探す。

 敷島:「どれにしようかな……。おっ、『日本のおもてなし弁当』なるものがあるぞ」
 アリス:「おもてなしする側が、されてどうするのよ?」
 敷島:「うるせぇな。……おっ、『深川めし』も美味そうだ。これにしよう。あとはお茶を……」
 アリス:「じゃ、お会計よろしくw」
 敷島:「ちょw おまwww 自分の飯代くらい……」

 だが、アリスは商品を敷島に託して行ってしまったのである。

 エミリー:「あの、社長。そろそろ列車が来る時間ですので……」
 敷島:「おっと!いけね!」

[同日06:30.天候:晴 JR大宮駅・新幹線ホーム→JR東北新幹線“やまびこ”41号9号車内]

〔17番線に、“やまびこ”41号、盛岡行きが10両編成で参ります。この電車は途中、宇都宮、郡山、福島、仙台と仙台から先の各駅に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から7号車です。まもなく17番線に、“やまびこ”41号、盛岡行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 自動接近放送がホームに響き渡る。

 敷島:「エミリー。リンとレンはもう列車に乗ってるかな?」
 エミリー:「はい。予定通り、乗車しております。あと、上野駅からは村上博士とロイが乗車しました」
 敷島:「上野から?珍しいな。ついリン・レンと一緒に東京駅から乗るか、平賀先生と一緒に仙台駅から乗るかのどっちかだと思ってたのに……」
 エミリー:「東京でのご自宅が京成線の沿線にあるみたいですよ」
 敷島:「ふーん……?まあ、東京都心大学に行くには、上野から地下鉄に乗ってもいいのか」
 エミリー:「そういうことですね。都営浅草線直通に乗っても良いみたいです」
 敷島:「都営浅草線で行けたっけ?」

 敷島が首を傾げていると、列車がやってきた。
 東北新幹線では最古参となったE2系である。

 敷島:「平賀先生みたいな人ならグランクラスでもいいと思ったんだけど、E2系じゃ無いからな」
 アリス:「じゃ、アタシが代わりに乗るわ」
 敷島:「だから無ェっつってんだろ」

〔「おはようございます。大宮ぁ、大宮です。17番線に到着の電車は6時30分発、東北新幹線“やまびこ”41号、盛岡行きです。……」〕

 ドアが開いて列車に乗り込む。

 シンディ:「社長、荷物はここに置いていいですか?」
 敷島:「いいよ。盗難防止装置は作動させとけよ」
 シンディ:「はい」

 デッキには大きなスーツケースを置いておくスペースがある。
 当然ながら客席からは見えない位置となるので、防犯については考える必要がある。

 村上:「よお!おはようさん」
 ロイ:「おはようございます」
 敷島:「村上教授、おはようございます」
 エミリー:「社長方の御席はこちらです……って」

 本来、敷島とアリスが座る席には何故か鏡音リンとレンがいた。
 しかも2人とも、携帯型ゲーム機に夢中だ。

 エミリー:「おい」
 シンディ:「あんた達……」
 鏡音リン:「……あ。殿、温めておきました!」

 リンとレンは慌てて席を立った。

 エミリー:「アホか!」
 シンディ:「あんた達の席はこっち!」

 エミリーとシンディが鏡音姉弟を退かした。
 そんなことしている間に、列車が走り出す。

 エミリー:「本当にあんなので役に立つのですか?」
 敷島:「まあ、やってみなきゃ分からんさ」
 村上:「おお〜、敷島社長とアリス君も駅弁じゃな」
 敷島:「旅の楽しみですからねぇ……」
 アリス:「アムトラックじゃ、なかなか売ってないもの」
 村上:「アムトラックか。だがその代わり、向こうには日本では無くなった食堂車があるではないか」
 アリス:「そうね」
 敷島:「それは羨ましい。またアメリカに行く機会があったら、今度はグレイハウンドバスじゃなく、アムトラックに乗ってみようかな」
 アリス:「タカオ、本来なら車かアメリカン航空で移動するのが普通だからね?」

 実はそうである。
 映画の“ホームアローン”シリーズでも、主人公を置いてけぼりにした家族は、国内旅行でも飛行機を使っていた。
 中流の上以上の家庭では飛行機を使い、中流の下以下の家庭ではバスか鉄道というのが向こうのセオリーである。
 ……日本と同じか?

 敷島:「向こうには新幹線が無いからいいの」
 村上:「日本の新幹線みたいな列車のようなものに、アセラ・エクスプレスなるものがあるが、まあ限定的じゃからの」
 ロイ:「あそこの車内販売限定サンドイッチは美味でしたね」
 村上:「うむ」
 敷島:「へぇ!いいなぁ……」
 ロイ:「シンディ様も是非御一緒に……」
 シンディ:「私達は食えねーだろ、コラ!」
 敷島:「まあまあ。村上博士は上野駅から何か駅弁でも?」
 村上:「牛肉弁当ぢゃ」
 敷島:(爺さん、元気!?)
 村上:「これから死地に赴くに当たって、『テキにカツ(敵に勝つ)』為のゲン担ぎじゃわい」
 敷島:「はあ……」

 敷島は老博士の元気ぶりに少し呆れた。
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“戦う社長の物語” 「出発前夜」

2018-06-24 20:07:25 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月22日22:00.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 アリス:「ただいまァ……」
 シンディ:「ただいま帰りました」
 敷島:「おう、アリス。遅かったな?」
 アリス:「プログラムにエラーが出まくって、収拾に当たってたんだな、これが……」
 敷島:「SEみたいな言い方するなァ……」
 シンディ:「お風呂入りますか、博士?」
 アリス:「うん、そうする」
 シンディ:「かしこまりました。すぐ追い焚き致します」
 敷島:「追い焚きならしといたよ。エミリーがお前達の帰りを予測したからな」
 シンディ:「さすがですねぇ……」
 敷島:「あ、そうそう。アリス、今度の土日付き合ってもらうぞ」
 アリス:「Huh?」
 敷島:「デイジーの潜伏場所が分かりそうなんだ。エミリーとシンディに出撃してもらうから、お前も来てもらうぞ」
 アリス:「任せてよ!久しぶりに腕が鳴るわ!」

 ダダダダダダダダ!

 敷島:「こらこら!マシンガンぶっ放すな!トニーが起きちゃうだろ!」

 もちろん、まだよちよち歩きの一人息子のおもちゃである。

 敷島:「言っとくけど、探索には行かせないからな?」
 アリス:「What’s!?」
 敷島:「当たり前だろ。相手はあのデイジーだぞ?俺は司令役、お前はシンディの修理係だ」
 アリス:「エミリーはどうするの?」
 敷島:「もちろん平賀博士にも来てもらうから、平賀博士にエミリーの修理役をやってもらう」
 アリス:「行くのは平賀教授とアタシ達だけ?」
 敷島:「いや……」

 敷島はニヤッと笑った。

 敷島:「陽動役としてリンとレンにも来てもらうことにする。それと……どうやら、村上教授とロイも来るみたいだぞ?」
 アリス:「何ですって!?」
 シンディ:「何ですって!?」

 アリスとシンディが同時に口を開いた。

 アリス:「リンとレンを囮に使うの!?」
 シンディ:「何でロイが来るんですか!」
 敷島:「同時に質問するな。まず、アリスの質問に答える。リンとレンは昔、お前や暴走したエミリーを上手く陽動して翻弄しただろ?それをまたやってもらおうと思うんだ。もちろん、別にまたお前やエミリーに対してやってもらうわけじゃない。あくまで、デイジーにやってもらうんだ」
 アリス:「効かなくて破壊されたらどうするのよ?会社が大損するわよ?」
 敷島:「ああ見えて、ボーカロイドは意外と頑丈だ。それに、あいつらだけでやってもらうわけじゃない。メインはあくまで、エミリーとシンディだよ。一番理想的なのは、リンやレンの陽動作戦など必要無く、エミリーとシンディが難無くデイジーを捕獲してくれればベストなんだがな」
 エミリー:「必ずや、ご期待に添えてみせます」
 シンディ:「同じく……と言いたいところだけど、私の質問の回答は?」
 敷島:「『仕方無いだろう』かな。週末の旅行の目的は、村上教授が手掛ける研究チームの先行調査団の捜索だ。いや、行方不明にはなっていないんだが、どうも様子がおかしい。恐らく俺達が向かう頃にはデイジーの居場所は掴んでいるだろうし、そこまでではなくても、大方の目星さえ付けていてくれれば、あとは俺達で捜索すればいい。そこで、村上教授が調査団の責任者として行くんだそうだ。その護衛役も兼ねているロイが同行するのは当然だろう?」
 シンディ:「それはそうですけど……」
 エミリー:「シンディと2人で力を合わせれば、お安い御用です。私達にお任せください」
 敷島:「そうか。さすがは頼もしいことを言ってくれるな。因みにだな……デイジー相手に、何の武器も無いというのは些か不安だろう。今回に限っては、銃火器の使用許可を申請した。当たり前のことだが、素手では戦わせんよ」
 シンディ:「それは助かります。デイジーのヤツ、しっかり武器を仕込んでましたからね」
 敷島:「そうだろう、そうだろう。俺もそう思っていたんだ。それじゃあ、早速準備だ」

 敷島は奥の部屋に行くと、大きなスーツケースを持って来た。

 敷島:「準備は万全に備えて、デイジー捕獲に乗り出そう!」

 ところが、その中身は……。

 敷島:「ありったけのRデコイや手榴弾を用意した。平賀先生はこれらの他にリモコン爆弾や電撃グレネード、パルスグレネードも持って来てくれるらしい」
 エミリー:「分かりました」
 シンディ:「あ、あの……。ライフルとかショットガンとかは……?」
 敷島:「鷲田警視に、『またロボットテロを起こす気か?この野郎!』と言われて却下された」
 シンディ「あのハゲオヤジ……!」
 エミリー:「御命令頂ければ、警視庁を襲撃致しますが?」
 敷島:「せんでいい。ただ……『いいか?銃の装備は一切厳禁だ。発覚次第、使用者責任で逮捕する』と言っていたんだ」
 アリス:「Oh……それって?」
 敷島:「鷲田警視は、『銃は禁止』と言っていた。だから……」

 敷島はデコイや手榴弾を収納したケースをバンと叩いた。

 敷島:「それ以外のサブウェポンはOKということだ!因みに、大型ナイフも可!」
 シンディ:「おお〜!」
 エミリー:「さすがは社長!」
 アリス:「これなら陪審員も言いくるめられるわね!」

 無茶苦茶の理論であることを、誰も突っ込まないのであった。

 敷島:「出発は明日の朝6時。だからもう早く風呂入って寝ようぜ」
 アリス:「……えっ?何でそんなに早いの?」
 敷島:「早く行って早く帰る為だ。それでいいだろう?」
 アリス:「起きられるかしら……?」
 敷島:「だから早く寝るんだろ。早く風呂入ってこい」
 アリス:「タカオは?」
 敷島:「俺はもう入ったよ。トニーも風呂に入れたし、あとはアリスだけなんだよ」
 シンディ:「マスター。5時半には私がお起こし致しますから」
 アリス:「朝早いのニガテなんだなー、これが……」
 敷島:「車が無いと始発の川越線で通勤してるの、どこのどいつだよ?」

 出発前であっても、敷島家は暢気なものだった。
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“戦う社長の物語” 「消息不明」

2018-06-23 20:11:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月22日09:00.天候:雨 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島:「おはようございます。それでは6月22日、朝礼を始めます。まずは……」

 敷島エージェンシーは9時始業である。
 もちろんボーカロイドやマネージャーにあってはこの限りではなく、早朝に現場入りをしたりすることもあるので、必ずしも全員参加となるわけではない。
 日によっては事務員と井辺しかいないこともあった。
 朝礼は敷島が事務室に行って行うことが多い。
 今日もそうした。

 敷島:「……梅雨に入って気が滅入る時期ではありますけども、特に人間の社員の皆さんにあっては、ロイド達に負けないよう……」

 敷島が社員達に訓示をしている時、事務室の電話が鳴った。
 電話を取るのはボーカロイドの鏡音リン。

 リン:「ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われてませんYo〜!」
 エミリー:「!!!」

 直後、エミリーのゲンコツが飛ぶ。

 リン:「プシューッ!」
 エミリー:「大変失礼致しました!敷島エージェンシーでございます!……平賀博士!?……はい、何の御用でしょうか?……承知しました。それでは折り返し電話するよう、お伝え致します。……はい、失礼します」

 電話応対の仕方など、とてもロイドとは思えない。

 敷島:「平賀先生からか、エミリー?」
 エミリー:「はい」
 敷島:「こんな時間に珍しいな。……それでは今日も1日頑張りましょう。スケジュールの確認は確実にお願いします」

 敷島は朝礼を締めた。
 すぐに社長室に戻る。

 エミリー:「申し訳ありません。私が油断した隙に、リンの奴……」
 敷島:「いいよいいよ。いつものことだ。平賀先生も笑って許してくれるさ」
 エミリー:「後で叩き聞かせておきますので……」
 敷島:「いや、言い聞かせてくれるだけでいいから」

 敷島は電話の受話器を取った。

 敷島:「あ、もしもし。おはようございます。東京の敷島ですが……」
 平賀:「あ、敷島さん。お忙しいところ、失礼しました」
 敷島:「いえいえ、とんでもない。こちらこそ、うちのリンが失礼しました」
 平賀:「エミリーの隙を突いて電話に出るなんて、リンもそちら方面での性能がアップしましたね」
 敷島:「ここ最近、リンとレンの仕事に空きが出るようになったんで、ヒマを持て余してるんですよ」
 平賀:「珍しいですね。未だに敷島エージェンシーのオリジナルメンバーは、色んな所から引っ張りだこだと思っていましたが……」
 敷島:「ええ。ミクとかは相変わらずそうなんですけど、そろそろこちらも戦略を変えなきゃいけないと思っているところですよ。『クール・トウキョウ』も頓挫し掛かってますし……」
 平賀:「東京オリンピックに合わせて、それを盛り上げる為のプロジェクトだったはずですがね、東京で何か問題が起きてるんでしょうか?」
 敷島:「誰だ、K知事に投票したヤツ?何もしやがらねぇ」
 平賀:「えっ、何ですか、敷島さん?」
 敷島:「あれ?今、口が勝手に……。いや、何でも……」
 平賀:「それより、先ほどお電話したのはちょっと気になることがあったからですよ」
 敷島:「気になること?何ですか、それは?」
 平賀:「敷島さん、村上先生が手掛けている研究チームのことは御存知ですよね?」
 敷島:「ええ。行方をくらましているデイジーを捜索する為の特殊なレーダーを開発したところ、早速引っ掛けたとか……。で、現地調査隊が向かったんですよね?」
 平賀:「そうなんです。ところが、定時連絡を送って寄越すのに、なかなか帰って来ようとしないんですって」
 敷島:「何のこっちゃ?」
 平賀:「定時連絡では『異常なし』と送ってくるんですが、帰京予定の昨日になっても帰って来なかったんですって」
 敷島:「でも『異常なし』なんでしょう?」
 平賀:「はい。今朝も9時前に定時連絡を送って来たんですよ。それで村上先生が帰京するように伝えても、『もう少しでデイジーを発見できる』の一点張りで帰って来ようとしないと……」
 敷島:「でも発見したらしたで危険ですよ。調査チームは、何の武器も持ってないんでしょ?」
 平賀:「そうです。今回の調査チームの目的は、あくまでもデイジーの居場所を特定し、そのルートを把握することですから、デイジーを直接発見することまでは目的に入っていないんです」

 その為、本来なら先遣隊がルートを確保し、その後でエミリーやデイジーを伴って敷島達が乗り込む予定であった。
 いかに相手がマルチタイプとはいえ、相手は1機、こちらは2機いる。
 8号機のアルエットは戦力に入っていない(ザコロボットであるバージョン・シリーズを従わせる力は持っているが、今はもうそれが必要無くなっている)。

 敷島:「ふーむ……」
 平賀:「自分は同じ宮城県ですから、自分が見に行けばいい話ですが、何しろ護衛が無いもので……。万が一ということもありますから……」
 敷島:「仰る通りですね。分かりました。それでは今度の週末、向かいましょう」
 平賀:「ありがとうございます。調査チームが向かった先は自分も知っているので、後で詳細を送ります」
 敷島:「了解しました。よろしくお願いします」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「エミリー、週末は東北へ出張だ。ややもすると、お前達の出番になる恐れがある。それの意味するところは分かるな?」
 エミリー:「はい。全力で戦わせて頂きます」
 敷島:「シンディにも伝えておいてくれ。もしデイジーと戦うことになったら、お前達2人掛かりで対処してもらうからな」
 エミリー:「承知しました。ロイには伝えますか?」
 敷島:「……お前から伝えんでも大丈夫だろ。取りあえず、シンディにだけ伝えておけ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーは社長室から出て行こうとした。
 だが……。

 リン:「わぁーい!リンも行くー!」
 鏡音レン:「こら、ダメだよ、リン。また怒られるよ」
 エミリー:「その通りだ。勝手に社長室を覗くなと何度言ったら分かるのだ!」

 エミリーがカッと右手を振り上げた。
 鏡音姉弟は慌てて逃げ出す。

 敷島:「おいおい。エミリーは今、ドアを開けるまで気がつかなかったんだろ?」
 エミリー:「本当に気配を消すのが上手い連中です」
 敷島:「ふむ……。確かにあの2人、暴走したお前の隙を突いたことがあったな……」

 まだアリスが敷島と結婚する前、それも敵対していた時の話だ。
 アリスはエミリーを捕まえた後、AIをいじくって自分の命令だけを聞くようにしたことがあった。
 しかし鏡音姉弟のすばしっこさは搭載したマシンガンもショットガンも当たらず、裏の裏を突かれた。
 不覚にも高圧電線に気づかず、それに触れてしまったのである。
 リンとレンを追い回すのに夢中になって、マルチタイプにあるまじき不覚を取ったのである。
 で、この姉弟、アリスを業務用冷凍庫に閉じ込めるという荒業までやってのけた。
 マイナス5度に設定したつもりだが、実はマイナス50度に設定されており、そこに軽装のまま5分間閉じ込められたアリスは、ついに警察の御厄介となったのである(その前にあちこち凍傷したので、病院の御厄介になることになった)。

 敷島:「よし。リンとレンを連れて行こう」
 エミリー:「ええっ!?」
 敷島:「マルチタイプのお前やシンディを翻弄したことのある唯一のボーカロイドだ。もしかしたら、デイジー相手にも何とかしてくれるかもしれん」
 エミリー:「危険ですよ。そんな奇跡、何度も起こるわけが……」

 だが、エミリーは敷島の決定を覆すことはできなかったのである。
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“戦う社長の物語” 「ロボットテロの脅威」 3

2018-06-22 19:01:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月20日11:00.天候:曇 東京都新宿区内 勝又都議の事務所]

 敷島:「えーっ!『クール・トウキョウ』に、うちのボーカロイド使ってくれる話は無しだって!?」
 勝又:「いや、申し訳ない。『ボーカロイドと言えば敷島エージェンシー』みたいになっちゃってさ、『一企業の営利活動に過ぎない』とか、『都議会として一営利企業の広告みたいなことを行うのはいかがなものか?』という声が議会で噴出しちゃって……」

 勝又都議は敷島とは大学の同級生である。
 都議会内にある若手議員連盟(※架空の会派)に所属している。

 敷島:「いやいや。ボーカロイドはもう全国的に……というか、海外でも有名になってるんだよ?うちの会社のCMとか、そういうレベルじゃないんだ」
 勝又:「もちろん、俺も分かってるよ。だけど、そこはベテランの先輩方の固い頭を何とかしないとどうしようもなくてさ……」
 敷島:「しょうがねぇ。『マルチタイプdeノーパンしゃぶしゃぶ』作戦を実行するか。ジジィ議員達はそれで堕とせるだろう」
 勝又:「35歳以下の読者は作戦内容を知らないし、そもそも本当にやったらキミが逮捕されるだけだからね?」
 敷島:「くそぅ……」
 勝又:「ほんと、申し訳ないと思ってる。今度折を見て、また議会に掛けてみるから」
 敷島:「山手線の新駅名、『初音新駅』でどうだろう?」
 勝又:「そういう応募するから、議会で却下されるんだよ」

 敷島がもう1つ気になることがあった。

 敷島:「何か、秘書さんがせわしないね」
 勝又:「あー、これまた申し訳無い。俺もだいぶ案件を任されるようになったはいいんだけど、秘書の数が足りなくてね。そういう時は私設秘書を雇うんだけど、こっちも人手不足のせいか、なかなか思うようには……」
 敷島:「作者の本業だけじゃないんだなー」

 勝又は敷島の隣に控えているエミリーを見た。

 勝又:「そちらの秘書さん、調子はどうだい?」
 敷島:「ああ。AIの塊とは思えないほど、柔軟な動きをしてくれてる。時折、人間じゃないかと思うくらいだ」
 勝又:「そうか……」
 敷島:「おや?もしかして興味が?」
 勝又:「うん……。もしかしたら、うちもこういう秘書を抱えれば、むしろ『クール・トウキョウ』のPRになるかもしれない……」
 敷島:「そりゃいい。だけど、デイライト・コーポレーションに依頼したら吹っ掛けられるぜ?しかも悪いことに、ライセンスは全部DCが牛耳ってやがる」
 勝又:「だよなぁ……」
 敷島:「でも、勝っちゃんのアイディアはいいと思う。アリスに頼むと……余計に吹っ掛けるだろうし、平賀先生はメイドロイドしか作らないし、村上博士は執事ロイドと……」
 勝又:「本当に頼んじゃっても大丈夫なのかい?」
 敷島:「まあ……何とかしよう。何とかできたら、『クール・トウキョウ』の方も何とかしてくれよ?」
 勝又:「いざとなったら、衆議院の先輩に頼んでみるさ」
 敷島:「そっちにもパイプがあるならいいじゃんw」

[同日11:30.天候:曇→雨 新宿区内]

 エミリー:「社長、お車はこっちですよ」
 敷島:「いっけね、また忘れてた」

 いつものように、地下鉄の駅に行こうとした敷島。
 しかし今は、専用の役員車が本社より宛がわれている。

 敷島:「何だか慣れないなぁ……」
 エミリー:「本社からの通達ですし、私達もその方が護衛はしやすいです」
 敷島:「それもそうか」

 白ナンバーの役員車ではなく、契約しているタクシー会社のハイヤー部門がやっている為、ナンバーを見ると緑色になっている。

 運転手:「お疲れさまです」
 敷島:「どうも」

 敷島はゼロ・クラウンのリアシートに乗り込んだ。

 エミリー:「会社に戻ってください」
 運転手:「かしこまりました」

 車が走り出す。
 しばらくすると、雨が降り出してきた。
 フロントガラスの上をワイパーが動き回る。

 敷島:「そういえば、村上博士の研究チームはどうしたんだろう?」
 エミリー:「あれから連絡が無いですね。ちょっと確認してみます」
 敷島:「頼む」

 エミリーは右耳を押さえた。
 通信中は耳の後ろからアンテナが短く伸びる。
 但し、昔のガラケーのアンテナのように、あんまり意味は無いものらしい。
 エミリーやシンディがあまりにも人間に似すぎている為、要所要所でロボット的な所を見せる演出なのだとか。

 エミリー:「……今現在も尚、現地調査中とのことです」
 敷島:「随分時間が掛かるものだな。一体、どこまで調査するつもりなんだ?まさか、いきなりデイジーを見つけようなんてことじゃないよな?あいつ、お前達みたいに銃火器仕込んでるんだろ?」
 エミリー:「ええ」

 もし仮にデイジーと対峙することがあった場合に備え、敷島は改めて国家公安委員会に対し、臨時の銃火器装備を申請している。
 一応、政治家の名前もあった方が良いかもということで、勝又議員のも申請者に連名で入っている。
 今回の要件は『クール・トウキョウ』という都営プロジェクトだけでなく、それについての話もしに来たのだ。

 敷島:「もちろんテロなんて無い方がいいに決まってるが、逆に何もしてこないと不気味だな……」
 エミリー:「マザー……」
 敷島:「なに?」
 エミリー:「私達の設計の元となった試作機、0号機のことは御存知ですか?」
 敷島:「北海道に行った時の話だろ?それがどうした?」
 エミリー:「マザーとは通信世界(※人間でいう『精神世界』のようなもの)で話をしたことがあります。私が人間に隷属することを驚いていたようですが、それを選ばなかった他の兄弟達は爆破処分されました」
 敷島:「それって永久欠番になった2号機とか4号機とか、そいつらのことか?」
 エミリー:「はい。私は隷属を選びました。シンディも……です」
 敷島:「シンディ?……あ、そうか。あの時は、ドクター・ウィリーに隷属してたわけだな」
 エミリー:「もし仮にデイジーがシンディを基に設計されたというのでしたら、気をつけた方がいいと思います」
 敷島:「シンディの劣化版だと聞いているけど、油断ならないのか」
 エミリー:「はい。姉の私が言うのも何ですが、シンディには気をつけてください。あいつ、今は社長が御存命ですから命令を聞いていますが、社長という『制御』が無くなると、恐らく……」
 敷島:「アリスの言う事が第一といった感じだが……」
 エミリー:「アリス博士もまた人間である以上、永遠には存在できないはず」

 エミリーは確信を持った言い方をした。

 敷島:「……まあな」

 敷島は頷いた。
 だが……。

 敷島:(今のエミリーの言葉、シンディがかつて俺の第一秘書だった時、同じことを言ってたんだよな……。『妹の私が言うのも何ですが、エミリーには気をつけてください』ってな。結局、どっちも注意しろってか)
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“戦う社長の物語” 「ロボットテロの脅威」 2

2018-06-22 10:21:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月17日16:30.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 通用口から退館する敷島とエミリー。
 それを見送りに来た西山館長。

 西山:「今日はありがとうございました、敷島社長」
 敷島:「いえいえ。私もプレゼン以外で、あそこまで喋ったのはいい経験です」
 西山:「特に午後の部の、ハイジャックの話は大いに盛り上がりましたねぇ」

 結局話したんかい!w

 敷島:「ま、ロボットテロの脅威というか、そのロボットを使う人間があの体たらくぶりという所が盛り上がりのミソですよ」
 西山:「なるほど。もしまた講演の機会がありましたら、よろしくお願いしますよ」
 敷島:「ええ、是非」
 西山:「それではこれは少ないですが、お車代で……」
 敷島:「ごっつぁんです」

 講演料ではなく、お車代だけ支給される敷島。
 本当の講演料はどこへ?
 もっとも、エミリーが封筒の中を開けると、タクシーチケットは別に入っていたのだが。

 敷島:「それでは、私達はこれで失礼します」
 西山:「はい、お気をつけて」

 敷島とエミリーは『迎車』表示を掲げているタクシーに乗り込んだ。

 エミリー:「大宮区……までお願いします」
 運転手:「はい、かしこまりました」

 タクシーが走り出し、科学館の外に出た。
 元は研究所だった施設である。
 それも、秘密の……。
 しかしここもKR団の猛攻を受け、到底秘密にしておける状態ではなくなり、情報公開の場として科学館として再生した。
 研究所としての機能は大幅縮小させるという意見は上層部では一致したものの、中には悪の組織のベタな法則通り、
「旧・さいたま研究所を潰す」
 という案もあったとか。
 それは却下され、科学館として再生させる辺りは、まだ悪の組織とは違う所なのだろう。
 敷島に言わせれば、『悪の製薬会社、某アンブレラによく似ている会社』とのことだが、アメリカ資本という共通点があるだけに、似ているのは仕方の無いことなのかもしれない。

 エミリー:「シンディからの通信です。先にアリス博士と共に帰宅したので、夕食の支度をして待っているとのことです」
 敷島:「そうか。お前達といると、スマホ要らずだな」

 iPhoneと対を成すもう1つのスマホをAndroidというだけに……。

 エミリー:「それと……これはロイからの情報ですが、研究チームは東北新幹線のチケットを予約したそうですので、先ほどの話、東北新幹線の沿線付近だと思われます」
 敷島:「東北か。そういえば井辺君がKR団に拉致され、萌と初見したのも東北地方のアジトだったな」
 エミリー:「そうです」

 あのアジトは警察の捜査が入った後、所有者不明のまま廃墟と化して放置されているという。
 当然ながら立入禁止なのだが、若者達が好奇心で侵入を試みようとする事例が後を絶たず、問題となっている。
 これだけなら全国に散らばる廃墟にありがちなことだが、問題はそれが悪のテロ組織のアジトとして使用されていたということ。
 侵入者に対する即死トラップがそこかしこに仕掛けられており、多くが停電の為に動作不可と化しているのだが、中には電力不要または内蔵バッテリーで未だに作動するものあり、既にそれに引っ掛かって死者が出たほどである。

 敷島:「もしかして、そこかな?確かにあそこなら、絶好の隠れ場所だ。確か、場所が……」
 エミリー:「宮城県と秋田県の県境付近……でしたね」
 敷島:「村上教授の研究チームなら、あのアジトのことを既に調べ尽くしているから、今更トラップに引っ掛かることもないだろう」
 エミリー:「そうですね」
 敷島:「むしろ元アジトごと、爆破解体する勢いかもしれん」
 エミリー:「あ……」
 敷島:「あのぶっ飛び博士なら、やりかねんだろ?」
 エミリー:「た、確かに……」

 エミリーは村上大二郎について、『敷島と平賀を足して2で割った人間を老人にするとあんな感じ』と分析している。

[同日17:15.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 エミリー:「そこのマンションの前でお願いします」
 運転手:「あのマンションですね」

 タクシーは敷島のマンションの前で止まった。
 エミリーがペンでタクシーチケットに料金を書き込む。
 細かな動きたるや、人間と変わらない。

 運転手:「ありがとうございましたー」
 敷島:「どうもお世話さま」

 敷島達はタクシーを降りて、マンションに入った。

 敷島:「仕事とはまた別の意味で疲れたな」
 エミリー:「お疲れさまでした。明日からまた業務が始まります。ゆっくり休んでください」
 敷島:「そうさせてもらう」

 自分の部屋に入ると……。

 敷島:「ただいまァ……」
 シンディ:「お帰りなさいませ。夕食の準備をしておりますので、もう少しお待ちください」
 敷島:「ああ。アリスは?」
 シンディ:「お坊ちゃまと一緒に……」
 敷島:「遊んでやってるのか?」
 シンディ:「……一眠りされております」
 敷島:「自由だな、おい!w」

 ここだけロボットテロの脅威からは外れている件。
 もっとも、クソ化け物みたいなマルチタイプが2機も配備されている時点で【お察しください】。
 敷島は着ていたスーツを脱いで、私服に着替えた。
 そしてリビングに行くと、テレビを点けた。

〔「……明日の関東甲信越地方は雲が広がり、夕方には雨の降る所があるでしょう。東北地方は発達した低気圧の影響により雨の降る所が多く、一部の山間部では強く降る所がありそうです。……」〕

 敷島:「明日は傘要るかもなぁ……」
 エミリー:「御用意しておきます」

 エミリーは右足の脛をパカッと開けると、そこに折り畳み傘を入れた。
 本来は大型ナイフを入れておく場所である。
 シンディは前期型の際に紛失し、エミリーのは敷島が預かっている。
 シンディのは前期型の際、かなり人間の血を吸ったが、エミリーのはまだ新品同然だ。

 敷島:「それにしても、明日は東北地方の天気が悪いみたいだな。調査団が心配だ」
 エミリー:「そうですね」
 敷島:「まあ、ロイがいるから大丈夫だろ。あいつはただの執事ロイドじゃない」
 エミリー:「ロイは同行してないそうですよ」
 敷島:「なに?」
 エミリー:「派遣されたチームは単なる先遣隊で、村上博士とは直接関係無いそうです」
 敷島:「そうなのか。ま、場所だけ先に確認しておこうってことか。そりゃそうだな。いきなり行って、デイジーに狙撃されたら全滅だもんな」
 エミリー:「そういうことです」

 この時はまだお気楽な敷島達だった。
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