報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「むさ苦しき男たち」

2018-06-03 20:27:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月12日12:00.天候:晴 東京都豊島区 某ソバ屋]

 稲生達は昼食を取りに、寺院近くのソバ屋に入った。
 ここはよく信徒達も食べに来る店であり、威吹もここに来たことがある。

 店員:「お待たせしました。冷たい天ぷらソバと、温かいきつねソバ、温かいきつねうどんです」
 藤谷:「おー、待ってました」
 店員:「ごゆっくりどうぞ」
 藤谷:「はい、どうもー。ささ、俺の奢りだ。食べてくれ」
 稲生:「頂きます」
 威吹:「お言葉に甘えさせて頂こう」

 ズズーッとそれぞれソバやうどんを啜る3人。

 藤谷:「さすがこの店で揚げている天ぷらなだけあるな」
 威吹:「うむ。この油揚げがまたイケる。オレが封印される前はもっとモサモサしていたものだが、今は高温で揚げるのかな?」
 藤谷:「ガスコンロを使ってるからな、そうかもしれねぇ」
 稲生:「東京・下町の御蕎麦屋さんって所がまたいいですねぇ」
 藤谷:「全く。親父も、よくこんな所見っけてきたもんだ」
 稲生:「訪問折伏で?」
 藤谷:「いや、仕事だ。この店の改装工事、うちの会社でやったことがある」
 稲生:「凄い縁ですね」
 藤谷:「それにしても、話に聞いたが、稲生君達は凄い戦いをしたんだな」
 稲生:「もう幽霊は勘弁して欲しいですね」
 藤谷:「幽霊もそうだが、女スナイパーって……。新聞で見たけど、やっぱマリアさんの目論見通り、黙秘を貫いているみたいだな」
 稲生:「ですねぇ……」
 藤谷:「だが、骨壺からその犯人の指紋がベタベタ出て来たってんで、ほぼ犯人確定だな。北区に事務所を構えてる某探偵の仕事なんざ無ェよ」
 威吹:「何の話だ」
 稲生:「ふーん……?」
 藤谷:「何だ?」
 稲生:「いえ、マリアさんの魔法で飛ばされた時、その女、手袋をしていたような気がするんですけど、それでも指紋は出て来たんですね」

 水晶球で見た時も、手袋はしていたような気がするのだが……。

 威吹:「有紗殿が、持てる限りの霊力を使って何かしたのかもしれんな」
 稲生:「ええっ?」
 藤谷:「幽霊のしわざってか?威吹君もさらっと怖いこと言うねぇ……」
 威吹:「だが、当たらずも遠からずだと思っている」
 稲生:「いや、きっとそうだよ、威吹。こういう時の威吹の推理は結構当たるんだ」
 藤谷:「ますます、某探偵の仕事は無ェってわけだ。もしかして稲生君達に銃撃してきた女ってのも、右手がライフルに変形できる某ガイノイドってことは無ェよな?」
 威吹:「さっきから、何をワケの分からんことを……」
 稲生:「いや、れっきとした人間でした。確かに髪を金色に染めた、ポニーテールだったと思いますが……」
 藤谷:「そうだろそうだろ」

 藤谷はウンウンと頷きながら、海老天を頬張った。

〔「御町内の皆様、こちらは敬虔なるキリスト教会、聖ジャンジョン教会です。この地域に、神に抗う邪悪な魔女が潜伏しています。発見の際は、速やかなるご連絡をお願い致します。電話0120……」〕

 稲生:「また、さっきのキリスト教団だ」
 藤谷:「最近は外道共がうるさくてよ。イスラムはテロるし、キリストはあのザマだ」
 威吹:「ユタ、要はあの切支丹共を何とかすれば良いわけだな?」
 稲生:「そうだけど……」

 稲生達の座っている席は通りに面した所であり、ちょうど聖ジャンジョン教会の街宣車が通過していく所だった。

〔「邪悪なる魔女共に告ぐ。こちらは聖ジャンジョン教会である。神に抗い、そ……」〕

 パーン!

 稲生:「!?」
 藤谷:「何だ?」

 突然、街宣車の前輪がパンクした。
 しかもその次の瞬間、今度は後輪が爆発した。
 いや、爆発というほどのものではないのだが……。

〔「わあーっ!!」〕

 とにかく、ハンドルを取られた街宣車は電柱にフロントをめり込ませて停車した。
 運転席と助手席のエアバッグが作動しているのが、ここからでも分かる。

 威吹:「これでよろしいか、ユタ?」
 稲生:「え、ええー……」
 藤谷:「素晴らしい!仏道に抗う妖(あやかし)でありながら、外道退治に勤しむその姿。感動した!」
 威吹:「稲荷大明神に仇なす者共に手を貸す義理など、本来は無いのだが、ユタの頼みとあらば吝かではないよ」

 信者A:「くそっ!魔女共め!」

 運転席のドアを自力でこじ開けて、何とか脱出する信者A。
 しかし、頭から血を流している。

 信者B:「マリア様に代わっておしおきよ!」

 助手席のドアも歪んでいたが、それでも何とか自力でこじ開けて脱出する信者B。
 こちらは、右腕がブランブランしている。
 尚、Bも男である。

 稲生:「ギクッ!」

 マリアという名前が出て来たので稲生はびっくりしたが、もちろんBが言っていたのは聖母マリアのことである。

 稲生:「やったのは魔女じゃなくて、妖怪なんだけどなぁ……」
 藤谷:「向こうさんにしてみれば、悪魔か。何だよ。キリストの信仰をしていても、全然守られないじゃんな。もし向こうさんの方が正しかったら、罰を食らっているのは今頃俺達の方だぜ?」
 稲生:「ですね……」

[同日13:03.天候:晴 JR池袋駅]

〔まもなく4番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、板橋に止まります〕

 稲生:「班長は一緒に行かないんですか?」
 藤谷:「ああ。是非ともイリーナ先生に御挨拶したい所なんだけど、これからちょっと折伏の予定が入っちまっててよ。だから、稲生君からよろしく伝えてくれよな?」
 稲生:「分かりました」

 電車がやってくる。
 往路と同じ、緑色のラインカラーがよく映えるE233系だ。

〔いけぶくろ〜、池袋〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 稲生:「それじゃ、また明日」
 藤谷:「おう」

 稲生と威吹は藤谷と別れ、最後尾の車両に乗り込んだ。
 明日は第2日曜日、御講がある日である。
 稲生はそれに参加するつもりでいた。

〔4番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車は1回でドアを閉め、ゆっくりと池袋駅を発車した。
 稲生、見送る藤谷に手を振る。

〔次は板橋、板橋。お出口は、右側です〕
〔The next station is Itabashi.The doors on the right side will open.〕

 威吹:「それにしてもあの切支丹共、あの程度では懲りないようだな」
 稲生:「だよねぇ……」
 威吹:「悪いこと言わぬから、明日もマリアには留守を預かっておいてもらった方が良いかもしれぬ。ボクが護衛として、ユタには付き添うがね」
 稲生:「何だか世知辛くなったなぁ……」
コメント
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