報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔女裁判」

2018-06-04 19:08:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月12日13:40.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 イオンモール与野3Fタリーズコーヒー]

 イリーナ:「んん〜、食後のケーキも美味しいねぇ……」
 稲生:「はい」
 威吹:「わざわざこの為に、この店に来たのか?」
 イリーナ:「まさか。他にも買いたい物があるんだよぉ」
 稲生:「それで……僕達、荷物持ちですか……」
 イリーナ:「大丈夫。後で“宅急便”で送るから、それまでの間、持つの手伝ってくれれば」
 威吹:「後で祝儀(チップ)はもらうからな」
 イリーナ:「はいはい」
 稲生:「エレーナ、また大汗かいて運んでくるでしょうねぇ……」
 イリーナ:「『魔女の宅急便』、日本でやってるのエレーナだけだもんね」
 稲生:「外国では他に何人か?」
 イリーナ:「キリスト教やイスラム教の力の弱い所に限るけどね」
 稲生:「イスラム教も?」
 イリーナ:「サウジアラビアでは、今でも魔女狩りは合法で、それ専用のお役所まであるのよ」
 稲生:「へえ……」
 イリーナ:「だからよ。さっきの“魔女の宅急便”。私も原作やアニメを観て面白いと思ったけど、あのタイトルの英語版、何だか分かる?」
 稲生:「直訳すれば、『Witch’s Delivery Service』ですかね?」
 イリーナ:「そう思うでしょ?正解は、『Kiki’s Delivery Service』なのよ」
 稲生:「へえ!それはどうして?」
 イリーナ:「それはもちろん、日本人と違って、欧米人は魔女(Witch)に悪いイメージを持っているからよ。なので主人公の名前をタイトルに持って来たらしいよ」
 稲生:「ソーサラー(魔法使い)じゃダメですかね?」
 イリーナ:「んー、それだとちょっと意味が違うかな」
 稲生:「そうですか」
 イリーナ:「とにかく、稲生君のような日本人には全く理解できない考えが、向こうにはあるのよ」
 稲生:「…………」
 イリーナ:「そうだ。どうして私達が明日、お寺に行ったらいけないのかの理由を聞いてなかったわね」
 稲生:「あ、はい。実は……」

 稲生が話そうとした時だった。

 威吹:「切支丹共が、お前達を狙っている。ユタはそれを心配してるんだ」
 イリーナ:「クリスチャンが?誰か、私達の情報流した?」
 威吹:「それは分からんが、藤谷班長の話によると、前にあった事件が尾を引いているらしいぞ。ほら、お前の弟子が他の魔女達に追われて大ゲンカになったことがあっただろう?その時、切支丹共が介入してきたというではないか。それだ」
 イリーナ:「あー。確かエレーナの同期入門のコが捕まって、危うく火あぶりにされる所だったんだって?」

 拉致されている最中、車中で強制わいせつなどの辱めを受けた。

 イリーナ:「勇太君と、そのお寺のお仲間さんが助けてくれたんだってね。あ、まだその人に御礼を言ってなかったわ」
 勇太:「危うく奴らに口止め料をもらう所だったんで、それを突き返しに車に乗せてくれただけですよ。大原班長と言って、個人タクシーの運転手さんをやってる人です。……あ、そろそろ車の買い替え時だって言ってたな」
 イリーナ:「よし。それなら、新しい車を報酬してあげましょうか。日本だとトヨタかしら?」
 勇太:「ゼロ・クラウンがいいと言ってましたね。……あ、でも、先生の申し出は断るかもしれませんよ?」
 イリーナ:「どうして?」
 勇太:「日蓮正宗には、『謗法の徒からの布施は受けない』というものがあるんです。あいにくと先生は、御自身が教祖たり得るような方です。そのような方からの布施は受けられないとするかもしれません」

 齢1000年以上の魔道師で、占いも百発百中なら、確かに新興宗教の教祖になってもおかしくない。

 イリーナ:「それは残念ね。それならば、私が800万円ほど当たる宝くじの予知をするから、それを教えてあげて」
 勇太:「それならいいかもしれませんね」
 マリア:「ゼロ・クラウンか。もしかして、アナスタシア先生の乗ってる車?」
 勇太:「あ、そうですね。あれは黒塗りですが、大原班長の車は白に青いラインの入ってるヤツですよ」

 いわゆる、『でんでん虫』と呼ばれる行灯が特徴の個人タクシーだ。
 全国個人タクシー連合会に入っているということになる。

 威吹:「それで、さっきの話に戻るが……。どうなんだ?一応、オレが仕掛けた罠で車1台は潰しておいた。だが、どうやらそれで懲りた様子は無い。明日また来る恐れがある。その際、鉢合わせにならないとも限らんのだぞ?」
 イリーナ:「そうだね。もちろん、私が鉢合わせになったところで、どうってことはないけどね。ただ、私のやり方は少しエグいもんでね。それで正証寺の皆さんに御迷惑をお掛けするというのは申し訳無いもんね」
 威吹:「では、また留守を……」
 イリーナ:「いやいや。都内にはお邪魔するよ」
 稲生:「ええっ?」
 イリーナ:「今度は都内を散策するのダ」
 稲生:「先生……」
 イリーナ:「威吹君も来るでしょう?」
 威吹:「当たり前だ。オレはユタの護衛も兼ねて、ここに来てるのだから」
 イリーナ:「ついでに稲生君、お寺の行事が終わったら、威吹君もワンスターホテルに連れて行ってあげて」
 稲生:「あ、なるほど。そこで威吹を魔界に送り帰すわけですね」
 イリーナ:「もちろん。私の手に掛かれば、そんなに時差無く帰れるはずよ」
 威吹:「そうか。それなら頼む」

 威吹は大きく頷いた。

[同日14:30.天候:晴 同モール3F 女子トイレ]

 マリア:「師匠、どうしてあんなことを言ったんですか?せめて私くらい、できれば勇太と一緒に……」
 イリーナ:「マリア。勇太君の心配性はとっくに知ってるでしょ?心配の種は、できれば蒔かないこと。これも私の方針よ」
 マリア:「ですが……。ローブと魔法の杖を置いて行けば、普通の人間の女に見えますよね?」
 イリーナ:「それでもダメね」
 マリア:「何故ですか?」
 イリーナ:「あの聖ジャンジョン教会だっけ?あの教会、少し調べる必要がありそうなのよ」
 マリア:「と、言いますと?」
 イリーナ:「あなたが追われた事件の時……勇太君を追っていたあのコ……名前は忘れたけど、あのコは“姿隠し”の魔法を使っていたそうじゃない?だけど勇太君の話によると、いとも簡単に奴らに見破られたらしいわね。そこが引っ掛かるのよ」
 マリア:「たまたま姿が見えた所を見つかったとか?あの魔法、かなり不安定らしいですし……」
 イリーナ:「それでもダイレクトに見つけることは、やっぱり不自然だわ。とにかく、ちょっとの変装だけではすぐバレるかもしれない。何よりも、勇太君に余計な心配を掛けさせてはダメよ」

 普段はのほほんとしているイリーナ。
 長命の魔道師であるだけに、キリスト教会には並々ならぬものがあるようだ。
 そこがまだ若い魔道師とは、一線も二線も隔している。
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“大魔道師の弟子” 「Witch of Love Potion」

2018-06-04 10:18:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月12日13:38.天候:晴 JR北与野駅]

 稲生達を乗せた埼京線各駅停車が、北与野駅に到着した。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 各駅停車しか止まらない小さな駅だ。
 それでも、スーパーアリーナでイベントがある場合は、混雑するさいたま新都心駅のガス抜きの役割を果たす。
 これでも埼京線側における、さいたまスーパーアリーナの最寄り駅だからだ。
 稲生達が電車を降りて、改札口への階段に向かうまでにはもう発車している。

 威吹:「キミの師匠と姉弟子は、どこにいるんだ?」
 稲生:「北与野駅で待つって話だけど、どうにもいそうにない。おおかた、けやき広場にでもいるんだろうな」
 威吹:「時間管理に杜撰な連中だな」
 稲生:「まあ、しょうがない。マリアさんはともかく、イリーナ先生は……何でもない」

 とにかく、さいたま新都心に向かって歩くことにした2人。
 そこへ向かう高架歩道に上がると、右手に神社が見える。
 『上落合鎮守 神明神社』という。
 祭神は天照大神とのこと。
 威吹の稲荷大明神とは違うので、威吹もそんなに関心は示さない。

 威吹:「あ、そうそう。マリアのことなんだけど……」
 稲生:「マリアさんがどうしたの?」
 威吹:「ユタも、もう少し匂いを気にした方が良い」
 稲生:「えっ!?僕、臭う!?」
 威吹:「あー、いやいや。ユタのことではない。今言ったマリアのことだ」
 稲生:「えっ、マリアさん、匂った?」
 威吹:「うむ。ボクの鼻は誤魔化せない」
 稲生:「そりゃ、威吹の鼻はな。白人は日本人より体臭が強いというし……」
 威吹:「それは噂通りのようだ。しかし、問題はそこじゃない」
 稲生:「ん?」
 威吹:「女の匂い、だよ」
 稲生:「? どういうこと?」
 威吹:「イリーナ師からは、特に何も匂わない。師は『この体の耐用年数が迫っている』と言っていたが、それが体臭にも表れているのだろう。恐らく、体臭すら発さない程にな」
 稲生:「そうなんだ。普通、歳を取れば取るほど臭うイメージがあるけどね」
 威吹:「それは肉などの臭いだろう?骨は臭うか?」
 稲生:「いやー……。骨の臭いなんて、そうそう嗅ぐ機会は……」
 威吹:「ボクくらいの鼻になると、骨の匂いも嗅ぎ分けることはできるけど、人間にはできないよね」
 稲生:「多分ね」
 威吹:「イリーナ師からは、もう骨の臭いしかしないんだよ」
 稲生:「ええーっ?あんなにモデルみたいな体型してるのに?」

 魔法で30代ほどの年齢を維持しているらしい。
 それは稲生も知っている。
 本来は、長年修行を積んだ老魔女がその正体であることも知っている。
 イリーナとほぼ同期で若干先輩のポーリンは、逆に普段は老婆の姿をしている。
 それを見れば分かる。

 威吹:「『魔法で若かりし頃の姿を再現している』とのことだが、確かにその頃はあのような姿だったのだろう」
 稲生:「……マリアさんは?」
 威吹:「そこでさっきの話だ。マリアからは、ちゃんと女の匂いがした。しかも、今朝はその匂いが一段と強くなっていた。どういう意味か分かるかい?」
 稲生:「あれ?でも、今朝はシャワー浴びてたよ?」
 威吹:「そういうことじゃない。女ってのは毎月、『具合の悪くなる時期』があるだろう?」
 稲生:「生理だね」
 威吹:「それが来る直前が1番ムラムラしてるんだってさ。具体的には1日か2日前ってところらしい」
 稲生:「よく知ってるねぇ?」

 稲生は目を丸くした。
 威吹がまだ稲生家に逗留していた頃は、そんな話は殆どしなかったというのに……。

 威吹:「さくらが教えてくれたよ。あいつも、そろそろその時期に差し掛かる。その前に、帰ってやらんとな」
 稲生:「お疲れさまです」
 威吹:「いや、ボクのことはいいんだ。つまり、ボクが言いたいのはだな……」

 威吹はコホンと咳払いをした。

 イリーナ:「『ユタとマリアの仲をより進展させるには、性欲が旺盛になっている今のマリアを押し倒しちゃって、あとは【お察しください】』ってところかしら?」
 威吹:「……って、うお!?」
 稲生:「イリーナ先生!」

 けやき広場で、イベントが行われている場所が2階部分にある。
 そこまでやってきた時、突然背後にイリーナが現れた。
 あの威吹でも気づかなかったくらいだ。

 イリーナ:「ゴメンねぇ。男の子同士の話に割っちゃってぇ……」
 威吹:「分かってるなら、師匠として何か手伝ってやったらどうだ?」
 稲生:「威吹、失礼なこと言うな!」
 イリーナ:「まあまあ。うちの組の方針は、『何でものんびりやる』だからね。恋の進展も、のんびりなのよ」
 威吹:「しかしだな……」
 イリーナ:「威吹君も妖狐の先生として、お弟子さんにもう少し目を掛けてあげたらいかが?」
 威吹:「なに?」
 稲生:「あの、先生。それより、マリアさんは?」
 イリーナ:「ああ、そうだったね。今、お手洗いに行ってるよ」
 稲生:「何だ……」

 稲生はホッとしたが、威吹はハッとした。

 威吹:「イリーナ師よ、さっきの話の続きだ。もしかして、遅かったか?」
 イリーナ:「うん。残念だったね、勇太君」
 稲生:「えっ、僕が残念ですか!?」

 そこへマリアが戻って来た。

 マリア:「お待たせしました……」
 イリーナ:「よし。それじゃ、次へ行こう。勇太君、バス乗り場へ連れてって」
 稲生:「あ、はい」

 稲生は戻って来たマリアを含めて、1階のバス乗り場に向かった。

 イリーナ:「正証寺はどうだった?」
 稲生:「あ、はい。藤谷班長が、先生によろしくとのことでした」
 イリーナ:「おー!藤谷さんかぁ〜。元気にしてるみたいだね」
 稲生:「そうなんです。今度、是非ご挨拶をと……」
 イリーナ:「なるほど。それじゃ明日、伺おうかねぇ……」
 稲生:「あ、いや。それが先生、そのことなんですが……」
 イリーナ:「?」
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