[5月12日13:40.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 イオンモール与野3Fタリーズコーヒー]
イリーナ:「んん〜、食後のケーキも美味しいねぇ……」
稲生:「はい」
威吹:「わざわざこの為に、この店に来たのか?」
イリーナ:「まさか。他にも買いたい物があるんだよぉ」
稲生:「それで……僕達、荷物持ちですか……」
イリーナ:「大丈夫。後で“宅急便”で送るから、それまでの間、持つの手伝ってくれれば」
威吹:「後で祝儀(チップ)はもらうからな」
イリーナ:「はいはい」
稲生:「エレーナ、また大汗かいて運んでくるでしょうねぇ……」
イリーナ:「『魔女の宅急便』、日本でやってるのエレーナだけだもんね」
稲生:「外国では他に何人か?」
イリーナ:「キリスト教やイスラム教の力の弱い所に限るけどね」
稲生:「イスラム教も?」
イリーナ:「サウジアラビアでは、今でも魔女狩りは合法で、それ専用のお役所まであるのよ」
稲生:「へえ……」
イリーナ:「だからよ。さっきの“魔女の宅急便”。私も原作やアニメを観て面白いと思ったけど、あのタイトルの英語版、何だか分かる?」
稲生:「直訳すれば、『Witch’s Delivery Service』ですかね?」
イリーナ:「そう思うでしょ?正解は、『Kiki’s Delivery Service』なのよ」
稲生:「へえ!それはどうして?」
イリーナ:「それはもちろん、日本人と違って、欧米人は魔女(Witch)に悪いイメージを持っているからよ。なので主人公の名前をタイトルに持って来たらしいよ」
稲生:「ソーサラー(魔法使い)じゃダメですかね?」
イリーナ:「んー、それだとちょっと意味が違うかな」
稲生:「そうですか」
イリーナ:「とにかく、稲生君のような日本人には全く理解できない考えが、向こうにはあるのよ」
稲生:「…………」
イリーナ:「そうだ。どうして私達が明日、お寺に行ったらいけないのかの理由を聞いてなかったわね」
稲生:「あ、はい。実は……」
稲生が話そうとした時だった。
威吹:「切支丹共が、お前達を狙っている。ユタはそれを心配してるんだ」
イリーナ:「クリスチャンが?誰か、私達の情報流した?」
威吹:「それは分からんが、藤谷班長の話によると、前にあった事件が尾を引いているらしいぞ。ほら、お前の弟子が他の魔女達に追われて大ゲンカになったことがあっただろう?その時、切支丹共が介入してきたというではないか。それだ」
イリーナ:「あー。確かエレーナの同期入門のコが捕まって、危うく火あぶりにされる所だったんだって?」
拉致されている最中、車中で強制わいせつなどの辱めを受けた。
イリーナ:「勇太君と、そのお寺のお仲間さんが助けてくれたんだってね。あ、まだその人に御礼を言ってなかったわ」
勇太:「危うく奴らに口止め料をもらう所だったんで、それを突き返しに車に乗せてくれただけですよ。大原班長と言って、個人タクシーの運転手さんをやってる人です。……あ、そろそろ車の買い替え時だって言ってたな」
イリーナ:「よし。それなら、新しい車を報酬してあげましょうか。日本だとトヨタかしら?」
勇太:「ゼロ・クラウンがいいと言ってましたね。……あ、でも、先生の申し出は断るかもしれませんよ?」
イリーナ:「どうして?」
勇太:「日蓮正宗には、『謗法の徒からの布施は受けない』というものがあるんです。あいにくと先生は、御自身が教祖たり得るような方です。そのような方からの布施は受けられないとするかもしれません」
齢1000年以上の魔道師で、占いも百発百中なら、確かに新興宗教の教祖になってもおかしくない。
イリーナ:「それは残念ね。それならば、私が800万円ほど当たる宝くじの予知をするから、それを教えてあげて」
勇太:「それならいいかもしれませんね」
マリア:「ゼロ・クラウンか。もしかして、アナスタシア先生の乗ってる車?」
勇太:「あ、そうですね。あれは黒塗りですが、大原班長の車は白に青いラインの入ってるヤツですよ」
いわゆる、『でんでん虫』と呼ばれる行灯が特徴の個人タクシーだ。
全国個人タクシー連合会に入っているということになる。
威吹:「それで、さっきの話に戻るが……。どうなんだ?一応、オレが仕掛けた罠で車1台は潰しておいた。だが、どうやらそれで懲りた様子は無い。明日また来る恐れがある。その際、鉢合わせにならないとも限らんのだぞ?」
イリーナ:「そうだね。もちろん、私が鉢合わせになったところで、どうってことはないけどね。ただ、私のやり方は少しエグいもんでね。それで正証寺の皆さんに御迷惑をお掛けするというのは申し訳無いもんね」
威吹:「では、また留守を……」
イリーナ:「いやいや。都内にはお邪魔するよ」
稲生:「ええっ?」
イリーナ:「今度は都内を散策するのダ」
稲生:「先生……」
イリーナ:「威吹君も来るでしょう?」
威吹:「当たり前だ。オレはユタの護衛も兼ねて、ここに来てるのだから」
イリーナ:「ついでに稲生君、お寺の行事が終わったら、威吹君もワンスターホテルに連れて行ってあげて」
稲生:「あ、なるほど。そこで威吹を魔界に送り帰すわけですね」
イリーナ:「もちろん。私の手に掛かれば、そんなに時差無く帰れるはずよ」
威吹:「そうか。それなら頼む」
威吹は大きく頷いた。
[同日14:30.天候:晴 同モール3F 女子トイレ]
マリア:「師匠、どうしてあんなことを言ったんですか?せめて私くらい、できれば勇太と一緒に……」
イリーナ:「マリア。勇太君の心配性はとっくに知ってるでしょ?心配の種は、できれば蒔かないこと。これも私の方針よ」
マリア:「ですが……。ローブと魔法の杖を置いて行けば、普通の人間の女に見えますよね?」
イリーナ:「それでもダメね」
マリア:「何故ですか?」
イリーナ:「あの聖ジャンジョン教会だっけ?あの教会、少し調べる必要がありそうなのよ」
マリア:「と、言いますと?」
イリーナ:「あなたが追われた事件の時……勇太君を追っていたあのコ……名前は忘れたけど、あのコは“姿隠し”の魔法を使っていたそうじゃない?だけど勇太君の話によると、いとも簡単に奴らに見破られたらしいわね。そこが引っ掛かるのよ」
マリア:「たまたま姿が見えた所を見つかったとか?あの魔法、かなり不安定らしいですし……」
イリーナ:「それでもダイレクトに見つけることは、やっぱり不自然だわ。とにかく、ちょっとの変装だけではすぐバレるかもしれない。何よりも、勇太君に余計な心配を掛けさせてはダメよ」
普段はのほほんとしているイリーナ。
長命の魔道師であるだけに、キリスト教会には並々ならぬものがあるようだ。
そこがまだ若い魔道師とは、一線も二線も隔している。
イリーナ:「んん〜、食後のケーキも美味しいねぇ……」
稲生:「はい」
威吹:「わざわざこの為に、この店に来たのか?」
イリーナ:「まさか。他にも買いたい物があるんだよぉ」
稲生:「それで……僕達、荷物持ちですか……」
イリーナ:「大丈夫。後で“宅急便”で送るから、それまでの間、持つの手伝ってくれれば」
威吹:「後で祝儀(チップ)はもらうからな」
イリーナ:「はいはい」
稲生:「エレーナ、また大汗かいて運んでくるでしょうねぇ……」
イリーナ:「『魔女の宅急便』、日本でやってるのエレーナだけだもんね」
稲生:「外国では他に何人か?」
イリーナ:「キリスト教やイスラム教の力の弱い所に限るけどね」
稲生:「イスラム教も?」
イリーナ:「サウジアラビアでは、今でも魔女狩りは合法で、それ専用のお役所まであるのよ」
稲生:「へえ……」
イリーナ:「だからよ。さっきの“魔女の宅急便”。私も原作やアニメを観て面白いと思ったけど、あのタイトルの英語版、何だか分かる?」
稲生:「直訳すれば、『Witch’s Delivery Service』ですかね?」
イリーナ:「そう思うでしょ?正解は、『Kiki’s Delivery Service』なのよ」
稲生:「へえ!それはどうして?」
イリーナ:「それはもちろん、日本人と違って、欧米人は魔女(Witch)に悪いイメージを持っているからよ。なので主人公の名前をタイトルに持って来たらしいよ」
稲生:「ソーサラー(魔法使い)じゃダメですかね?」
イリーナ:「んー、それだとちょっと意味が違うかな」
稲生:「そうですか」
イリーナ:「とにかく、稲生君のような日本人には全く理解できない考えが、向こうにはあるのよ」
稲生:「…………」
イリーナ:「そうだ。どうして私達が明日、お寺に行ったらいけないのかの理由を聞いてなかったわね」
稲生:「あ、はい。実は……」
稲生が話そうとした時だった。
威吹:「切支丹共が、お前達を狙っている。ユタはそれを心配してるんだ」
イリーナ:「クリスチャンが?誰か、私達の情報流した?」
威吹:「それは分からんが、藤谷班長の話によると、前にあった事件が尾を引いているらしいぞ。ほら、お前の弟子が他の魔女達に追われて大ゲンカになったことがあっただろう?その時、切支丹共が介入してきたというではないか。それだ」
イリーナ:「あー。確かエレーナの同期入門のコが捕まって、危うく火あぶりにされる所だったんだって?」
拉致されている最中、車中で強制わいせつなどの辱めを受けた。
イリーナ:「勇太君と、そのお寺のお仲間さんが助けてくれたんだってね。あ、まだその人に御礼を言ってなかったわ」
勇太:「危うく奴らに口止め料をもらう所だったんで、それを突き返しに車に乗せてくれただけですよ。大原班長と言って、個人タクシーの運転手さんをやってる人です。……あ、そろそろ車の買い替え時だって言ってたな」
イリーナ:「よし。それなら、新しい車を報酬してあげましょうか。日本だとトヨタかしら?」
勇太:「ゼロ・クラウンがいいと言ってましたね。……あ、でも、先生の申し出は断るかもしれませんよ?」
イリーナ:「どうして?」
勇太:「日蓮正宗には、『謗法の徒からの布施は受けない』というものがあるんです。あいにくと先生は、御自身が教祖たり得るような方です。そのような方からの布施は受けられないとするかもしれません」
齢1000年以上の魔道師で、占いも百発百中なら、確かに新興宗教の教祖になってもおかしくない。
イリーナ:「それは残念ね。それならば、私が800万円ほど当たる宝くじの予知をするから、それを教えてあげて」
勇太:「それならいいかもしれませんね」
マリア:「ゼロ・クラウンか。もしかして、アナスタシア先生の乗ってる車?」
勇太:「あ、そうですね。あれは黒塗りですが、大原班長の車は白に青いラインの入ってるヤツですよ」
いわゆる、『でんでん虫』と呼ばれる行灯が特徴の個人タクシーだ。
全国個人タクシー連合会に入っているということになる。
威吹:「それで、さっきの話に戻るが……。どうなんだ?一応、オレが仕掛けた罠で車1台は潰しておいた。だが、どうやらそれで懲りた様子は無い。明日また来る恐れがある。その際、鉢合わせにならないとも限らんのだぞ?」
イリーナ:「そうだね。もちろん、私が鉢合わせになったところで、どうってことはないけどね。ただ、私のやり方は少しエグいもんでね。それで正証寺の皆さんに御迷惑をお掛けするというのは申し訳無いもんね」
威吹:「では、また留守を……」
イリーナ:「いやいや。都内にはお邪魔するよ」
稲生:「ええっ?」
イリーナ:「今度は都内を散策するのダ」
稲生:「先生……」
イリーナ:「威吹君も来るでしょう?」
威吹:「当たり前だ。オレはユタの護衛も兼ねて、ここに来てるのだから」
イリーナ:「ついでに稲生君、お寺の行事が終わったら、威吹君もワンスターホテルに連れて行ってあげて」
稲生:「あ、なるほど。そこで威吹を魔界に送り帰すわけですね」
イリーナ:「もちろん。私の手に掛かれば、そんなに時差無く帰れるはずよ」
威吹:「そうか。それなら頼む」
威吹は大きく頷いた。
[同日14:30.天候:晴 同モール3F 女子トイレ]
マリア:「師匠、どうしてあんなことを言ったんですか?せめて私くらい、できれば勇太と一緒に……」
イリーナ:「マリア。勇太君の心配性はとっくに知ってるでしょ?心配の種は、できれば蒔かないこと。これも私の方針よ」
マリア:「ですが……。ローブと魔法の杖を置いて行けば、普通の人間の女に見えますよね?」
イリーナ:「それでもダメね」
マリア:「何故ですか?」
イリーナ:「あの聖ジャンジョン教会だっけ?あの教会、少し調べる必要がありそうなのよ」
マリア:「と、言いますと?」
イリーナ:「あなたが追われた事件の時……勇太君を追っていたあのコ……名前は忘れたけど、あのコは“姿隠し”の魔法を使っていたそうじゃない?だけど勇太君の話によると、いとも簡単に奴らに見破られたらしいわね。そこが引っ掛かるのよ」
マリア:「たまたま姿が見えた所を見つかったとか?あの魔法、かなり不安定らしいですし……」
イリーナ:「それでもダイレクトに見つけることは、やっぱり不自然だわ。とにかく、ちょっとの変装だけではすぐバレるかもしれない。何よりも、勇太君に余計な心配を掛けさせてはダメよ」
普段はのほほんとしているイリーナ。
長命の魔道師であるだけに、キリスト教会には並々ならぬものがあるようだ。
そこがまだ若い魔道師とは、一線も二線も隔している。