報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「5月12日」 2

2018-06-02 15:39:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月12日09:37.天候:晴 東京都豊島区 JR池袋駅→日蓮正宗 正証寺]

〔「まもなく池袋、池袋です。お出口は、右側です」〕

 電車はゆっくりとした速度で池袋駅のホームに入線した。
 これは何も前の電車が詰まっているからではなく、駅手前の線形が悪くて減速せざるを得ないからである。

〔いけぶくろ〜、池袋〜。ご乗車、ありがとうこざいます。次は、新宿に止まります〕

 ここで多くの乗客が下車し、稲生と威吹もそれに続いた。

 威吹:「久しぶりだな。この賑わいも。やはり、魔界のそれとは違う」
 稲生:「そうだろう、そうだろう」

 稲生はうんうんと頷いた。

 稲生:「でも、威吹みたいに魔界の住人が紛れ込んでいるだろうねぇ?」
 威吹:「だろうね。だけど、キノみたいな鬼族も相当人間界にいるみたいだぞ?」
 稲生:「そうなの?」
 威吹:「キノは叫喚地獄の者だろう?あそこの者達が東京の……どこだったっけなー……あ、そうそう。渋谷という所に結構潜んでいるらしい」
 稲生:「叫喚地獄の鬼達は、結構ド派手な装飾をした者達が多いということだけど……。もしかして、渋谷系ファッションって!?」
 威吹:「叫喚地獄に堕ちた罪人共が、そこの獄卒を見る度に、『あれ?渋谷?』『マジ渋谷!』『地獄に堕ちたと思ったら渋谷だった件』とか言って、怖がらなくなったんだってさ」
 稲生:「おおーい!」

 女の鬼もいるのだが、これがまた黒ギャルみたいな感じの為、そこに堕ちた罪人がむしろ喜ぶくらいだということで、対策が急がれているのだという。
 尚、集合地獄の鬼女は白ギャル風。

 威吹:「それで調査の為に、渋谷に集団で来ているそうだ」
 稲生:「正証寺が池袋にあって良かったねぇ……」

 稲生達は池袋駅を出ると、そこからしばらく歩いた。
 池袋駅前の喧騒な所から一転して、閑静な所に入る。

 稲生:「着いた着いた。ここだ」

 稲生は寺院の駐車場を見た。

 稲生:「うん。藤谷班長のベンツがある」
 威吹:「車を替えたのか」
 稲生:「そう。EクラスからGクラスに。ちょっと待ってて。今、藤谷班長を呼んで来る」
 威吹:「スマンな。仏から見て、どうあがいても邪な妖(あやかし)が寺の中に入るわけにはいかない」

 しかし、キノは堂々と入って行っていたが。
 仏教と地獄界は切っても切れぬ関係である為、そこの獄卒が入って行っても問題は無いのだろう。
 そして……。

 藤谷:「おー、威吹君じゃないかー」
 威吹:「藤谷班長。久しぶりでござる」
 藤谷:「稲生君に協力してくれたんだってな。ささ、上がってお茶でも飲んで行ってくれ」
 威吹:「そちらの拝む仏から見て、稲荷大明神は邪神なのだろう?その眷属のオレが、こういう所に堂々と入って良いとは思えぬが……」
 藤谷:「いや、いいんだよ。大聖人様の信徒への協力者を、御本尊様が罰するはずがない」
 威吹:「そういうことなら……」

 威吹は草履を脱いだ。
 爪先はプラスチックのカバーに覆われている。
 これは威吹が初めて稲生に同行して大石寺に行った際、そこの僧侶達が履いているのを見て、大いに気に入ったものだ。
 いかに足袋を履いていても、草履の構造上、爪先が心許ない。
 その対策として、爪先がカバーに覆われているというのは画期的に思えたのだった。
 当然ながら、すぐに取り寄せたことは言うまでもない。

 藤谷:「休憩室を空けたぞ。そこで話そう」
 稲生:「はい」

 稲生は本堂に行き、そこで御本尊に題目を上げると、それから休憩室に向かった。

 藤谷:「まあ、威吹君も寛いでくれ」
 威吹:「かたじけない。前に来た時と比べ、内装が新しくなったな?」
 藤谷:「まあ、この正証寺も色々あってよ。内装を新しくせざるを得なかったんだな、これが」
 稲生:「ケンショーレンジャーが、また何かしてきたんですか?」
 藤谷:「いや、ケンショーレンジャーは、あのお正月以来、全く姿を見せてないよ。それにしても稲生君、今日はマリアさんは連れて来てないんだな?」
 稲生:「ええ。イリーナ先生と、さいたま新都心でショッピングしてます」
 藤谷:「そうか。いや、それならいいんだ。むしろ週末は、マリアさんとかは来ない方がいいかもしれんな」
 稲生:「どういうことですか?」

 その時、寺の外から何かが聞こえて来た。

〔「こちらは聖ジャンジョン教会である。邪悪なる魔女共に告ぐ。直ちに神への御前に平伏し、その身を聖なる炎にて浄化せよ。神はお怒りである。……」〕

 窓から外を覗くと、街宣車がこれ見よがし、聞えよがしに街宣活動を行っていた。

 藤谷:「だいぶ前、マリアさんが他の魔女達とトラブルになったことがあっただろ?」
 稲生:「ええ」
 威吹:「あのことか。いや、女同士のケンカは面倒なものがあるな」
 藤谷:「それで、この寺に魔女が匿われていると誤解して、時々ああしてやってくるんだよ」
 稲生:「折伏のいいチャンスじゃないですか」
 藤谷:「そう思うだろ?……まあ、見ててくれ」

 藤谷はそう言うと立ち上がり、寺の外に出た。

 藤谷:「おーい、待てやー!話なら聞くぞー!」

 藤谷は一周回って来た街宣車を呼び止めようとした。
 まるで、廃品回収ちり紙交換車を呼び止めるような感覚だ。
 現に、キリスト教系新興宗教団体の街宣車は、正証寺の前でちり紙交換車並みの徐行で通過する。
 が、藤谷の姿を見ると……。

 稲生:「あっ!」

 いきなり急加速!
 途中に歩行者や自転車がいてもお構いなし!
 クラクションを何度も鳴らして、歩行者や自転車を退かしてさっさと逃げてしまうのだ。

〔「神は対話を求めていない。あくまでも、魔女の引き渡しにある。引き渡しに応じぬ場合、我らはいつでも神の警告を下すものである!」〕

 という捨て台詞を吐いて。
 そして、藤谷達が中に入るとまたやってきて、例の街宣活動を行う。
 で、また藤谷達が出てくると急加速して……の繰り返しだ。

 稲生:「ただの嫌がらせじゃないですか!」
 藤谷:「まあな。だが、そろそろ妙観講が動く頃だ」
 稲生:「妙観講が!」
 藤谷:「かつて顕正会にした時と同じようなことを、奴らにするだろうよ」
 稲生:「恐ろしいですねぇ……」
 威吹:「もしかして、マリアを一旦ユタから引き離したのは、このことを予知したからかもしれんなー」
 稲生:「なるほど。さすがはイリーナ先生だ」
 藤谷:「これでしばらくは、奴らは来ないだろう。今のうちに、仙台であったことを聞かせてもらおうかな?」
 稲生:「分かりました」

 稲生達は再び寺の中へと入った。
 尚、その前に威吹は懐の中から何かを通りにまいた。
 それは忍者が使っていたとされるマキビシによく似ていた。
コメント (4)
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