報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「まぁるい緑の山手線」

2018-06-11 19:33:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日11:25.天候:晴 JR秋葉原駅中央口]

 広い中央改札口を出ると、そこにイリーナとマリアが待っていた。

 イリーナ:「やあやあ、ちゃんと来てくれたねぇ」
 威吹:「おう。ユタと一緒なら完璧だ」
 マリア:「その通りだな」

 マリアが大きく頷いた。

 イリーナ:「いやね、ここで新しい電化製品を買っていたら、勇太君達が来る時間になっちゃったんだよぉ」
 稲生:「そうだったんですか」
 イリーナ:「どうだい?最後にここでランチしてから、威吹君は帰らないかい?」
 稲生:「そうですねぇ……。威吹はどう?」
 威吹:「ふむ……」
 イリーナ:「いい買い物ができたから、今日のアタシは機嫌がいいんだ。ランチはアタシの奢りだよ」
 威吹:「そういうことなら、お言葉に甘えよう」

 威吹は大きく頷いた。

 イリーナ:「というわけで稲生君、オススメの店はある?」
 稲生:「ええっ!?いきなりですか!?……えーと……」

 稲生は駅前にあるヨドバシAkibaの建物を見上げた。

 稲生:「取りあえず中へ」

 と、その建物を指さしたのだった。

[同日11:40.天候:晴 ヨドバシAkiba8F たん之助]

 威吹:「これは……!?」
 稲生:「威吹、牛タン好きでしょ?ちょうどここに、こういう店があったのを思い出した」
 威吹:「そうだったのか!」
 マリア:「確かに。帰りの新幹線でも、駅弁買ってたな」
 イリーナ:「さすが勇太君ね。……さ、遠慮しないで好きなもの食べて」
 稲生:「ありがとうございます」
 威吹:「かたじけない」

 威吹は1番量の多いものを希望した。
 やはり、というべきであるが……。

 稲生:「じゃあ、注文しますよ。すいませーん」

 稲生は店員を呼ぶと早速注文する。

 稲生:「牛タン定食の塩を1つと、牛タンシチュー定食……」

 マリアはシチュー系が好きらしい。
 松島に行った時も、牛タンシチューを頼んでいた。

 稲生:「それと、3種盛り定食を……」
 イリーナ:「アタシもお願いね」
 稲生:「……2つお願いします。はい」

 注文した後で、威吹が目を丸くした。

 威吹:「いいのか?」
 イリーナ:「ええ。私が御馳走するから、何も心配しなくて……」
 威吹:「そうじゃない。オマエもそんなに食べて大丈夫なのか?」
 イリーナ:「威吹君」
 威吹:「何だ?」
 イリーナ:「取りあえず、私の方が年上だからね?」
 威吹:「……それは失敬。そなたも某と同じ大量の肉を食べても、大丈夫なのか?」

 それでも敬語は使いたくないようだが、取りあえず少しは丁寧な口調にはなった。

 イリーナ:「ええ。心配御無用よ」
 威吹:「それなら良いが……」
 稲生:「威吹。魔道師の世界も、上下関係が厳しいんだ。僕もよくマリアさんに注意されたものさ」

 白人にしては発育の悪いマリア。
 人形作りが趣味であり、当初の出で立ちもまるでお人形さんみたいな感じだった。
 今はそれよりも少しは身長が伸び、体付きも良くなってはいるのだが、どうしてもまだ10代後半にしか見えない。
 何年か前、北海道で実年齢25歳を迎えたのがウソみたいだ。
 契約悪魔が、なるべく契約者を長生きさせる為に体の成長や老化を止めるからだとされている。
 さすがに稲生と釣り合いが取れないと困る、という他の悪魔からの声に応えてか、少しマリアの体を成長させたようだが……。
 どうしても稲生からは年下に見えてしまう為、ついついタメ口を聞いてしまったことがあった。

 威吹:「なるほどな」

 しばらくして、料理が運ばれて来る。

 稲生:「それではいただきます」
 イリーナ:「美味しそうだねぇ」
 威吹:「うむ……」

 稲生が向かいに座るマリアの左手を見て気づいた。

 稲生:「マリアさん、父のプレゼント着けてるんですね?」

 稲生の父親の宗一郎から送られた腕時計を着けていた。

 マリア:「ええ。せっかく頂いたものだし……」

 稲生と威吹には金時計(銀時計に金メッキをした懐中時計)をくれたのだが、どうやらマリアもお揃いで欲しかったそうである。
 しかし宗一郎的には、女性に懐中時計というイメージは合わなかったらしく、女性用の腕時計にしたというもの。

 イリーナ:「似合ってるじゃない。ね?勇太君」
 稲生:「そうですね。そう思います」
 イリーナ:「うちの組はクロックワーカー系なんだから、時計はやはりシンボルになるわね」

 時を駆ける魔道師ということだが、未だに稲生はその謎について教えてもらっていない。
 過去にタイムスリップでもして、そのシナリオを変えるのかと思ったが、そういうことではないらしい。
 むしろ、未来を変える為に今何かをするのだそうだ。

 威吹:「未だにオレは、そなた達が何をやる魔法使いなのかが分からぬのだが……」
 イリーナ:「一言では説明できないな。強いて言うなら、未来を変える為に良いフラグを立てたり、逆に悪いフラグを折ったりすることかな」
 稲生:「フラグですか。分かりやすい表現ではありますが、しかしそのフラグとやらが分かりませんね」
 威吹:「オレには『ふらぐ』という言葉の意味すら分からん」
 イリーナ:「ま、けして表舞台には立たないけど、歴史の立役者になる系統かな。あとは、代わりに立役者となる人間の後援をしたりとかね」
 威吹:「それ魔法か?」
 イリーナ:「魔法……だね」

 イリーナはニヤッと笑った。

[同日12:30.天候:晴 ヨドバシAkiba→JR秋葉原駅前]

 ポンピーン♪

 稲生:「お昼時だから、混んできましたね」

 稲生達を乗せたエレベーターが1階に着いてドアが開くと、店内BGMが聞こえて来た。
 ヨドバシカメラのテーマソングには原曲があって、“リパブリック賛歌”という。
 アメリカの南北戦争の際に歌われた軍歌だったのだとか。
 尚、曲調は似ているが、ビックカメラのテーマソングは原曲が全く違うので念の為。
 ビックカメラのテーマソングの原曲はキリスト教の聖歌である。
 それをジャズアレンジして、オリジナルの歌詞を付けたものだ。

 イリーナ:「混む前に食事ができて良かったよ。それじゃ、買い物も食事も終わったから、ボチボチ行こうかね」
 稲生:「はい」
 イリーナ:「タクシーはどこから乗れるのかね?」
 稲生:「タクシーで行くんですか?」
 イリーナ:「うん。カードならあるよ」
 稲生:「でしたら、駅前のロータリーからですね。こっちです」

 稲生は駅の方に出るエントランスの方へ向かった。
 今日は日曜日である為、店内も多くの買い物客で賑わっていた。
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“大魔道師の弟子” 「JR山手線外回り」

2018-06-11 10:18:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日11:00.天候:晴 JR池袋駅・山手線ホーム→JR山手線1073G電車1号車内]

〔まもなく7番線に、上野、東京方面行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 最近は一部の駅において、自動接近放送にも英語放送が流れるようになった。
 正証寺の最寄り駅、池袋からワンスターホテルの最寄り駅の森下なら地下鉄で行くと早いのだが、あえて秋葉原までは山手線で行くことにした。
 魔界に帰った後、またしばらくの間は人間界に来ることは無いだろうと思った威吹が、人間界の風景をこの目に焼き付けておこうと思ったのである。

 稲生:「E235系じゃなかったか……」

 やってきた電車はE231系という、従来から山手線で運転されている電車であった。
 山手線で最後まで6ドア車を連結していた電車である。
 今はホームドアの設置が進んだこと(現在の技術では6ドア車に対応できない)と、6ドア車を必要とするほど山手線もそんなに混まなくなった(上野東京ラインの開通や湘南新宿ラインの拡充)為、6ドア車となっていた車両は4ドア車に換装されている。

〔いけぶくろ〜、池袋〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 もっとも、鉄ヲタの稲生は鈴木と違い、ホイホイと先頭車に乗り込んでしまうのだが。

〔「この電車は山手線、田端、上野、東京方面、外回りです。少々停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 ドアの上のモニタには、山手線の路線図が映し出される。
 他の路線だと横直線なのだが、山手線は四角い路線図になる。

 稲生:「どう見ても魔界高速電鉄だと、池袋の位置がデビル・ピーターズバーグ駅なんだよなぁ……」

 稲生は手持ちの路線図を出した。
 しかしそれは人間界の鉄道路線図ではなく、魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)のものだ。
 JR山手線の2倍の営業キロを誇る為、こちらが各駅停車のみの運行なのに対し、アルカディアメトロ環状線は準急や急行の運転も行われている(が、それは速達サービスではなく、ダイヤ乱れを戻す為の駅飛ばしである。人間界ではニューヨークの地下鉄がその方式)。

 威吹:「それで、僕達はどこへ行くのかな?」
 稲生:「秋葉原だから、アルカディアだと……」

 東京駅に位置する場所に1番街駅がある。

 稲生:「24番街……いや、デスグラス(死の原っぱ)かな?」
 威吹:「うむ。行く時期を誤ると、死ねるという意味では当たっているかもな」

 威吹は大きく頷いた。

〔「お待たせ致しました。山手線外回り、まもなく発車致します」〕

 駅のホームに発車メロディが鳴り響く。
 尚、アルカディアメトロにはメロディは無く、発車ベルすら無い所が殆ど。
 車掌が笛を吹いたり、地下鉄ではブザーが鳴る程度。

〔7番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 ホームドアが閉まるが、駆け込み乗車があったのか、何度か再開閉する。

〔「7号車にご乗車のお客様、ホームドアのこじ開けは危険です!おやめください!」〕

 稲生:「プッw」
 威吹:「何だそりゃ……」

 ※作者が実際に体験した話である。恐らく中国人観光客辺りだろう。

 稲生:「アルカディアメトロじゃ、駆け込み乗車が無いね」
 威吹:「そりゃそうだろう」

 特に地下鉄ではあの治安の悪い中、ワンマン運転な上、運転士もロクにホーム監視をしないままドア開閉をしているので、挟まれてもそのまま引きずられること請け合いなのを地元の利用客も知っているからだろう(旧ソ連系の地下鉄ではリアルな話です)。
 そんなこんなで、電車が走り出す。

〔この電車は山手線外回り、上野、東京方面行きです。次は大塚、大塚。お出口は、右側です。都電荒川線は、お乗り換えです。……〕
〔This is the Yamanote line train bound for Ueno and Tokyo.The next station is Otsuka.The doors on the right side will open.Please change here for the Toden Arakawa line.〕

 都電荒川線は、かつて乗換案内放送に入っていなかったことを覚えている人は挙手。
 バスの乗り換え案内をしないのと同じく、かつてはバスと同じカテゴリーに入れられていたのだろう。
 昔、まだSuicaやPasmoが出る前、バス共通カードやイオカード、パスネットがあった頃を覚えておられる方も多いだろう。
 プリペイドカードの一種である。
 JRはイオカード、私鉄や地下鉄はパスネット、路線バスはバス共通カードで乗り降りできたわけだが、都電荒川線は何のカードが使えたか、お分かりの方はおられるだろうか。
 既に答えを言ってしまったようなものだが、実はパスネットではなく、バス共通カードだったのだ。
 これがJRから、都電荒川線は路線バスの一種だと思われたのだろうと推察する。
 また、この流れからして、パスネットの前は都営バスの紙の回数券を使用していたのではないかと思う(都営バスとは運賃が違うが、運賃箱が同じであることから、紙の回数券であったはず)。
 都営地下鉄の回数券ではなく。
 それが今やPasmoが使えるようになったことから、ようやく乗り換え先の鉄道扱いをしてもらえるようになったのかもしれない。

 稲生:「アルカディアシティがここまで発展すると思うかい?住民として」
 威吹:「それは分からんね。でも、僕は静かな方がいいな」
 稲生:「そうか」

 外回りと内回りの区別が付かない人の為に。

 二重丸(◎)を書いてもらいたい。
 日本の鉄道は基本的に左側通行である。
 ◎の外側を走るから『外回り』。
 ◎の内側を走るから『内回り』。
 という意味である。

[同日11:20.天候:晴 JR御徒町(おかちまち)駅→JR秋葉原駅]

〔次は秋葉原、秋葉原。お出口は、左側です。中央・総武線各駅停車、地下鉄日比谷線とつくばエクスプレス線はお乗り換えです〕
〔The next station is Akihabara.The doors on the left side will open.Please change here for the Cyuo-Sobu line local service,the Hibiya subway line and the Tsukuba Express line.〕

 稲生:「あれ?マリアさんからの連絡だ」

 稲生はスマホを取り出した。

 稲生:「……ん?イリーナ先生共々、秋葉原駅で待っているそうだよ」
 威吹:「ほお。ホテルで待っているということだったが……」
 稲生:「また何か爆買いしたかなー?」
 威吹:「爆買いというより、衝動買いという方が正しいだろう」
 稲生:「言ってくれるなー」
 威吹:「フフ……」

 京浜東北線ではまるでポイント通過で副線に入るがの如く、ホームの前後がカーブしているが、山手線はそのまま真っ直ぐにホームに入る。
 恐らく、本当に山手線と京浜東北線が同居していた頃の名残なのかもしれない。

〔あきはばら〜、秋葉原〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 ここで下車する乗客は多い。
 稲生と威吹もホームに降りて、イリーナとマリアが待つという中央口に向かった。
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