報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「あずさ3号」

2018-06-18 19:02:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日06:51.天候:晴 JR新宿駅]

 稲生達を乗せた埼京線電車が池袋駅を出る頃、車内はだいぶ賑わっていた。
 ピーク時と比べればまだ割と余裕があるように見られるが、それは埼京線の中でも1番空いている10号車だからであって、1番混雑する最後尾の1号車はメチャ混みかもしれない。

〔まもなく終点、新宿、新宿。お出口は、左側です。埼京線(渋谷、大崎方面)、湘南新宿ライン、山手線、中央快速線、中央・総武緩行線、京王線、小田急線、東京メトロ丸ノ内線、副都心線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 稲生:「そろそろ、先生を起こした方がいいですよ」
 マリア:「そうだな。……師匠、師匠」

 マリアはフードを被って仮眠体制のイリーナを揺さぶった。

 イリーナ:「あと5分だけ……」
 マリア:「師匠。日本の電車はすぐに折り返すから、5分経ったら逆行してますよ」
 稲生:(マリアさん、僕のセリフ取っちゃった……)

 マリアも稲生に毒されつつある。

 イリーナ:「しょうがないねぇ……」

 電車は電子音の警笛を鳴らしながら、新宿駅に入線した。
 貨物線だった埼京線・湘南新宿ラインに設置したホームなので、その幅は山手線や中央線のそれと比べると狭い。
 そこへ折り返しのこの電車を待つ乗客達が列を作って待っているのだから、入線する際は運転士もより緊張するというわけだ。

 稲生:「まあ、乗り換え先の電車もこっちに向かってますから」
 イリーナ:「そうかい」

 電車が止まってドアが開くと、大量の乗客が吐き出された。

〔しんじゅく〜、新宿〜。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 当然ながら稲生達もそれに合わせて電車を降りることになる。

 稲生:「今頃、錦糸町駅を出てこっちに向かっているはずですね」
 イリーナ:「そうなのかい」
 マリア:「?」

 稲生と違って鉄ヲタでも何でもない魔道師師弟は稲生の言葉の意味を分かっていなかったが、要は多くの中央本線特急が新宿始発であるのに対し、これから稲生達が乗ろうとするのはそうではないということ。

 稲生:「まだ少し時間があるので、駅弁を購入したいのですが……」
 イリーナ:「いいよ。好きなの買ってきて」
 稲生:「ありがとうございます」

 もっとも、駅弁を購入できるのは中央本線特急ホームとなっている9番線と10番線。
 そこへ行く為に、埼京線の2番線から階段などで移動しなければならない。

 イリーナ:「おや?階段しか無いのかい?」
 稲生:「す、すいません」
 イリーナ:「マリア、ちょいと腰を押し……」
 マリア:(・д・)チッ

 マリア、無言で魔法の杖を構える。

 イリーナ:「……て、もらわなくてもいいわ」
 マリア:「はいはい、後がつかえてるんで、キリキリ登る」

 マリアは魔法の杖を斜めにして、その柄でイリーナの腰をグイグイ押した。

 イリーナ:「あ〜、そういう手もあるのねぇ……」

 マリアに押されて、イリーナはコンコースまで上がった。

 稲生:「中央本線ホームはあっちですが、トイレはあっちです。先に行っておきますか?」
 イリーナ:「そうしよう」
 マリア:「バスタ新宿に行く前に寄ったことのあるトイレじゃない?」
 稲生:「実はそうです」
 マリア:「やっぱりか」

 稲生が男子トイレに入って用を足しながらこう思った。

 稲生:(二日酔いは収まったみたい。だけど、やっぱりマリアさんの方が酒は強いみたいだな。朝起きてきても、全くそんな素振りは無かったんだから)

[同日07:25.天候:晴 JR新宿駅・中央本線(特急)ホーム]

 特急列車が発着するホームなだけあって、大きな待合室や喫煙所もある。
 その他には、駅弁も販売する売店があった。
 ホームの中ほどまで行くと、それがある。
 因みにここ、クレカが使える。

 マリア:「勇太が今回、列車にしようとした理由は何?」
 イリーナ:「そんなこと聞くのは野暮ってものよ。趣味が大きく入っているとはいえ、私達は日本国内移動は稲生君に一任することに決めてるでしょ?」
 稲生:「まあ、確かにそうなんですが……。今度の電車、E257系っていう従来の車両で運転されるんですが、もしかすると乗り納めになる恐れがあるんですよ。“スーパーあずさ”用に新型車両が入りまして、それが“あずさ”にも使われるようになると、JR東日本は淘汰が早いですから」
 マリア:「勇太らしい考えだな」ε- (´ー`*)フッ
 イリーナ:「勇太君は何にするの?」
 稲生:「そうですねぇ……。昨夜はすき焼きや寿司を食べちゃいましたからね、少しバランスの良い……あっ」

 稲生が目ざとく見つけたのは……。

 稲生:「新宿弁当がいいです」
 イリーナ:「あいよ。マリアは?」
 マリア:「牛肉弁当で」
 イリーナ:「あいよ。じゃあ、アタシは牛すきと牛焼肉弁当とやらにしようかねぇ……」
 稲生:(この2人、本当に肉食だなぁ……)

 意外なのはリリアンヌは魚をよく食べるということ。
 フランス人なだけに、ここにいるイギリス人やロシア人に負けないほどの肉食ぶりだと思っていたのだが、フランスも地方によっては魚をよく食べる地域があり、そこの出身であることが分かった。

〔まもなく10番線に、特急“あずさ”3号、南小谷(みなみおたり)行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は、11両です。……〕

 イリーナが自分のカードで会計している最中、接近放送が鳴った。

 稲生:「お、ちょうど来た」
 マリア:「勇太、その電車は車内販売ある?」
 稲生:「あ、ありますよ」
 マリア:「そうか。それは良かった」

 マリアのローブのポケットからは、ミク人形とハク人形が顔を覗かせていた。

 稲生:「車販のアイスクリーム狙いですね」
 マリア:「そう」
 稲生:「ちゃんと取り扱ってますよ」
 マリア:「それならいい」
 イリーナ:「ほら、自分の弁当は自分で持って。あと、飲み物は自分で買ってね」
 稲生:「はーい。自販機で、お茶でも買っておきますよ」

 入線してきた列車には案の定、既に乗客が乗っていた。
 普通車の方は乗客が多かったが、グリーン車は空いていた。
 普通車との合造の為か、乗降ドアが車両のほぼ真ん中にある。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、立川に止まります〕

 千葉からやってきた“あずさ”だが、この駅でぞろぞろと乗客が降りて来た。
 自由席なら手持ちの定期券の有効区間と併せて自由席特急券で乗れ、千葉から新宿までなら定期券と指定席特急券で指定席に乗って良いことになっている為、ちょっとした通勤ライナー代わりに乗られているのだろう。
 因みに普通車のスペックは、中距離電車のグリーン車とほぼ同じだったりする。
 尚、グリーン車には定期券では乗れない。
 だから、空いていたのだろう。

 稲生:「先生はここですね。僕とマリアさんはその後ろです」

 2人席が並ぶグリーン車。
 イリーナの隣には誰も乗っていなかった。

 イリーナ:「あいよ。食べ終わったら、一眠りさせてもらうよ」
 稲生:「分かりました。弁当殻は後で処分しておきますから」

 稲生はマリアと隣り合って乗った。
 イリーナにはちょうど良い座席のサイズでも、小柄な弟子2人には座席が余るサイズである。
 弁当を開けて箸を付けると、列車が走り出した。
 時計を見ると、ちゃんと定刻通りに発車したようだ。

〔♪♪(車内メロディ)♪♪。JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は中央本線、大糸線直通、特急“あずさ”3号、南小谷行きです。停車駅は立川、八王子、大月、塩山、山梨市、石和温泉、甲府、韮崎、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、松本、豊科、穂高、信濃大町、白馬、終点南小谷の順に止まります。……〕

 電車はポイントを通過すると、本線に出た。
 高尾までは快速電車と同じ線路を走るわけだから、あんまりスピードを出しては走れない。
 もちろん、中央快速線が実質的に各駅停車と化す中野以西は遅くなった電車が待避線に入るのだろうが。
 ところで、杉並3駅問題はどうなったのかな?

 稲生:「何だか御講に参加する為に上京したのに、偉いことになっちゃいましたね」
 マリア:「まあ、しょうがない。これが魔道師の宿命ってヤツだよ」

 マリアは牛肉を頬張りながら答えた。

 稲生:「宿命ねぇ……」
 マリア:「もう私達は人外なんだ。人外ならではの問題に直面することが、これからもある。それでも1人だと、不安でしょうがないことも多々ある。だから、2人で解決できるのなら、その方がいい」
 稲生:「マリアさん……」
 イリーナ:(若いっていいねぇ……)

 イリーナがほっこりした顔になっていると、ピッと右手の皮膚が切れた。

 イリーナ:「っ……!」

 すぐに回復魔法を掛けて傷を治す。

 イリーナ:(もう少しこの体、もってよね。せめて、後ろの2人が独立するまでは見届けたいからさ……)
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“大魔道師の弟子” 「5月14日」

2018-06-18 10:15:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月14日04:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生のスマホから目覚ましのアラームが鳴る。
 御多聞に漏れず発車メロディだが、あれだ。
 取りあえず、大宮駅8番線とだけ言っておく。

 稲生:「う……ううーん……」

 いくら夏が近づいて来ているとはいえ、まだ暗い時間帯だ。
 どうしてそんな時間に起きたのかというと……。

 稲生:「まだ……酒残ってる……頭痛ェ……。えーと……二日酔いの場合、朝勤行は……」

 稲生は1階に下りると、冷蔵庫の中からソルマックを取り出した。
 それを一気飲みして、今度は顔を洗ったりする。
 その後で……。

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 再び自室に戻り、大石寺の方向に向かって勤行を始めた。
 日蓮正宗の勤行は五座三座。
 初座の場合はまず大石寺の方に向かって御題目三唱をした後、今度は東の方を向いて勤行を行う。
 初座は諸天供養だからだ。
 但し、朝勤行を行う場所が西日本(具体的には静岡県富士宮市以西)であれば、実質的に東を向いていることになるので、改めて向き直す必要は無いのだろう。
 尚、この勤行において、稲生は五座の所でやはり河合有紗の追善回向を行わずにはいられなかったのだった。
 なんぼ今は怨霊となって稲生に対しては愛憎の念、マリアに対しては嫉妬の念で襲って来たとはいえ……。

[同日06:00.天候:晴 JR大宮駅西口→埼京線ホーム]

 この時間帯になると、さすがに東の空も明るくなってくる。
 西口のタクシー乗り場に、1台のタクシーが到着した。

 稲生:「すいません、カードで払います」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 助手席の稲生は、イリーナから預かったカードで料金の支払いを行った。
 迎車で来てもらって、そこから既にメーターが動いているとはいえ、それでも1000円くらいだ。

 イリーナ:「ふわぁあ……」

 稲生が料金を払っている間、後ろに座っていた魔道師師弟が先に降りたのだが、イリーナは相変わらず大きな欠伸をしていた。

 イリーナ:「電車の時間はもっと後だろうに、何でこんなに早いのん?」
 マリア:「今日は月曜日で、まもなくラッシュアワーです。勇太に言わせれば、時差通勤?のようなものらしいので」
 イリーナ:「ああ。日本のラッシュアワーも、相当なものらしいからねぇ……」

 そんなことを話している間に、稲生が降りて来た。

 稲生:「お待たせしました。それでは行きましょう」
 イリーナ:「うん」

 エスカレーターで、改札口へ向かう。

 マリア:「今度は『階段登れねぇ〜』とか言わないでくださいよ?」
 イリーナ:「やだねぇ、『天丼は2回まで』って言うでしょお」
 稲生:「(ネタだったのか?)あ、えーと……帰りの乗車券でもう乗れますから」

 乗車券の区間は大宮から白馬まで。
 グリーン券を含む指定席特急券は新宿から白馬までだ。

 イリーナ:「今回は電車で帰るんだね」
 稲生:「前回はバスでしたから。キップは1人ずつ持ちましょう」
 イリーナ:「でないと改札口通れないもんね」
 稲生:「そういうことです」

 南改札口からコンコースに入ると、すぐ埼京線ホームに下りる階段とエスカレーターがある。
 それで下りて、ホームに向かった。

〔まもなく20番線に、各駅停車、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、北与野に止まります〕

 稲生:「この辺でいいか」

 御多聞に漏れず、先頭車狙いの稲生。
 もう少し遅い時間になると、そこは雌車女性専用車となる。
 東武野田線(アーバンパークライン)だと、『平日の始発から9時まで』というたった一言で終わっているのだが、埼京線は……ここで書くのも面倒なくらい複雑な文言になっている。
 ……と思ったら、他社線と相互乗り入れしている地下鉄はもっと面倒な文言だったw
 どんなことが書いているかというと、【Webで確認!】。

 地下ホームの埼京線ホーム。
 JRのE233系が轟音を立てて入線してきた。

〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます。次は、北与野に止まります〕

 電車は当駅始発ではなかった。
 だが、大宮駅でぞろぞろと降りて行く。
 なので、着席できないほど混んでいるわけではない。
 まだ、時間帯が早いからだろう。
 ラインカラーと同じ緑色の座席に座る。
 マリアは黒いブレザーに緑色のプリーツスカートを穿いていた。
 座席の色に融け込みそうな感じだが、スカートの方がまだ明るい色だ。
 これは契約悪魔のベルフェゴールが緑色をシンボルカラーとしている為、契約者も何かしらそれを意識する物を身に着けなければならないという不文律があった。
 イリーナの契約悪魔はピンク色がシンボルなので、ローブの下のドレスコートは赤に近い(どちらかというとワインレッドに近い)ピンク色である。
 稲生が契約内定している悪魔は紫色。
 スーツを紫色にするか、ネクタイを紫色にするかで悩んでいる。

 稲生:(イリーナ先生は石巻線、マリアさんは埼京線、僕は北上線か……)

 マリアだけ東京近郊区間である。
 ピンクとか紫は、なかなか東京近郊区間には無い。

〔「お待たせ致しました。6時6分発、埼京線各駅停車、新宿行き、まもなく発車致します。途中の武蔵浦和で、後から参ります通勤快速の待ち合わせを行います」〕

 発車メロディがホームに響き渡る。

〔20番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 再開閉することなく、ドアは1回で閉まった。
 ので、すぐに電車が発車する。
 途中で徐行することなく、そのまま一気に加速するのは、20番線が上り本線ホームだからだろう。
 つまり、ポイントを渡る必要が無い。
 但し、ポイントを通過する際のガタタン!という大きな音は聞こえた。

〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です。……〕

 イリーナ:「日本の電車は治安がいいねぇ……」
 稲生:「そうですか?」
 イリーナ:「もっとも、来月は新幹線に乗らない方がいいよ」
 稲生:「えっ?藤谷班長から大石寺の夏期講習会に誘われてるんですけど……」
 イリーナ:「来月は藤谷さんに乗せてもらうか、バスにするといいね」
 稲生:「そ、そうですか。覚えておきます」
 マリア:「師匠の予言ですか。因みに、具体的にどの列車が危険か分かりますか?」
 イリーナ:「帰ったら深く占うよ」
 稲生:「よろしくお願いします」

 電車はトンネルを出ると、晩春の朝日を浴びた。
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