報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「そして恐怖は繰り返す」

2018-06-15 19:16:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日15:45.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 バス停から稲生家までは徒歩5分ほど。
 イリーナは途中で挫折することなく、稲生家まで歩いて行けた。

 マリア:「師匠、やればできるじゃないですか」
 イリーナ:「後であなたの人形借りるわよ」
 稲生:(ミカエラとクラリスにマッサージしてもらうつもりだな……)

 家の門を潜ると、両親達はいないようだ。
 車が無い。

 稲生:「どこかへ出掛けたんだな。買い物かな」
 イリーナ:「あらあら。食材の買い出しなら、マリアに手伝わせるのに」
 マリア:「……はあ、そうですね」

 一瞬だけマリアは、『何で私が!』と言いそうな顔になったが、すぐにそれを引っ込めた。
 稲生の両親とのお付き合いなら、それも致し方無いと気づいたのだ。

 稲生:「まあ、そのうち帰ってくるでしょう。どうぞ、中でお茶でも……」
 イリーナ:「うんにゃ、取りあえずマリアの人形にボディケアでもしてもらおうかねぇ」
 稲生:(やっぱりか)

 稲生は予想が当たって、心の中で笑った。

 稲生:「マリアさんはどうします?紅茶入れますよ」
 マリア:「あー……うん。じゃあ、お願い」
 稲生:「分かりました」

 稲生は玄関のドアを開けた。

 稲生:「!」
 イリーナ:「!?」
 マリア:「!!」

 両親は留守なわけだから、当然人の気配が無くてしかるべきだ。
 いや、実際そうであった。
 だが、3人の魔道師は家の中に何かの気配を感じた。
 稲生の家とて庭付き一戸建て、2階建て住宅である。
 その家の中全体に、人ならざる気配が漂っていた。
 そう、生きている人間の侵入者ではない。

 マリア:「……何かいる」
 イリーナ:「そうね。マッサージの前に、ちょっと確認の必要があるわね」
 稲生:「ううっ……!」
 イリーナ:「勇太君、先導して」
 稲生:「ええっ、僕がですか?」
 イリーナ:「ここはあなたの実家でしょう?他人の私達が家探ししたら、フツーにダメじゃない」
 稲生:「そ、それもそうですね……」
 マリア:「取りあえず、私達が付いてるから心配しないでくれ」
 稲生:「は、はい」

 マリアはローブの中から人形達を出した。

 イリーナ:「マリア。勇太君の家の中で、銃火器はダメでしょ」
 マリア:「う……そうでした」
 稲生:「ど、どこから探します?」

 そう。
 気配が家全体に漂っている為、どこに潜んでいるのか全く見当がつかないのである。

 稲生:「先生かマリアさんの占いで……」
 イリーナ:「そんなことしてる暇があったら、さっさと探した方がいいわ」
 稲生:「は、はい。じゃあ取りあえず、2階のから……」
 イリーナ:「そうね」

 稲生家もかつては人外達からの襲撃に晒されたことがある。
 妖狐の威吹が逗留していた頃だ。
 元々霊力の強かった稲生を食らいに来た妖怪達が殆どだった。
 妖怪達の間では、霊力の強い人間を食らうと、その力がそのまま妖力に繋がると信じられていた。
 威吹が当初、稲生を食らおうとしたのもそれが理由である。
 もっとも威吹の場合、封印を解いてくれた礼もあるので(そこが“うしおととら”とは違う流れ)、他の妖怪達のように襲い掛かることはせず、盟約を結んで(妖怪側からして)合法的に食らう方策を取って来たが。
 妖狐は狡猾的な所があるので、上手く稲生を懐柔しようとしたのだろう。
 ところが稲生目当てではなく、威吹と個人的に敵対していた妖怪も現れたり、妖怪では無く悪霊も稲生狙いでやってきたりと散々なことがあった。
 今回もそれに似ていた。

 稲生:「こういう時は……僕の部屋か、或いは威吹の部屋に潜んでいたものです」
 イリーナ:「威吹君の部屋。つまりそれは、私達が泊まらせてもらっている部屋ね」
 稲生:「そうです」
 イリーナ:「この感じは何だと思う?」
 稲生:「背筋が寒いので、これは……幽霊……!?」

 

 3人の脳裏に、河合有紗の亡霊が浮かび上がった。

 マリア:「あいつは亜空間トンネルに放り出されたでしょう?ここにいるわけないですよ!」
 イリーナ:「うん、そうだよねぇ……」

 2階への階段を上がり、稲生の部屋の前に着く。

 稲生:「……物音はしませんね」

 稲生はドアに耳を当てた。

 イリーナ:「まあ、普通はね。さ、開けてごらん」
 稲生:「は、はい」

 稲生は手に汗とドアノブを握った。
 マリアが険しい顔で、魔法の杖を構えている。
 木製のドアは簡単に開き、部屋の内側へと動いた。

 稲生:「……気配があるような無いような……?」
 イリーナ:「うん。ここにはいないみたいだね。よし。次に行こう」

 イリーナは右手に水晶球を持っていた。

 稲生:「次に怪しい所というと、先生達の部屋ですが……」
 イリーナ:「そうね。そこを見に行こう」

 今度は1階へ下りる為に階段を下る。
 先頭に稲生、真ん中にイリーナ、後ろにマリアがいる。
 1階に下りて、イリーナ達が寝泊まりしている客間に向かった。
 通常は和室で、仏間と一続きになっている部屋。
 そこを襖で仕切っている。
 畳の上にカーペットを敷いて、その上に折り畳み式のベッドとエアーベッドを置いている。
 尚、仏壇が置いてある棚には今は何も置いていない。
 元々は御本尊を安置していた仏壇があったのだが、両親からの怨嫉により稲生は御本尊を返納せざるを得なかった。

 イリーナ:「ここもいないか」

 しかし、霊気は漂っていた。

 稲生:「一体、どういうことなんでしょうか、先生?」
 マリア:「何だか気味が悪いです」
 イリーナ:「どこかに霊道ができたことで、幽霊達が出入りしたとも考えられるわね。それが一体どこなのか……」
 稲生:「霊道?そんな……。東京中央学園には、そういうのもありましたけどね」
 イリーナ:「あ、そうなんだ。魔界の入口だけじゃなかったのね」
 稲生:「ええ。もっとも、それとて魔界の入口のせいでできたものだとは言われてますけど……」
 イリーナ:「ふーむ……。魔界の入口かぁ……」

 イリーナは一旦家の外に出ることにした。

 イリーナ:「ふっ……」

 イリーナは玄関ドアを開けようとして、何故か笑みを浮かべた。
 そして、普通にドアを開ける。

 イリーナ:「あははは……」
 稲生:「どうしたんですか、先生?」
 イリーナ:「いや、ほんとバカよね」
 稲生:「ええっ、何がです?」

 イリーナはこんなことを言った。
 何と言ったと思う?

 1:「私達の中に悪霊がいたのよ」
 2:「悪霊のヤツ、私達を閉じ込めようとしたわ」
 3:「悪霊は外にいたのよ」
 4:「この家自体が呪われていたんだわ」
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“大魔道師の弟子” 「日曜日の午後」

2018-06-15 15:15:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日14:33.天候:晴 JR大宮駅]

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、埼京線、川越線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください〕

 さいたま新都心駅を出ると、稲生は前の席で眠るイリーナを起こすことにした。

 稲生:「先生、先生。もうすぐ到着ですよ」
 イリーナ:「んにゃ……。さすが、日本の鉄道は時刻表通りだねぃ……」

 イリーナは素直に欠伸をしながら起きた。
 電車がホームに接近する前、ポイント通過の為に大きく電車が揺れる。
 宇都宮線の上下線が高崎線の上下線を挟み込むような形になっているが、大宮までは歴史上、高崎線の方が先に開通した為、宇都宮線は副線扱いのような線路構造になっている。

 稲生:「ゴミはここに……」

 グリーン車のデッキにはゴミ箱がある。
 ミク人形とハク人形は、ここにカップアイスの空き容器を捨てた。
 人形形態のコミカルな動きは、人間形態の時のメイドや、戦いの時に銃火器を使用する女性兵士になるとはとても思えない。
 かつては剣やスピアを装備していたが、今ではライフルやショットガン、マシンガンを所持している。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ〜、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。9番線の電車は宇都宮線普通列車、小金井行きです。次は、土呂に止まります」〕

 グリーン車の停車位置から、すぐにコンコースに上がる為の階段は近い。

 イリーナ:「勇太君、ちょっと腰を押してくれるかねぇ?」
 稲生:「えっ、腰ですか?」
 イリーナ:「うんにゃ、年寄りには階段がキツくてねぇ……」
 稲生:「あっ、すいません!それではエレベーターの場所を……」
 イリーナ:「腰を押してくれれば大丈夫だよぉ」
 稲生:「そ、そうですか?」

 稲生はローブの上からイリーナの腰と思われる部分を押した。

 イリーナ:「勇太君、そこはアタシのお尻だお
 稲生:「あっ、すいません!」

 イリーナの身長は稲生より10cmは高い。
 その為、勇太は目測を誤ったようだ。

 イリーナ:「今度は間違えないように押しとくれ」
 稲生:「は、はい」

 ドンッ!

 イリーナ:「お゛ぅお゛っ?!」
 マリア:「師匠、勇太じゃなくて、私が押してあげますよ〜

 マリアが怒り笑いをしながら、イリーナの腰を自分の魔法の杖で思いっ切りグイグイ押していた。

 イリーナ:「ま、マリア!?年寄りにはもっと優しく……いでででっ!?」
 マリア:「何が年寄りですか!『ダンテ先生からの“愛”も頂戴したので、しばらくはもっと若返られている』って昨日言ってましたよね!?」
 イリーナ:「昨日と今日では状況が……!」
 マリア:「いいから、さっさと登る!」

 マリアは師匠たるイリーナの腰を魔法の杖で押しながら、コンコースへの階段を駆け足で登った。

 稲生:(ひえー……)

 その様子をただガクブル状態で見ていた稲生だった。

[同日15:30.天候:晴 JR大宮駅東口]

 マリアのスパルタ下剋上により、イリーナが腰を痛めた為、痛みが引くまで駅構内のカフェで休むことにした次第。

 マリア:「いくらお金があるからって、楽し過ぎですよ。せっかく若返りの魔法で肉体を若返らせているんですから、少しは歩いて運動してください」
 イリーナ:「あの、アタシが先生……」
 マリア:「ダメです!勇太に介護させる気ですか!そんなのは魔道師の修行に入ってないですよ!」
 イリーナ:「はい……」

 マリアは駅から稲生の家まで歩いて帰ることを提案したが、確実に途中でリタイアすることが目に見えていたので、折衷案としてバスに乗ることにした。

 稲生:「うちの近くのバス停から歩くくらいなら大丈夫ですよね?」
 イリーナ:「ちょっと待ってね。占いでは……」
 マリア:「バス停からくらい歩きましょうよ、師匠!」
 イリーナ:「はい……」

 もはやいい加減、師弟漫才と化している魔女師弟。
 バスがやってくる。
 中型のノンステップバスだった。

 稲生:「ここは僕が持ちますから」
 イリーナ:「そうかい。悪いねぇ。ここはカードは使えないのかい?」
 稲生:「現金かICカードですね」

 稲生は中扉から乗り込むと、読取機に自分のSuicaを当てた。
 マリアも自分のSuicaを当てた。

 稲生:「マリアさん?」
 マリア:「いや、私はいいよ。そもそも師匠の怠け癖のせいだし」
 稲生:「マリアさん……」

 稲生は背筋が寒くてしょうがなかった。

 マリア:「師匠、後ろの席の方が広いですよ」
 イリーナ:「うんにゃ、年寄りは年寄りらしく、優先席に……」
 マリア:「背中、押してあげましょうか」
 イリーナ:「こういう段差を上がるのも、運動になるかねぇ」
 稲生:「そ、そうですね」

 イリーナはマリアから逃げるように、後ろの席への段差を上がった。
 乗客は稲生達だけだった。
 バスは稲生達を乗せると、すぐに発車した。

〔発車します。お掴まりください。発車します〕

 最近のバスの中扉の閉扉アラームは、ブザーではなく、電車のドアチャイムみたいなものに変わっている。
 そして、AT車が増えたようだ。
 バスは東口のロータリーを一周して、大宮中央通りに出た。

〔大変お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。このバスは住宅前、中並木、上小町経由、大宮駅西口行きです。次は仲町、仲町。……〕

 イリーナ:「いいかい、勇太君?甘ったれたことを言ってると、マリアが尻に敷いてくるよ?」
 稲生:「は、はい。むしろ敷かれたいです」
 マリア:「っ……!」

(BGM:東方非想天則より、“the Grimoire of Alice” https://www.youtube.com/watch?v=zLEQZ89xlGE)

 バシッ!

 稲生:「いでっ!?」

 マリアに無言で魔道書で叩かれた稲生。
 もはや既にマウンティングはされているようである。

 バスはスクランブル交差点を右折し、休日の混雑する旧中山道を南下した。
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