[5月13日15:45.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
バス停から稲生家までは徒歩5分ほど。
イリーナは途中で挫折することなく、稲生家まで歩いて行けた。
マリア:「師匠、やればできるじゃないですか」
イリーナ:「後であなたの人形借りるわよ」
稲生:(ミカエラとクラリスにマッサージしてもらうつもりだな……)
家の門を潜ると、両親達はいないようだ。
車が無い。
稲生:「どこかへ出掛けたんだな。買い物かな」
イリーナ:「あらあら。食材の買い出しなら、マリアに手伝わせるのに」
マリア:「……はあ、そうですね」
一瞬だけマリアは、『何で私が!』と言いそうな顔になったが、すぐにそれを引っ込めた。
稲生の両親とのお付き合いなら、それも致し方無いと気づいたのだ。
稲生:「まあ、そのうち帰ってくるでしょう。どうぞ、中でお茶でも……」
イリーナ:「うんにゃ、取りあえずマリアの人形にボディケアでもしてもらおうかねぇ」
稲生:(やっぱりか)
稲生は予想が当たって、心の中で笑った。
稲生:「マリアさんはどうします?紅茶入れますよ」
マリア:「あー……うん。じゃあ、お願い」
稲生:「分かりました」
稲生は玄関のドアを開けた。
稲生:「!」
イリーナ:「!?」
マリア:「!!」
両親は留守なわけだから、当然人の気配が無くてしかるべきだ。
いや、実際そうであった。
だが、3人の魔道師は家の中に何かの気配を感じた。
稲生の家とて庭付き一戸建て、2階建て住宅である。
その家の中全体に、人ならざる気配が漂っていた。
そう、生きている人間の侵入者ではない。
マリア:「……何かいる」
イリーナ:「そうね。マッサージの前に、ちょっと確認の必要があるわね」
稲生:「ううっ……!」
イリーナ:「勇太君、先導して」
稲生:「ええっ、僕がですか?」
イリーナ:「ここはあなたの実家でしょう?他人の私達が家探ししたら、フツーにダメじゃない」
稲生:「そ、それもそうですね……」
マリア:「取りあえず、私達が付いてるから心配しないでくれ」
稲生:「は、はい」
マリアはローブの中から人形達を出した。
イリーナ:「マリア。勇太君の家の中で、銃火器はダメでしょ」
マリア:「う……そうでした」
稲生:「ど、どこから探します?」
そう。
気配が家全体に漂っている為、どこに潜んでいるのか全く見当がつかないのである。
稲生:「先生かマリアさんの占いで……」
イリーナ:「そんなことしてる暇があったら、さっさと探した方がいいわ」
稲生:「は、はい。じゃあ取りあえず、2階のから……」
イリーナ:「そうね」
稲生家もかつては人外達からの襲撃に晒されたことがある。
妖狐の威吹が逗留していた頃だ。
元々霊力の強かった稲生を食らいに来た妖怪達が殆どだった。
妖怪達の間では、霊力の強い人間を食らうと、その力がそのまま妖力に繋がると信じられていた。
威吹が当初、稲生を食らおうとしたのもそれが理由である。
もっとも威吹の場合、封印を解いてくれた礼もあるので(そこが“うしおととら”とは違う流れ)、他の妖怪達のように襲い掛かることはせず、盟約を結んで(妖怪側からして)合法的に食らう方策を取って来たが。
妖狐は狡猾的な所があるので、上手く稲生を懐柔しようとしたのだろう。
ところが稲生目当てではなく、威吹と個人的に敵対していた妖怪も現れたり、妖怪では無く悪霊も稲生狙いでやってきたりと散々なことがあった。
今回もそれに似ていた。
稲生:「こういう時は……僕の部屋か、或いは威吹の部屋に潜んでいたものです」
イリーナ:「威吹君の部屋。つまりそれは、私達が泊まらせてもらっている部屋ね」
稲生:「そうです」
イリーナ:「この感じは何だと思う?」
稲生:「背筋が寒いので、これは……幽霊……!?」
3人の脳裏に、河合有紗の亡霊が浮かび上がった。
マリア:「あいつは亜空間トンネルに放り出されたでしょう?ここにいるわけないですよ!」
イリーナ:「うん、そうだよねぇ……」
2階への階段を上がり、稲生の部屋の前に着く。
稲生:「……物音はしませんね」
稲生はドアに耳を当てた。
イリーナ:「まあ、普通はね。さ、開けてごらん」
稲生:「は、はい」
稲生は手に汗とドアノブを握った。
マリアが険しい顔で、魔法の杖を構えている。
木製のドアは簡単に開き、部屋の内側へと動いた。
稲生:「……気配があるような無いような……?」
イリーナ:「うん。ここにはいないみたいだね。よし。次に行こう」
イリーナは右手に水晶球を持っていた。
稲生:「次に怪しい所というと、先生達の部屋ですが……」
イリーナ:「そうね。そこを見に行こう」
今度は1階へ下りる為に階段を下る。
先頭に稲生、真ん中にイリーナ、後ろにマリアがいる。
1階に下りて、イリーナ達が寝泊まりしている客間に向かった。
通常は和室で、仏間と一続きになっている部屋。
そこを襖で仕切っている。
畳の上にカーペットを敷いて、その上に折り畳み式のベッドとエアーベッドを置いている。
尚、仏壇が置いてある棚には今は何も置いていない。
元々は御本尊を安置していた仏壇があったのだが、両親からの怨嫉により稲生は御本尊を返納せざるを得なかった。
イリーナ:「ここもいないか」
しかし、霊気は漂っていた。
稲生:「一体、どういうことなんでしょうか、先生?」
マリア:「何だか気味が悪いです」
イリーナ:「どこかに霊道ができたことで、幽霊達が出入りしたとも考えられるわね。それが一体どこなのか……」
稲生:「霊道?そんな……。東京中央学園には、そういうのもありましたけどね」
イリーナ:「あ、そうなんだ。魔界の入口だけじゃなかったのね」
稲生:「ええ。もっとも、それとて魔界の入口のせいでできたものだとは言われてますけど……」
イリーナ:「ふーむ……。魔界の入口かぁ……」
イリーナは一旦家の外に出ることにした。
イリーナ:「ふっ……」
イリーナは玄関ドアを開けようとして、何故か笑みを浮かべた。
そして、普通にドアを開ける。
イリーナ:「あははは……」
稲生:「どうしたんですか、先生?」
イリーナ:「いや、ほんとバカよね」
稲生:「ええっ、何がです?」
イリーナはこんなことを言った。
何と言ったと思う?
1:「私達の中に悪霊がいたのよ」
2:「悪霊のヤツ、私達を閉じ込めようとしたわ」
3:「悪霊は外にいたのよ」
4:「この家自体が呪われていたんだわ」
バス停から稲生家までは徒歩5分ほど。
イリーナは途中で挫折することなく、稲生家まで歩いて行けた。
マリア:「師匠、やればできるじゃないですか」
イリーナ:「後であなたの人形借りるわよ」
稲生:(ミカエラとクラリスにマッサージしてもらうつもりだな……)
家の門を潜ると、両親達はいないようだ。
車が無い。
稲生:「どこかへ出掛けたんだな。買い物かな」
イリーナ:「あらあら。食材の買い出しなら、マリアに手伝わせるのに」
マリア:「……はあ、そうですね」
一瞬だけマリアは、『何で私が!』と言いそうな顔になったが、すぐにそれを引っ込めた。
稲生の両親とのお付き合いなら、それも致し方無いと気づいたのだ。
稲生:「まあ、そのうち帰ってくるでしょう。どうぞ、中でお茶でも……」
イリーナ:「うんにゃ、取りあえずマリアの人形にボディケアでもしてもらおうかねぇ」
稲生:(やっぱりか)
稲生は予想が当たって、心の中で笑った。
稲生:「マリアさんはどうします?紅茶入れますよ」
マリア:「あー……うん。じゃあ、お願い」
稲生:「分かりました」
稲生は玄関のドアを開けた。
稲生:「!」
イリーナ:「!?」
マリア:「!!」
両親は留守なわけだから、当然人の気配が無くてしかるべきだ。
いや、実際そうであった。
だが、3人の魔道師は家の中に何かの気配を感じた。
稲生の家とて庭付き一戸建て、2階建て住宅である。
その家の中全体に、人ならざる気配が漂っていた。
そう、生きている人間の侵入者ではない。
マリア:「……何かいる」
イリーナ:「そうね。マッサージの前に、ちょっと確認の必要があるわね」
稲生:「ううっ……!」
イリーナ:「勇太君、先導して」
稲生:「ええっ、僕がですか?」
イリーナ:「ここはあなたの実家でしょう?他人の私達が家探ししたら、フツーにダメじゃない」
稲生:「そ、それもそうですね……」
マリア:「取りあえず、私達が付いてるから心配しないでくれ」
稲生:「は、はい」
マリアはローブの中から人形達を出した。
イリーナ:「マリア。勇太君の家の中で、銃火器はダメでしょ」
マリア:「う……そうでした」
稲生:「ど、どこから探します?」
そう。
気配が家全体に漂っている為、どこに潜んでいるのか全く見当がつかないのである。
稲生:「先生かマリアさんの占いで……」
イリーナ:「そんなことしてる暇があったら、さっさと探した方がいいわ」
稲生:「は、はい。じゃあ取りあえず、2階のから……」
イリーナ:「そうね」
稲生家もかつては人外達からの襲撃に晒されたことがある。
妖狐の威吹が逗留していた頃だ。
元々霊力の強かった稲生を食らいに来た妖怪達が殆どだった。
妖怪達の間では、霊力の強い人間を食らうと、その力がそのまま妖力に繋がると信じられていた。
威吹が当初、稲生を食らおうとしたのもそれが理由である。
もっとも威吹の場合、封印を解いてくれた礼もあるので(そこが“うしおととら”とは違う流れ)、他の妖怪達のように襲い掛かることはせず、盟約を結んで(妖怪側からして)合法的に食らう方策を取って来たが。
妖狐は狡猾的な所があるので、上手く稲生を懐柔しようとしたのだろう。
ところが稲生目当てではなく、威吹と個人的に敵対していた妖怪も現れたり、妖怪では無く悪霊も稲生狙いでやってきたりと散々なことがあった。
今回もそれに似ていた。
稲生:「こういう時は……僕の部屋か、或いは威吹の部屋に潜んでいたものです」
イリーナ:「威吹君の部屋。つまりそれは、私達が泊まらせてもらっている部屋ね」
稲生:「そうです」
イリーナ:「この感じは何だと思う?」
稲生:「背筋が寒いので、これは……幽霊……!?」
3人の脳裏に、河合有紗の亡霊が浮かび上がった。
マリア:「あいつは亜空間トンネルに放り出されたでしょう?ここにいるわけないですよ!」
イリーナ:「うん、そうだよねぇ……」
2階への階段を上がり、稲生の部屋の前に着く。
稲生:「……物音はしませんね」
稲生はドアに耳を当てた。
イリーナ:「まあ、普通はね。さ、開けてごらん」
稲生:「は、はい」
稲生は手に汗とドアノブを握った。
マリアが険しい顔で、魔法の杖を構えている。
木製のドアは簡単に開き、部屋の内側へと動いた。
稲生:「……気配があるような無いような……?」
イリーナ:「うん。ここにはいないみたいだね。よし。次に行こう」
イリーナは右手に水晶球を持っていた。
稲生:「次に怪しい所というと、先生達の部屋ですが……」
イリーナ:「そうね。そこを見に行こう」
今度は1階へ下りる為に階段を下る。
先頭に稲生、真ん中にイリーナ、後ろにマリアがいる。
1階に下りて、イリーナ達が寝泊まりしている客間に向かった。
通常は和室で、仏間と一続きになっている部屋。
そこを襖で仕切っている。
畳の上にカーペットを敷いて、その上に折り畳み式のベッドとエアーベッドを置いている。
尚、仏壇が置いてある棚には今は何も置いていない。
元々は御本尊を安置していた仏壇があったのだが、両親からの怨嫉により稲生は御本尊を返納せざるを得なかった。
イリーナ:「ここもいないか」
しかし、霊気は漂っていた。
稲生:「一体、どういうことなんでしょうか、先生?」
マリア:「何だか気味が悪いです」
イリーナ:「どこかに霊道ができたことで、幽霊達が出入りしたとも考えられるわね。それが一体どこなのか……」
稲生:「霊道?そんな……。東京中央学園には、そういうのもありましたけどね」
イリーナ:「あ、そうなんだ。魔界の入口だけじゃなかったのね」
稲生:「ええ。もっとも、それとて魔界の入口のせいでできたものだとは言われてますけど……」
イリーナ:「ふーむ……。魔界の入口かぁ……」
イリーナは一旦家の外に出ることにした。
イリーナ:「ふっ……」
イリーナは玄関ドアを開けようとして、何故か笑みを浮かべた。
そして、普通にドアを開ける。
イリーナ:「あははは……」
稲生:「どうしたんですか、先生?」
イリーナ:「いや、ほんとバカよね」
稲生:「ええっ、何がです?」
イリーナはこんなことを言った。
何と言ったと思う?
1:「私達の中に悪霊がいたのよ」
2:「悪霊のヤツ、私達を閉じ込めようとしたわ」
3:「悪霊は外にいたのよ」
4:「この家自体が呪われていたんだわ」